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2019年10月4日(金)

密着6年!NHKカメラマンが見た瀬戸大也

競泳日本代表で唯一、東京オリンピックの代表内定を決めている瀬戸大也選手。7月の世界選手権で、日本史上2人目となる2冠を達成しました。悔いの残る銅メダルで終わったリオデジャネイロ五輪から3年。かつての自分を戒め、誰よりも自らに厳しく過ごしてきた瀬戸選手。世界選手権で獲得した金メダルは4つとなり、あの北島康介さんを超えて競泳の日本選手で単独最多。来年の東京五輪は男子のエースとして臨みます。

なぜここまで強くなれたのか。その秘密に迫るのは自身も個人メドレーの選手で、瀬戸選手を6年間取材してきた竹岡直幸カメラマン。過去に取材してきた関係者の言葉からひもときます。

栄養不足が不調を招いていた

2016年から瀬戸選手のコンディショニングを行っている栗原秀文さん。レースで勝つための体作りを栄養管理の面からサポートしています。

調理する栗原さん

栗原さんが出会った当初の瀬戸選手は、「軽い泳ぎ」を目指して体重を落とそうと、エネルギー源である炭水化物の摂取量を少なくしていました。

その影響でエネルギー不足に陥り、泳ぎに必要な筋力が低下。勝ちへの意欲も下がり、自信を失っていたそうです。瀬戸選手の1日に消費するエネルギーは4000キロカロリーで一般男性のおよそ1.5倍。栗原さんの仕事は必要な栄養素の目標値を設け、それに合わせた献立などの指導をおこなうことです。2017年からは瀬戸選手の妻、優佳さんに対しても調理のアドバイスを開始。「食べ手と作り手が続けられる」献立作りを目指しています。

食事のためならどこへでも

世界選手権を翌月に控えた6月。およそ1か月間のヨーロッパ遠征を行っていた瀬戸選手のもとに栗原さんが駆けつけました。実は2年前の遠征で瀬戸選手はパスタなど脂分が多い現地の食事が体に合わず、消化不良を起こして通院。一時練習ができなくなり調子を落としたことがありました。

特製なべ

そのため今回の遠征には栗原さんが帯同し、瀬戸選手の口に合う日本食をレンタカーで買い出しに行ったり、レトルトの米を日本から大量に持参したりしました。NHKのクルーが取材した時、遠征メンバーに振る舞ったのはインスタントだしを使った鍋料理。「鶏だし」「キムチ」「パイタン」「しょうゆ」「鯛(たい)とホタテ」の中からお好みの味を選ぶことができます。

遠征で疲労のたまったメンバーも懐かしい日本の味に自然と笑顔がこぼれました。遠征中に体調を崩すことなく練習メニューをすべてこなした瀬戸選手の陰には、こうした「日本食パワー」があったのです。

365日、完璧に遂行

栗原さんの体調管理のサポートに応えるため、瀬戸選手も自らを厳しく律してきました。リオ五輪後の3年間にわたって瀬戸選手の行動をつぶさに見てきた栗原さんはこう言います。

栗原さんと瀬戸選手2ショット

栗原秀文さん

瀬戸選手のすごいところは、こちらがやってほしいルーティンや食事を365日、完璧に遂行するところ。1日3食×365と考えると1095食。


それをちゃんと食べるか、中途半端にするかということを考えたらとてつもない差なんですよね。プロ意識のたまものだし、そうした積み重ねが大きな違いとなって出てくる。

徹底した体調管理は、東京五輪のスタート台に立つまで続けられます。

瀬戸選手を追い続けてきた "最強のライバル"

チェイス・カリシュ選手

リオ五輪以降、瀬戸選手の最大のライバルとなっているのがアメリカのチェイス・カリシュ選手です。身長は瀬戸選手よりも20cm高い1メートル93cm。体格を活かしたダイナミックな泳ぎでこの3年間、一度も瀬戸選手に敗れたことがありませんでした。

リオ五輪までは瀬戸選手の背中を追う位置にいた、カリシュ選手ですが、3年たった今、立場が逆転。今では瀬戸選手も常にカリシュ選手のタイムや泳ぎを意識し、刺激を受けていると言います。

超自然体な男

NHKの取材班は世界選手権のひと月前、カリシュ選手の素顔を探るためアメリカへ渡りました。10年近く、あの“水の怪物”マイケル・フェルプスと共に練習を重ねてきたというカリシュ選手。さぞかしハードな練習を積んでいると思いきや…カメラに向かってピースサインを見せながら、笑顔で悠々と練習していました。

練習中のコーヒー

さらに、コース脇に置いていたドリンクは、なんとコーヒー。これまで数多くの水泳選手を取材してきましたが、練習中にコーヒーを飲んでいた人は見たことがありませんでした。

愛犬・フロイド

チェイス・カリシュ選手

アメリカ代表チームの95%は毎朝コーヒーを飲んでいるけど、練習中に飲むのは僕ぐらいだね。日本人の良いところは真面目なところ。


でも、水泳は楽しくやらなきゃ意味がないんだ。集中力を保つためにコーヒーを飲んでるんだ!

