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2019年9月13日(金)

女子マラソン 代表を勝ち取り東京五輪で勝つための3つの条件

1984年ロサンゼルスオリンピックから正式種目になった「女子マラソン」。日本人初のメダル獲得となった有森裕子選手を始め、高橋尚子選手や野口みずき選手など数多くの日本選手が活躍してきた競技でもあります。

来年の東京オリンピックのマラソン代表が9月15日に行われるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で内定します。(上位1位・2位)

MGCを勝ち抜き、そして日本選手が東京オリンピックで勝つための3つの勝利の条件を分析します。

条件1:弱みを強みにするフォームを磨く

まずは、MGCに出場する12人の日本人選手の中で自己ベストがトップ3の安藤友香選手・福士加代子選手・松田瑞生選手の3人それぞれの走りのフォームを分析していきます。

腕をあまり振らない「忍者走り」安藤友香選手

中学・高校で駅伝選手として活躍していた頃の安藤選手の走りを見てみると、大きく腕を振りすぎて体のブレた走りをしていました。脇があき、横の力が加わることで身体が左右にブレていたそう。腕を振ることでバランスが悪くなるため腕を振らずに走るフォームを追求しました。

改善前のフォーム。肩の動きを表す青い線は傾いている(2009年)

そして生まれたのが、肩から肘をほとんど動かさずに走る「忍者走り」。

肩の位置を表す赤い線はまっすぐ(2017年)

スポーツバイオメカニクスを研究する順天堂大学の柳谷登志雄(やなぎや・としお)さんは上半身がぶれなくなったことで、重心の上下動が少なくなり、前画の推進力が増したと分析します。

こちらは柳谷さんが「忍者走り」の安藤選手と、腕を振って走る選手の重心を比較したデータです。腕を振って走る選手が一歩進むとき、重心が上下に9.7センチ動いているのがわかります。ところが「忍者走り」の安藤選手は、8.4センチと安藤選手は上下動が少ないことがわかりますよね。

柳谷さんは「まっすぐどれだけ速く進むかっていうのを競う競技なので、上下に振幅しながらいくと、重心が動く距離は長くなりますよね。まっすぐいった方が当然速くなるので、上下動しない方がいい」と話します。

さらに、柳谷さんは「忍者走り」は、あまり手を振らない分、「足の筋肉」を最大限使って走っている可能性を指摘します。

それを示しているのがこちらのデータ。

大学時代に駅伝に出場した元選手が、腕を振った走りと「忍者走り」をして、それぞれの筋肉の動きをデータ化したものです。すると「忍者走り」は上半身では、肩を動かす三角筋以外あまり活動していないのに対し、下半身では、ほとんどの筋肉が腕を振る走りよりも活動していることがわかりました。

このようにフォームを改善することで重心の上下動を減らし、日本歴代4位の記録を打ち出す選手にまで成長を遂げたのです!

「バテない走り」福士加代子選手

リオデジャネイロオリンピックに出場し14位と日本代表のトップだった福士加代子選手。日本選手権10000メートルで前人未到の6連覇を達成した「トラックの女王」です。

ところが、初めて挑んだ2008年の「大阪国際女子マラソン」では、序盤にトラックを走るかのようにとばしたため、後半にバテて失速してしまいました。

そこで「バテない走り」を追求し、フォームを変えました。

こちらが2008年、福士選手にとっての初マラソンの時のフォーム。この時は、かかとから接地しているのがわかります。

こちらが2016年。この時は足の裏全体でフラットに接地しています。

このフラットな接地が「バテない走り」になっていると柳谷さんは話します。

(柳谷さん)「かかと接地することによって自分の身体より遠いところに足がつくということは、やはり衝撃が大きくなってきますし、スピードを獲得するための力も出さなくちゃいけなくなってくるんですよね。」

(柳谷さん)「フラット接地にしたほうが、身体に近いところで接地するって言われていますし、その方が衝撃が少なく、良い走りが出来ていると思います」

足の接地の仕方を変え、身体へのダメージを軽減し、足の動きもコンパクトにした福士選手。まさに、省エネともいえるこの走り方で「バテない走り」へと変化を遂げていたのです。

「反らない走り」松田瑞生選手

自己ベストは、2時間22分23秒、パワフルな走りが持ち味の松田選手。

松田選手といえば、この見事な腹筋!この腹筋も弱点を克服するために鍛えられたものです。

高校生の頃の松田選手は、レース後半に疲れからあごが上がり、体は後方に沿ってしまうという弱点がありました。

体の軸が後ろに傾くと、前への推進力が削がれてしまうのでタイムも思うように上がらなかったのです。

そこで松田選手が行ったのは、なんと1日1500回の腹筋運動!

