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2020年2月5日(水)

"フェンシング黄金時代" データ分析で世界の頂点を貫く

フェンシングといえば、2008年の北京五輪と2012年のロンドン五輪の2回に渡って銀メダルを獲得した太田雄貴さんを思い浮かべる人も多いでしょう。そのフェンシングが、東京オリンピックを前に、かつてないほど強くなっています。男子「エペ」は2019年のワールドカップの団体で優勝、男子「フルーレ」はアジア選手権の団体で優勝しました。女子「フルーレ」も2019年の世界選手権の個人で入賞を果たしました。日本は“フェンシング黄金時代”を迎えていると言っても過言ではありません。どうして短期間に、これほど飛躍的な成長を遂げたのか、背景にはデータ分析を駆使した独自の強化策がありました。

世界トップ20に4人が名前を連ねる男子「エペ」

男子エペ 団体がワールドカップで優勝した時の1枚

特に目覚ましい成長を遂げたのは、男子「エペ」です。「エペ」は、相手の頭部から足のつま先、足の裏まで全身を突くことができる種目。日本代表は個人でも団体でも世界トップレベルの実績を上げています。

日本代表の4人の選手。エースの見延和靖(みのべ かずやす・1987年生まれ)選手は、2019年、国際大会で3度優勝し、年間世界ランキング1位という日本人初の快挙を成し遂げました。身長は177cmですが、両手を広げた長さは、なんと197cmもあります。長いリーチを武器にした遠い間合いの戦い方を得意にしています。

2019年 全日本選手権の決勝で戦った山田選手と見延選手

見延選手に続くのは、世界ランキング5位の加納虹輝(かのう こうき・1997年生まれ)選手、2019年の全日本選手権で見延選手を破り優勝した世界ランキング13位の山田優(やまだ まさる・1994年生まれ)選手、そして、世界ランキング20位の宇山賢(うやま さとる・1991年生まれ)選手。世界のトップ20に4人の選手がランクインしているのです。

見延和靖 選手

目指しているのはトップに肩を並べることではありません。ぶち抜いて1位になる、頂点を極めることです。今の日本は史上最強のチームだと思いますし、ここで、しっかり勝ち切って、全員で東京オリンピックの金メダルをとって、次のステージにフェンシングを進めていきたいと思っています。

戦い方を変えて試合をコントロールする

男子「エペ」の成長が目に見えて明らかになったのは、チームの専門アナリストに太田奈々海(ななみ)さんが就任した2017年から。太田さんは、ビデオカメラで撮影した練習や試合の映像を詳細に分析して選手の弱点を見つけ出し、コーチや選手と共に強化策を練り上げてきました。

太田さんのデータ分析によって成績を伸ばした選手のひとり、宇山賢選手です。宇山選手は身長189cmの長身。ヨーロッパの選手にも負けない長いリーチが武器ですが、その高い潜在能力を成績に結び付けられずにいました。

男子「エペ」日本代表アナリスト 太田奈々海さん

そこで太田さんは、あらゆる試合の映像を分析してデータを徹底的に洗い出しました。その結果、宇山選手が抱える課題が、はっきりと浮かび上がってきたのです。

これは、2018年にフランスで開催されたワールドカップ、宇山選手がロシアの選手に敗れた試合のデータです。太田さんが着目したのは、宇山選手のポイント獲得の位置。宇山選手がポイントを取ったのは、センターより後ろのエリアだけで、前のエリアでは一本も取れていませんでした。データ分析から見えてきたのは、ロシアの選手に攻め込まれ、後ろに追い詰められた状態で戦った宇山選手の苦しい試合展開。主導権を奪い返すには、自分から前に出てアタックで攻めるしかありませんでしたが、それが出来なかったのです。

太田奈々海さん

データから、宇山選手は、アタックの本数が少なく、後ろのエリアだけで展開していることが分かりました。要は、相手の出方を待って合わせるという戦い方をしていたわけです。

宇山賢 選手

宇山賢 選手

いかに相手にミスをさせるか、相手のミスをこっちの得点に変えて時間切れまで逃げ切る、というスタイルでした。でも、その作戦は読み切られていて、力のある背が高い選手が どんどん前に出てきて、僕が前に出られないから、後ろに追い詰められて、出るしかなくなってやられるというパターンが多かったんです。

