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2019年8月7日(水)

元世界王者・宇佐美里香が直伝!空手の「形」を楽しむ極意

東京オリンピックで正式種目に採用された空手。空手には、1対1の対戦形式で競う「組手(くみて)」と、選手が1人ずつ演武を行ってその完成度の高さを競う「形(かた)」の2種目があり、東京オリンピックでもその両方が開催されます。

幼少期の習いごととして道場に通う子どもも珍しくない空手ですが、「形」においてはどこかマイナーなイメージ…。しかし実は、日本人選手のメダル獲得も期待される大注目競技なのです!

では、「形」はどのように勝敗が決し、どこに注目すれば観戦を楽しめるのでしょうか?女子個人戦において世界一の座に輝いた宇佐美里香さんにお話を伺ったところ、知れば知るほど奥深い「形」の魅力が見えてきました!

宇佐美里香(うさみ・りか)

1986年生まれ、東京都出身。2008年、「形」の第一人者である故・井上慶身氏に師事するため鳥取県に移住し、2009年から全日本空手道選手権大会を4連覇。2010年に初出場した世界空手道選手権大会で3位、2012年の同大会で1位に輝く。2013年に現役を引退し、現在は鳥取県の体育協会に勤務するかたわら、ナショナルチームの強化委員や、空手の普及活動を行う「KARATE 2020 アンバサダー」を務める。

“見えない敵”との戦いに勝つ!?

──2012年に開催された世界空手道選手権大会で優勝し、その栄光を花道に現役を引退された宇佐美さん。現在は後進の指導だけでなく、空手の普及を目的としたアンバサダーも務められているんですね。

宇佐美里香さん(以下、宇佐美):きたる東京オリンピックに向け、「KARATE 2020 アンバサダー」を務めています。空手は沖縄で生まれ、世界に多くの愛好者がいますが、「形」は国内でもマイナーな種目。オリンピックの正式種目に認定された今でも競技内容を知らない方が多くいます。そこで全国各地のイベントに出向き、「形」の演武を披露することで空手のおもしろさを伝えようという活動です。

競技の普及のため、引退後もさまざまなイベントに参加。写真は、鈴木大地スポーツ庁長官らとともに参加した丸の内でのイベントの一幕

──たしかに空手と聞くと、2人の選手が相対する「組手」の印象が強く、演武による「形」については競技としてのイメージが湧きにくいところがあります。宇佐美さんが「形」を選ばれたのは、なぜだったのでしょう?

宇佐美:空手道場に入門すると、最初に基本の「突き」と「蹴り」を教えられ、2つを習得したあとに「形」、そしてその後に「組手」を学びます。そもそも「形」とは、架空の対戦相手を想定し、相手を倒せる攻撃ができているか、相手の攻撃をかわす防御ができているか──その技術や精度を競う種目です。つまりは「形」を用いた実戦形式の種目が「組手」ということ。2つはいわば地続きです。私自身、大学1年生までは「形」と「組手」の両方をやっていました。

最終的に「形」を選んだのは、単に成績が良かったからですね(笑)。相手との攻防がある「組手」と違い、「形」では瞬時の判断力は必要とされませんが、その反面、道場で磨きあげた技のひとつひとつを完璧に再現できなければ、試合で勝ち進むことは難しい。勝敗のある競技でありながら、あくまでも“自分との戦い”という点が「形」の醍醐味であり、私の性格に合っていたのかもしれません。

道着の胸には「KARATE Ambassador」の文字が輝く

声や顔も重要!?「形」の勝敗を決める驚きの要素

──選手が1人ずつ演武を行い、その勝敗を決めるのが審判員ですよね。オリンピックの正式種目に選ばれたのをきっかけに判定方式が変更され、従来の「旗判定」から新たに「採点方式」が採用されましたが、審判員は選手のどのような点を見ているのでしょうか?

