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2019年11月11日(月)

「ラグビーっていいもんだね」 W杯の44日間を終えて

南アフリカの優勝で幕を閉じたラグビーワールドカップ。44日間に渡って日本列島を興奮の渦に巻き込んだ今大会。日本代表の健闘、各国チームとの交流、「にわかファン」の広がりなど様々な盛り上がりを見せた大会を振り返るにあたって、サンデースポーツ2020ではスポーツライターの藤島大さんをゲストに迎えて話を聞きました。

1987年の第1回大会から大会を取材してきた藤島さんが、今大会を表す言葉として選んだのは…。

「ラグビーっておもしろい」

ではなく

「ラグビーっていいもんだね」。

その意味とは。

居酒屋で“にわかファン”が語った言葉

「この言葉は、W杯の試合後にお酒を飲みに行った店で聞いた言葉なんですけどね。今大会を機にラグビーを好きになったという人が、『ラグビーっていいもんだね』って言ってたんですよ。」

スポーツライター 藤島大さん

藤島さんと言えば、数多のスポーツライターの中でも特にラグビーに精通し数々の著書を発表しています。ワールドカップの試合後はたとえどんなに夜が遅くても、ラグビーファン仲間とビールを飲みに行くことを「義務」としている藤島さん。いわゆる「にわかファン」と呼ばれる人たちが言ったこの「ラグビーっていいもんだね」という言葉が記憶に残ったと言います。

第1回のワールドカップから30年以上大会を取材してきた藤島さんは、今大会の開幕前に一抹の不安を感じていました。それはスタジアムが、ファンたちが盛り上がるのかどうかということ。これまでの8大会はすべて、イングランドやニュージーランドなどラグビー伝統国と呼ばれる国での開催でした。それが今回は、初めてのアジア開催。ラグビーが広く国民に浸透しているとは言い難い状況だった日本での開催に際しては、運営や動員数などの面で不安の声が海外からも寄せられていたのです。しかし、東京スタジアムで開幕を迎えた瞬間に、その不安も杞憂であったと藤島さんは気付かされます。それだけでなく、当初の期待をはるかに超えるような盛り上がりを見せる大会になったのです。

「私は大会の運営は成功すると思っていたし、日本代表が強くなっていることもわかっていました。不安だったのは観客の雰囲気ですよね。今までの伝統国での大会のスタジアムと同じようになるのだろうかと、少し心配してたんですけど。でも開幕戦の、最初の瞬間から、伝統国での大会と同じような雰囲気がありました。それは瞬く間に日本列島に広がっていった。まさに『ラグビーっていいもんだよね』という、単に勝敗でドキドキするとか興奮するというだけでない、ラグビーそのものが持つ文化のようなものが伝わったのではないかなと思うんです。」


その「いいもんだよね」と広く感じさせたものとは何か、振り返っていきます。

釜石のストーリーが世界に

数多くの試合を取材した藤島さんが、今大会最も印象に残った試合。それは9月25日に釜石市の鵜住居復興スタジアムで行われた、1次リーグのフィジー対ウルグアイ。この試合を藤島さんは、「特別な場所で行われた、特別な試合。」と表現しました。

鵜住居復興スタジアムが建てられた場所は、東日本大震災の津波で被災した釜石東中学校と鵜住居小学校の跡地。多くの命が失われた震災からの復興のシンボルとして、震災の記憶と防災の知恵を後世に伝えるという目的で建設されたスタジアムです。

さらに、釜石市といえば昭和に日本選手権7連覇を達成した社会人チーム、「新日鐵釜石」のおひざ元としてラグビーの熱気にあふれた場所でした。その後チームは一時の強さを失い、親会社の事業再編でクラブチーム「釜石シーウェイブス」に移行。まちもかつての熱さを失っていた中、今回のワールドカップ(RWC2019)の試合開催で、「日本選手権V7・RWCレガシーを伝える(スタジアム公式HPより)」ための場所としてこのスタジアムは作られています。

「被災地であるということも含めて、釜石という場所が醸し出す独特な雰囲気を感じましたね。海外から取材に来た記者も大勢集まっていて、釜石の「ストーリー」を書いてくれました。しかも、『今の釜石のまちの若い人は、最初ラグビーといわれてもピンとこなかった』、なんていうこともちゃんと書いてある、ある意味フェアな記事でね。そういうストーリーが世界に発信されたことは、非常に良かったと思います。」

そのストーリーにあふれた場所での試合も、「ラグビーっていいもんだね」と思わせるに十分なものだったと言います。

「試合でも特別な事が起きました。本当に面白かったし感動しましたね。アマチュア選手を9人も含むウルグアイ(世界ランキング19位・試合当時)が、格上のフィジー(同・10位)を破ったんです。ウルグアイの選手たちの体を張った必死のタックル。会場に感動がすっと広がっていました。あの記憶はきっと消えることはないでしょう。」

ウェールズから贈られた感謝

今大会を振り返ると、試合以外の場面でもSNSを中心にしたインターネット上で大きな反響を呼んだトピックにも様々なものがありました。各国代表チームが滞在した日本各地を満喫する姿。各地の市民、子どもたちとのふれあい、おもてなし。さらには台風19号の被害にあった被災地で選手がボランティアに参加…。

