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2019年10月11日(金)

「総合馬術」団体 クロスカントリーを制して88年ぶりの快挙へ

オリンピックの馬術競技で日本代表が獲得した唯一のメダルは、1932年ロサンゼルス五輪で西竹一(通称:バロン西)が獲得した金メダルですが、それ以来88年ぶりとなる快挙が東京五輪で起きる可能性が高まっています。

種目は「総合馬術」団体。2018年8月のアジア大会で金メダルに輝き、その翌月に行われた世界選手権でも4位に入るなど、世界トップレベルの活躍を見せています。「総合馬術」とはどのような種目なんでしょうか。メダル獲得の鍵はどこにあるのでしょうか。「総合馬術」日本代表の指揮官、日本馬術連盟・総合馬術本部長の細野茂之さんに聞きました。

同じ馬で3種目を戦う“馬術のトライアスロン”

2018年アジア大会 優勝

演技の正確さと動きのスムーズさを競う「馬場馬術」、障害物を飛び越える技術とタイムを競う「障害馬術」、ボリュームのある障害物が多数設置されたコースを駆け抜ける「クロスカントリー」。この3つの種目を3人の選手で行い、その合計ポイントで勝敗を決めるのが、東京五輪の「総合馬術」団体です。最大のポイントは、全く違う動きが求められる3つの種目を同じ馬と選手が行うこと、タフな精神力と並外れた体力が求められます。

1日目に行われる「馬場馬術」の見どころは、馬がいかに自然に、生き生きと、選手の指示に従って動いているか。図形を描いたり、歩幅を伸ばしたり詰めたり、選手と馬とのコンビネーションに注目です。

「障害馬術」の注目点は、一つひとつの障害物をミスなく飛び越える馬の飛越力と、絶妙な踏み切り位置に馬を誘導する選手のテクニックです。3種目の最後、3日目に行われる「障害馬術」は、選手も馬も疲労が蓄積しているため、馬のコンディションを見極めながらの手綱さばきになります。

馬の体力を最も奪うのが、2日目に行われる迫力満点の「クロスカントリー」です。自然をいかした起伏のある地形に、丸太をそのまま使った障害物や、池への飛び込み、生垣など、ボリュームのある自然に近い状態の障害物が設置されたコースを駆け抜けます。

細野茂之さん

単独種目の「馬場馬術」や「障害馬術」では、それぞれその競技に特化した専門の馬が出場しますが、「総合馬術」では1頭が3種目をこなします。ステップを正確に披露する力、障害を飛び越えるジャンプ力、約6kmのコースを障害物を飛越しながら駆け抜けるスタミナ、オールマイティな能力が求められます。「総合馬術」が“馬術のトライアスロン”と呼ばれるゆえんです。元々は、軍の将校のための競技としてスタートしたそうですが、現在でも馬術強豪国のドイツやオランダではミリタリー競技という位置付けになっています。

日本馬術連盟 細野茂之 総合馬術本部長

細野茂之さん

メダルという高い目標をクリアするためには、すべての種目で完璧なパフォーマンスを披露する必要がありますが、ひとつポイントを上げるとしたら経験の差が出るクロスカントリーです。選手は事前にコースの下見ができますが、馬は本番で初めてコースに足を踏み入れます。そのため選手は、馬を疾走させながら地形や障害物の大きさなどを正確に馬に伝え、クリアするための指示を与えなければなりません。選手と馬による経験に裏打ちされた信頼関係が鍵となる競技がクロスカントリーなんです。

時速30km超のスピードで疾走するクロスカントリー

日本代表候補の大岩義明選手

細野さんが、「メダル獲得のポイント」に上げるクロスカントリーをもう少し詳しく見ていきましょう。クロスカントリーは、江東区の海の森クロスカントリーコースに場所を移して行われます。6kmに及ぶコースに設置される障害物の数は40以上、障害の前で止まったり、障害を回避したりすると減点となります。選手が落馬すると失権となり、それ以上、競技を続けることはできません。また、ゴールタイムが規定のタイムを1秒超過するごとに0.4点の減点となるためスピードも重要な要素です。選手たちは、時速30kmを超えるスピードで起伏に富んだコースを駆け抜けていきます。

ゴルフと同じように観客がコースのすぐそばで観戦できるのもクロスカントリーの特徴です。馬の荒々しい息遣いや蹄(ひずめ)の音などを間近で聞いて、馬場馬術や障害馬術とは違った馬術競技の魅力を体感することができます。

危険と隣り合わせ、選手はプロテクターを装着

2019年 XVIIIパンアメリカン競技大会 コロンビアの選手

クロスカントリーは、危険と隣り合わせの種目です。同じ飛越競技である「障害馬術」の障害物のバーは、触れると落下するように作られていますが、クロスカントリーの障害物は、丸太を積み上げたものなど、大型で頑丈でしかも固定されています。そのため、選手はプロテクターを装着していますし、障害物に当たったり触ったりしても、皮膚が切れたり擦れたりするのを防ぐために、馬の脚にはワセリンを塗ります。

選手はプロテクターを装着、馬の脚にはワセリンを塗る

危険と隣り合わせの競技だからこそ、選手と馬の強い信頼関係が不可欠だと細野さんは言います。クロスカントリーのコースは、馬にとっては、競技本番で初めて足を踏み入れる未知の場所。障害物を飛んだ先に何があるのか、どんな地形になっているのか、馬は全くわからないまま選手の指示に従って飛び越えなければなりません。
一方、選手は、馬をどの位置で踏み切らせるのか、どれくらい高く飛ばせるのか、どれだけ遠くまでジャンプさせるのか、コースの状況と馬の能力や疲労度などを計算して臨機応変に的確な指示を出す必要があります。選手と馬が、頑丈な障害物を飛び越えながら全力で駆け抜けられるのは、互いの強い信頼関係があってこそなのです。

日本馬術連盟 細野茂之 総合馬術本部長

細野茂之さん

クロスカントリーの障害物は、サイズも形状もバラエティに富んでいるので、選手は障害物一つひとつに対して最適なアプローチを見つけ、馬が迷わず飛べるように正確に指示を出さなければなりません。その都度、馬をピンポイントで誘導してあげる必要があるんです。しっかりと踏み切れるように減速するケースもありますし、歩幅を合わせながら加速する場合もあります。クロスカントリーでは、わずかな指示の違いが大きなミスにつながります。選手と馬とが互いに信頼し合って、完璧なコンビネーションで難度の高い障害物を越えていく、それこそがクロスカントリーの見どころで、日本代表が最も自信を持っている部分でもあるんです。

左から細野茂之本部長、大岩義明選手、戸本一真選手、田中利幸選手、北島隆三選手
(2018年世界選手権 4位入賞)

2020年東京五輪の日本代表チームは、大岩義明選手、戸本一真選手、田中利幸選手、北島隆三選手ら、2018年の世界選手権で4位入賞を果たしたメンバーが中心となると細野さんは考えています。細野さんは「2018年のアジア大会で金メダル、世界選手権で入賞、東京五輪でメダル」という目標を掲げ、メンバーとともに有言実行してきました。最後の「東京五輪でメダル」が現実になる時、それは、日本中が88年ぶりの快挙に歓喜する瞬間になるはずです。

                   
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