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2019年8月12日(月)

東京五輪を目指す米国の"ママアスリートたち"

スポーツライターの及川彩子さんのコラム記事。出産して復帰した世界を代表するトップスプリンター、アリソン・フェリックス選手を中心に、子育てをしながら復帰するママさんアスリートについて取り上げます。

産後8か月でレースに復帰したアリソン・フェリックス

全米選手権 女子400m 予選 (7月25日)

7月下旬にアイオワ州デモインで、開催された陸上の全米選手権。大会で最も大きな声援を受けたのが女子400mに出場したアリソン・フェリックスだった。

2004年のアテネ五輪 アリソン選手(右端)

陸上ファンにはおなじみの選手で、日本にも多くのファンを持つ。18歳で出場したアテネ五輪で銀メダルで世界デビューを果たすと、五輪や世界陸上でメダルの常連に。五輪では金メダル6個を含む9個、世界選手権では16個のメダルを獲得している、世界を代表するトップスプリンターだ。

そのアリソン、昨年12月に長女カムリンちゃんを出産し、今大会が産後初レースとなった。8ヶ月でレースに復帰するのは極めて異例。また記録会などに一切出場せず、ぶっつけ本番で全米選手権に臨んだ。女王アリソンは果たしてどんな走りをするのか。出産前のようなレースをできるのか。大きな注目が集まった。

女性、そしてママアスリートとしてメッセージ

全米選手権 女子400m 予選 (7月25日)

初日の400m予選。アリソンがスタートにつくと、集まった観客から大きな拍手と声援が送られた。予選は52秒20の組4位と苦しい走りで、予選通過16人11番目だったが、運も味方してタイムで拾われて準決勝へ駒を進めた。

決勝進出は難しいのではと思われた準決勝。前半から積極的にレースを展開。ラスト100m、必死に粘るアリソンを観客は大きな声援で後押し。4着で決勝進出を果たした。

決勝レースの前、アリソンはSNSでこうつぶやいた。

アリソン・フェリックス選手

今まで何本もレースを走ってきた。何度も決勝に残った。でも今日のレースは今までと違う。今日は1人の女性として走る。私たちは皆、何かを乗り越えなければならない。


どこにでも強い女性が存在する。私たちの価値を忘れてはいけないし、存在意義を知らないといけない。私たちはもっと評価されるべきだ。戦うことをやめてはいけない。

全米選手権 女子400m 決勝 (7月27日)

27日の決勝では前半から積極的に飛ばしたが、後半伸びず51秒94で6位に。満足そうな表情と少し悔しそうな表情を見せたアリソン。レース後しばらくは座り込んで肩で大きく息をしていた。

スタンドで応援していた夫のケニーが、ピンクのリボンをつけたカムリンちゃんをトラック横まで連れていく。それに気づいたアリソンは大きな笑顔を見せながら抱っこし、カムリンちゃんのおでこにキスをした。

ママの声にカムリンちゃんも笑顔に。

アリソン・フェリックス選手

結果には満足していないけれど、健康で家族の応援をうけて、自分の好きなことをできるのはすごく幸せなこと。


娘の存在がパワーになっているから頑張らなくちゃ。

復帰戦までの道のりは険しいものだった。

アリソン・フェリックス選手

出産し、復帰まですごく大変だった。カムリンが未熟児でしばらく病院にいたので病院通いもあったし、無事に育ってくれるのか不安でたまらなかった。退院後も子育てに追われて眠る暇もなかった。しっかり練習できたのは4ヶ月半くらい。


でも自分は女性として、母親として、アスリートとして証明したかったし、伝えたかった。『戰い続けなければいけない』ということを。それができたのが一番の収穫。

カムリンちゃんを連れて、笑顔でスタジアムを後にした。

先輩ママアスリートからもたくさんの応援と激励が

サンヤ・リチャーズ氏

全米選手権には過去の世界大会で一緒に戦った元アスリートたちも会場に。2012年ロンドン五輪400m金メダリストで、現在はテレビの解説者をしているサンヤ・リチャーズは「アリソンはさらりと決勝に行ったので、皆、『アリソンはすごいから』で片付けてしまうけれど、出産して体型も変わっている状態で、彼女は自分本来の走りができなくて苦しんだはず。その苦労を多くの人にわかってほしい」と話す。

メアリー・ワインバーグさん(右端)

また、北京五輪の1600mリレーでアリソンやリチャーズとバトンをつなぎ、現在は2児の子育てをするメアリー・ワインバーグは「私は早くに子供が欲しかったから、北京の後に出産したけれど、スポンサーから切られるんじゃないか、ちゃんと復帰できるか心配だった。女性アスリートは多かれ少なかれ、同じような悩みを持って、リスクを取りながら活動していると思う」と女性アスリートの悩みを吐露。ワインバーグは第一子出産後にロンドン五輪を目指して復帰したが、再び代表になることはできなかった経験を持つ。

「一般的に出産すると以前よりもパフォーマンスが上がる、という論調もあるけれど、それが全選手にあてはまるとは限らない。陸上、特にスプリントは骨盤の位置や可動域が変わると、同じフォームで走れなくなってしまう。出産後の復帰にはそういう障壁があることも知ってほしい」と出産にまつわる肉体的な変化についても説明する。

"安心して競技を続けられる環境に変えたい"

結婚、出産を機に競技から離れる女性が多かったが、ここ数年、子育てをしながら復帰するママさんアスリートたちが増えている。とはいえ、まだまだ彼女たちが安心して競技を続けられる環境は備わっていない。

ベビーシッターが見つからないときはベビーカーに乗せて子供を連れて練習に来たり、遠征中は家族の支援を受けたり、男子選手とは違った苦労を抱えながら競技に向き合う女子選手がほとんどだ。アリソンはそういった環境も変えたいと訴える。

アリソン・フェリックス選手

女子選手もスポーツに貢献しているのに、結婚や出産で競技を諦めなければならないのはおかしい。ほかの選手のためにも私は声を上げていきたい。

33歳のアリソン・フェリックス。5度目の五輪出場、そして同じ女子選手たちのために彼女はこれからも走り続ける。

及川 彩子

スポーツライターとしてNY在住10年。陸上、サッカー、ゴルフなどをメインに、オリンピック・パラリンピックスポーツを幅広く取材。

                   
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