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2019年7月16日(火)

アイルランドのラグビー 対立越える"ONE TEAM" 前編

ラグビーワールドカップで日本代表と対戦するアイルランド代表。7月時点での世界ランキング3位の強豪です。
彼らは試合前、国歌ではなく「アイルランズ・コール」と呼ばれる歌を歌います。独立戦争、宗教の対立、その後も残るテロなど複雑な歴史を経ても「ひとつのチーム」として活動を続けるアイルランド。彼らをつなぐものとは何か、それを探りにサンデースポーツ2020の大越健介キャスターの現地ルポを前後編でお送りします。

「ふたつの国」にまたがるチーム

ラグビーのアイルランド代表は、「ふたつの国」にまたがるチームです。アイルランド島にある「アイルランド共和国」と「イギリス領北アイルランド」の連合チーム。ふたつの国にまたがるため、国歌ではなく1990年代に作られた「アイルランズ・コール」をうたっているのです。

アイルランドの歴史は複雑なものです。元々アイルランド島はイギリスの統治下にありましたが、約1世紀前に独立戦争が起こり、島北部に国境線が引かれることとなりました。
独立したアイルランド共和国は国民のおよそ8割がカトリック系ですが、イギリス領北アイルランドにはカトリック系住民とプロテスタント系住民の間で宗教の対立が残りました。

紛争はイギリス軍や北アイルランドの警察の介入で激化。多くの命が失われました。

それでも、アイルランドの人たちは、ラグビーでは一つのチームとしてまとまることを選んだのです。

街にそびえる「平和の壁」

北アイルランドの中心都市、ベルファスト。4月、大越キャスターはこの街を訪ねました。街を見て回ると、いきなり思いもよらない光景が飛び込んできました。

高さ約15メートルの壁が、街中にそびえたっているのです。その名も「ピースウォール」。つまり「平和の壁」です。

北アイルランドではアイルランド共和国への帰属を求める少数派のカトリック系住民と、イギリスの統治を望むプロテスタント系住民との間で長い紛争が続いていました。そこで、この壁で互いの居住区を分断したのです。こうした壁が、ベルファストの街の中に50近くもあると言います。

「イギリスか、アイルランドか」。

1998年に和平合意が成立し紛争が終わって20年がたつ今でも根深い対立が起こり、今年に入っても暴動で死者が出ています。

ドイツでは、冷戦終結と共に平和の象徴として壁が壊されました。しかし、ここ北アイルランドでは「平和に暮らすために」あえて壁を作った。そしてその壁は今や観光スポットにもなっています。

「壁で隔てられた人たちが、なぜ一つのラグビーチームを作り、そして強さを見せられるのか」

大越キャスターの率直な疑問を市民にぶつけてみると、こう返ってきました

「ラグビーはひとつの“アイルランド”です。アイルランド共和国でも北アイルランドでもありません。ひとつのチーム、“ワンチーム”だからこそ強いのだと思います」。

元代表選手が語る誇り

しかし、国籍が違いさらに複雑な歴史を抱えた人たち同士がそう簡単に一つのチームになれるのもなのか。そんな疑問を抱え、大越キャスターはある人物を訪ねました。

ベルファストから車で30分ほどのところにある町、ニュートナーズ。ここに暮らす元アイルランド代表のナイジェル・カーさんです。

ナイジェルさんは北アイルランド出身で国籍はイギリス人。ポジションは主にフランカー。アイルランド代表としては、激しい紛争が続いていた1980年代にプレーしました。

まず、ナイジェルさんは当時のチーム写真を見せながらその選手構成を語ってくれました。その実情は、驚くべきものでした。

キャプテンを務めていたのは、アイルランド軍に所属する軍人。しかしチームの中には北アイルランド、つまりイギリスの警察官もいました。さらに両国の警察官や軍人、政治家を父や祖父にもつ選手が何人も。政治的には対立する立場の人間が、同じチームでプレーしていたのです。

ナイジェルさんは当時のチームをこう振り返ります。

ナイジェル・カーさん

「それはそれは多様なチームでしたよ。私たちは“アイルランド”のためにプレーすることを誇りに思い、チームメイトのためにベストを尽くしたのです。」

では、国籍や立場、考え方の違う選手が、なぜラグビーでは一つになれたのか。

ナイジェル・カーさん

「ラグビーは体と体がぶつかり合うスポーツです。だからこそ尊敬や仲間意識が芽生えるのです。まさに“Shoulder to shoulder”. 肩を寄せ合っていたからです。これはラグビーにも、人生にも、そしてあの紛争にも当てはまる言葉だと思うのです。私は当時のチームメイトと、一生の友人関係を気づくことができました。中には全く政治的思想の選手もいました。それでも私たちは “Shoulder to shoulder” の関係を築いたんです。」

ラグビーアイルランド代表の選手たちが持つ誇りを語るナイジェルさん。しかし、彼自身そのチームでプレーしたのは約2年と短いものでした。紛争で多くの血が流れた80年代。ナイジェルさんは、20代で現役を退くきっかけとなった「ある事件」のことを語り始めました。


(後編に続く)

                   
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