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2018年10月12日(金)

自転車界を震かんさせた「機械ドーピングとは!?」

皆さんは「機械ドーピング」という言葉を知っていますか?ドーピングというと禁止薬物を摂取するイメージですが、いま自転車界で新たなドーピングが問題になっています。

その実態と開発の最先端を自転車レースが絶大な人気を誇るフランスで取材しました。
(スポーツニュース部 国武希美記者)

機械ドーピングとは

いっけん普通に見えるこの競技用の自転車。

自転車のボディの内部に、手のひらに収まる小さなモーターが取り付けられています。

モーターを動力に、競技大会で速く、そして楽に走るのが「機械ドーピング」です。

操作はハンドルにある小さな隠しスイッチで行います。スイッチひとつでモーターはオフに、もう一度押せばオン。

ハンドルにある小さな隠しスイッチ

簡単な操作でペダルの駆動を変化させます。モーターを取り付けても自転車の重さは1キロ弱しか増えません。

自転車界に衝撃!初の逮捕者

去年10月、自転車界に衝撃が走りました。機械ドーピングで初の逮捕者が出たのです。

フランスのアマチュアの大会で優勝した選手の自転車から隠しモーターが見つかり、選手は詐欺罪で逮捕、起訴されました。

私たちは、この事件の捜査を担当した、フランスのアンチドーピング機関のクリストフ・バッソン広域参事官に話を聞くことができました。

バッソン氏は、ここ数年「機械ドーピング」が競技大会で横行している恐れがあると指摘します。

クリストフ・バッソン広域参事官

私が摘発したアマチュア選手はモーターを3000ユーロで購入していました。無名の選手が急激に成績を上げるようになったため、機械ドーピングをやっているのではと疑いはじめ、関係者に話を聞くなどして徐々に確信を得ました。


大会当日は、レース直後に彼を呼び止め自転車をすべて分解すると、小さなモーターが出てきました。初の逮捕者だったのでフランスのメディアも大騒ぎになったのを覚えています。


しかし、プロにははるかに大きな資金力があり、より小型のモーターを購入できます。そうすることによって、何億も稼ぐことができるのですから。たくさんの動画などから、機械ドーピングはもっとあると考えています。

ツール・ド・フランスでも対策始まる

ツール・ド・フランス (2009年)

100年以上の歴史を誇る、自転車界最高峰のレース、「ツール・ド・フランス」。世界30億人が熱狂する伝統のレースで、人気はサッカーのワールドカップやオリンピックに匹敵するとも言われています。

このツール・ド・フランスでも、ことし、機械ドーピングの新たな対策が始まりました。

レースを終えた選手たちは、自転車に乗ったまま係員に連れられて、観客やメディアが入ることができない柵で覆われた通路に入っていきました。

そこにあるのはX線を使った検査室。検査室の中に自転車をおよそ2分いれ、くまなく調べます。

特別に検査室での検査の様子をデモで見せてもらいましたが、空港の手荷物検査のように、中の機械の仕組みがよくわかるようになっていました。

およそ3週間続くレース。毎日、5人から10人の選手の自転車が、この検査を受けました。

国際自転車連合の機械ドーピング対策官

この検査を導入した国際自転車連合の機械ドーピング対策官は、「これまではこの機械はなかったので、不正はあったかもしれません。しかし、この検査によって不正をしたい者には圧力が強まりました。罰を受けるリスクが高くなるからです」と自信を示しました。

開発・手口と対策はいたちごっこ

いったい、どんな人がこのモーターを開発しているのだろう。私は、自転車のモーターを開発したというハンガリーの男性を見つけることができ、本人とコンタクトを取ることに成功しました。

すぐに会って話を聞きたいというと、滞在していたフランスのカンヌで会うことができました。

ステファノ・ヴァルジャスさん

そこにいたのは、Tシャツに半ズボンのラフな格好をした男性、私を笑顔で出迎えてくれました。

怖い人ではないか、と身構えていたので少し拍子抜けしたことを覚えています。

ステファノ・ヴァルジャスさん

一般の人も競技用の自転車に親しんでもらおうと、20年前に内蔵のモーターを開発したそうです。しかし、これが徐々に競技の世界で「機械ドーピング」として広がっていきました。

「当初は持病がある人や、足に少し障害がある人にもスピードを出して、自転車を楽しんでほしいと思って作った」と話したヴァルジャスさん。

その上で、「この機械を試合で使えばもろ刃の剣となる。だからもう、これはレジャー目的に限定して使った方が良い」と話しました。

しかし、取材をすすめる中で、ヴァルジャスさんは、「良いものを見せてあげるよ」と言ってカメラの前に最新のモーターを出してきました。

ペダルの近くではなく車輪に直接仕込む特殊なスタイル。あたかも、X線検査をかいくぐるために開発されたようなものでした。

そこで、わたしはヴァルジャスさんに機械ドーピングに関わったことがあるのか、ダイレクトに質問をぶつけてみました。

ヴァルジャスさんは「わたしはこの問題には関係ありません。わたしの問題ではない」と明確に否定しました。

そこで「あなたは道義的責任を感じませんか?」と聞くと、「いいえ、道義的な責任は感じません。問題はどう使うかなのです。使うか使わないかは選手次第ですから」と答えました。

取材を通じて、こうした技術開発が続く限り機械ドーピングはなくならないのではないかと感じさせられました。

東京オリンピックでも

東京オリンピック・パラリンピックでも自転車のロードレースが実施されます。

コースも決まり、開幕まで2年を切りました。国際自転車連合は、自転車のドーピング検査を、東京大会でも実施するとしています。

それでも手口と対策は、まさに「いたちごっこ」。専門家はさらなる対策が必要だと指摘します。

クリストフ・バッソン広域参事官

未知の機械ドーピングの方法、もしかするとスクリーニングをかいくぐれる方法があるかもしれません。


スクリーニングだけではなく、自転車を解体しても良いと思う。専門家を動員して、自転車を解体して調べ上げるくらいのことが必要なのです。ドイツでは、動画解析で機械ドーピングを調べる手法の開発も進められています。方法はいくらでもあるんです。

フランスのアンチドーピング機関のクリストフ・バッソン広域参事官は、さらなる対策の強化を訴えています。

ランス・アームストロング氏

ツール・ド・フランスで、7連覇を達成したランス・アームストロング氏がドーピング違反で自転車界から永久追放されたのは2012年。

その後も「自転車競技の世界にはドーピングの文化があった」と告白する元選手や関係者が相次いだ過去があります。

今回、形を変えた新しいドーピングの一端を取材して、ドーピングに関わるのはごくわずかのアスリートだとしても、スポーツ界全体がもう一度「スポーツマンシップ」という言葉の重さを考えなければいけないと強く思いました。

国武希美記者

平成22年入局 
金沢局、鹿児島局を経てスポーツニュース部。現在、IOCや国際競技団体などを担当。年の半分はパリに駐在し、海外から見たスポーツのいまを切り取る。

                   
※NHKサイトを離れます

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