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2019年7月9日(火)

お点前が選手を強くする!?アスリートが茶道をする理由

SNSなどでアスリートの情報を日々チェックしていると、井上康生監督率いる柔道日本代表やボクシングの村田諒太選手など、さまざまな競技のアスリートたちが茶道に取り組んでいる姿が…。スポーツとは関係なさそうなのに、一体なぜ?アスリートが茶道を経験することで、何か効果があるのでしょうか。
そこで、江戸時代から続く遠州茶道宗家の次女であり、ラクロスの日本代表としてワールドカップにも出場した茶道家 小堀宗翔(こぼりそうしょう)さんに、スポーツ×茶道の謎をぶつけてみました。そこには意外な関係性が…!?

小堀宗翔(こぼり・そうしょう)

江戸時代初期、徳川将軍家の茶道指南役を務めた小堀遠州を流祖とする遠州茶道宗家13世家元の次女。ラクロス女子日本代表として2013年のワールドカップに出場。現在は社会人ラクロスクラブチーム MISTRAL(ミストラル)に所属。家元のもとで修行後、茶道の普及に努めながらラクロス現役選手としても活動。スポーツと文化の融合・発展に努める。

スポーツ×茶道を体現する「アスリート茶会」とは?

――アスリートと茶道の関係性を調べる過程で、小堀さんが主催されている『アスリート茶会』にたどり着きました。この『アスリート茶会』とは一体どのようなものなのでしょうか?

小堀宗翔さん(以下、小堀):アスリート茶会はスポーツをしている人に特化したお茶会のことです。日本の文化や誇りをもって世界で戦ってほしいという願いを込めてはじめました。

――はじめたきっかけは何だったのでしょうか?

小堀:2013年にラクロスでワールドカップに出たとき、世界の各国は民族衣装を着るなどして、その国の文化を表現していました。それは決して一時的なものではなく、自分の国の文化や伝統に誇りを持っていると感じたんですね。一方で、日本は鉢巻きをしたりはっぴを着たりと、お祭り騒ぎに近い印象でした。もちろんそれも盛り上がって良いのですが、本当の意味で日本の文化を表現するのとは少し違うのかなと……。背負っているものの違いを感じたんです。せっかく日の丸を掲げるのであれば日本の文化と誇りを持って世界を渡ってほしいという願いから「アスリート茶会」を開催するに至りました。

ラクロス選手というアスリートとしての一面も持つ小堀宗翔さん

――日本文化を知る、ということであれば書道や華道でも良いと思うのですが、茶道ならではの特徴や違いはあるのでしょうか?

小堀:茶道は書もあり花もあり、食もお酒も建築も、そして着物も全て含んだ総合芸術です。日本の伝統を集約しているので、茶道を通してあらゆる日本文化を感じることができます。

また、書道や華道は自身の内にあるものを作品として表現しますが、茶道はお客様、つまり相手となる人ありきのもの。自分の思いだけでお茶を味わっていただくのではなく、相手に合わせてお茶を点てます。つまり、お客様がどういう状況なのか“察する力”がとても重要で、これはスポーツに共通する部分でもあります。茶道を通じて、見えない部分を見る力が潜在的に鍛えられていくような気がしますね。

遠州茶道宗家で茶道体験をする柔道の阿部一二三選手

小堀:このほかにも、茶道には“不完全の美学”という考えがあります。完成されたものよりも、完成に近づくまでの過程に美しさを感じる、というものですね。満月になる前の少し欠けた月や、花を咲かせる前のつぼみなどです。完成に近付こうとすることの美しさを感じたり、その先でどういう花を咲かせるのかを想像したり……。これは、現状に満足せず、常に高みを目指していくアスリートにも共通する価値観ではないでしょうか。

実際にお茶の席で、まだ咲いていないつぼみ状態の花を使いますが、完成されていない美しさを表現するというのはとても日本的だと感じますね。

茶道がスポーツに良い理由1「静と動」

――アスリートでもあるご自身の経験を踏まえて、茶道をやることでスポーツの面でも良い影響を及ぼしていることがあったりするのでしょうか?

小堀:ビーチサッカーの後藤崇介選手は、茶道を通じて“静を知ることでオン・オフの切り替えができるようになった”と言ってくださいました。グラウンドなどでたくさん動いた後にお茶室という静かな世界に入ることで静と動のメリハリがつきますし、その逆も然りです。

茶道をはじめてから五感が鍛えられたというビーチサッカー 後藤崇介選手

小堀:お茶室はとても静かな場所。その場所で集中することで、それまでは意識していなかった小鳥のさえずりや何気ない物音が聞こえてきたり、見えないものが見えてきたりします。工事の音など聞きたくないものが排除されて、お点前の音だけを拾えるようにもなりますね。そのように“静”で研ぎ澄まされた感覚が、“動”にも生きているように感じますね。

茶道がスポーツに良い理由2「究極のルーティーン」

小堀:遠州流茶道ではすべての所作が決められていて、江戸時代から寸分違わぬお点前を現代に繋いでいます。初めての方にとってはやはり難しいので、それをするだけで集中して無心になれますし、慣れてきてリラックスしながらも集中出来るようになると、スポーツでいう“ゾーン”に入ることが出来ます。

