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2020年3月9日(月)

陸上やり投げ 北口榛花、最高の通過点へ「いだてん」たちの“つぶやき” -第12話-

陸上担当の記者やディレクターなどが、取材で見つけた話を発信する「いだてん」たちの“つぶやき”。今回は女子やり投げで急成長を遂げた北口榛花、初めて投てき種目の選手の登場だ。北口は去年2回にわたり日本新記録をマークした。日本記録の66m00はリオデジャネイロオリンピックでは銀メダル(金メダルは66m18)に相当する好記録だ。なかでも注目は記録の伸び方で1年で自己ベストを一気に5メートル近くも伸ばした。その背景には大きな決断があった。(取材:スポーツニュース部 山本脩太記者)

笑顔と明るさが魅力

「カメラ見ると笑っちゃう。アハハハハ」。

北口のトレードマークはなんといっても笑顔。天真らんまんな明るさで、練習中も笑顔が絶えない。

その笑顔が最高にはじけたのが去年10月の北九州カーニバルだった。

シーズンの最終戦と位置づけた大会で66m00の日本新記録をマーク。自身が持つ日本記録をなんと1メートル64も更新したのだ。

その直前にカタール・ドーハで行われた昨シーズン最大のビッグゲームの世界選手権では決勝進出を逃したが、そのうっぷんを晴らすようなビッグスローだった。66m00は過去のオリンピックでいえばリオデジャネイロ大会・ロンドン大会ともに銀メダルに相当する好記録。一躍、東京大会でのメダル候補に名乗りを上げた。

66mという数字は、今までの自分の中ではもうちょっと苦しんで出す記録だと思っていた。こんなにすんなり出たので、のちのち怖いが、まだ1回しか投げていないので安定して66mを投げたい。

強い肩と弱点だった助走

北口の強みは1メートル79センチの恵まれた体格を生かした豪快な投てき。それを支えるのは、強靱な肩だ。練習中も、重さ3キロのボールを壁に向かって投げると「ドン!ドン!」とずっしりと重い音が響く。

北口は小学生の時バドミントンで全国優勝、3歳から始めた水泳も高校生の途中まで続けた。さまざまなスポーツの豊かな経験が、肩の強さだけでなく、可動域の広さやしなやかさにつながっているのだ。

一方で、課題とされてきたのが助走の技術。高校からやり投げを始めた北口が陸上に専念したのは高校2年生の時。経験不足に加え、大学ではひじのケガや専属のコーチがいなかったこともあり、2年以上自己ベストを更新できずにいた。

助走の改良へ、思い切った決断

1人で悩んでいた北口に転機が訪れたのは2年前。チェコ人のダヴィド・セケラックコーチとの出会いだった。東欧のチェコは、女子の世界記録保持者がいる「やり投げ大国」。自分の殻を破るためにはチェコで最高峰の技術を学びたいと、北口はジュニア世代のチェコ代表コーチを務めているセケラック氏に自らメールを送った。そして去年2月、単身でチェコに渡って指導を仰いだのだ。

北口選手

日本でそのままの状態を続けていたら、きっとずっと苦しむんだろうなと思っていた。今行くしかないと思った。

最初は軽い気持ちで「チェコに来れば?」と北口に声をかけたセケラックコーチも、その行動力には感銘を受けたと言う。

セケラックコーチ

日本から若い女の子が遠く離れたチェコへ来たことはとても感動した。彼女には何かを変えようという強い決意があった。今の若者がしないことだ。

セケラックコーチいわく「身体能力は高いが、やり投げの専門的なトレーニングが十分でなかった」という北口。チェコで繰り返したのは、地面を強く蹴る基礎練習だった。去年1年間のうち4か月近くをチェコで過ごし、下半身を徹底的に強化。肩の力に頼らない投てきを磨いた。66m00のビッグスローは、信頼するセケラックコーチとともに作り上げたものだった。

北口選手

それまでは、周りに比べて助走が遅いと言われていたので速くしなきゃと思っていた。でもチェコに行って、『無理して速く走らなくていいから最後までしっかり投げきれる助走を目指そう』と。自分に合った技術を手に入れることができて、精神的にもすごく安定できた。

最高の「通過点」に

ことし3月に22歳になる北口にとって、東京大会は初めてのオリンピックとなる。まずは去年の世界選手権で成し遂げられなかった予選突破、そして決勝でビッグスローを出せばメダル獲得も十分に見えてくる。しかし、彼女の口からは意外とも思える答えが返ってきた。

東京オリンピックはすごく大切で特別な舞台だが、自分の競技人生においてはあくまで通過点。ただ、この通過点があったからこそ、後に自分の目標を達成できたと言えるようなオリンピックにしたい。

最終目標はオリンピックの金メダル。そう言い切る北口の視線は4年後、26歳で迎えるパリオリンピックも見据えている。陸上の投てき種目でメダルを獲得したのは、男子ハンマー投げの室伏広治さんしかいない。北口が満員の国立競技場で女子投てき初のメダルを獲得すれば、それは間違いなく“最高の通過点”になる。

山本脩太

スポーツニュース部記者。2010年入局。高知局・広島局を経て現所属。ピョンチャンオリンピックではスキーを担当し、2019年から陸上担当。

                   
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