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2018年2月28日(水)

メジャーリーグの「データ革命」とは?

2017年のメジャーリーグは、シーズンのホームラン数が過去最多の6105本をマークするなど、記録づくめの1年だった。
壁を乗り越える原動力となったのが「データ革命」。
チーム史上初のワールドチャンピオンに輝いたヒューストン・アストロズは、徹底したデータ戦略で頂点に上り詰めた。

データでMLBは進化する

アストロズ ジェフ・ルーナウGM

数学者、物理学者、統計学者といったデータを扱うプロフェショナル達を集めました。その結果、様々なデータを集め、活用することに成功したのです。


シーズン途中まで、アストロズでプレーしていた青木宣親選手。
メジャー7球団を渡り歩いた男も、アストロズは特別だったと語る。

青木宣親選手

ビデオの数が多いのは、アストロズですね、すごく多かったです、もう至るところにあって、悪さできないですね、あれは本当に。フライボール革命というのは、ありますけど、実際それを意識してスイングしている人はいました。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

MLB公式アナリストのペトリエーロさん

多くの選手が、データを参考にしています。スタットキャストなどのデータ分析により、プレーが変化しているのです


メジャーリーグでは、データは勝つために欠かせないツールとなっている。
グラウンドには最先端の技術が持ち込まれている。
試合の途中、ベンチの奥で選手たちがパソコンやタブレットを使ってそうしたデータをチェックしている姿を目にする機会も増えた。
そうした目でメジャーリーグ中継をチェックすると、海の向こうで起きているデータ革命を肌で感じられるかもしれない。


革命を起こしたスタットキャスト


2015年、MLBが全球場に取り入れたデータ収集システム「スタットキャスト」。
野球のプレーに関するデータが、最新のテクノロジーによって集められている。
瞬時に表示できる項目は、実に80以上に及ぶ。


データを収集しているのは球場に設置された特殊な装置だ。
そのひとつがボールを追尾する軍事用のレーダー
球速だけでなく、ボールの回転数向きまで細かにわかるすぐれもの。
打者についても、打球の速さ角度など、様々なデータを計測している。
もうひとつが3台のカメラを組み合わせた装置。
グラウンド内での選手の動きを記録している。
野手全員の動きを把握し、守備位置打球までの距離走った速度ルートの効率性など、守備に関するデータが数値化されるようになった。


分析は日々、急速に進んでいる。
アナリストたちは、新たな指標を次々と見つけ出した。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

1年目はデータをとることに精一杯でしたが、今はデータを組み合わせて分析しています。私たちはホームランになる打球速度と角度の完璧な組み合わせを見つけました。守備でも成果がありました。打球の滞空時間や外野手の走行距離を組み合わせ、キャッチできる確率を割り出すことができるようになったのです。


データは選手の意識も変えた。
自分のプレーにどう取り入れるのか、考えるようになった選手が増えているという。

田中将大投手

基本的には数字に出ているので、相手が高い打率を残しているゾーン、相手の打率が低いゾーン、あとは球種もそうですけど、そういうデータはある程度頭に入れながら投げてました。

青木宣親選手

球種の割合とか、あとはアウトコース、インコースどちらが多めに来るとか、それを見て、ビデオでチェックしてます。いかにイメージを膨らますかが大切だと思っているので、自分としてはデータはすごくありがたい。


メジャーリーグで起きている「データ革命」。
科学の力がベースボールを新たなステージへ押し上げた。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

これは新しい波と言えますね。数字が持つ意味をみんなが考えるようになりました。データを活用できるチームが、大きな成功を手にするのです。

フライボール革命の衝撃


ベースボールの醍醐味、ホームラン
2017年、メジャーリーグではシーズンのホームラン数が史上初めて、6000本を超えた。その流れはワールドシリーズでも。1試合8本や延長戦で5本など、これまでの記録が次々と塗り替えられた。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

多くのバッターが、ボールを強く打つだけでなくフライを上げようと取り組んでいます。メジャーリーグでは今、“フライボール革命”が起きているんです。


なぜ、フライボールなのか?
その要因の1つが、守備シフトの普及。打球方向に関するデータ分析が進み、ゴロで野手の間を抜くのが、難しくなったからだ。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