数あるエピソードの中でも、藤島さんが一番印象に残ったというのが、ウェールズラグビー協会がツイッターに載せた映像です。

ウェールズ代表がキャンプ地・北九州で練習後に地元の子どもたちへファンサービスをしている場面。すると子どもたちは、ウェールズ代表の応援歌としてうたわれる「カロン・ラン(Calon Lan)」を合唱し始めたのです。この歌の歌詞は英語ではなく「ウェールズ語」で、決して簡単に覚えられるとは言えないもの。この動画は1週間で20万回以上再生され、世界中から称賛のコメントが寄せられました。さらに、チームの公開練習ではほぼ満員のスタンドから、市民たちの「カロン・ラン」の力強い歌声が。まさに北九州は町を上げてウェールズをサポートする姿勢を見せたのでした。

2大会ぶりのベスト4進出を果たしたウェールズ代表。3位決定戦の翌日の11月2日、ウェールズラグビー協会は感謝のメッセージを新聞広告に載せました。

「北九州は私たちウェールズ国民にとって特別な場所になりました。ありがとう。」

「子供たちのカロン・ランは、一瞬にしてウェールズの人たちの心を捉えたんでしょうね。カロン・ランはウェールズの聖歌なんですが、ラグビー代表のアンセム(応援歌)としてずっと定着している歌。ウェールズのスタジアムに行くと、何万人もの人が声を合わせて合唱します。その歌を北九州の少女たちが楽しげに歌っている。しかもすごく自然に。まさに『本物』の瞬間だと感じました。これまでも各国の選手とキャンプ地の人の交流というのは常にありましたが、少女たちがウェールズ語の歌を覚えて一生懸命に歌うのは特に印象的でした。これが『日本ならではのおもてなし』なのかなと感じましたね。」

北九州以外でも、全国で各チームの国歌や応援歌を歌う取り組みが行われ、その輪は大きく広がりました。国歌や応援歌での「おもてなし」は、今大会が残した新しいレガシーといえるかもしれません。

南アフリカ ラグビーを超えた意味

そして11月2日の決勝戦。雄叫びをあげながら優勝トロフィーを掲げる、南アフリカのキャプテン、シヤ・コリシ選手の姿がありました。実は藤島さんは、大会前に注目選手としてコリシ選手の名前を上げていました。

「コリシ選手は南アフリカ代表・スプリングボクスの127年の歴史で、初めての黒人から選ばれたリーダー、キャプテンなんです。この意味はラグビーを離れても大きいですね。」

かつて人種隔離政策「アパルトヘイト」の影響で、ラグビーは白人のスポーツと見なされてきた南アフリカ。貧困区域で育ったコリシ選手はラグビーボールに夢を託し、人種や貧富の差を越えてキャプテンとしてチームを引っ張りました。ワールドカップ優勝を成し遂げた直後のインタビュー。コリシ選手は世界に向けて語りました。

シヤ・コリシ選手

「異なる背景を持つ、あらゆる人種が集まったチームが目標のために団結できた。それを南アフリカの人々に見せられたことをうれしく思います。一丸となればどんな事も実現できるのです。」

「旧黒人居住区に育ち、小学校の学費も払えなかった。満足に食事をとれなくて砂糖水を飲んでしのいだ。幼くして母親は去り、父親は遠く離れて働いていて祖母に育てられた。そこからラグビーを通して奨学金を得て、白人の多く通うラグビー強豪校でキャリアをスタートさせた。それがコリシという選手なんです。」

「ラグビーの成功がたちまち社会を変えるというのは、少し楽観的なのかもしれません。でも南アフリカチームの優勝は、社会を少なくともいい方にひとつ進めた、そう言えると思います。コリシ主将が優勝トロフィーを掲げる写真は永遠に残ります。まさにラグビーの歴史の、もっと言えば世界の歴史の一幕として残る場面になるのではないでしょうか。」

一番のレガシーは「記憶」

ラグビーというスポーツの枠を超えて、様々なものを私たちにもたらしたラグビーワールドカップ。改めて、この大会のレガシーとは何か、藤島さんに問いました。

「もちろんスタジアムが残るとか、運営のシステムが残るとか様々なレガシーがある。でも私は、一番は『記憶』だと思うんです。『ラグビーっていいもんだね』と思った人の記憶はもう絶対消えませんからね。ふとした時に、ふとした場面が記憶からよみがえるのだと思います。」

そして最後に、2019年秋の日本に、ラグビーの記憶を深く刻みつけた最大の功労者である「桜の戦士たち」を讃えました。

「やっぱり、ジャパンです。ジェイミー・ジョセフさんが率いたジャパンの躍進。これはもう明らかに大きかった。本当に世界がジャパンを認めました。やはりナショナルチームが強いっていうのは、もう代えがたいものですよ。彼らはこの大会でどこまでも勝敗にこだわり、そして勝利した。だからこそ見ている私たちは、『ラグビーは勝敗だけじゃない』とわかることができたような気がしますね。」


                   
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