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2020年1月23日(木)

東京へのキーワード"投げて金" 文田健一郎 レスリング

レスリングの「グレコローマンスタイル」を知っていますか?
上半身だけでせめぎ合う、いわゆる「グレコ」は「フリースタイル」に比べてなじみが薄いかもしれません。
その「グレコ」で、日本選手36年ぶりのオリンピック金メダルを目指しているのが文田健一郎選手です。24歳のエースが掲げた東京オリンピックに向けたキーワードは「投げて金」。
“グレコ”こそおもしろい、という強い信念でした。

「投げて金」

文田選手は、2017年と2019年の世界選手権、グレコローマンスタイル60キロ級で優勝。世界選手権を2回制したのは“グレコ”の日本選手として初めての快挙でした。

得意技は「そり投げ」。
全身のバネを使って相手を跳ね上げ、背中を大きく反らせて投げ落とします。切れ味は「世界一」と言われ、海外の選手からも恐れられています。

そんな文田選手が掲げたキーワードが「投げて金」。
東京オリンピックで金メダルを取るだけでなく、得意の「投げ技」で決めたいという強いこだわりでした。

文田健一郎選手

投げが自分の代名詞だし、いちばん自信を持っている技なので、自分が追い求めてきたグレコローマンスタイル、こだわってきた技で決めたいと考えています。

最大の特徴は“投げ”の攻防

レスリングには、「フリースタイル」と、上半身しか攻撃に使えない「グレコローマンスタイル」の2つの種目があります。
日本では、「レスリング」と聞いて多くの人がイメージするのは「フリースタイル」かもしれません。

フリースタイルは、オリンピック3連覇の吉田沙保里さんに象徴されるように、スピードに乗った下半身への「タックル」で相手を倒したり、バックを取ったりするのが主な攻撃手段です。

一方、男子にしかない「グレコローマンスタイル」は力強い「投げ」による攻防が最大の特徴で、選手の鍛え上げられた肉体が目を引きます。
文田選手がこだわる「投げ」は「グレコローマンスタイル」の象徴とも言える技なのです。

“かっこいいグレコ”

文田選手も、かつてはフリースタイルの選手でした。
小学4年生のときに始めましたが、フリースタイルの基本である「タックル」が苦手で、「自分には向いていない」と思うこともあったといいます。

そんな文田選手にフリースタイルとは全く違うグレコローマンスタイルの魅力を伝えたのが、「グレコ」の選手だった父親の敏郎さんでした。
中学生になった頃から、毎日のようにグレコローマンスタイルの海外の選手の映像を見せたのです。

「霊長類最強」と言われたロシアのアレクサンドル・カレリン選手をはじめとする鋼のような肉体の男たち。
彼らがぶつかり合い、互いを投げ飛ばす戦いは、それまでのレスリングのイメージを一変させました。

「すごく衝撃でした。相手は後頭部から落ちてるし、宙を舞ってるし、今までやってきたのとは全然違うなと思いました」と振り返る文田選手。
そんな息子の様子を父親の敏郎さんは「しめしめ」と思いながら見ていたそうです。

「こんなかっこいいレスリングがしたい」
「グレコ」の魅力に取りつかれた文田選手は、人の何倍、何十倍と投げの練習を繰り返しました。
フリースタイルの大会でも、ほかの選手がタックルでポイントを重ねる中、文田選手は投げ技でポイントを取って優勝し、投げ技にこだわり続けました。
中でも「そり投げ」は、天性の体の柔らかさと「1万回以上繰り返してきた」という練習によって「世界一」と言われるまでに成長を遂げたのです。

海外からの対策をこえろ

外国勢は、文田選手の投げに対策を取っています。
顕著に感じられたのは去年9月の世界選手権。相手のほとんどが、文田選手のそり投げを警戒し、腰を引いて体を密着させようとしませんでした。

このため文田選手は、なかなかそり投げの体勢を作ることができず、5試合でわずか1回しかそり投げを決めることができませんでした。

警戒されていない「寝技」でポイントを稼いで2回目の優勝を果たし、東京オリンピック代表にも内定。しかし大会後、口にしたのは反省のことばでした。

文田健一郎選手

投げが出なかったのは心残りというか、少し悔しいなと思います。すごく離れてくるので、腰を引いて、相手をどう手繰り寄せられるか、もっともっとそり投げを磨いていかないといけないと思います。

“投げは一生完成しない”

オリンピックが半年後に迫り、今取り組んでいるのは、前に出て相手を捕まえる動きです。
投げを警戒して逃げる相手を捕まえ、組み合う体勢に持っていけば、あらゆる相手に投げを決めることができると考えています。

「自分の投げは一生完成しない」と話す文田選手。
世界一になっても満足せず、投げを進化させようと貪欲に取り組む姿に、投げ技への譲れないプライドがかいま見えました。

グレコの未来のために

文田選手が投げにこだわるのは、グレコローマンスタイルの将来を見据えてのことでもあります。
日本でグレコローマンスタイルは主流とは言えません。
小中学生ではフリースタイルの大会しかなく、高校生も多くの選手はフリースタイルがメイン。グレコローマンスタイルで日本はオリンピックの金メダルから36年、遠ざかっています。

文田選手は去年12月、練習の合間を縫って地元の山梨で行われた高校生の合宿に参加し、「投げ」の指導を行いました。
組み手や足の運び、体の使い方のコツなどこれまで培ってきた技術を丁寧に伝えていました。
投げの魅力を多くの人たちに伝えることでグレコローマンスタイルに取り組む子どもたちを1人でも多く増やしたいと考えています。

文田健一郎選手

もっと攻撃的に、アクロバットな魅力的な試合ができたら、結果的にレスリングがもっともっと注目されるというか、やる人とか見る人が増えると思う。攻めて、投げにこだわって作るレスリングは強いんだぞって証明したいですね。

金メダルを取り、投げ技をねらう攻撃的なレスリングこそが最強だと証明する。“投げて金”というキーワードには、24歳の強い決意が込められています。
(スポーツニュース部 記者 清水瑤平)

                   
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