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2019年3月7日(木)

「スピード」を強化せよ!クライミング・メダル獲得へのシナリオ

日本のスポーツクライミング、「ボルダリング」と「リード」は世界トップレベルですが、「スピード」は世界ランキング14位(2019年1月発表)と、遅れをとっています。3種目の総合成績を競う「複合」で行われる東京オリンピック、日本勢がメダルを獲得するためには「スピード」の強化が不可欠です。世界との差をどう縮めるのか?日本代表チームの安井博志ヘッドコーチに聞きました。

「スピード」は、垂直な壁で行われる“スプリント競技”!?

スピードは高さ15mの壁を一気に駆け登るタイムレース

2人の選手が号砲とともに勢いよく飛び上がり、ゴールのタッチ板を目指して高さ15mの壁を一気に駆け登るタイムレース、それが「スピード」です。

予選2回のうちタイムの良い方が採用され、上位16名が決勝トーナメントで戦います。フライング一回で失格、足を踏み外して落ちるとタイムなしで敗退、陸上100mのように一瞬足りとも気の抜けない緊迫感のある種目です。

男子の世界記録は5秒48(2017年4月)、日本最速記録は6秒92(2019年2月)。女子の世界記録は7秒32(2017年7月と 2018年4月)、日本最速記録は9秒38(2019年2月)。いずれも1~2秒の開きがあります。

スポーツクライミング日本代表 安井博志ヘッドコーチ

日本勢が本格的に「スピード」の強化に取り組み始めたのは2016年秋。最初に手をつけたのは、登り方の習得でした。日本にはスピードを専門とし世界で活躍している選手やコーチがいなかったため、スピードのエキスパートと言われる有力選手やコーチを海外から集め、そのテクニックを日本の選手に直接、学ばせました。

安井博志ヘッドコーチ

リードとボルダリングは比較的に似た競技ですが、スピードはまったく別の競技という認識がありました。はじめはタイムが出る登り方さえ分からない状態でした。そこで、登り方を見せてもらうところから始めたんです。いくつかの登り方のパターンを間近で見ることで、選手たちは自分の体格やスタイルにあった登り方を知ることができました。

選手の筋力強化にも取り組みました。少しでも直線的なコースで登ることがタイムを縮める近道です。そのためには、上のホールドをつかんで全身を引っ張り上げる体幹や腕力と、下のホールドを力強くジャンプする脚力が不可欠です。リードやボルダリングで必要とされる持久力に加えて、わずか数秒間に力を一気に爆発させるスプリント競技特有の瞬発力を鍛える必要があると考えたのです。

安井博志ヘッドコーチ

ホールドを飛ばしながら直線的に進むのが、最もタイムが出る登り方です。単純に手数が少ないので速いんです。でもホールドを飛ばすには、強い体幹、腕力、脚力が必要です。「スピード」は技術よりも身体能力がタイムを左右する種目ですから、下半身が弱ければ加速できません。下半身をいかに強くして速く動かすか、その強化に挑んでいます。

10分の1秒、100分の1秒のタイムを削り出せ!

「スピード」のコースは世界共通です。練習を繰り返して、体にスタートからゴールまでの体の動きを覚えこませることが必要だと、安井さんは言います。

安井博志ヘッドコーチ

足のホールドのかかり具合が少しズレても力が伝わらず、大きくタイムをロスしてしまいます。10分の1秒、100分の1秒を競う種目でささいなミスも許されないところが「スピード」の難しさです。ですから、練習でタイムの出る登り方を徹底的に身につけて、試合でその動きを再現することが大事になるんです。

練習を繰り返すために不可欠なのが練習施設です。国内の「スピード」練習施設は、東京都昭島市など数か所しかありませんでしたが、新たに岩手県盛岡市をはじめ数か所に競技大会が行える本格的な施設が完成しました。

岩手県営運動公園の「スピード」のコース(2018年4月建立)

自力で練習場を確保しようという選手も出てきました。日本を代表するトップ選手の野口啓代選手と野中生萌選手です。

野中生萌選手(左)、野口啓代選手(右)

野中生萌選手は、豊島区と立教大学の協力を得て立教大学の敷地内に「スピード」の壁を建設しました。資金はクラウドファンディングで調達しました。野口啓代選手は茨城県の実家の敷地内にスピード専用の壁を建設しています。しかし、強化選手たちが日々練習するためにはまだまだ不十分だと安井さんは言います。

安井博志ヘッドコーチ

選手自身の努力もあって、練習環境は少しずつ整いつつあリます。しかし、いずれも屋外施設のため、気温が下がる冬の間の練習は危険です。そのため、日本代表チームは屋内施設があるオーストリアなど海外で合宿も行なっています。

“チーム・ジャパン”の力で強くなれ!

日本代表の強化合宿の様子(2017年12月)/写真提供=山と溪谷社 CLIMBING-net編集部

安井さんが最も力を入れているのは、有力選手を集めて行う強化合宿です。もともと「ボルダリング」には、壁をクリアするための体の動かし方やコース取りなどをクライマー同士でアドバイスし合って互いを高めていく文化があります。その長所を生かそうと考えたのです。

安井博志ヘッドコーチ

スポーツクライミングは個人競技なので、選手それぞれが個人でトレーニングを積んで強くならなければなりません。しかし、短期間で飛躍的にレベルアップするためには、日本チームのなかで化学反応を起こす必要があると考えています。年に5~6回、それぞれ4日間程度ですが、強化選手12名を中心に招集して合宿を行なっています。

日本のエース・楢﨑智亜選手

安井さんは、詳しいことは言えないとしながらも、強化合宿の成果を一つ教えてくれました。ホールドを飛ばして直線的に駆け上がる登り方を日本人で初めて体得した楢﨑智亜選手のノウハウを他の選手が学ぶ機会になったというのです。

安井博志ヘッドコーチ

エースの楢﨑智亜選手が世界の誰もやらなかった新たな登り方に成功してくれたことで、日本選手全体の“伸び代”が広がりました。他の選手が参考にしていますので、合宿を継続的に行うことでやがて他の選手もできるようになるでしょう。練習で他の選手の良い登り方を目の当たりにしたり、ミーティングで競技への取り組み方をシェアしたり、刺激を受けるには合宿が最適です。

個人競技でありながら、チーム全体でメダル獲得を目指すクライミングの“チーム・ジャパン”。猛烈なスピードで進化する選手たちから目が離せません。

                   
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