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2020年2月14日(金)

男子柔道 "7階級オール金メダル"への道 その勝利の条件とは?

7階級すべてでメダルを獲得した2016年のリオデジャネイロオリンピックから4年。日本男子柔道が、東京オリンピックで目指すのは、7階級オール金メダルの完全制覇です。しかし、リオ五輪以降、日本柔道を取り巻く環境は大きく変化しています。2017年と2018年に相次いでルール改正が行われ、外国勢も飛躍的な成長を遂げているのです。日本の「お家芸」の柔道は、こうした逆境にどう挑もうとしているのでしょうか。東京オリンピックで、7つの栄冠を勝ち取るための、勝利の条件に迫ります。

「知る」だけでなく、攻略「できる」技を磨く

2016年 リオ五輪銀メダル 原沢久喜選手

2016年のリオ五輪。日本が7階級でメダルを獲得した裏側で、一つの新たな流れが出始めていました。フランスやロシア、ドイツなどの強豪国に交じってアゼルバイジャンやウズベキスタンなど、あまり実績を上げて来なかった国の選手がメダルを獲得したのです。

左:セイド・モラエリ選手(イラン) 右:オラ・サッソン選手(イスラエル)

この流れは、その後、より顕著になり、日本選手をも脅かし始めました。2018年の世界選手権では、男子81キロ級のホープ・藤原崇太郎(そうたろう)選手が、イランのセイド・モラエリ選手に惜敗。2019年のグランドスラム・パリでは、100キロ超級の影浦心(かげうら こころ)選手がイスラエルの オラ・サッソン選手に破れました。2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪、2018年世界選手権のメダル数を比較すると、リオ五輪以降、メダルを獲得する国や地域に大きな変化が生じていることが分かります。

なぜ、強豪国以外の国が急成長しているのか。最大の理由は、2013年、国際柔道連盟が踏み切った試合映像の公開にあります。

国際柔道連盟のホームページ

日本やロシア、フランスなどの強豪国は、以前から独自に試合を撮影して研究に使ってきましたが、他の国々の選手がそれを見ることはできませんでした。ところが、国際柔道連盟がホームページで試合の映像を公開したため、誰でも、いつでも、見たいだけ、無料で見られるようになったのです。全日本柔道連盟で映像分析に携わっている石井孝法さんは、世界中の国々で試合映像を見られるようになったことが、強豪国以外の国々の躍進につながっているとみています。

全日本柔道連盟 科学研究部 石井孝法さん

石井孝法さん

誰でも強い人の映像や自分のスタイルに近い選手の映像が見られるようになり、情報がなかった国の選手も映像を確認できるので、本当に情報格差がなくなってきています。特に日本人は、非常に良い柔道をしますので、世界の多くの選手がその技術を取り入れようとしていて、世界の柔道が日本人化している感じです。一番に日本人を研究しているような状況だと思います。

ナショナルトレーニングセンターの柔道場に設置されたモニター

日本柔道の映像を研究して急成長を遂げる外国勢、こうした状況に日本はどう挑むのか。石井さんが案内してくれたのは、日本代表が練習拠点にしているナショナルトレーニングセンターの柔道場に設置されたモニターです。映し出されたのは、全日本柔道連盟が新たに開発した分析システムの画面。強豪国だけでなく、全ての国や地域の選手の過去5年分の映像や対戦成績、得点・失点シーンのデータなどが、表示できるようになっています。

日本選手の技や戦い方を徹底的に研究してくる外国勢に対抗するため、海外選手が日本選手と対戦したときの映像やデータだけを選んで、まとめて見られるのも特徴です。

石井孝法さん

海外の選手は、日本人と他の国の選手と対戦する時では、戦い方が違うんですね。なので、どういう風に日本人対策をしているのかを知ることは非常に重要です。道場の横にモニターがあって、海外の選手の強い組み方や技の出し方などを確認してから稽古に入ることができるので、とても有益です。データを見るのは、相手を「知る」ことなんですけど、そこからどうやって攻略「できる」ようになるかが重要なので、どうやって勝つか、勝つ方法を考えながら練習しています。

