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2019年6月19日(水)

林家たい平が、東京五輪マラソンコースで"江戸"を語る!

2020年東京五輪で世界のトップランナーが駆け抜けるマラソンコースは、東京屈指の観光地をめぐるコース。その一部分を落語家の林家たい平さんが試走しました。たい平さんといえば、「走る落語家」と呼ばれるほどのランニング愛好家、東京マラソンを完走した経験をお持ちです。

今回走ったのは日本橋から水天宮・蔵前を通過して浅草寺・雷門で折り返し、再び同じルートを日本橋まで戻るコース。たい平さんに東京のマラソンコースに秘められた江戸文化の魅力を伺いました。

新しさを受け入れる「日本橋」の懐の深さ

[マラソンコース]オリンピックスタジアム(新国立競技場)~富久町~水道橋~神保町~神田~日本橋~浅草雷門~日本橋~銀座~増上寺~銀座~日本橋~神田~神保町~皇居外苑~神保町~水道橋~富久町~オリンピックスタジアム(新国立競技場)

オリンピックスタジアム(新国立競技場)をスタートして10キロ、日本橋です。女子は8月2日、男子は9日。ともに午前6時のスタートですから、この辺りに差し掛かるのは6時30分前後でしょうか。日本橋といえば五街道の起点、日本一の交通の要衝だった場所ですね。

林家たい平さん

落語の冒頭で“日本橋は……”と語り始めるだけで、みなさんの頭にパーッと浮世絵のような江戸時代の光景が広がる。日本橋っていう町はね、そんな魔法のような力を持った町なんですよ。“日本橋田所町日向屋半兵衛のせがれ時次郎”で始まる『明烏』や、日本橋馬喰町の搗(つ)き米屋六右衛門の奉公人・清蔵が主人公の『幾代餅』、勘当された若旦那が日本橋槇町の奴湯に奉公する『湯屋番』もあります。日本橋には商家が集まっていたので、奉公人や番頭、若旦那の噺(はなし)が多いですね。

日本橋を舞台にした落語、そんなにあるんですか。粋な江戸の文化を育んだ町、まさに江戸文化の中心というわけですね。

林家たい平さん

歴史や伝統はあっても、決して保守的ではないですよ。日本橋界隈には、新しい文化や情報を受け止める懐の深さがありました。江戸っ子は新しいもの好きですしね。たとえば、呉服の越後屋(現在の日本橋三越本店)は、それまで掛け売りのみそか払いが当たり前だった江戸時代に、店先現金売りという新しい販売スタイルを打ち出しています。

▲江戸時代、日本橋を起点とした東海道を行きかう商人たちの活気が伝わる
(出典:国立国会図書館所蔵『日本橋図会』東海道 一 五十三次日本橋/広重)

日本橋には、たい平さんのお気に入りの場所が二つあるそうですね。

林家たい平さん

一つは、日本橋の裏路地。通りを一歩入ると風情のある路地があちらこちらに残っています。江戸の文化を今に伝える紙や薬の問屋など、昔のたたずまいを今に伝える場所をめぐってみるのも楽しいと思いますよ。もう一つは、日本橋川や神田川をめぐるクルーズですね。川から町を見ると今まで見えなかった文化や歴史を再発見できるはずです。日本橋をはじめ、馬喰町、蔵前などは、昔のままの町名が数多く残るエリアなんですが、その町名を調べてみると意外な発見もあります。マラソン観戦で日本橋界隈を訪れたら、ぜひ裏路地を散策していただきたいですね。

落語家に育ててくれた「浅草」の粋と人情

日本橋から隅田川沿いの江戸通りを北へ。吾妻橋を曲がると浅草寺・雷門が見えてきました。この辺りはマラソンコースの15キロ地点です。浅草のシンボル、朱塗りの門と大きな提灯は、外国人にも人気の写真スポット、海外でもよく知られている江戸の風景です。

林家たい平さん

雷門は浅草寺の山門だし、観音様は庶民の心のよりどころ。古くから信仰の対象でした。一方で近くに吉原という遊び場もあったから、うなぎやどじょう、天ぷら、すき焼き、それに“蹴とばし”と呼ばれた桜肉(馬肉)など、精がつく食べ物屋も多い。浅草は、一見、相反する文化が同居する町なんです。そんな浅草だからこそ、おっちょこちょいでおせっかい、そして義理人情に厚い江戸っ子が多く暮らしていました。落語にも『粗忽長屋』『明烏』『ぞろぞろ』『蛙の女郎買い』ほか、たくさんの演目に浅草が登場します。

たい平さんにとって浅草は、どんな場所なんですか。

林家たい平さん

浅草は、修業時代にたくさんの時間を過ごした思い出の場所です。言ってみれば、日本人のDNAをくすぐる町だと思うんですよ。江戸の粋と、温かい人情があふれる町ですからね。浅草の人情がなければ、今の自分はないと思っているほどです。今でも、演芸ホールに来たら浅草神社だけでなく、その裏にある被官稲荷神社にも必ずお参りするんですよ。小さなお社だけど歌舞伎役者や粋筋も大切にしている芸事の神様です。「仕事だけして帰っちゃダメだよ。ちゃんと挨拶しなきゃダメだよ、たい平」って言われている気がして(笑)、これも浅草の人たちから教わったことですね。

▲江戸時代にも多くの人が往来し、信仰深かった浅草寺・雷門の様子がわかる錦絵
(出典:国立国会図書館所蔵『広重画帖』江戸高名会亭尽/広重)

世界中の人々に江戸っ子の心意気を感じてほしい

2020年、マラソンコースの沿道はきっと世界中の人々で埋め尽くされます。そうした人々にぜひ、このマラソンコースに秘められた江戸文化の奥深さを味わっていただきたいですね。

この町に来たら、店の人やたまたま隣に座った人に気軽に声をかけてほしいですね。心温まる出会いや気さくな会話が楽しめて、初めてでも懐かしさすら感じる、それが浅草って町なんです。外国から来た人たちも温かく迎え入れてくれるでしょう。いや、おせっかいなくらいかな(笑)。ほかの国よりも熱い声援が飛ぶと思います。私が東京マラソンを完走できたのは、沿道を埋め尽くした切れ目のない声援にパワーをもらったおかげ。応援する人も、こんなに熱くなるんだって、じ~んときました。ランナーだけでなく応援する人も本気、それが江戸っ子の心意気です。

林家たい平

1964年生まれ、落語家。人気演芸番組「笑点」の大喜利メンバー。東日本大震災の発生直後から被災地で炊き出しなどを行った。以来、落語会の開催など被災地を支援する活動を続けている。明るく元気な林家伝統のサービス精神を受け継ぎ、古典落語の楽しさを若い世代に伝える活動を続ける一方で武蔵野美術大学客員教授として教べんもとっている。

                   
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