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2018年10月17日(水)

大谷翔平「大リーグ挑戦 1年目の姿」

「投打の二刀流でベーブ・ルース以来の記録」。「日本選手では松井秀喜さん以来、2人目のホームラン20本越えの選手」。大リーグ1年目を終えた大谷翔平選手について語るとき、多くの修飾語が思い浮かびます。

大谷選手は、何を考えながら大リーグ1年目を過ごしたのか。

数多くのシーンがある中で、取材現場で特に印象が強かった姿を中心に、大谷選手の言葉とともに振り返っていきます。(アメリカ総局・雁田紘司)

「野球をやめるときに自分がどうなっているか その時でいい」~記録尽くめの1年目~ 

大谷翔平選手が、大リーグでも投打の二刀流でプレーすることを目指した今シーズン。

ピッチャーとしては10試合に先発登板して、4勝2敗、防御率3.31の成績。

バッターとしては、ホームラン22本、61打点、打率2割8分5厘の成績を残し、10盗塁もマークしました。

野球の神様と言われるベーブ・ルース以来、本格的な投打の両方でプレーする選手としてアメリカでも注目を集めるなかで、大リーグや球団の数々の記録を塗りかえる活躍を見せました。

日米のメディアは、ベーブ・ルースと大谷選手を比較して、報道することが多くありますが、大谷選手がルースの記録を意識したことはありませんでした。

ベーブ・ルース

その理由は、「本の中でしか見たことがなかったりとか、神様みたいな存在なので、自分と(比べて)どうこうと言うことはない」という本人の言葉にも表れています。

そして、記録は達成できればうれしいが、記録達成が目的ではなく、野球人としてレベルを上げる中でついてくるものという意識が強いからです。

この考え方は、大谷選手の次の言葉に凝縮されています。

大谷選手

野球をやめるときに自分がどうなっているか。その時でいいのではないかと思っています。

大谷選手の原動力は、“もっと野球をうまくなりたい”という、野球を始めた頃からの変わらない気持ちです。

高いレベルの野球を求め続ける姿勢は、大リーグに来ても変わることはなく、それが結果的に、記録に残る活躍につながりました。

そして、来シーズン以降もこの原点から生まれる進歩する姿を見せてくれるはずです。

「いままでは あまり考えるタイプではなかった」~適応への努力~

大谷選手が、指名打者で出場した試合の中継では、大谷選手が守備につかないため、ベンチの中にいる大谷選手の様子が映し出される機会が多くありました。

しかし、大谷選手が試合中、ベンチに座ってじっくりと試合を見る時間は少なく、むしろ多くの時間はベンチから姿を消していました。

ここに、大谷選手の新たな環境への挑戦、野球への姿勢が集約されていました。

エンジェルスタジアムの三塁側のベンチ。そのベンチから数十秒歩くと、クラブハウス(ロッカールーム)があります。

クラブハウスに入ってすぐ左には、選手やコーチが試合の映像を見て分析に使う部屋・ビデオルームがあります。

大谷選手が自分の打席を終えたあと、次の打席までの間に向かう先は、このビデオルームでした。

終わったばかりの打席の映像を見て、スイングの軌道や相手ピッチャーのボール、そして相手の配球と、1打席に起きたすべてを確認して、頭に入れます。

さらに球団が用意している相手ピッチャーについての多くのデータも確認します。

そして、次に向かうのは三塁側のベンチ裏にあるバッティングケージ(室内練習場)です。

分析と相手ピッチャーのデータをもとに、次の打席に向けたバッティング練習を繰り返し行っていました。

大谷選手は1試合の中で、この作業を繰り返し行って、打席での結果につなげていました。

相手への研究は打席が終わったあと、あるいは試合後も続きました。自分の打席の内容や相手ピッチャーの配球、打席で感じたことなどをノートに書き残す作業を行っていたのです。

このノートは試合のたびに、厚みを増して、その分だけ大谷選手の財産となっていきました。

相手の研究とデータの活用について、大谷選手はプロ野球・日本ハム時代と比べて、こう答えています。

プロ野球・日本ハム時代の大谷選手

大谷選手

いままでは、あまり考えるタイプではなかった。自分がしっかりやってきたものを出せば、負けないと思ってやってきたので。


どちらかというと、身体的な部分で勝負してきたところが多いのかなと思っていた。


やっぱり、それだけでは補えない部分があったりして、いっぱいデータがあるなかで、それを活用しない手はないなと思った。

大リーグで初めて経験した158キロのボールを投げる左ピッチャー。

当たり前のように155キロ前後のボールを投げる先発ピッチャーたち。

手元で微妙に変化して芯を外されるボール。速くて鋭く変化するボール。

経験したことがない課題に対処しつづけることが必要でした。

大谷選手

日本にいた時より、打席の中でもマウンドでも、その外でも、やっぱり考える時間はすごく長いのではないかと思います。

選手として経験した壁を乗り越えるため、試行錯誤を繰り返した1年。

そこにも、野球選手としての成長を求め続ける姿がありました。

「周りの人がすごく落ち込んでいたから」~失望と2本のホームラン~

4月1日 アスレティックス戦

4月3日 インディアンス戦

4月6日 アスレティックス戦

4月8日 アスレティックス戦

9月7日 ホワイトソックス戦

9月28日 アスレティックス戦

今シーズンの大谷選手を振り返ると、記憶に残るシーンが多くあります。

その中でも取材者として、最も印象に残ったのは、この日の試合でした。

9月5日、テキサス州アーリントン。エンジェルスとレンジャーズとの試合前に、衝撃的な球団発表がありました。

この3日前に、ピッチャーとして先発登板した大谷選手の右ひじのじん帯に新たな損傷が見つかり、医師からは、じん帯を修復するための手術を勧められているという内容でした。

