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2019年8月30日(金)

ホッケー日本代表 確実にゴールを決めるストライカー・野村香奈

1チーム11人の選手がスティックでボールを操り、得点を競うホッケーは、サッカーなどに比べて、「ファール=反則」がとても多いスポーツです。守備の選手がゴール前でファールを取られると攻撃側にペナルティーコーナーが与えられ、得点の可能性が高まります。ホッケーでは、ペナルティーコーナーによる得点が総得点の半分以上になることも多いため、間違いなく、勝敗の行方を左右するキープレーなのですが、女子ホッケー日本代表「さくらジャパン」のペナルティーコーナーの成功率は、世界の強豪国に比べて低く、それが勝率の伸び悩みの原因の一つになっていました。
ところが、東京五輪を前に救世主が現れました。ペナルティーコーナーでシュートを打つストライカーの野村香奈選手(1990年生まれ)です。同じフォームからゴールの左右に自在にシュートを打ち分ける野村選手、その実力に迫ります。

勝敗を左右するセットプレー、「ペナルティーコーナー」

ホッケーのペナルティーコーナーは、独特です。攻撃側の「出し」の選手が、ゴールポストから10m離れたバックライン上からシューティングサークル(図のオレンジのエリア・半径14.63m)の外にいる「止め」の選手にパスを出し、「止め」の選手がそのボールを止めたら、すかさず「ストライカー」の選手がゴールに向けてシュートを放つ、この一連のセットプレーがホッケーの代表的なペナルティーコーナーです。守備側は、全身でボールに触れられるゴールキーパーとスティックしか使えないフィールドプレイヤーの合わせて5人でゴールを守ります。

こちらの動画をご覧ください。2019年7月に行われた世界ナンバー1の実力を誇るオランダと日本代表の交流戦の映像です。ペナルティーコーナーで得点を狙うのは日本、守りがオランダです。

ペナルティーコーナーのシュートの打ち方には2つあります。1つ目は、動画でご覧いただいたシュート、ストライカーがボールを強打する「ヒット」という打ち方です。球速が速く、女子でも120kmほどになりますが、ゴールの底部に設置された高さ46cmのボードよりもボールを上にあげることができないため、全身が使えるゴールキーパーにとっては、止めやすいシュートです。
2つ目は、ストライカーがボールをゴールの上の方に浮かせる「フリック」という打ち方です。ボールを引きずりながら押し出すようにシュートを放つため、急速は90kmほどに落ちますが、ゴール上方の左右を狙えるため、得点の確率が飛躍的に上がります。「ヒット」と「フリック」、2つのシュートを映像で比較してみましょう。

得点率の高い「フリック」シュートを放つには、大きく踏み込んでボールを長く引きずるための強い腕力や脚力、体幹など、男子選手なみの身体能力が必要です。このため、小柄な日本の女子選手には難しいとされてきましたが、そんな「フリック」シュートを、日本の女子選手で本格的に使えるようになったのが、ストライカーの野村香奈選手なのです。

野村香奈選手

大学4年生のときに男子部のコーチから、「体格もいいし、やってみたら」っていわれたことがフリックを習得したいと思ったきっかけです。でも当時は、日本の女子では誰でもできるものではなかったので、自分の武器として身につけたいと思っていたんですが、上手くいきませんでした。ところが、2016年にオランダで2週間のコーチング受ける機会があって、そこで学ぶことができたんです。その年は2016年でリオ五輪の年だったので、とにかく自分にプラスになるものを習得したいと思って、必死でした。

猛練習でようやく自分のモノにした「フリック」シュート

野村選手は、1日100本のシュート練習を自分に課しました。しかし、ボールを長く引っ張ろうと無理に強く踏み込んで股関節や膝を痛めたり、手打ちになって手首を痛めるなど、ケガが絶えませんでした。そんな野村選手が突破口を見出すことができたのは、あるものを使った練習がきっかけでした。スティックの中に砂鉄をつめて重たくした特性のスティックと重さ350gのウエイトボールを使ったのです。

ウエイトボールは、野球のピッチャーがボールの回転をみたり、リストを強化するために使う特殊なボールです。ホッケーのボールの2倍の重さがあるため、腕の力だけではボールを引っ張ることができません。どうしたらボールを引っ張れるのか、試行錯誤を重ねるうち、いつの間にか体全体の力を効率よくボールに伝える感覚を身につけていったのです。野村選手が猛練習の末にようやく自分のモノにした「フリック」シュート、2019年7月に行われたオランダとの交流戦の映像をご覧ください。

野村香奈選手

フリックシュートは、ボールを長く引っ張るというか、ボールに力を乗せる時間が長い方がいいんですが、実現するには、自分の体幹と一緒にボールを引っ張る必要がありました。どうしたらよいかと考えていたところ、コーチから野球選手が練習に使う重たいボールを使ってみたらとアドバイスを受けたんです。ホッケーのボールと入れ替えて練習を重ねると、自分の中でボールに力を乗せる感覚がつかめてきました。引っ張る時間が長くなってボールのスピードが速くなり、キーパーの手元でボールがおじぎせずに伸びるようになったんです。

野村選手のフリックシュートの特徴は、同じフォームで左右に打ち分けられることです。左サイドに打っても右サイドに打っても、ボールがスティックを離れる瞬間までシュート姿勢がほぼ同じ、ゴールキーパーは、どちらに飛んでくるのか全く分からないのです。

野村香奈選手

どこにシュートを打つのか、キーパーに分からないように、同じフォームから違うコースに打ち分けられるように、そこにこだわって練習を重ねています。ボールをキャッチして、ローリング、そして離すところまで、体をボールに近い状態に保ちます。最後に左足で踏み込むときも、まっすぐ同じ位置で踏み込むようにしています。足の位置が開いてしまうと体と一緒にボールも流れてしまうんです。私の場合、シュートコースは、ボール離す瞬間のスティックの位置と最後の手の返しがポイントですが、詳しくはお話できません。

2016年のリ五輪、野村選手は日本代表メンバーに入れず、悔しさを味わいました。その思いをバネに猛練習を重ねて習得した「フリック」シュートは、今や「さくらジャパン」に欠かせない武器です。名ストライカーに成長した野村選手の渾身の「フリック」シュートが、ゴールネットを揺らすシーンは、東京五輪の名シーンとなるに違いありません。

                   
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