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2018年11月28日(水)

"4度のガンを乗り越えて" 東京五輪を目指す不屈のランナー

「希望を持ち続けるために走り続ける」。ガブリエル・グリューネヴァルト(GABRIELE GRUNEWALD)選手、過去には世界選手権の代表経験もある米国トップランナーの1人です。4度のガン手術を乗り越え、東京五輪を目指します。

東京五輪を目標に"再び走り始めた女子選手"

ガブリエル・グリューネヴァルト、愛称は『ゲイブ』。アメリカ、ミネソタ州生まれの32歳。過去には全米チャンピオンになり、世界選手権の代表経験もあるアメリカのトップランナーの1人だ。

中学、高校時代は走ることが好きだったが、決して目立った存在ではなく、州大会での優勝経験もなかった。だがミネソタ大学に進学し、中距離選手として頭角を現し、将来はプロ選手になりたい、そう夢を見ていた。

ガブリエル・グリューネヴァルト選手

しかし、そんな彼女を悪夢が襲った。大学4年次に腺様嚢胞癌を発症。聞きなれない病名だが、これは分泌腺から発生する悪性腫瘍で、とてもまれな腫瘍と言われている。「その病気(腺様嚢胞癌)を知らなかったから、恐怖しかなかった」と振り返る。手術、そして放射能治療で屋外シーズンには出場できず、アピールする機会を失った。

走ることを諦めたくない。闘病のために大学を離れていたが、復学すると、全米体育協会(NCAA)はゲイブの競技復帰の伴う資格維持期間の延長を認めてくれた。必死に練習に励んだゲイブは、大学最後の年に自己ベストを伸ばし、卒業後はスポーツメーカーとプロ契約を交わすことができた。 

「ガンになってから、今この瞬間を生きることを大事にしている。大切なことの一つは『走ること』」と話すように、決して諦めなかった。

2014年に悲願の世界選手権に出場

定期的に検査を受けながら、プロランナーとして活動。2012年、2013年には自己ベストを大きく伸ばし、トップ選手の仲間入りを果たすと、2014年には全米室内選手権の3000mで優勝し、ポーランドで行われた世界室内選手権のアメリカ代表の切符を手にした。

初の世界選手権では9位に終わったが、満足そうな表情で「これからも世界選手権に出られるように頑張りたいと思う。でも、今後(私が)どうなるかは誰にも分からないから、一瞬一瞬に全力を尽くしたい」と話していた。

ゲイブの首、肩周りにある手術痕が、壮絶さを物語っていた。そして、その後、再びガンが見つかり、2016年リオ五輪の選考会は12位。五輪の夢はかなわなかった。 リオ五輪の閉幕するころ、ゲイブは肝臓の半分を摘出する手術に挑んでいた。

術後は体調がすぐれない日もあったが、癌は取り除かれ、また元気に走れると信じていた。しかし、2017年6月、再び肝臓に影が見つかった。ガンが再発していた。

2017年全米選手権でキャリアを中断

放射線治療を受けながら練習を積み、出場した2017年陸上の全米選手権、女子1500メートル予選。世界選手権ロンドン大会の出場権がかかったこの試合、本来ならばゲイブも世界選手権の代表権を争うような立場にいたはずだ。

だが彼女にとっては、全米選手権の出場がとても大きな目標だった。これまで癌の治療と練習を同時に行っていたが、再発が見つかったため、全米選手権後は競技生活から一旦離れ、治療に専念すると決めていた。

治療をしながら、自身を極限まで追い込まなければならないスポーツ選手の苦労や困難は想像を絶するものだっただろう。将来への不安、思うように走れないいらだちなどもあったに違いない。

しかし「全米選手権に出て、治療に挑みたい」その一心で、彼女は走り続けた。ゲイブが最後の直線に入ると、すでにフィニッシュラインを駆け抜けた選手たちが彼女に向かって声援を送り、観客たちは立ち上がって拍手で後押しする。4分31秒18で予選最下位、自己ベストの4分01秒48に遠く及ばなかった。

でも、ゲイブは勝者だった。ゲイブがフィニッシュすると、一斉に選手たちが駆け寄り、ハグをし、同じ組を走った選手全員で円陣を組む。

これからもっと大きな、そして過酷な戦いに挑むゲイブに対する、仲間たちからの精いっぱいの応援だった。レースを終えたゲイブは、すがすがしい表情で記者たちの前に現れた。

ゲイブ選手

これで陸上は一区切り。治療に専念します。また全米選手権の舞台に戻ってこられるように治療を頑張らなくちゃ。

セパレートのユニフォームの腹部、みぞおちから右脇腹には30cmほどの手術の痕がくっきり見える。笑顔で話す姿とは対照的に、話を聞いている記者たちの表情ゆがんでいた。

講演会など精力的に活動 "東京五輪を目標に"

2017年夏から治療をしていたゲイブはSNSを通じて、自身の状況を発信。ガンのリサーチを支援する団体「Brave Like Gabe」を設立し、講演会などを行っているほか、地元でマラソンレースを主催したり、ゲスト参加したり、精力的に活動している。

ゲイブ選手

自分のガンはあまりにも稀なガンでリサーチもほとんど進んでいなかったし、認可された薬もとても少なくて、精神的に打ちのめされた。同じようなガンで苦しんでいる人に同じ思いをさせたくない。


病気の人もそうでなくても、体を動かすことはとても大切だと思う。日々のエクササイズで健康を維持できるのはもちろんだけど、病気の進行を遅らせたりする効果もある。体力がなければ治療にも立ち向かえないし。私は希望を持ち続けるために走り続ける。

2017年6月以降レースには参加していないが、ゲイブには大きな夢がある。

ゲイブ選手

東京五輪を目標に練習を始めた。私は絶対に諦めない。病気にも目標にも勇敢に挑んでいこうと思う。

2020年6月のオリンピック選考会で笑顔のゲイブに会えることを心から願っている。

及川彩子

スポーツライターとしてNY在住10年。陸上、サッカー、ゴルフなどをメインに、オリンピック・パラリンピックスポーツを幅広く取材。

                   
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