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2018年9月28日(金)

女子バレー世界選手権直前!中田久美監督インタビュー 後編 ~心に火を点けろ~

バレーボール女子、日本代表の中田久美監督。
15歳で代表デビュー、天才セッターと呼ばれロサンゼルスオリンピックでは銅メダルを獲得しました。
去年、満を持して代表監督に就任したものの、アジア大会ではまさかの4位。

東京五輪まであと2年。サンデースポーツ2020では大越健介キャスターが中田監督にインタビューしました。
この記事では、そのインタビューを未公開部分を含めて前後編に再構成。
後編では若い世代をチームに組み込む中で、いかに選手たちを「育てていく」のか。中田監督の指導論を語ってもらいます。

若い選手たちを見守る目線

取材に訪れた9月。インタビューの前に代表チームの練習を見させていただいた。
アジア大会と世界選手権の間という難しい時期の合宿ながら、ピンと張った緊張感を感じると共に、指導する中田監督の姿は、若干イメージと違う部分もあった。
あまり選手に声をかけず、じっと見守る場面が印象に残ったのだ。

練習を見守る中田久美監督

大越健介キャスター(以下、大越)
大変失礼な言い方ですが、中田さんは、よく「闘将」と言われて、僕も過去いろいろな映像の中で、中田さんの厳しい、叱咤の声であるとか表情が印象にあったので。
今日は、我々に公開されている練習が比較的メニューも軽めだったせいなんでしょうか。中田さん、非常にリラックスして、選手をじっと見守ってる印象があったんですが、それは中田さんの普段の指導の姿なんですか?

中田久美監督(以下、中田)
私は、マスコミの方が来られた時の練習では、大体しゃべんないです。

大越
(笑)

中田
そりゃそうですよ(笑)

大越
なるほど。今日は選手たちの心の内をよく見ていたと。

中田
ただ違いを見逃さないっていうことに気をつけています。
良くも悪くも選手の変化を、自分の中で把握しておきたくて。

選手の誕生日を全員で祝うなど、チームのあらゆるところに目を配る


大越
重大な変化があった時は、やっぱり監督の直接的な対話とか指導が入るわけですか?

中田
入ります、入ります。もう練習やめさせるっていうか、止めちゃう時もありますし、それこそチーム全体を休みにしちゃう時もあるし、そこは見逃さないようにしてます。


中田久美監督率いる女子バレー日本代表。その多くは平成生まれの20代の選手たちだ。
かつて、猛練習を繰り返し、無心で世界のトップを目指した中田監督たちの世代とは、様々な意味で考え方に違いがあるはず。
指導者として、中田監督はどのようにチームに関わっているのか聞くと、スポーツの枠にとどまらない「若者との向き合い方」への考えが返ってきた。

情報があふれる時代のアスリートたち

大越
今の選手たちとは、失礼ですが親子ぐらいの年齢の違いがありますよね。
ご自身が現役だった頃と、今の選手たちで、ある種の気質というようなものの違いがあるとすればどういうところでしょうか?

中田
私たちの時は選択肢があまりなかったし、情報がなかったので、見える範囲が良くも悪くも非常に狭かったと思います。
ある意味、集中ができたけど、今はやはり時代の流れと共に色んな情報が手軽に入ってくるっていう意味では、色んな選択肢が良くも悪くも見えるんだと思います。
だからなおさら、選手の自立だったり、考え方だったりを、指導者がしっかり誘導しないとたぶんブレちゃう

若い選手をどう導くか、模索を続ける

大越
情報が氾濫する中での選択とおっしゃいましたが、情報とはバレー以外のこともですか?

中田
そうですね。バレーも含めて全部です、良くも悪くも。
でも、それが力になることももちろんあるし、わかんないことがあったらすぐ調べられるし、世界の情報も入ってきやすい。でも逆に私たちの情報もたくさん外に出てるわけで。
だから状況判断だとか、自分の立ち位置だとか、「自分」をしっかり持ってないと相当大変だと思います。

大越
自立をするのは以前の時代よりも大変・・・

中田
私は現役の時に、そこまで「外」を気にしたこともないですし、もっとバレーに集中してたと思います。それができる環境でもあった・・・まあ、そういう時代だったんだと思いますね。

