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2019年3月7日(木)

山縣亮太「陸上も釣りも...」「いだてん」たちの"つぶやき" -第3話-

陸上担当の記者やディレクターなどが、取材で見つけた話を発信する「いだてん」たちの“つぶやき”。今回は、男子100メートルで日本歴代2位、10秒00の記録を持つ山縣亮太について。

「考える人」。

山縣を取材していて思い浮かぶのが、かの有名なあの像の姿だ。私たちはシーズン直前、彼が最も重要だと位置づけるアメリカ・フロリダでの合宿の密着取材を許された。そこで見たのは、思索し、実行し、また思索する。たとえ「オフ」の時間でも変わらない姿だった。

考え尽くす。
(山縣亮太)

刺激を求め アメリカへ

山縣がシーズン直前の合宿地に選んだアメリカ・フロリダの施設。テニスの錦織圭選手など多くのトップ選手を生んだ世界最高峰のトレーニング施設「IMGアカデミー」だ。

東京ドーム50個分という広大な敷地で、陸上、テニス、ゴルフ、野球などのトップ選手に加え、世界80の国や地域の12歳から19歳の若者たちが勉強しながらトレーニングに励む。このシーズンオフからこの地で合宿を行うことにした山縣。求めたのは「変化」そして「刺激」だ。

山縣亮太選手

しっかりトレーニングに集中できる環境がある。ここでどれだけ走りに向き合えるかどうかが大事で、今後のアスリートとしての大事な姿勢みたいなのものにつながっていければと思っている。


常に変化を恐れない選手でいたいし、そういった選手になるための濃い1か月にしたい。

現地に到着した翌日から始まったトレーニング。その緊張感と集中力の高さに私たちは驚かされた。

コーチをつけず、マネージャーが撮った映像をひたすら見返すのはいつもの姿。しかし、これまでにないほど近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。インタビューで聞いた。

──今回、近寄りがたさが増したと思うが?

山縣亮太選手

すいません(笑)。「考え尽くす」度合いが高まってきている。


今は、これまで以上に自分への課題って何なんだろうということを、アンテナを張って見直していかないといけない。

世界トップクラスと言われる得意の「スタート」でさえ、変化を恐れない。さらに精度を高めることが課題だとして、この合宿では、よりよい体の使い方を、いわば「ミリ単位」で探っていた。

一方、ここでしか得られない「刺激」も感じていた。

コーチをつけないため、ふだんは技術的な指導を受けることが少ない山縣。IMGアカデミーで指導するコーチのアドバイスに耳を傾ける姿があった。「スタートで力を使いすぎているのではないか」という助言は新鮮だったという。

山縣亮太選手

本当におっしゃるとおりだなと思った。ほかの人からどう見えているのかは、やっぱり気になりますね。


自分だけが答えを知ってるわけではないので。ほかの人の考えに触れられるのは、大きな刺激になりましたね。

ただの趣味ではない

考え続ける姿勢は、趣味でも変わらなかった。

「釣りを撮影させて欲しい」。快諾を受け、ある日の練習後に向かったのは海の上を走る道路の脇。多くの釣り人たちでにぎわうスポットだった。「リラックスした表情が撮影できるのだろう」。そう思っていた私たちの予想は、あっさりと裏切られた。

釣り開始。近寄りがたい…。競技と同じ、とまでいかないが似た雰囲気だ。

釣りは素人の私たち取材陣。山縣を撮影しながら遠目に眺めていると、糸を垂らしては、えさをまき、またさおを引き上げて、えさをつけて、別の場所に糸を垂らす。じっとしている時間が少ない。大学時代の同級生で盟友の瀬田川マネージャーに尋ねた。

瀬田川歩マネージャー

──釣りをやっている時の様子は、いつもとは違う?

瀬田川歩マネージャー

同じじゃないですか。魚がどう釣れるか“考えて”たぶん「トライ・アンド・エラー」を繰り返している状況だと思います。

──こういうオフの場でも、そういう(考えている)感じ?

瀬田川歩マネージャー

それがたぶん、山縣亮太なんじゃないですか。

本人にも聞いた。

山縣亮太選手

いろいろ考えていますよ(笑)。釣りをしながら競技のことも考えます。


ただ、競技がうまくいっていない時は、釣りもやる気がしませんね。

本人いわく、針にどのように、どのくらいの大きさのえさをつけて、どこに糸を垂らすのか、潮の流れを読みながら常に状況を読んでいるとのこと。ただ無心になる時間ではなかった。

近づくリミット その時

「7時からご飯だから(帰りの時間を考えて)6時くらいまでだね」。

瀬田川マネージャーからこの日の“リミット”を告げられた山縣。その時が刻々と近づく。釣りのスタートから1時間50分。空振りに終わってしまうのか…。遠くから見ていた私たち。そろそろ声をかけてみようと近づくと、山縣がつぶやいた。

「よし、次は釣るぞ」。

その直後だった。空の明るさがなくなりつつあった午後5時35分。山縣の釣りざおが、しなった。興奮する私たちをよそに山縣は冷静だ。引き上げた糸の先には2匹の魚が。

「カメラに見せて」と頼む私たちに「小さいから恥ずかしい」と山縣。

それでもようやく笑みがこぼれた。続けざまにもう1匹もゲット。

「次は釣る」と宣言した直後の成果。まさに、ここ一番のレースで見せる「勝負強さ」に相通ずると、感嘆した。

共通点はどこに

釣りと陸上、本人はどんな共通点を感じているのだろうか。みずからの言葉で語ってくれた。

4月のアジア選手権、9月開幕の世界選手権と重要な大会が続く今シーズン。「9秒台」そして「東京五輪のファイナリスト(決勝進出者)」という最大の目標へ、山縣の目は、心は、すでにターゲットをしっかりとらえていると感じた。

いだてん取材記

上の動画、私たちが「長さは30秒くらいでお願いします」と伝えたところ、なんとぴったりの30秒。「しっかりゴールを見定めて、成果を出す」。こんなところにも山縣選手の姿勢が表れていて驚かされました。私たちも取材の成果をしっかり出したい、と決意を新たにしました。

そして、私たちの帰国後、山縣選手は世界で活躍するあの選手と再会しました。今月2日の現地での写真です。

山縣選手と錦織選手。互いの練習を見たり、陸上のトラックでスタートの対決をしたり、さらには一緒に釣りに行ったりしたそうです。世界で戦う錦織選手と交流を深めて得られた「刺激」もまた、今後に生かされることになるでしょう。

今回の取材、テレビでは今後「ニュースウォッチ9」や「サンデースポーツ2020」などの番組でお伝えする予定です。お楽しみに。

佐藤滋

スポーツニュース部記者。平成15年入局。札幌局・山形局を経て現所属に。途中1年間はネットワーク報道部に所属。オリンピック取材は、ソチ・リオデジャネイロ・ピョンチャンの3大会を経験。自身は小学3年から大学まで野球一筋。

伊藤悠一

スポーツ番組部ディレクター。平成24年入局。和歌山局を経て、平成29年からスポーツ番組部で陸上・野球などを担当。自身も大学時代は競走部(陸上部)に所属し十種競技の選手。100mの自己記録は11秒31。

                   
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