宇佐美:立ち方・技・タイミングなどのテクニカルな部分(技術点)、スピード・力強さなどのアスレチックな部分(競技点)の2項目で評価されますが、新しく採用された採点方式ではテクニカルの評価に比重が置かれています。パワーに優れた選手の多いヨーロッパ勢に比べ、日本人選手は技術の高さに定評があるため、日本代表の追い風になるはずです。

ただしテクニカルな部分がどんなに優れていても、技の美しさに終始するような演武では、高い評価は得られません。先ほどもお話ししたように、「形」は架空の対戦相手を想定した競技。1人で演武をしているように見えても、選手は敵と戦っています。細部への評価はもちろんですが、審判員は“勝てる演武かどうか”を見ているため、選手からみなぎる気迫も評価対象です。

演武を披露していただにくことに!形名を呼びあげてスタート

──実際に「形」を見せていただきましたが、すさまじい気迫を感じました。残像が見えそうなほどの速い動きだけでなく、音も迫力満点。選手のかけ声や、風を切るような「シュッ」という音にも圧倒されました。

宇佐美:その「シュッ」という音は、実は風を切る音ではありません。「衣擦れ(きぬずれ)」といって、道着と体がこすれる音なんです。この「衣擦れ」も、評価を左右しますね。硬い生地でできた空手道着は音が鳴りやすく、スピードとパワーがのった動きができて初めて、風を切るような音になります。スピードがなく、力任せの動きでは「ズッ」と鈍い音がするため、音からも技の精度が測れるんです。

そして競技中のかけ声も、評価の対象。敵に勝てるだけの気迫がのっているのか、その度合いを測る材料になりますし、「衣擦れ」と同様、技の精度を測ることもできます。たとえば、技を繰り出すときの「エイーッ!」という声。これも長すぎてはいけません。俊敏な一撃により、相手を倒すのが空手の基本。精度の高い技を繰り出せていれば、自ずと声にもキレが宿るので。

得意の「形」である『泊抜塞(とまりばっさい)』

──衣擦れの音や気合いのかけ声も、観戦ポイントのひとつになりそうですね。

宇佐美:はい。初めて「形」を見る方にとっても、わかりやすいポイントだと思います。あとは選手の「顔」、なかでも「目」に注目してみてください。目に闘志が宿るのはもちろん、視線と技の動きは連動しています。これを空手用語では「目付(めつけ)」といって、戦いを表現する大事な要素。一瞬でも架空の相手から目を離せば敵の攻撃を受け、致命傷につながりかねません。

闘志を宿した目は、常に見えない敵を捕らえている……!

男女ともにメダル獲得の可能性も!東京五輪への期待

──お話を聞けば聞くほど、「形」の奥深さを感じさせられます。では、東京オリンピックでの活躍が期待される注目の選手を教えてください。

宇佐美:まず男子では、喜友名諒(きゆな・りょう)選手。全日本空手道選手権大会で7連覇、世界空手道選手権大会で3連覇を果たし、代表選出はもちろん、オリンピックでの金メダルも有力視されています。一挙手一投足に気迫があり、「形」を初めて見る方にも、そのすごさがわかるはずです。腰の入りや肩のしなりなど、全身の使い方を熟知しているからこその力強さがあり、「もう一度、彼の演武が見たい!」と思わせてくれる選手ですね。

鬼気迫る表情で演武に臨む喜友名選手

宇佐美:そして女子では、清水希容(しみず・きよう)選手。彼女も全日本空手道選手権大会で6連覇、世界空手道選手権大会で2連覇し、代表選出はほぼ確実です。表現力に優れ、やはり見る人を沸かせる演武をします。直近の世界選手権では惜しくも準優勝でしたが、決勝の相手はスペインのサンドラ・サンチェス選手。ジュニア時代から強豪だった清水選手に対し、サンドラ選手は30歳になってから開花した遅咲きの空手家です。相反するタイプだけに、東京オリンピックでも2人のライバル対決に期待しています。

大きな跳躍が入るアクロバティックな「形」も得意とする清水選手

──男子も女子も、日本勢の優勝が期待できるということですね。

宇佐美:はい。喜友名選手や清水選手だけでなく、これから選出される代表選手の全員が、日本の強さを示してくれると信じています。沖縄発祥の空手は、いわば日本のお家芸。日本人選手は空手への誇りを持っていますし、自国にルーツがあるからこそ、心技体のすべてを重んじる空手の神髄を深く理解しています。

2018年のアジア大会では、清水選手と喜友名選手が男女ともに個人型の優勝を飾った

宇佐美:この誇りを自信に変えることができれば、日本代表は大丈夫!皆さんを大いに沸かせてくれると思うので、ぜひ空手を応援してください。なかでもマイナーな「形」ですが、これまでお話ししてきたとおり、初観戦の方でも楽しめるポイントがいっぱいあります。選手たちが見せる気迫の演武はエンターテインメント性も抜群!きっと、楽しんでもらえるはずですよ。

                   
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