「覇気」が足りないという選手たちへ

私が中田監督たち女子バレー日本代表に夢中になった時代、今でも印象に残っている姿がある。
試合の中で、1球ごと、1ポイントごとにコートの中心に集まり、自分たちで自分たちを鼓舞する姿だ。
日の丸を背負い、全力で世界に立ち向かう。その気持ちをまるで体現するかのようで、他の国にない、日本チームの凄さのように感じていた。まさにその中心に、「中田久美選手」はいた。

10代で日の丸を背負った選手時代の中田久美監督

しかし、翻って現代表チーム。
アジア大会で中国相手にミスから流れを持って行かれ、そのまま敗戦してしまった姿を見て、いちファンとして、どこかもどかしい気持ちを感じたのも事実だ。生意気なのを承知で、そのモヤモヤを監督にあててみた。

中田
今の選手たちにも、秘めてるものには、すごい熱いものがあると思うんです。
一生懸命で真面目だし。ただ、たぶんその出し方がわかんないのかなって。


そして、インタビューのまさにその日、監督が目にした印象的な出来事を教えてくれた。


中田
選手たちに、「今週取り組む目標とかテーマとか作ったほうがいいんじゃない」って言ったら、「覇気」って書いたんです。

合宿のホワイトボードに書かれた目標「覇気」

大越
「覇気」ですか。

中田
「覇気」って・・・。
っていうことは、自分たちは覇気が足りないって思ってるんでしょうね。
じゃあ、「その覇気って何?」となった時に、今の時代、調べようと思えばいくらでも調べられるじゃないですか。でも、あんまり調べない・・・。
覇気って与えられるものだと思ってるのかもしれないですね。
でも足りないものだっていうことは、わかってるんです。


自分たちにとっては当たり前だと思っていた「覇気」を、今の選手たちにどう伝えるか。どう、選手たちに自ら感じてもらえるのか。
中田監督は、今まさに、時に熱い言葉を交えながら、このテーマへの模索を続けている。

中田久美監督

出来なかったことを出来るために何をしたらいいのか。もっと真剣に考えないとだめだよ!
私がやってあげられることには限界がある。それで悔し涙を流されても、私も困っちゃうよ。
まだ変われる。チャンスがある。変われるときに変わらないと。

心に火を点けろ

大越
みんながひたむきに一生懸命やってるんであれば、それは悪いことではない。
でも、誰かその「覇気」を出すような起爆剤になるような選手が必要ということなんでしょうか。

心に火を点けることを監督は選手に求める

中田
そこに火を点けるのが、たぶん私の仕事なんだろうなとは思うんですね。
ただその、「熱さ」とかって、人から与えられるものでは絶対にないじゃないですか。たぶん内発的なもので、そこにバレーに対しての面白さ、楽しさ、ワクワク感とかがあって、自分の技術を追求しようと思ったときに、自然と熱って出てくるもんだと思うんです。
私が怒って、私に怒られて生まれるものでは全然ないと思うんですよね。
だから、選手たちに、自分の心に火を点ける作業をしてもらいたいんですよ。
そうしないと、たぶん東京オリンピックの時、雰囲気に飲まれちゃいます。

大越
外から監督がバーンと言って、それに対する反発で、一瞬はエネルギーに変えることはできるかもしれないけど、もっと持続的に内発的に出てくるものでないと2020年は乗り切れないと。

中田
それを考えると、練習の中でもう少し、「ギリギリ感」みたいな負荷を選手たちに与えないと、と思うんですけど、そこがちょっと難しいとこなんですよね。

大越
そうですね。

中田
あまり指導で偉ぶりすぎても、問題になっちゃうし。
でも選手にとって、そこで頑張ったことが、間違いなくオリンピックで自分を支えるものになるんだと思うんですよね。そこの追い込み方が難しい。

中田
バレーボールは相手もいるし、ネットもあるし、ボール落としちゃいけないし、同じ状況が2度とない。そこで自分たちの発想力だとか、色んな力が必要になるので、この練習をやれば絶対勝てるというものじゃないんですよね。
最悪のシチュエーションの中でどうやって点数を決めるのかとか、どうやってスパイカーにトスするのかとか、不利な時に点数を取れる選手がたぶん勝負強い選手だと思うんですよ。
そういう負荷をたぶんもっと与えないといけないだろうと・・・なんとなくこのアジア大会を見てて必要なのかなと思っています。

当たり前のことを当たり前に

指導者として、結果が出ない中でどうチームを浮上させるか。そして、世代の違う選手たちに大切なことを伝えるために向き合うか。
そのために、中田監督が大切にしたいのが、バレーの「原点」となる技術だという。


大越
ご自身が全日本でずっと実感されてきた、日本としての良さ、DNAっていうんでしょうかね、それはどういう点だと思いますか?

