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2019年9月8日(日)

日本の陸上選手たちの海外遠征 その裏にある過酷な環境とは?

スポーツライターの及川彩子さんのコラム記事。今回は一見華やかに見える日本の陸上選手たちの「海外遠征」、その裏にある過酷な環境下について取り上げます。

海外転戦し、経験とタフさを養う

世界の陸上選手の夏の主戦場はヨーロッパ。6月から8月までの間、毎週ヨーロッパのどこかで試合が行われ、プロ選手たちは賞金レースで戦っていく。

戸邉直人選手

ダイヤモンドリーグなどの大都市で行われる試合から、空港から何時間もかかる小さな町まで行われる試合まで、大会の規模もレベルも異なる。日本選手もこの時期、ヨーロッパで試合を重ねているが、走高跳びの戸邉直人選手は「世界のトップで戦いたいなら、ヨーロッパでの試合は不可欠」と話す。

ヨーロッパ遠征、海外で試合というと華やかな響きもあるかもしれないが、彼らの生活は「過酷」だ。陸上選手たちの遠征でのトラック外での苦労も多い。

最大の敵は移動による疲労

日本の選手の場合、ヨーロッパへは直行便で12~14時間かかる。大会開催が田舎町だと乗り継ぎや電車やバスでの移動などもあり、移動はほぼ1日掛かりになる。選手たちが「移動だけで疲れてしまう」というのも頷ける。

加えて、時差もある。夕方以降に到着した場合、少し我慢すれば就寝時間になるが、朝に到着した場合は、どう体を休めるかが課題になる。ヨーロッパ内の移動も楽ではない。

8月23日にダイヤモンドリーグのパリ大会に出場した走り高跳びの佐藤凌選手は、翌24日にマドリードの試合に向けての移動でアクシデントに見舞われた。パリの試合開始は午後8時、競技が終わってホテルに戻り、休む間もなく荷物を詰めて早朝に空港へ。しかし疲労や時差ぼけもあって空港のゲート前の椅子で眠ってしまった。

佐藤凌選手

佐藤凌選手

居眠りしていて飛行機に乗り遅れちゃって。慌てて新しく航空券を手配したんですが、マドリードに着いたのは夕方5時。


ホテルに荷物を置いて、すぐに競技場に来ました。

こういった出来事に遭遇するのは佐藤選手だけではない。遠征が続くと、出発日や飛行機の時間を間違ったり、寝過ごす選手が続出する。こういった状況になった際に、どう対処し、次に生かすか。そのタフさも要求される。

サニブラウン選手

サニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大)は8月23日にスペイン、マドリードの試合に出場、24日の正午の飛行機でイタリアへ。最寄りの空港から試合の開催される場所まで1時間かけて車で移動。マドリードのホテルを出発したのは朝10時、イタリアのホテルに着いたのは夜7時だった。

ヨーロッパでの試合経験が多い戸邉選手でも、模索する部分が多い。

戸邉直人選手

移動だけで疲れてしまいますから。疲労を抜くのが大変です。移動の疲労回復と練習のバランスが大事になります。

知らない選手と相部屋になることも?

遠征中の過ごし方もパフォーマンスに大きく影響するけれど、自由気ままに、とはなかなかいかない。ヨーロッパを転戦する際、レース主催者が最寄りの空港や駅まで迎えに来てくれて、宿泊先まで連れて行ってくれる。ホテルももちろん主催者が用意。チェックインして鍵をもらい、部屋のドアを開けたら知らない選手がもう一つのベッドで寝ていた。逆に、自分が昼寝をしていたら、「ガチャッ」と鍵が開いて知らない選手が部屋に入ってくるのは、海外遠征ではよくある話だ。

ホテルのイメージ画像

大抵の場合が2人一部屋の相部屋。しかも知らない選手と一緒になることがほとんどだ。もちろんチームメートや仲のいい選手と一緒に出場する場合、またコーチが帯同する場合は主催者にお願いすると同じ部屋にしてくれもらえることもある。また同じ大会に日本選手が出場する場合は同じ部屋になることも多い。

同じ日本人ではなくても、なんとなく顔を知っている選手なら、和やかなムードになるけれど、言葉も通じない、種目も違う選手と一緒の場合、コミュニケーションをとることも難しく、「一言も会話を交わさなかった」というケースも多々耳にする。言葉が通じる場合でも、「何を話していいか分からない」、「共通の話題がない」、「相手がヘッドフォンをしていたので、話しかけるきっかけをつかめなかった」などという理由でまったく会話なく3日間を過ごした選手も。とはいえ、いろいろ話しかけられても気疲れしてしまうだろう。

いずれにしても、普通に生活していたら、絶対にありえない環境下で、選手たちはベストを尽くさなければならない。

自分のリズムを崩さないのが鉄則

山本聖途選手

知らない選手と相部屋でも、移動で疲れていても、守るべきことは一つ。戸邉選手も棒高跳びの山本聖途選手も「自分のペースを守るのが秘訣」と話す。

エアコンの温度設定、テレビの音はもちろんのこと、夜中や明け方に「トイレに行く時にすごく気を使う」という選手もいる。もちろん相手に迷惑をかけてはいけないが、相手に過度に気を使ったり、神経質に過ごしてはパフォーマンスに影響してくる。
食事に関しても同様だ。「試合を重ねると体重が落ちるので頑張って食べるようにしています」と戸邉選手。食、住、移動。この3つをうまく管理した選手がベストパフォーマンスを出すことができる。

スポーツは結果がすべて、ではあるし、結果を出してこそトップと認められる。もちろん、選手たちがトラック外のことで不平不満を連ねることはない。でも欧州遠征の結果をネットやテレビなどで見た際に、少しだけ想像してほしい。「今回は移動はスムーズだっただろうか」、「何か困ったことはなかったかな」と。

トラック外での苦労を乗り越えて世界のトップ選手と戦う日本選手は、きっと一回りも二回りも成長して、大きな舞台で活躍してくれるのではないか。そうなってほしいと願うばかりだ。
 

及川 彩子

スポーツライターとしてNY在住10年。陸上、サッカー、ゴルフなどをメインに、オリンピック・パラリンピックスポーツを幅広く取材。

                   
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