大谷選手はこのけがの前に、右ひじのじん帯を損傷し、およそ3か月に渡るリハビリをへて、復帰登板したばかりでした。

大谷選手はこの診断結果を聞かされ、当然、大きなショックを受けましたが、試合には3番・指名打者で先発出場しました。

じん帯の損傷によってピッチングはできないものの、バッティングには影響がないと診断されていましたが、試合に集中するには難しい状況下でのプレーでした。

しかし、大谷選手は2本のホームランを含む4安打3打点と、これ以上ない結果を残しました。

実は、この日の発表で、大谷選手のピッチャーとしての復帰への過程を見てきた球団関係者や、大谷選手を支える関係者にも大きなショックが広がっていました。

これを感じ取った大谷選手は、「周りの人がすごく落ち込んでいたので、何とかいい活躍をしたい」と考えていました。

暗いニュースを明るいニュースで塗りかえる。強い意志を持って試合に臨み、これ以上ない結果を出しました。

しかし、そのような気持ちの切り替えがすんなりとできたのか、という疑問が残ります。

大谷選手は多くを語りませんが、関係者への取材で明らかになったのは、大谷選手は復帰登板前に右腕・右ひじを気にするそぶりが増えていて、必ずしも万全の状態でマウンドに戻ったわけではなかったということと、ある程度の覚悟もしていたということです。

大谷選手

(右ひじのじん帯損傷は)100パーセント、予想しなかったことではないなかったので。


正直、ある程度は(気持ちの)準備はしてましたし、突発的なけがではなくて、長年の疲労も含めたことなので、ピッチャーなら誰でも準備はしていることではあると思う。


だから正直、そこまで、メンタル的に落ちているっていうことはなかったかなとは思う。

診断結果を受けて、自分の気持ちに対処しながら、周りの状況も把握して試合に出場したこの日。

選手としての高い能力だけでなく、1人の人間としての大きさも見せた日でもあり、その姿は多くのファンの記憶に残っていくはずです。

「喜んで」~24歳の青年の姿~

8月20日、アリゾナ州テンピ。エンジェルスがキャンプを行う施設に大谷選手の姿がありました。

この時、大谷選手は、右ひじのじん帯損傷のけがからの復帰を前に、マイナーリーグの選手と実戦形式で対戦するピッチングに臨みました。

久しぶりの実戦の緊張と暑さの中、厳しい表情でバッターと対戦しました。

この登板を終えて、ベンチに引き上げた直後。

ピッチングを見守っていたマイナーリーグの選手やスタッフたちが、時の人である大谷選手に次々と記念撮影を求めました。

大粒の汗をぬぐいながら、次々と写真に収まる姿は、飾らない24歳の青年でした。

また、ある日の試合後。大谷選手が飲食店で食事を済ませたあとに、居合わせた人たちが控えめに「記念撮影いいですか」と声をかけました。

「喜んで。いいですよ」と気さくに応じる大谷選手。球場で見る姿とは別人のような姿がありました。

選手たちが試合の前後を過ごすクラブハウスでも、大谷選手はグラウンドとは別の顔を見せます。

チームメートや球団スタッフと笑顔を交えながら談笑することが多く、ときにはクラブハウス内に響くほどの笑い声も聞こえてきます。

大リーグでプレーした日本選手の中には、言葉や習慣の違いなどがある中で、チームに溶け込めずにシーズンを過ごしたケースもありましたが、大谷選手の場合は、その心配は不要でした。

マイク・トラウト選手

マイク・トラウト選手など、「先輩」にあたる選手たちから話しかけられることも多く、それに答えて自然とコミュニケーションの機会となります。

スペイン語圏の出身の選手たちにもよく話しかけられ、簡単なスペイン語でコミュニケーションを取る。

大谷選手が24歳とほかの主力選手よりも若いこともあり、かわいがられるキャラクターとなっているのです。

大谷選手は今シーズン、選手としては近寄りがたいほどの存在感がある一方で、普通の青年の顔も見せていました。

シーズン終了後に右ひじの手術を受けたため、来シーズンはバッターとしての出場に限られる見通しで、10月中旬からはリハビリに取り組みはじめています。

この苦境を乗り越えてどのような姿を見せてくれるのか。いまから楽しみです。

雁田紘司

アメリカ総局 記者

                   
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