常に心に余裕を持って練習に取り組む姿勢が、カリシュ選手の強さのひとつなのかもしれません。

対照的なレース展開

年齢が同じライバルの瀬戸選手とカリシュ選手。レースでは対照的な泳ぎを見せます。400メートル個人メドレー、前半のバタフライと背泳ぎでは常に瀬戸選手がリード。後半の平泳ぎと自由形ではカリシュ選手が猛烈なスパートを見せます。特にカリシュ選手が得意とするのが平泳ぎ。

カリシュ選手の平泳ぎ

瀬戸選手の平泳ぎのベストラップ1分10秒00に対し、カリシュ選手は1分07秒67と驚異的な速さ。0.1秒を争う競泳で、平泳ぎの100メートルだけで2秒以上差を縮められてしまう計算になります。瀬戸選手が前半の200メートルでどれだけカリシュ選手からリードを奪うことができるか。これが金メダルのカギとなります。

不気味な敗退

東京五輪の前哨戦となった今年7月の世界選手権。瀬戸選手は、400メートル個人メドレーでのカリシュ選手との直接対決を楽しみにしていました。ところが、カリシュ選手がまさかの予選敗退。

世界水泳 光州大会 競泳男子400m 個人メドレー予選 (今年7月)

一体何が起きたのか?私も目を疑いました。予選後、インタビューには応えず、プールを後にしたカリシュ選手。私の頭に浮かんだのは、アメリカでの取材の最後にカリシュ選手が語った言葉でした。

チェイス・カリシュ選手

来年の東京五輪に向けて、この3年で結果を出すことは僕にとってそんなに重要ではない。3年はあくまでプロセス。大事なのは最終年。東京五輪で最高の状態になればいいんです。


大也との戦いはわくわくしています。大也はきっと日本の英雄になる。でも僕の個人メドレーは大也の上をいっている。僕は人生をかけて個人メドレーの泳ぎを作りあげてきて、その集大成が来年だからいまからワクワクが止まりません。

不適な笑みを浮かべたカリシュ選手。東京五輪での2人の直接対決は必見です。

73歳のパワフル女性トレーナー

御年73歳の女性トレーナー、広橋憲子さん。北京、ロンドンと、五輪競泳日本代表の帯同経験を持つスゴ腕のトレーナーです。現在はフリーランスで活動を続けていますが、いまもなおトップアスリートたちからの信頼は厚く、大舞台に臨む前に広橋さんのもとへ訪れる選手は多いそうです。

広橋憲子さん

瀬戸選手は大学1年生の時から広橋さんのお世話になっていて、月に数回、体のケアをしてもらっています。スポーツマッサージというと“疲労回復”のイメージが強いですが、広橋さんはそれに加え、ファンクショナルマッサージつまり筋肉や関節の動きを改善する施術のプロフェッショナルだそうです。

瀬戸選手は7月の世界選手権本番前には広橋さんのもとを訪れ、肩周りや腰の動き、水を力強く押さえるために手首の動きなどをよくし、レースで勝つための最終調整をおこなっていました。

瀬戸選手 "体の細部へのこだわり"

広橋さんは瀬戸選手の「勝ちにこだわる体作り」がすごいと感じています。選手の中にはトレーナーに任せっきりな人も多い中、瀬戸選手は昔から自分の施術してほしい体の部位を要求してきていたそうです。常に「自分の体に敏感」なのが、瀬戸選手の強さだと話していました。

勝つための要求が強い瀬戸選手に負けじと、広橋さんも73歳にして常に向上心を持って、新しい知識や技術を身につけています。いまは、身長で海外勢に劣る瀬戸選手が少しでも遠くの水を捉えられるようになるにはどうすればいいか、ゴールタッチするまでどうしたら体が動きつづけられるようになるか、など勉強を続けているんだそうです。

大河ドラマ『いだてん』でも活躍?

実は、日曜夜8時から放送中の大河ドラマ「いだてん」で、広橋さんが活躍してました。1912年のストックホルム大会編で、トレーナーが選手をマッサージしているシーンがあるのですが、そのマッサージの演技指導をしたのが広橋さんでした。もともとスウェーデン式のマッサージに精通していた広橋さんに依頼がきたんだそうです。

さすがに出演ではなかったのですが「まさか自分が大河ドラマの役に立てるとは」と驚きを隠せなかったとか。収録の合間には、連日の撮影で疲労がたまっていた出演者たちの体のケアも。金栗四三役の中村勘九郎さんや三島弥彦役の生田斗真さんのマッサージを行い「やっぱりイケメンからは力もらいます!」とうれしそうに話してくれました。

いつも気さくで明るい広橋さんの笑顔が選手たちの心をつかむのかもしれません。

広橋さんからみた瀬戸選手

明るく快活なキャラクターで知られる瀬戸選手ですが、広橋さんは「とにかく負けず嫌いな選手」と話します。

レース前にそばにいて感じる“勝利への執念”と“集中力”には目を見張るものがあり、広橋さんが帯同した北京オリンピックの時に見た北島康介さんにとてもよく似ているんだそうです。試合前、体のケアをしたあと、気持ちがナーバスになる選手には明るく声をかけて送り出すが、本番に強い瀬戸選手には声をかける必要を感じたことがなく、いつも何も言わずに送り出しているそうです。

竹岡直幸

報道局映像センター、平成23年入局。水泳歴20年、専門は400m個人メドレー。瀬戸選手は2014年から取材。

                   
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