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2019年5月20日(月)

道下美里と伴走者 二人を結ぶのは「絆」

パラ陸上マラソン視覚障害のあるクラスで世界記録を持つ道下美里選手。東京パラリンピックの金メダル候補として大きな注目を集めています。4月にロンドンで行われた世界選手権で優勝し、東京パラリンピックの代表に内定した道下選手。そこに至るまでには、伴走者との間に結ばれた強い「絆」がありました。

折れそうな心を支えた伴走者

リオデジャネイロ大会で銀メダルを獲得した道下選手。43歳で迎える東京大会で目指すのはただひとつ、金メダルです。

東京パラリンピックに向けて弾みをつけるために。去年12月の防府読売マラソン。まだシーズン前半ながら、道下選手はこの大会で自身が持つ世界記録の更新を狙いにいきました。

しかし、当日は冬の雨が降りしきる、過酷なコンディション。体が冷えて体力をどんどん奪われ、本来の走りができません。

記録更新はおろかゴールするのがやっと。ゴール後、道下選手は人目をはばからず涙を流しました。

道下選手

「本当にリタイアしてもおかしくない状況で…。このレース走る意味あるのかなとか、思ってはいけないマイナスの気持ちが出てきていました。」

道下選手の折れそうになる心を支えたのは、隣を走る伴走者、志田淳さんでした。

「何かひとつでもいいからこのレースでできたって思う事を持って帰ろう」。

志田さん

「きついけどこれだけ頑張って走った。あの状態でもこのタイムで走りきれたっていう、逆に自信に変えてほしいっていう思いがありました」。

二人が握るロープ、「絆」

2年前からペアを組む道下選手と伴走者の志田さん。握り合うのは長さ30センチのロープ。その名も「絆」と呼ばれています。

道下選手は角膜の病気で右目が全く見えず、左目も光や色が認識できる程度です。

道下選手にとって、伴走者は自分を全く違う世界へと連れていってくれる存在だといいます。

道下選手

「走ってる時、ロープを持ってるだけで本当に自由にさせてもらってるんです。本当に走ってる時は何も考えずに、まるで見えてるかのように走らせてくれる、自由に羽ばたけるみたいな感覚になるんです。」

45歳の志田さんは大学時代、箱根駅伝に3回出場。社会人でも競技を続けましたが、マラソンでのオリンピック出場は果たせませんでした。志田さんは、一人では届かなかった世界の舞台を、伴走者として再び目指しています。

志田さん

「世界につながるなんて夢にも思ってなかったです。伴走ってすごく特別で、お互いどちらが欠けてもスタートラインに立てない、特殊なものなんですよね」。

強さを手に入れるための決断

雨に打たれて失速した、防府読売マラソンから1か月。道下選手と志田さんは練習場所を変える決断を下しました。それまで練習していた平たんなコースではなく、転倒のリスクもある、足場が悪い山道での練習を取り入れたのです。

「平地での練習だけじゃ強くなれない。あえてこういうアップダウンのあるところでやってもいいんじゃないか」
どんな状況でも力を発揮できる強い体を手に入れるため、志田さんが道下選手に提案しました。
慣れない環境に不安を感じる道下選手。志田さんは「絆」を巧みに操り、安心して走れるよう導きます。

「ここは急だよ、急坂だよ。右にUターン。お、ここは滑る!」
この日はおよそ2時間、声をかけ続けました。

福岡を拠点にする道下選手と、東京に暮らす志田さんは常にチーム練習ができるわけではありません。チーム練習とは別に、志田さんは一人でも黙々と走り込みに、道下選手は地道な筋力トレーニングに、それぞれ一人で打ち込みます。自分にできることをそれぞれが追い求めました。

道下選手

「最初は、伴走者に支えてもらってる感覚がすごく強かったんです。でも今は、私もその中で自分ができることをしっかり見つけてやっていかなきゃ申し訳ないし、絶対そうでありたいと思う自分がいます」。

志田さんが見つけた勝負のポイント

先月下旬、ロンドン。世界選手権では、志田さんともう一人の伴走者が、前半後半に分かれて「絆」を握ります。

レース前日、一人でコースの下見をする志田さんの姿がありました。

レース後半の伴走する志田さんが注目したのは23キロ付近。車のスピードを制御するための20センチほどの段差が、800メートルにわたり続きます。

志田さん

「ここが一番のポイントですね。ここをうまく選手に伝えると、うまくできない選手との差になります。やっぱりそこは結構チャンスでもあるわけです」。

チーム道下の「絆」でつかんだ優勝

いよいよレース本番。4位以内に入れば、東京パラリンピックの代表に内定します。

レースは序盤から、リオ大会で銅メダルを獲得したブラジル選手との一騎打ちに。

21キロの中間地点。志田さんに「絆」が託されます。ブラジル選手にピタリと背後をつかれたまま、23キロ付近へ。入念に下見した、段差が続く区間にさしかかります。

志田さんは段差のたびに道下選手に声をかけます。

「足上げて!次ガクっと落ちるよ。」

志田さんの言葉に、山道で鍛えた脚力を生かした力強い走りで応える道下選手。ブラジル選手を徐々に引き離します。

志田さん

「我々は結構スムーズにいけたんですが、後ろに付いていたブラジルは、段差のためにちょっと遅れていましたね」。

30キロ手前の最もきつい上り坂。ふたりは一気に差を広げました。

そして、そのままトップでフィニッシュ。

「やったー!やったー!」
道下選手の歓喜の声がフィニッシュ地点に響きます。2位におよそ7分もの差をつけ、世界選手権初優勝。東京パラリンピック内定を、チームの「絆」でつかみとりました。

レース後、二人はチームで臨む2020年への気持ちを新たにしていました。

志田さん

「かっこいい言葉で言うと、心のつながりみたいなものをあのロープが体現してるんじゃないかなってちょっと思いますね」。

道下選手

「今回は感謝しかないです。本当に感謝しかない。しっかりもう一回立て直して、2020年を迎えたいと思います」。

                   
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