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2019年10月10日(木)

ストーリーを読め!コースデザイナーが障害馬術の見方を解説

障害物を次々に飛び越える馬、その馬にまたがり手綱を操る選手、人馬一体のダイナミックな動きにワクワクする観客。障害馬術には、他にも欠かせない重要なプレーヤーがいます。競技のコースを設計するコースデザイナーです。障害物の高さや幅、障害物と障害物の距離、障害物にアプローチする角度などを緻密に計算し、コースの難易度や白熱した勝負を演出します。

第43回全日本ジュニア障害馬術大会決勝戦のコース図

この写真は、2019年8月に開催された、第43回全日本ジュニア障害馬術大会(JOCジュニアオリンピックカップ大会)決勝戦のコース図です。日本を代表するコースデザイナーの村田達哉さんがデザインしました。村田さんは、このコースで選手と馬にどのような動きを求めたのでしょうか。それを知ると、障害馬術の見方が変わります。

高さ、幅、コンビネーション 3種類の障害で飛越力を試す

村田さんのコース図から作成

障害馬術は、「アリーナ」と呼ばれる競技場内に設置された13〜15個の障害物を決められた順番通りに飛び越す競技です。馬が障害のバー(横木)を落下させたり、障害物の前で止まったり、障害物を回避したり、規定のタイム内にゴールできなかったりすると減点され、落馬や転倒すると失権になリます。

1番「垂直障害」

村田さんが、1番、5番、7番、9番に設置したのは、バーが地面と垂直に設置された「垂直障害」です。ジュニアの大会の場合その高さは110〜130cm、オリンピックなどの国際大会では160cmにもなるため、ミスなく飛び越すには、陸上競技の「走り高跳び」に近い飛び方が求められます。垂直障害で試されるのは、馬のスピードをある程度抑えつつ、しっかりと地面を踏み切って高くジャンプする能力です。

2番「オクサー障害」

2番、3番、4番、11番に設置したのは、垂直障害を2〜3個並べて飛び越す幅を広げた(最大2m)「オクサー障害」です。陸上競技の「走り幅跳び」のような飛び方が求められます。「オクサー障害」で試されるのは、バーのギリギリの高さをより遠くに飛び越す能力です。

8番「コンビネーション障害」

8A〜8Cと10A〜10Bは、障害を連続して配置する「コンビネーション障害」です。8番の場合、8Aのオクサー障害に続いて、8Bと8Cに垂直障害があるため、1つ目の障害に入る馬の速度や踏み切りの位置、着地点などに誤差が生じると、2つ目の障害の飛越に影響が出ます。2つ目の障害をなんとか無事に飛び越しても、3つ目の障害の飛越にはさらに大きな影響が出て、障害物の前で止まったり、バーを落としてしまう可能性が高まります。「コンビネーション障害」では、選手が馬の動きをどれだけ精密にコントロールできるかが試されているのです。

FEI(国際馬術連盟)レベル3コースデザイナー 村田達哉さん

村田達哉さん

障害馬術のコースには2つとして同じものはありません。その都度、障害物の配置、障害間の距離やアプローチする角度を変えて、選手のコントロールスキルを試します。1つ目と2つ目の障害物の間は何歩で走るべきか、この障害物は何歩で踏み切れば一番いい状態で飛べるか、など想定して組んでいます。逆に選手は自分の馬の歩幅などを考慮し、戦術を考えながら、直前に行われる下見でコースを歩きます。パートナーの馬との長年の経験を踏まえて、コースデザイナーがデザインしたコースを克服する戦術を練るわけです。

障害と障害をストーリーとして捉える能力を試す

第43回全日本ジュニア障害馬術大会

コースデザイナーは、飛越の高さや幅、踏み切り位置や着地点の正確さ、といった障害一つひとつを克服する能力に加えて、障害物と障害物をストーリーとして捉えられる能力も試していると村田さんは言います。村田さんが設計した第43回全日本ジュニア障害馬術大会のコース図に戻りましょう。

村田さんは、3番のオクサー障害から4番のオクサー障害にかけて最初の関門を仕掛けました。オクサー障害は、陸上競技の「走り幅跳び」のように距離を飛ぶ「幅系」の障害ですから飛び越すにはそれなりのスピードが必要ですが、村田さんは、3番と4番の間の距離を少し短めに設定し、助走を難しくしたのです。

4番「オクサー障害」を飛ぶ選手

村田達哉さん

「幅系」障害1つを飛ぶだけならば単純に加速すれば飛べますが、障害が2つあり、しかも、障害と障害の間の距離が短いとなると、スピードをうまくコントロールしないと、4番でミスする可能性が高くなるんです。ちなみに、「幅系」のオクサー障害の次に「高さ系」の垂直障害をレイアウトした場合、「幅系」を飛んだ後にスピードを抑えなければなりません。そのままのスピードでアプローチすると垂直障害の高さに対応できなくなります。このように、障害単体ではなくコース全体を捉える能力を試しているんです。

10番「コンビネーション障害」を飛ぶ選手

村田さんが設計した今回のコースの最大の難所が、8番のコンビネーションから9番を挟んですぐに続く10番のコンビネーションです。選手は、8番の「幅系」→「高さ系」→「高さ系」を飛び終えたら、今度は逆に9番の「高さ系」→10Aの「高さ系」→そして短い助走距離で10Bの「幅系」を飛ばなければなりません。

村田達哉さん

コースデザイナーは、決められた箱の中に見栄えがいいように障害物を散りばめているわけではありません。スタートからフィニッシュまで、すべての障害物が関連していて、ひとつの“ストーリー”のようにつながっているんです。ですから選手は、最初から最後まで障害物を一連のものとして捉える必要があるわけです。わずかな下見の時間に、コースデザイナーが描いた“ストーリー”を読み解き、どう馬を走行させるのか、馬を最高の状態でエスコートするための戦術を組み立てなければならないのです。

日本代表 団体銀メダル(2018年アジア大会)

オリンピックの障害馬術は、ドイツやオランダ、アメリカ、カナダなどの国々が、毎回上位を争っています。日本勢もヨーロッパを拠点に国際大会に参加するようになったことで着実に実力をつけ、2018年のアジア大会では、団体で銀メダルを獲得しました。

東京オリンピックで障害馬術が行われる世田谷区の馬事公苑。そこでは、選手同士の熱い攻防に加えて、コースデザイナーと選手によるもう1つの戦いが繰り広げられます。コースデザイナーが設計する“ストーリー”を世界の超一流選手がどう読み解き克服するのか、見逃せないドラマがそこにあります。

                   
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