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2019年5月22日(水)

為末大コラム「公平なルールとは何か」

元陸上選手でスポーツコメンテーターとしても活躍する為末大さんのコラム記事が始まります。第1回は「スポーツ界の公平なルールとは何なのか」についてです。

古代オリンピックからこれまで、男性と女性の二つのカテゴリーで、オリンピックは行われてきましたが、そのカテゴリーの定義自体を考えさせられるような話題が持ち上がっています。

セメンヤ選手

陸上競技の800mの世界チャンピオンであるセメンヤ選手に対し、IAAF(国際陸連)が一定のテストステロン量以下にならない限り世界大会への出場を認めないという判断をしました。セメンヤ選手はそれに対し、自分がテストステロン量を下げることなく出場できるように訴えています。

この争点になっているテストステロンとは一体なんなのでしょうか。

テストステロンとは

18歳の時のセメンヤ選手(左)

セメンヤ選手は両性具有で生まれ、一般的な女性の三倍以上のテストステロンを分泌していると言われています。

テストステロンは男性ホルモンとも呼ばれ、女性よりも男性の方が多く分泌されているのが一般的です。このホルモンは、髭を濃くしたり、骨格をしっかりしたり、筋肉をつける作用があります。

ベンジョンソン選手

ベンジョンソン選手のドーピングを覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、彼が使用したのがこのテストステロンだと言われています。テストステロン量が多いことは、身体能力の影響が大きい陸上競技にとっては有利に働きます。

プロスポーツは強いチームが強くなりすぎてリーグ全体のバランスが崩れるとプロスポーツとしての魅力が減ることから、チームごとの差がつきすぎないようにバランスをとります。

セメンヤ選手の好調時にはあまりにも大きな差が他の女性アスリートとついてしまい勝負になりませんでした。

誰が勝つかどうかわからないことを観戦スポーツの魅力の中心として考えるなら、セメンヤ選手のテストステロン量の制限は効果があると思われます。

2つの性カテゴリーだけで本当にいいのか

一方でセメンヤ選手のテストステロンは意図的に摂取したわけではなく、自然に自らに備わっている特徴です。なんの不正も行なっていない選手の出場を他の選手とのバランスを取るという理由で、テストステロン量を下げさせることは許されないという意見もあります。

これまでのスポーツでは男女の性別がはっきりしていることを前提にしてきました。ですが、LGBTの啓蒙活動などで認識が広がったように科学的にみても男女の境目はそれほどはっきりしていません。

身体的に男性の特徴を兼ね備えた女性もいますし、その反対もいます。社会的な性と、身体的な性と、自認する性、それぞれが違っている場合もあるわけです。将来的に男性女性という2つのカテゴリーだけで本当にいいのかという議論すら出ています。

陸上界でもこの件に関しては意見は分かれています。私も競技者でなければこれまで努力してきたセメンヤ選手を応援してあげたい気持ちはあります。

ただ、一方でおそらく本気を出したセメンヤ選手には誰も勝てないでしょう。そのような状況は他の女性選手に対しフェアではないとも言えるわけです。

性とは何か、公平なルールとは何か

セメンヤ選手に端を発したこの論争は、性とは何か、公平なルールとは何かということを私たちに投げかけています。

これからスポーツの世界では、スポーツマンシップや世界平和などの比較的わかりやすく誰も反対しないことではなく、どちらが正しいとも言えない、だけれども決めなければならないという難しい問題に答えなければならなくなると考えています。

それはつまり、いったいスポーツの中心にどんな価値観を置くのかが2020に向けて問われていくのだろうと思います。

為末大

1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2019年5月現在)。現在は、Sports×Technologyに関するプロジェクトを行う株式会社の代表を務める。

                   
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