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2019年10月1日(火)

アーチェリー界のレジェンド・山本博が語る"メダリストの条件"

メダルを掲げて満面の笑みを浮かべるこの男性、2004年のアテネ五輪で銀メダルに輝き、「中年の星」と呼ばれて一躍時の人となった山本博選手(1962年生まれ)です。山本選手は、その20年前の1984年ロサンゼルス五輪でも銅メダルを獲得。そして、還暦に手が届きそうになった今も現役選手を続ける日本アーチェリー界のレジェンドです。現在、日本体育大学の教授を務める山本選手にアーチェリーのメダリストの条件を聞きました。

強風でも豪雨でも、お構いなし

屋外の競技場で、70m先にある直径122cmの的の中心を狙って矢を放ち、得点を競うのがオリンピックのアーチェリー競技です。的の中心の最高点10点のエリアは、なんと直径12.2cm、音楽CDとほぼ同じ面積しかありません。そこに寸分違わず矢を射るため、並外れた技術や桁違いの集中力が必要とされる極めて繊細なスポーツなのですが、驚くことに屋外で行われるにも関わらず、気象条件がほとんど考慮されないんです。

競技が中止されるのは、固定されている的が風で飛ばされてしまうか、落雷のおそれがある場合のみ。それ以外、どんなに強風が吹いても、どんなに激しい雨が降っても、競技が中止されることはほぼなく、淡々とスケジュール通りに競技が行われます。

還暦まぢかの今も現役を続ける山本博選手

山本博選手

40年を超える競技生活の中で、雷による中断が2回ありました。あまりの強風で的が倒れて中止ということはありました。でも、雨で中止というのは記憶にありません。アーチェリーは多少の雨、風どころか、台風並みの強風でも的さえ倒れなければ競技は続行。前が見えなくなるくらいの豪雨でも基本的には中止にならない競技なんです。

アーチェリーは、狩猟をルーツとした自然と人間の戦いを象徴するスポーツです。ターゲットは、野生動物から同心円の的に変わりましたが、自然と人間の戦いを象徴するというその精神は、競技の中に脈々と受け継がれているのかも知れません。

選手に問われる風や雨を読み切る力

アーチェリーの的には、中心から黄、赤、青、黒、白の同心円が広がっています。黄色は10点と9点、赤は8点と7点という風に外側ほど得点は下がり、外側の白い部分は1点です。

手元が数ミリくるえば、70m先の的に到達したときには数十cmのズレになり、大きな得点の差になって現れます。仮に正確に矢を放ったとしても矢が空中で風にあおられたり、雨粒にうたれたりすると進路が変わり、狙いを外してしまうことになりかねません。世界のトップ選手は、強風や豪雨にどう対応するのでしょうか。

右側から風が吹いている場合の狙い所

山本博選手

1984年のロサンゼルス五輪前後までは、アルミニウム製の矢が主流で、風の影響は今よりもっと大きく受けました。右方向から風速10mの風が吹いていれば右の6を狙い、9mなら7を狙うとういう風にかなり大胆な方法で矢を放っていました。現在は、アルミニウムをカーボンで覆った矢が使われているので、風速7〜10mくらいなら8点エリアを狙えば大丈夫です。つまり、無風ならど真ん中を狙い、風が吹いたら狙いを中心から外して狙います。この技術を専門用語で「エイムオフ」と言います。

的の上には風の状態を知るための旗が付けられている

選手が風向や風速を判断しやすいように、的の上には小さな旗が立てられています。選手は的の上にあるこの旗や競技場に設置された筒状の吹き流しなどを見ながら、風の向きや強さを予測し、矢が流される分をあらかじめ計算した上で、狙いを定めているのです。

山本博選手

雨では、的の前で矢がお辞儀をするように失速してしまうので、それを考慮して10点より上に狙いをつけます。また、矢が重くなると感じるので、道具が濡れるのを嫌う選手は多いですね。アーチェリーは、できるだけ同じフォーム、同じ気持ちで射ることが大切なのですが、雨によっていつも通りではない動きをしなければいけないことが点数を狂わせる一番の要因かもしれません。

風でも雨でも同じスコアを出せるのがメダリストの条件

東京五輪でアーチェリーが行われる夢の島公園アーチェリー場

東京オリンピックのアーチェリー競技は、東京都江東区の夢の島公園アーチェリー場、もちろん屋外で行われます。台風が近づいて、強風が吹いたり、激しい雨が降ったりする可能性もあります。山本選手は、そうした気象条件の変化を読み切り、冷静に対応することこそが、自然と人間の戦いを象徴するアーチェリーのメダリストの条件だと言います。

山本博選手

トップ4になるような選手は、雨でも風でも無風状態とほとんど変わらないスコアでまとめてきます。アーチェリーでは、2秒くらいで的に狙いを定めて射るのですが、このクラスの選手は強風が吹いていても雨が降っていても同じ2秒で射ることができるんです。無風だと2秒、風が吹いたら4秒、5秒かかるという人は、どうしても普段との違いが出ていて、それが正確性に影響してしまいます。風が強い日でも弱い日でも、雨の日でも晴れの日でもほとんどスコアに影響がないレベルに達する、これがアーチェリーでメダリストになれる条件なんです。

オリンピックでは、最初に出場選手64人全員による予選が行われます。制限時間4分以内に6射を放つ1セットを12セット行うランキングラウンドです。満点は720点、総得点によって個人戦の対戦相手が決まり、団体戦に出場する権利が得られます。合計72本の矢を放つ予選で風や雨などの影響を最小限にとどめ、普段通りのタイミングやフォームを貫けるか。それが、メダリストへの第一関門だと、レジェンド・山本博選手は自分自身に語りかけるように話してくれました。

                   
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