2019年 アジア選手権大会準々決勝 宇山選手(右)

宇山選手は、アタックの強化に取り組みました。成果にあらわれたのは、翌2019年のアジア選手権。中国のエースとの準々決勝で宇山選手は、自分から進んでセンターラインの前に出てアタックを決め、勝利を収めました。

データを比較すると、宇山選手の変化がはっきりとわかります。2018年、ロシアの選手に負けた時は、後ろのエリアでしかポイントできず、アタックは2本だけ、成功率も16.7%にとどまっていました。しかし、2019年のアジア選手権の準々決勝で中国のエースに勝った時は、広いエリアでポイントを重ね、アタックは6本、成功率も46.2%と飛躍的に改善されています。

宇山選手は、この大会で、山田選手に次ぐ準優勝という好成績を収めました。相手のミスを誘う戦い方から、積極的に前に出てアタックを決める戦い方へ。宇山選手は、太田さんのデータ分析に基づいて戦い方を大きく変え、試合をコントロールできるようになったのです。

弱点を見極めて勝負を制する武器を身につける

男子「フルーレ」 2019年 アジア選手権団体優勝

男子「フルーレ」団体もオリンピックでメダルが期待されている種目です。「フルーレ」は、太田雄貴さんが銀メダルを獲得した種目。両腕と頭部を除いた上半身が突きの有効面です。

フェンシング日本代表アナリスト 千葉洋平さん

男子「フルーレ」のデータ分析担当は、フェンシング日本代表アナリストの千葉洋平さん。2009年、データに基づいた強化策を世界に先駆けて導入した先駆者です。

西藤俊哉 選手

千葉さんのデータ分析を元にプレースタイルを劇的に進化させた選手のひとり、西藤俊哉(さいとう としや・1997年生まれ)選手。超攻撃的な戦い方が持ち味の西藤選手は、2017年の世界選手権で銀メダルに輝き、前年に引退した太田雄貴さんの後継者として一躍脚光を浴びました。ところが、翌2018年の世界選手権では1回戦で敗退、極度のスランプに陥りました。原因は何か、千葉さんが注目したのはアタックの成功率でした。試合のオフェンス(攻撃)とディフェンス(守備)のデータを比較すると、意外な事実が浮かび上がってきたのです。

左はオフェンス、右はディフェンス。西藤選手は、攻撃した場合は、23.5%という高い確率でポイントを取っています。しかし、相手から攻撃を受けた場合には、それよりも高い26.2%の確率でポイントを失っていました。

千葉洋平さん

西藤は、得点を取ることに関して言えば世界的にも得意だと言っていいデータです。一方で、アタックで取られてしまう現象があるので一気に崩れる可能性がありました。

西藤俊哉選手

僕の思い込みが問題だったんです。 結果が出ないから自分の得意な攻撃でポイントが取れていないんじゃないかって思っていたんですけど、実際はそうじゃなくて、問題は相手の方が26.2% 決めていることにありました。自分もポイントを決めているんですけども それ以上に相手の攻撃を食らってしまっている。千葉さんのアドバイスは、ディフェンス面に重点を置いてトレーニングしていく必要がある、というものでした。

2019年 アジア選手権 3位に輝いた西藤俊哉選手

西藤選手は、相手の攻めから自分を守り、一本を取る練習を重ねました。そして2019年のアジア選手権、西藤選手は相手の攻撃を固い守りで跳ね返してポイント重ね、3位に輝きました。さらに、この大会で男子「フルーレ」は、団体でも強豪の中国を破って10年ぶりの優勝を果たしました。

千葉洋平さん

致命的な弱点といったものを見つけ出さなければ、わずかな差というのを埋められないんです。我々アナリストは、致命的な弱点を見つけて、そのデータを示して、選手の納得を引き出しながら、厳しいトレーニングに励ませる。そして選手に勝負を制する武器を身につけてもらうことが、重要だと思っています。

世界に先駆けて導入したデータ分析で課題を見つけ、トレーニングで弱点を克服していく。それが、“フェンシング黄金時代”と言われる日本の強さの秘密です。東京オリンピックで団体・個人ともに世界の頂点を貫くフェンシング日本代表、その勇姿に期待が高まります。

この記事は、「勝利の条件 スポーツイノベーション」(2019年11月30日放送)をテキスト化しました。
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