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2019年11月28日(木)

誰よりも高く、美しく トランポリン・森ひかるの妙技に迫る!

圧倒的な跳躍力と空中で繰り出される技の美しさで観客を魅了するトランポリン。この種目に東京オリンピックでメダルの期待がかかるキュートなヒロインがいます。金沢学院大学に通う女子大生、森ひかる選手(1999年7月7日生まれ)です。森選手の持ち味は圧倒的な高さを誇る跳躍と、演技中の美しい姿勢。森選手が生み出す世界トップレベルのスゴ技に迫ります。

世界トップレベルの圧倒的なジャンプの高さ

森選手が、そのたぐいまれな才能を世界に強く印象付けたのは2018年8月、群馬県前橋市で開催されたトランポリンのワールドカップ。2年後の東京オリンピックを見据えて、ロシアやカナダ、中国など、世界ランキング上位の選手がこぞって出場したこの大会で、メダルまであと一歩に迫る4位に入賞しました。

森ひかる 選手

森ひかる選手

決勝という舞台で、あれだけの演技を出せたっていうことは、自分でも安心しましたし、自信になったかなと思います。

技の難しさを評価する「難度点」、姿勢の美しさなど各種目の出来栄えを評価する「演技点」、着地の正確さを評価する「着地点」、そして跳躍した時間の「跳躍時間点」の合計で勝敗が決まるトランポリン、森選手の強さの秘密は圧倒的な“高さ”です。ワールドカップ前橋大会で決勝に残った8選手の採点項目別の得点を見てみましょう。

空中にいた滞空時間の合計がそのままポイントとなる「跳躍時間点」を見てください。森選手の得点は16.395、世界のトップ選手を抑えて世界1位です。森選手がいかに高いジャンプを繰り返しているかが分かります。

森選手のジャンプはどれほど高いのでしょうか。2018年の全日本年齢別選手権(17歳以上21歳以下の部)で3位の実力を持つ小林和選手と比べてみましょう。小林和選手の4.7メートルに対して、森選手は5.3メートル。ジャンプ1回の差は0.16点差ですが、10回のジャンプすべてで、この差がつくとすると、「跳躍時間点」の差は1.6ポイントになります。

トランポリンの反発力を生かす筋肉の使い方

森選手は、なぜ高く跳べるのでしょうか。画像の左下のグラフは、森選手の太ももの後ろの筋肉の筋活動の波形です。縦にひかれた2本のラインは体がトランポリンから離れている時間を示しています。これによると、森選手は跳躍する前、つまり着地の瞬間からトランポリンが一番沈み込むまでの間に、太ももの後ろの筋肉に最も力をいれていることが分かります。

太ももの後ろの筋肉は、股関節を支える大きな筋肉です。着地の瞬間、この筋肉に力を入れないと体は不安定になり、この図のようにトランポリンを押し込む力が分散されてしまいます。森選手は、太ももの後ろの筋肉に力を入れて体を固定することで押し込む力を分散させることなくトランポリンに伝え、その結果、トランポリンから強い反発力を得て高い跳躍を行っているのです。

さらに、「背中の筋肉の使い方」にも高いジャンプの秘密が隠されています。小林選手と森選手の背中の筋活動を比較してみましょう。小林選手はトランポリンから足が離れる直前に力を入れていますが、森選手はそれよりも前に力を入れています。森選手が力を入れたのは、足が離れる0.05秒前。このわずかな時間差が高さの違いを生んでいるのです。

ジャンプする直前の写真で比較してみましょう。小林選手は足が離れる直前、トランポリンのたわみが無くなった状態で背中の筋肉に力を入れているのに対して、森選手はトランポリンがまだ沈んでいる状態で力を入れています。小林選手に比べて森選手は、トランポリンの反発力をより強く受ける事ができるため高く跳べるのです。トランポリンから足が離れるわずか0.05秒前に力を調節するという妙技、トランポリンの跳躍高などを解析・研究する金沢学院大学の藤原勝夫教授は“神業”と評します。

金沢学院大学 藤原勝夫教授

藤原勝夫教授

上へ飛ぶ力をいかに胴体部分にうまく伝えるか、これが最も跳躍高を規定しています。森選手は、0コンマ05秒とか、20分の1秒くらいで力を入れるタイミングを調節しています。これはちょっと驚きですね。瞬時に、本当に瞬時になされています。もう神業に近いんだと思います。

空中でもブレない美しい姿勢

2018年アジア大会

森選手のもう一つの強みは、採点項目の「演技点」にあらわれる空中での美しい姿勢です。もう一度、ワールドカップ前橋大会決勝の得点表を見てみましょう。森選手の「演技点」は16.5、8人中3位の高得点です。

トランポリンでは、演技中の基本姿勢が細かく定められていて、その姿勢が乱れると減点の対象になります。体を曲げた時に足の引き付けが足りなかったり、回転の時に両足のつま先がそろっていなかったり。

「開き」の姿勢

なかでも最も大きな減点となるのが「開き」と呼ばれる姿勢です。トランポリンでは、回転やひねりの技が終わった時には、必ず体を一直線に伸ばさなければなりません。このため、体が曲がったり、手が大きく離れたりすると最大で0.3の減点となってしまうのです。

これは、森選手の体の動きを分析して作成した3D画像。回転中の姿勢を頭の上のアングルから見た画像です。見えているのは頭と両腕だけ、足は全く見えません。頭からつま先までが一直線になっている証拠です。この美しい姿勢が、高い演技点を出すのに大切な要素なのです。

森選手は、どうして回転しながら美しい姿勢を保てるのでしょうか。その秘密を解くカギは、実は腕の動きにあります。森選手の空中の写真をじっくりご覧ください。右腕が少し体から離れているように見えます。森選手は、「横に行ってしまったとか、ちょっと回りすぎたなっていうときは手を開いたり、バランスをとったりします」と腕の秘密を教えてくれました。一体どういうことなのでしょうか。トランポリン日本代表としてオリンピックに2大会連続で出場した廣田遥さんに聞きました。

トランポリン元日本代表 廣田遥さん

廣田遥さん

回転がかかりすぎて着地点をオーバーしちゃうのを止めるときに、腕を開いて自分の体を止めています。手を広げ過ぎると減点の対象になってしまうのですが、森選手がすごいところは、減点されない範囲ギリギリのところで調節して舵を取っているところ、大きなポイントだと思います。トランポリンの選手にとって手から肩甲骨にかけては鳥でいうと翼の役割をしていて、そこで舵をとったり、ブレーキをかけたりしているのですが、森選手は自分の翼を操るのが人一倍うまい選手です。

太ももの後ろと背中の筋肉を使って生み出す高いジャンプ。空中で何度回転をしても乱れのない美しい姿勢。世界を驚かすこうしたスゴ技の裏には、自分の体の動きを繊細にコントロールする高度なテクニックが隠されています。子どものころからオリンピック出場が夢だったという森選手、21歳で迎える東京オリンピックでのメダルを目指して、技に磨きをかけ続けます。


この記事は、「勝利の条件 スポーツイノベーション」(2018年9月9日放送)をテキスト化しました。
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