中田
やっぱり集中力、忍耐力、協調性だと思います。
それを外国人もやり始めてきてるんで、それこそ新しい「日本独自の技」とかを期待される方はいらっしゃると思うけど、あたしは逆に原点に戻ったほうがいいんじゃないかなと思ってます。当たり前にできる技術。

大越
非常に難しいことが、当たり前にできているように見えてしまうような技術っていうことでしょうか?

中田
うん、そうですね、それが本当は一番難しいと思うんですよ、その状況に合った当たり前の技術。

世界に勝つために必要なものとは・・・

中田
例えばボールコントロールですね。強いボールを普通にレシーブに行ったら、すごく高く上がるんですよ。すると次のセッターも上げづらいし、相手のブロックも整ってしまう。そうじゃなくて、ちゃんとコントロールできることが大事で、それが出来れば高く上げることもできる、間を作れることもできるわけじゃないですか。
たぶん日本の技術ってそういうとこだと思うんです。
繊細さだとか確実性とか、それが結局は試合を支配することなのかなと。

大越
選手たちには、そうした原点、1回ちゃんと地に足を付けるんだっていう意識は浸透していると感じますか?

中田
うーん、浸透してると思う時もあれば、まだわかってないなっていう時もあります、もちろん、これは、もう少し時間がかかることですよ。チームを作るっていうのは。
ミュンヘンのオリンピックでメダルを取った時もチーム作りに8年かかってるんです。
モントリオールのオリンピックのメダルだってそうです。
もちろん、私じゃない、もっと優秀な監督さんだったらアジア大会も優勝し、ネーションズリーグも決勝に行き、とできるのかもしれないですけど、今の全日本のバレーボールは、そんな簡単にはいかない。ある程度、精度を高めようとしたら時間が必要です。

大越
ほんと一歩一歩なんですね。時には、転げ落ちてしまったりもしながら。

中田
もういろいろなことが起こるし、日々それが変わるし、女の子の集団だし。いろいろと修正しながら、一人一人の選手に対して向き合いながら、作り上げていくものだと思います。
確かに、負けたらいけないとは思います。
でも、勝ち続けてたら、その修正ができないかもしれないので、もしかしたらもっと怖いのかなって思いますよ。

金メダルこそ「夢」

取材を通して、実は思っていたことがある。
中田監督が、かつて解説者としてテレビに出られていた頃と比べ、若干痩せられたのではないかということだ。
それだけに、女子バレーの代表を率いて東京オリンピックに臨むことの重圧が伝わってくるようだった。


大越
なかなか休まる暇がないですね、この毎日は。もう監督、日本を率いられて1年半ですね。

中田
もうなんか、1年半じゃ足りないぐらいですね。ちょっと・・・この消耗度は、半端ないです。
でも、やりがいのある仕事だと思って、しっかりと頑張ります。


インタビューの最後、やはり聞きたかったこと。
それはやはり2020年東京オリンピックでのメダルへの思いだった。その答えは。

女子バレー 中田久美監督

中田
バレーボール人生の「夢」だと思います。
私はロサンゼルスオリンピックで、銅メダル貰ってますけど、結局、うーん、金メダル以外いらないですね。
そこはバレーボールに関わってる上で、誰がなんと言おうと、私にとってオリンピックは金メダル以外目標にないので、「何色のメダルでもいい」とは思ってないです。
そこは、自分の中では妥協できない。
これがたぶん私にとって最後のチャンスだと思って、やります。



中田監督が持っているのは、「メダルへの思い」ではない。
「金メダルへの思い」だった。

選手として、監督として、日本のバレーボールを牽引してきた「闘将」中田久美監督。
たとえ苦境の中にあっても、その目は力を失っていないように感じた。

2020へとつながる反転攻勢のスタートとなるのか。
9月29日、いよいよ世界選手権が始まる。

大越健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者として活躍した。
キャスター就任はNW9以来、3年ぶり。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながらお伝えする。

                   
※NHKサイトを離れます

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