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2019年12月26日(木)

卓球代表選考レース連続ドキュメント 最終回 "旅路"

オリンピックの代表選考レースは、時に残酷なほど選手の明暗をくっきりと分けます。

卓球女子、シングルスの代表争いはまさにその展開でした。2つの枠を争い、およそ1年に渡り各国を転戦しポイントを奪い合う戦い。圧倒的なポイント差で、伊藤美誠選手が11月に一足早く代表入りを確実にしたあと、続く2枠目は大接戦。最後は石川佳純選手が平野美宇選手を僅差で上回り、選考レースを勝ち抜きました。

最後まで死力を尽くして戦った選手たちを追った、1年間の密着ドキュメントの最終回。彼女たちはこの選考レースで何と向き合い、何を得たのでしょうか。

平野の涙 石川の涙

12月12日。
1年間の戦いを終えた直後、平野選手は大粒の涙を流していました。

平野選手

「シングルスで(五輪に)行きたかった。行けなくてすごく悔しいです。自分の中の卓球に対しての気持ちが弱かった。自分の中ではこれが精一杯。今回はこういう結果だと受け止めないといけない。」

同じころ、家族と喜びを分かち合う石川選手の目にもまた、涙がありました。

石川選手

「長かった。今までの道が長すぎて、実感がないです。」

2019年最後の国際大会、ワールドツアーのグランドファイナル。獲得ポイントで僅差でリードしていた石川選手は、1回戦で世界3位の中国選手と対戦。相手の強打の前にストレートで敗れました。

その後1回戦に登場した平野選手の相手もまた、中国選手。勝てば逆転でシングルスの切符をつかめる試合でしたが、ゲームカウント1対4で敗戦。

この瞬間、石川選手が伊藤選手に続く代表入りを確実にしました。

見えないものと戦ってきた

決着の翌日。石川選手が思いを語りました。

石川選手

「(選考レースに)本当に鍛えられました。もう骨の髄まで鍛えられるみたいな。でもやっぱり、それがあってのオリンピックなのかな。そこにオリンピックの価値があって。」

「骨の髄まで鍛えられた」1年、その中で石川選手は何と戦ってきたのか。

石川選手

「何と、というのは正直分からなくて。目に見えないものがたくさんあって、それが自分の肩に乗っているのか、自分で乗せているのか分からないですけど。なかなか光が見えない、何やってもダメというのが一番つらかったです。」


この1年の石川選手の歩みは苦しみの連続でした。確実性を重視してきたこれまでのプレースタイルが研究され、思うようにポイントを積み重ねられません。

選考レースの最中に取り組んだのが、攻撃的なプレースタイルへの変更。しかし、結果の出ない日々が続きました。

選考レースが終盤に差し掛かる9月。攻撃的なプレーをこの後も続けていくのか。石川選手にたずねると、まっすぐ前を向き答えました。

石川選手

「攻撃的なプレーをしていかなきゃいけない。ミスをもったいないと思うようにはしたくない。どんどん挑戦して、新しいスタイルを作っていきたい。」

リオでの悔しさを糧に

一方の平野選手。選考レース序盤に見せていたのは明るい笑顔でした。

4月のハンガリー・ブダペスト。大きなポイントがかかる世界選手権のドローを前にしても、伊藤選手とスマートフォンで動画撮影を楽しむなど、リラックスした表情。

しかし、その心には忘れられない悔しさがありました。

2016年のリオデジャネイロ五輪。平野選手は代表チームの「補欠」として、観客席からライバルたちの戦う姿を見つめました。

あの日から3年がたっても、オリンピックを経験した石川選手と伊藤選手との間にある「見えない差」を、平野選手は感じていました。

平野選手

「日本選手の2人は、思ったよりもすごく壁が高いです。今までオリンピックに出たことがある人に出たことがない人が勝つには、死ぬ気でやらないといけない。鉄の心を持った選手に勝つということは、自分も鬼にならないと。」

自分を変えなければ、オリンピックには届かない。

持ち味の強打だけでなく、緩く返しミスを誘う「ストップ」を磨くなど、プレーの幅を広げようと取り組んできました。

わずかに石川選手を上回り、終盤まで2番手を走ってきた選考レース。しかし、ここぞという場面で勝つことができず、ポイント差をひろげられません。伊藤選手に続く残り1枠を争う戦いは、12月までもつれることとなりました。

