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2019年9月11日(水)

五輪日本代表を決めるマラソン「MGC」ってどんな大会?

2019年9月15日(日)に開催されるマラソン大会MGC。東京オリンピックに向け、マラソンの日本代表選手を決定する大会として話題ですが、どんな選手が出場し、どのように日本代表が決まるのか、その全容を知らない人もいるはず!

日本代表を決するというドキドキ感はもちろん、選手たちが東京オリンピックとほぼ同様のコースを走り、東京観光のハイライトとも言うべき景観まで楽しめるMGC。大会の全容から見どころ、さらには注目選手まで、オリンピックの女子マラソンで2大会連続メダルを獲得したレジェンド・有森裕子さんにお話を伺いました!

関門を突破したトップ選手のみが集うMGC

──9月15日に開催が迫ったMGC。そもそもMGCとは、どのような大会なのでしょうか?

有森裕子さん(以下、有森):正式名称は『マラソングランドチャンピオンシップ』。東京2020オリンピック日本代表選考競技会と第103回日本陸上競技選手権大会を兼ね、東京オリンピックのマラソン日本代表選手を決める大会です。

そして、MGCの前段階として行われてきたのがMGCシリーズ。男子5大会、女子4大会が実施され、大会ごとに設定された順位とタイムをクリアした選手のみが、9月15日に開催されるMGCに出場できる仕組みです。MGCシリーズは、いわば東京オリンピックに向けた第一関門。MGCには、この第一関門を突破した実力者のみが出場し、優勝者と2位の選手がオリンピック日本代表に内定されます。

2019年3月に開催されたMGCシリーズのひとつ、名古屋ウィメンズマラソン。MGC本戦への出場をかけて走る

緊張に包まれた、ハイレベルにして独特なレース

──大会の優勝者と2位の選手が東京オリンピックの代表に内定される重要度の高い大会ですが、ずばり、見どころはどこでしょう?

有森:第一に言えるのが、非常にハイレベルな戦いが予想されるということです。繰り返しになりますが、この大会にはMGCシリーズという第一関門を突破した選手しか出場しません。マラソン大会というと出場人数が多く、国籍も多様なイメージがあるかと思いますが、このMGCはあくまでも“東京オリンピック日本代表の選手選考”が目的なので、出場するのは日本人選手のみ。ペースメーカーもいません。

男子31名、女子12名が出場しますが、全員がMGCシリーズを経てきているため、皆がトップレベルのランナー。選手ごとの特徴の違いはあるにせよ、実力は拮抗しています。しかも、優勝するか2位にならなければ、オリンピックの出場権は得られない。選手たちは、今から緊張していると思いますよ。ほかでは見られない、ハイレベルにして独特のレースが見られるはずです。

──しかもMGCでは、スタート地点とゴール地点を除き、東京オリンピックと同じコースを走りますね。

有森:はい、発着地点を除き、東京オリンピックと同じコースというのも見どころです。東京オリンピックでは女子マラソンが2020年8月2日、男子マラソンが8月9日に行われるため、1ヵ月ほどのズレはありますが、気候条件も来年のオリンピックを見据えています。当日の天気にもよりますが、おそらく非常に暑い。そして、コースの序盤と終盤に大きな坂があります。暑さと、レースの最後に待ち受ける坂を考えると、なかなか過酷ですね。

ただ、序盤と終盤の坂を除けばアップダウンが少なく、道幅も広い。さらに東京観光のハイライトとも言うべきコースを走るので、選手に余裕さえあれば、楽しく走ることも可能です。東京タワーや雷門の前、皇居周辺も走るので、テレビ中継をご覧になる方にも、純粋に楽しんでいただけるポイントだと思います。

東京マラソンでもコースになっている浅草・雷門前(写真は2019年大会)

けん制し合うかチャレンジするか、極端な戦いに!

──オリンピック日本代表をかけた戦いであり、暑さと終盤の坂という過酷さもある。MGCは、どんなレース展開になると予想されますか?

有森:選手全員の実力が拮抗しているので、極端にけん制し合うか、それとも極端にチャレンジするか、どちらかのレース展開になるでしょうね。また、「そうした戦いを見せてほしい」という期待も込めてですが、ラストスパートにさしかかるまで、常に団子状態のレースが見られると思います。

マラソンにおける日本のオリンピック出場枠は、男女各3人。3人目の代表内定者は、今年の冬以降に行われるMGCファイナルチャレンジという大会で決めることになっていますが、この大会で男子は2時間5分49秒、女子は2時間22分22秒という規定記録に該当する選手が出なければ、9月15日のMGCで3位に入った選手が3人目の内定者になります。

最低でも3位に入らなければいけないため、早々にトップ争いから脱落してしまっては、大会に出場する意味がない。MGCに出場する全員が、こうした強い気持ちを抱いているはずなので、いわゆる第一集団、第二集団にはならず、常に団子状態のレースに期待できるということです。特に12名という少人数で競う女子においては、この展開が際立つかもしれません。