腹筋を鍛えたことで、連動する膝の前側にある大腿直筋(だいたいちょっきん)も鍛えられ、ストライドが伸びて、スピードが増したそう。

さらに、この強靭な腹筋によってもたらされたものがあります。それは勝負どころでカギとなる「スパート力」。

それが発揮されたのが2018年の大阪国際女子マラソン。

上のグラフは5キロごとのラップタイムです。中盤まで17分台前半のペース、勝負どころの後半で16分台へとペースアップしていたことがわかります。

これについて柳谷さんは「普通の人だと疲労しているのですが、彼女の場合は普段から鍛えている腹筋運動によって、鍛えている足がみんなほど疲労はたまらないのかもしれない」と分析しました。

「弱みを強みにするフォームを磨く」これが1つ目の勝利の条件です。

条件2:先頭集団のなかで有利な位置を取る

通常の大会にあってMGCとオリンピックにないもの、それはペースメーカー。設定されたスピードで30キロ付近まで他の選手を引っ張っていく存在です。

このペースメーカーは自己ベストを狙うには、とても大事な存在ですが、オリンピックは記録を目指すのではなく、金メダルを目指すための大会。そのため勝ちにこだわることが重要視され、ペースメーカーはいないのです。

「ペースメーカーがいないので自分で考え、自分で組み立てることが大事になってくる」とバルセロナオリンピック銀メダルの有森裕子さんは話します。

周りの選手との、こういった駆け引きの中でオリンピックではどういった戦いが繰り広げられているのか、リオ大会のレースから分析してみましょう。

上のグラフは、これまでのオリンピックで、先頭集団がどんなペースで走ったのかを示す5キロごとのラップタイムのデータです。

これを見てみると、リオ大会の時に5-10キロ地点でペースが突出して上がっているのがわかります。

じつは、この前半からのペースアップは複数のアフリカ選手の、細かいペースアップの繰り返しによってもたらされている、とランニング学会副会長で、筑波大学でマラソンの研究をしている鍋倉賢治(なべくら・よしはる)さんは分析します。

近年アフリカではマラソン選手の育成に力を入れており、鍋倉さんは「普段のトレーニングからペースの変化に対応する練習をしているのではないか」と話します。

彼女たちのペースアップに翻弄され、日本選手は走りを乱されてしまい、メダルを逃しました。

これを打破するために日本選手は、できる限り“先頭集団にくらいつき有利な位置取りでレースに挑むこと”が必要になります。

先頭集団のペースの変化を感じとり、その変化に瞬時に対応できないと、差が開いてから必死に追い上げなくてはならず、余計なエネルギーを使ってしまいます。

マラソン解説者の増田明美さんは、「アフリカの選手は、ペースの上げ下げっていうのは余裕を持ってやっているので、日本選手は、そこに出来るだけついていって、集団の中の空気を読み、相手の息遣いとか動きをみながら、すぐに周りの変化に対応できるためにも位置取りは本当に大事」だと言います。

先頭集団にくらいつき、有利な位置取りでレースに挑む!これが2つ目の「勝利の条件」です。

条件3:“勇気ある走り”に挑む

オリンピックが開催される7月から8月は、まさに夏の真っ盛り。東京の暑さと湿度は、過去の大会と比べても厳しいものとなることが予想されています。女子マラソンが行われるのは8月2日。今年は午前8時の時点で気温30度を超えていました。

そんな環境の中で選手たちを待ち受けるのは、3641キロまで続く上り坂です。

最大斜度は6.5度で、マラソンで1番苦しいと言われる終盤35キロを超えたところにある上り坂は、選手にとって、立ちはだかる壁のようだと増田さんは話します。

(増田さん)「あの坂を元気に上りたいから、あそこまで力を温存するっていうのが普通の考え方なんですよ。けれど、アフリカ勢のスタミナとスピードを考えると、あそこで勝負するっていうのは大変です。だから日本選手は坂の前から仕掛ける勇気のある走りをしないといけない」

選手たちを待ち受ける「最後の上り坂」その前にいち早く仕掛けて、ゴールまで走りぬく“勇気ある走り”に、いかに挑むかが3つ目の勝利の条件です。

選手それぞれの特徴を生かしたフォームで、先頭集団に食らいつく勇気ある走り。日本代表の選考レース・MGCで日本選手はどのような走りを見せてくれるのでしょうか?

                   
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