ライバルを徹底的に「知る」だけでなく、それを攻略「できる」技を磨き上げる、それが日本柔道の一つ目の勝利の条件です。

「倒されない柔道」を、いかに突き詰めるか

2016年 リオ五輪銅メダル ベーカー茉秋選手

2017年と2018年、相次いで行われた「ルール改正」も日本柔道が直面している逆境です。「一本」勝ちを増やして、より攻撃的な柔道に発展させることが狙いだという今回のルール改正、試合時間は5分から4分に、技は「有効」が廃止されて「一本」と「技あり」だけになり、「技あり2回で一本」が復活しました。

柔道の技は、審判が「スピード」、「力強さ」、「相手の背中を畳につける」といったポイントを見て判定します。技の「スピード」はあるものの、「力強さ」が足りず、「背中も付いていない」場合、リオ五輪までは、「有効」と判定されていました。しかし、ルール改正後は「技あり」と判定されるようになったのです。しかも「技あり2回で一本」が復活しています。

ルール改正の前と後の主な大会のデータを比べると、ルール改正前は、日本選手が海外の選手に奪われた「技あり」は3つですが、改正後は3大会で29と大幅に増えました。「技あり2回で一本」も1つから4つになっています。日本柔道はルール改正によって不利な状況に追い込まれたのです。この逆境にどう立ち向かうのか。日本代表のコーチを務める金丸雄介さんは、「技あり」をとられないためには「倒されない」技術を磨くことが重要で、そのカギは「組み手」にあると言います。

日本代表コーチ 金丸雄介さん

金丸雄介 日本代表コーチ

組ませない技術が非常に大事だと思っています。相手に柔道着の良いところを持たせてしまうと、転がったり、尻もちをついたりして「技あり」を取られてしまうことも十分にあるので、良いところを持たせない、「組み手」をうまく切りながら自分の得意なところを持つことが大事です。

金丸コーチは、2018年11月のグランドスラム大阪の決勝戦が、ヒントになると言います。男子100キロ級、日本代表のウルフ・アロン選手の試合。相手は、ウルフ選手より11cm背が高いカナダの選手です。

2018年 グランドスラム大阪 ウルフ・アロン選手

カナダの選手が、力で投げようと左手でウルフ選手の柔道着をつかんだ場面。ウルフ選手は、すかさず相手の奥えりをつかみました。背の高いカナダの選手は前かがみの姿勢を強いられ、力を入れることができません。ウルフ選手の右手は相手の袖をつかんで腕の自由を奪っています。

金丸雄介 日本代表コーチ

結局、2回の「技あり」を奪ってウルフ選手が勝利したこの試合、金丸コーチがポイントと考えているのは、組まれても瞬時に相手の奥えりや袖をつかんで自由を奪った「組み手」の技術と「倒されなかった」技術です

金丸雄介 日本代表コーチ

外国人選手は、特に間合いを詰めて攻撃を仕掛けてきます。「一本」でなく「技あり」で良いということで、とにかく組んで、力技で相手を倒しにきます。技あり2回の合わせ技一本で試合が終わってしまうようになったため、倒されることについては、これまで以上に危機感を持たなければなりません。「組み手」のレパートリーは無限にあると思うので、研究しないと勝てない時代が来ているんです。

ルール改正によって増えた「技あり」。それをねらってくる海外の選手に対抗するために、「倒されない柔道」をいかに突き詰めていくのか。それが2つ目の勝利の条件です。

原沢 久喜選手(左) 柔道日本代表 井上康生監督(右)

井上康生監督率いる日本柔道が東京オリンピックに向けて取り組んでいるのは、映像やデータ分析に基づく科学的で緻密な戦略設計です。状況を正確に分析して課題を明らかにし、それを一つひとつ克服して行く日本柔道。“7階級すべて金メダル“の快挙に日本中が熱狂する光景が、楽しみでなりません。

この記事は、「勝利の条件 スポーツイノベーション」(2019年4月27日放送)をテキスト化しました。
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