出場人数が多く、各選手の実力差が大きいマラソン大会では、「第1集団」「第2集団」などグループが形成されることが多い(写真は2018年のアジア大会女子マラソン)

──最低でも3位に入らなければ意味がない。MGCがいかに厳しい大会なのか、あらためて浮き彫りになりますね。

有森:そう。MGCは、本当にシビアな大会なんです。これは極端な例ですが、「もう3位に入れない」と確信したら、その時点で棄権してもおかしくない。冬以降に待ち受けるMGCファイナルチャレンジに向けて疲労を溜め込まず、練習に切り替えるという選択をしたとしても、決して変ではないんです。こうした意図で棄権する選手が出る確率は、現実的には非常に低いと思いますが、このシビアさもMGCならではですね。

2大会連続五輪メダリストが注目する選手とは?

──では、東京オリンピック日本代表を決するシビアな戦いにおいて、有森さんが注目する選手を聞かせてください。

有森:まずは女子。個性が際立つという点で挙げると、ベテランの福士加代子選手には注目しています。福士選手はマラソンの走り方も、メンタルの持ちようも熟知しています。ベテランの彼女にとっても、MGCは緊張度の高い大会になると思いますが、福士選手の持ち味は“前向きさ”。ほかの選手すら引っ張るようなエネルギーを持っています。

2019年1月の大阪国際マラソンで転倒し途中棄権するも、わずか41日後の名古屋ウィメンズマラソンに再挑戦してMGC出場権を獲得した福士加代子選手

そして、出場選手12名の中で、もっとも自己ベストが速いのが安藤友香選手。福士選手と一緒に練習を積んだことで、メンタル面の向上が見られます。メンタルの点でいうと、鈴木亜由子選手にも注目ですね。鈴木選手は感情の起伏が少なく、常に安定したメンタルを保てる冷静さが強みです。また、パワーが持ち味なのが松田瑞生選手岩出玲亜選手。特に松田選手に関しては、これまで安定したタイムを記録し続けている点も特徴です。

左から安藤友香選手、鈴木亜由子選手、松田瑞生選手、岩出玲亜選手

こうした若手や中堅の選手たちが、ベテランの福士選手にどう食らいついてくのか、もしくは自ら駆け引きをしかけていくのか──。いずれのレース展開にせよ、それぞれの個性を生かした戦いぶりに注目したいですね。

──男子はいかがでしょうか?

有森:メディアの注目を浴び、知名度が高いのは大迫傑選手井上大仁選手設楽悠太選手ですよね。ただ私としては、名前の知られた選手が順当に勝つかというと、まったくそうとは思いません。これは女子も同様ですが、マラソンというのは“強い選手が勝つ”のではなく“勝った選手が強い”競技なんです。

とりわけ暑さが予想されるMGCでは、選手自身もレース展開が読みづらい。涼しい環境であれば、どのタイミングでスパートをかけるかイメージがつきやすいのですが、暑く、さらに終盤に坂が待ち受ける環境では困難です。ですからレースをご覧になる皆さんにも、あまり事前の予想にこだわらず、大会当日の展開、選手それぞれが見せる動きや表情に注目してもらいたいですね。誰が勝つかわからないのが、マラソンの最大の醍醐味なので。

左から大迫傑選手、井上大仁選手、設楽悠太選手

「来年は沿道で応援を!」と思わせるレースに期待

──誰が勝つかわからないのがマラソンの醍醐味。MGCでは、その醍醐味が一層、際立ちそうですね。では最後に、有森さんがMGCに寄せる期待を聞かせてください。

有森:そうですね。勝ってこその大会ではありますが、だからこそ、勝ち方にこだわってもらいたいと思います。MGCは東京オリンピックの日本代表を決める戦いであり、本番を見据えた戦いです。この大会で素晴らしいレースを見せられれば、マラソンへの注目度がより高まり、東京オリンピックへの盛り上がりが増すはずです。

マラソンは多くのオリンピック競技と違い、観戦のためのチケットは必要ありません。観戦したいと思えば、誰にでも沿道で見ていただけます。MGCをご覧になる皆さんに、「こんなレースを見せてくれたんだから、来年の東京オリンピックでは沿道で応援しよう!」と思ってもらえるレース展開に、心から期待しています。

有森裕子(ありもり・ゆうこ)

岡山県出身。マラソン女子日本代表として、1992年のバルセロナ五輪で銀メダル、1996年のアトランタ五輪で銅メダルと、2大会連続でメダリストとなる。2007年2月、「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。引退後は、陸上やスポーツに関わる数々の要職を歴任し、現在は国際オリンピック委員会委員、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟理事などを務める。

                   
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