読み込み中です...

2020年2月28日(金)

世界が絶賛する"忍者プレー" ビーチバレー 石井・村上ペア

やさしい波の音が聞こえ、やわらかな海風が吹いてくる砂浜で行われるリゾート気分満載のスポーツ。ビーチバレーというとそんなイメージを持つ方も多いでしょう。ところが競技となるとその実態は、6人制バレーボールに勝るとも劣らない過酷さです。体力を奪うしゃく熱の太陽、足元を取られる砂、台風などの強風の場合を除いて雨でも試合は中止になりません。
そんなビーチバレーの世界に独特の存在感を放つペアが現れました。日本の石井美樹(1989生まれ)・村上めぐみ(1985年生まれ)ペアです。ビーチバレー界に新たな風を吹き込むと世界から絶賛される2人は、一体どんなペアなんでしょう。

大型選手にスピードで挑む「世界最小ペア」

石井美樹選手(右) 村上めぐみ選手(左)

ビーチバレーは、6人制のバレーボールと同じように身長の高さがものを言うスポーツです。女子のネットの高さは、バレーボールと同じ2.24m。アタックやブロックといったネット際の攻防はもちろん、ディフェンスでも体の大きな選手は有利で、世界では、女子でも180cm以上の選手ばかり、190cmを超える選手も少なくありません。

ところが、石井美樹選手の身長は172cm、村上めぐみ選手は165cm。「世界最小ペア」と言われるほどです。にもかかわらず、2018年アジア大会で12年ぶりの銀メダルに輝き、2019年11月にメキシコで行われたシーズン最終戦のワールドツアーでは、ベスト8に入りました。日本バレーボール協会ビーチバレーボール強化委員長の川合庶(ちかし)さんは、大型化が進むビーチバレーの世界で異彩を放つ2人の強さの秘密は、圧倒的な「スピード」にあると言います。

日本バレーボール協会 ビーチバレーボール強化委員長 川合 庶さん

川合 庶 強化委員長

2019年、石井・村上ペアは世界のトップ選手しか呼ばれないアメリカのプロの大会「1440」に招待されました。2人の世界ランキングから言えば、呼ばれるのは難しい大会ですから、それだけ世界から注目を集めている証拠です。目の肥えたアメリカの観客は、スピーディーなバレーに「まるでニンジャのようだ!」と喝采を送っていました。2人は、体が小さいというデメリットをメリットに変える戦い方をしているんです。大型化が進むビーチバレーボールの世界で、新たな可能性を見せてくれていると思いますね。

足元の砂を味方にする“忍者プレー”

村上めぐみ選手

「体が小さいというデメリットをメリットに変える戦い方」とは、一体どういうものなのでしょう。その秘密は足元の砂に隠されています。バレーボールのコートよりも縦横ともに1m狭い8m×8mのコートをたった2人でカバーするビーチバレーでは、選手1人の守備範囲がとても広くなります。前後、左右、斜め、あらゆる方向から飛んでくる相手のアタックやフェイント、味方のレシーブやトスを足場の悪い砂の上で拾うためには、複雑な体の動きが必要になりますが、その際、重要になるのが、体の軸=重心線がぶれないことによる安定性です。

一般的に、物体に周りから力が加わる場合、重心が低い方が、重心線(軸)がぶれないため、倒れにくいとされています。この法則をビーチバレーの選手に当てはめてみましょう。

ディフェンスの姿勢を取る選手の重心の位置は、身長の高い選手ほど高く、身長の低い選手は低くなります。人間の体は様々な器官や神経、筋肉を調整しながら平衡を保っているので、そのまま当てはまるわけではありませんが、足場の悪い砂の上では重心の低い方が体の軸がぶれず安定しているため、転びにくくなります。つまり、砂のコートで複雑な動きを強いられる選手にとっては、背の低い選手の方が有利になる部分があるのです。

村上めぐみ選手

村上めぐみ選手

不安定な足元で、いろいろな方向から飛んでくるボールに対応するには踏ん張り過ぎない方がいいんです。自分の骨格だったり、重心がどこにあるのか分かった上で、どのくらい踏ん張るかを決めて、スムーズに動けるように意識しています。

石井美樹選手

さらに、足を取られやすい砂の上でプレーするビーチバレーでは、小股の方が素早く動けます。背の高い選手は脚が長いため1歩の歩幅は広いのですが、その分、着地の際に砂を強く踏み込むため、足が砂に沈み込んでしまい2歩目、3歩目のスピードが落ちてしまいます。一方、身長の低い選手は小股で動くため足が砂にさほど沈み込まず、2歩目、3歩目のスピードもさほど落ちないのです。

石井美樹選手

石井美樹選手

大きい選手は1歩の歩幅が大きいですけど、移動するために何秒か余計に時間がかかります。小さい選手は歩幅が狭いので、1歩を踏み出すスピード、次に行けるスピードは速いんです。ビーチバレーでは砂の上で細かい切り返しを繰り返しながらプレーするので、1回1回の切り返しのスピードがすごく大事になってくるんです。

1歩目の動き出しを早める“戦略的な駆け引き”

石井美樹選手(左)村上めぐみ選手(右)

ビーチバレーという競技そのものの特徴を逆手にとった戦術も石井・村上ペアの圧倒的なスピードの源になっています。ビーチバレーでは、6人制のバレーボールと同様に1人の選手が連続して2回以上ボールを打つことはできません。コートにいるのは2人ですから、交互にボールを打つことになります。

例えば、サーブを打つ選手から見て、相手の左側の選手がアタックが得意で、右側の選手が苦手な場合、ビーチバレーでは、アタックの苦手な選手の守備範囲をねらってサーブを打つのがセオリーです。2人しかいないビーチバレーでは、サーブをレシーブした選手がアタックを打つことになるからです。

その時、味方の選手が、コートの右側に寄った位置でブロックに立てば、相手は、コートの左側に打たざるを得なくなり、逆にセンター寄りの位置でブロックに立てば、まっすぐ打つ可能性が高まります。このように、味方のプレーによってボールが来るコースを予測できるため、広いコートをたった2人で守ることができるのです。

石井・村上ペアの戦術面を指導している望月剛コーチは、こうした戦略的な駆け引きをしながらボールのコースを予測して、いち早く1歩目を動き出す力が、2人の大きな武器だと言います。

望月剛コーチ(湘南ベルマーレ)

望月剛コーチ

ビーチバレーでは、次に相手が何をしてくるのかを「見る」ことがものすごく大切です。その能力が上がると、プレーのスピードが上がります。石井・村上ペアが「速い」と言われるのは、単に足の速さ、移動する速さだけでなく、相手をよく見て次のプレーを予測し、いち早く準備をしているからなんです。特に石井はディフェンス時に相手が何をしてくるのかを察する判断のスピード、読みの的確さが優れています。

身長差が勝敗を大きく左右するビーチバレー界で、「背の低さ」というマイナスを逆にプラスに変えて世界に挑む「世界最小ペア」の石井・村上ペア。2人が掲げる東京オリンピックの目標は「ベスト8」です。東京湾の景色を一望するしゃく熱の砂浜で繰り広げられる“忍者プレー”に期待が膨らみます。

                   
※NHKサイトを離れます

関連記事

    人気の記事ランキング

      記事ランキングをもっと見る

      最新の記事