勝った方が、上に行く

12月8日。
雪が舞うカナダ・マーカムで行われた国際大会、ノースアメリカンオープン決勝。選考レースの最終盤、石川選手と平野選手の直接対決です。この時点での獲得ポイントは平野選手がリードしているものの、その差はわずか65ポイント。勝った方が、上に行きます。

石川選手

「このチャンスがある事さえありがたい。最後の最後のチャンス。」

平野選手

「あと1枠しかない。絶対に五輪に行くという気持ちで、自分がそこに入りたい。」

試合序盤は石川選手が2ゲームを連取しリード。第3ゲームは平野選手が取り返し、2対1で迎えた第4ゲーム。ここで平野選手が巻き返し、先にゲームポイントを握ります。あと1点取れば、2対2に戻せる場面。

ピンチを迎えていた石川選手。しかしその心の内は、攻める気持ちを失っていませんでした。

石川選手

「自分のサーブだったので、これは挽回のチャンスだと思ったんです。このゲーム、頑張ったら勝てると逆に思えて。」

石川選手のサーブに平野選手の返球。ここで、取り組んできた「ストップ」が、わずかに浮いてしまいます。

平野選手

「大事なところでのちょっとの迷い。2位を守りたいという思いがどこかにあった。」


迷わずラケットを振り抜く石川選手。1年間模索してきた強気のスタイルを貫きました。デュースに持ち込み、このゲームをとります。

ゲームカウント3対2で迎えた第6ゲーム。このゲームをとれば石川選手の勝利となるギリギリの場面。
2人がラケットを振るたび、ポイントをとるたび、それぞれの1年間をぶつけるように絞り出した声が、何度も会場に響きました。

勝ったのは、石川選手。この時点でポイントは逆転し、石川選手の135ポイントリード。平野選手はうつむいてコートを去り、石川選手は涙を浮かべ、タオルに顔をうずめました。

最終的に、二人の明暗を分けた決め手となったのはこの試合でした。

翌週のグランドファイナルで選考レースは終了。選手たちの長い旅は幕を閉じました。

獲得ポイント

伊藤美誠 14720

石川佳純 10950

平野美宇 10815

苦しみぬいた先に

この選考レースで、彼女たちは何をつかんだのか。
苦しみ続けた石川選手、その答えは。

石川選手

「何をやってもうまくいかない時も、終わりは来るんだな。光が来るんだなというのは、この1年を通して自分自身が教えられたことでした。」


さらに一息置いて、こう続けました。

石川選手

「そうですね…。やっぱり、今日一日を全力で頑張ることです。」

あと1歩、届かなかった平野選手。最後の試合を終えた直後、涙を流しながら思いの丈を語りました。

平野選手

「リオが終わってからの3年間は、初めて卓球やめたいと思うことが多くて、その中で頑張ってきたので。だから、卓球やめなくてよかったなと思いたいです。」

独走した伊藤 支えた決意

そして、圧倒的なポイント差で勝ち抜いた伊藤選手。この1年、心に定めた思いがありました。

「自分の事だけに集中する。」


選考レース序盤、4月の世界選手権では3人の中で最も早く敗退。これを機に、伊藤選手は意識を変えたのだと言います。

伊藤選手

「世界選手権までは、もしかしたら日本選手と戦っていたのかもしれない。でもそれ以降は、自分のことだけを考えてできました。」

伊藤選手

「対戦した選手に勝つのみ、自分らしく実力を出しきって勝つのみ。すごくそこはよかったのかな。」

たった一度の夏へ

東京オリンピック卓球日本代表。2枠のシングルス代表入りを確実にしたのは、女子の伊藤美誠選手と石川佳純選手。男子の張本智和選手と丹羽考希選手。

残るは団体に出場するもう1枠。シングルスに出場する選手とのダブルスの相性、シングルスの世界ランキングなどを総合的に判断して、新年1月6日に発表されます。
シングルスの選考レースに敗れた平野美宇選手や水谷隼選手などは、その1枠に出場をかけます。

世界中を転戦した1年。選手たちが旅した国は、20か国以上にのぼりました。

そして戦いの舞台は東京へ。

たった一度の夏が、いよいよやって来ます。


                   
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