遠州流茶道では440年前からすべての所作が変わらず受け継がれている

小堀:また、お点前はスポーツにおける素振りのようなルーティーンと同じく、自分が立ち返る場所。そして、お茶は自分自身の投影でもあります。

とあるスポーツ選手がある程度お茶を点てられるようになった頃、試合の日の朝に「これはどんな状態でしょうか?」とお茶の写真を送ってきてくれました。見てみると、とても大きい泡がざらざらと出ていて、見た目があまり良くありません。本人いわく、いつもと同じように点てていたそうなのですが……おそらく気持ちが荒立っていたのでしょうね。

その時の状態が点てたお茶に表れるという

小堀:このように、お点前をするとコンディションが点てたお茶に表れるので、そのときの等身大のパフォーマンスを把握することが出来ます。

ただ、このお茶に対して良い・悪いという評価をするのではなく、“いまは少し気が立っている状態なんだ”と冷静に理解することが大切です。

茶道がスポーツに良い理由3「相手を思いやる」

小堀:茶道は“相手を察する”ことがとても大切で、お客様のことを想像して掛け軸やお花などを選び、お茶を点てます。茶道もスポーツも、基本的には“対相手”。相手を察する力や、間の取り方は茶道の中で自然に鍛錬されていくので、スポーツにおいても生かすことができます。

自分のお茶を味わってもらう“喫茶“とは違い、茶道はお客様のことを想像してお茶を点てる

小堀:茶道には“物(茶道具)を通して人と繋がる”という特徴があります。「このお茶碗、素敵ですね」「この掛け軸はなんて読むんですか」というような物を介した会話が多く、初対面でいきなり「あなたの趣味は?」と聞いたりはしません。相手との距離感を大切にするんです。このような適切な間の取り方は、スポーツにおけるチームメンバーや対戦相手との間の取り方にも繋がるのではないでしょうか。

相手との駆け引きを楽しむ

小堀:茶道の醍醐味のひとつとして、お茶室にさまざまな仕掛けをしておもてなしをし、それに気付いていただくという遊びのような楽しみ方があります。

たとえば今回は茶道とスポーツという異業種の取材ということで、『千里同風』の掛け軸をご用意しました。もとは“遠く離れた地にも同じ風が吹く”というところから、天下泰平の世の中を意味する言葉ですが、“千里離れたところからこのお茶室に集まって同じ空気を感じ、それぞれのフィールドに持ち帰ってほしい”という願いを込めています。

取材のことを考えて事前に用意してくれていた掛け軸『千里同風』

小堀:また、水指をのせる棚はサッカーボールの模様をイメージして、五角形の五法棚(ごほうだな)というものを使用し、お茶碗は完成されていないものを追求するアスリートのエネルギーに溢れた姿を投影して、まん丸ではなく正面に少しへこみのあるものをご用意しました。

サッカーボールの模様をイメージした五法棚。取材終了後に「こういう仕掛けがあったんです」とさりげなく教えてくれた

小堀:お茶室にはこのような仕掛けが100通りくらい用意されることもあります。そして、お客様はその仕掛けをいくつ見つけることが出来るかを楽しむんです。こういった“相手との駆け引き”もスポーツと通じるところがあるかもしれませんね。

こんな人たちも!茶道体験をするトップアスリート達

――これまでにどんなアスリートが茶道を体験しに来ましたか?

小堀:井上康生監督率いる柔道日本代表や平井伯昌監督の指導を受ける“トビウオジャパン”こと競泳日本代表チームをはじめ、ボクシングの村田諒太選手、ラグビー元日本代表の廣瀬俊朗選手、サッカー元日本代表の鈴木啓太さんなど、たくさんのアスリートが茶道を体験しに来てくださいました。

皆さん、異世界に来たような雰囲気を感じるのでしょうか。私が点てたお茶と自分のお茶の差に驚かれたり、感動される方が多いですね。

ロンドンオリンピック ボクシングミドル級金メダリストの村田諒太選手も茶道体験に訪れた一人

小堀:一流の選手が自分の知らないフィールドに来てくれること自体がありがたいですし、「恥ずかしい」「失敗したくない」という気持ちを捨てて挑戦してくれるのがとてもうれしいです。

アスリートは余白が多いというか、吸収が早いイメージがありますね。また、負けず嫌いの方が多いようで、一緒に来た方よりも上手にお茶を点てようと競い合う姿もよく見ます(笑)。

茶道はスポーツに通じるものあり!伝統文化が選手の内面を強くする

一見関係のなさそうな茶道とスポーツですが、意外なところにいくつも共通点が!また、アスリートが茶道をすることで得られるメリットもたくさんありました。

お茶室に足を踏み入れて日常を忘れ、自分の内面と向き合うことができる茶道は、スポーツをしていない一般の人にとっても気付かされることがあるのではないでしょうか。

                   
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