守備に苦しむバッターは、発想の転換をしたのです。“ゴロがダメならフライを打てばいいじゃないか”と。彼らは、打球の角度を重視するようになりました。


打球角度を意識したことで、劇的に変わった選手がいる。
その1人がナショナルズのダニエル・マーフィー選手だ。
2016年以降、打球角度の平均があがり、ホームランの数が20本を超えるようになった。

ダニエル・マーフィー選手

ゴロを打っても長打になる確率は、たったの7%だと知りました。それなら、ホームランを狙ってフライを打つべきだ。


ポストシーズンでの活躍も新しいドジャースのジャスティン・ターナー選手。
かつては控えの目立たない選手だったが、スタットキャスト導入以降、ホームラン数を一気に増やした。
導入前の3年間は11本だったが、導入後は3年間で64本を記録。
ターナー選手は、練習の時から「フライだけ」を打つよう心がけていると言う。

ジャスティン・ターナー選手

飛距離や打球の方向なんて僕にとってはどうでもいいことだ。練習からボールの下を打って、打球を上げることだけを意識している。細かく言えば、27度から33度の間。この角度でボールを強く叩けば、より遠くへ飛ばすことができるんだ。


具体的な角度まで意識するターナー選手は、フライを狙うスタイルに変えたことで、スターの仲間入りをした。


MLB公式アナリストのペトリエーロさんは、フライボール革命は、選手から選手に口伝えで広まっていったと語る。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

彼らのような選手たちが“俺はフライを打つことで変わったんだ”と成功の秘密を周囲に伝えました。ターナーのチームメート、クリス・テイラー選手は、そのおかげで素晴らしい成績を残したのです。


メジャー4年目の昨シーズン、初めてレギュラーの座を掴んだドジャースのクリス・テイラー選手。
過去3年間でホームランをわずか1本しか打っていなかったが、去年は21本
驚くべき躍進を遂げた。
スタットキャスト導入以降、20本以上ホームランを打った打者は、57人から117人と倍以上に増えている。


打球に関するデータ分析は驚くべき打撃指標の発見にもつながった。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

打球速度と角度の組み合わせを分析した結果、バッターが良い成績を残しているスィートスポットを発見しました。私たちは、このゾーンを“バレル”と名付けました。


新しい指標「バレル」。

スィートスポットを図で表すと、時速158キロ以上角度30度前後に集中していることがわかった。
バレルゾーン」に収まる打球は、高い確率でホームランになるのだ。


例えば、打球速度161キロで角度27度のバレルゾーンの打球は、52%がホームラン。
一方、同じ161キロでもバレルゾーンを外れる20度になると、3%しかホームランになっていない。
その差は明らかだ。


「バレル」の申し子と言える存在が、ヤンキースの新星、アーロン・ジャッジ選手。
バレルゾーンの打球はメジャー最多。
52本のホームランを放ち、新人でアメリカンリーグのホームランキングに輝いた。

アーロン・ジャッジ選手

ボールを時計に見立てた時、7時の位置でバットが当たるようにスイングをしているんだ。打球が上がる確率を高くするためにね。


2017年、バレルを象徴する特大の一発を放ったジャッジ選手。
その記録はメジャー最長飛距離150.9m、打球速度190.9キロ、角度28.4度だった。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

バレルは究極の打撃理論です。多くのバッターが、バレルを目指し、ホームランになる角度で打とうとしています。


データで明らかになった理想の放物線。
フライボール革命によって、ベースボールは、新たな時代に突入したのだ。


徹底したデータ主義でワールドチャンピオンへ


2017年、ワールドチャンピンに輝いたヒューストン・アストロズ
球団初の栄冠を引き寄せたのは、時代の一歩先を行くデータ戦略だった。
アストロズ、最大の武器は何と言ってもバッティング
得点はメジャーで1位、ホームランは2位。チームをあげてフライボール革命を実践してきた。
                           
2015年に入団したアレックス・ブレグマン選手。
フライボールを重視する指導が実を結び、急成長した彼は昨シーズン、主に2番や8番を任され、19本のホームランを放った。

アレックス・ブレグマン選手

大学では、ゴロやライナーを打つように指導されたけど、アストロズに入ってからは逆に“フライを打て”と教わりました。その結果、僕もチームメイトも、ホームランが増えていると思います。


昨シーズン、アストロズでは11人が2ケタホームランを記録した。
これはフライボール革命が控え選手にまで浸透していたことを意味する。
アストロズのデータ戦略を進めてきたのが2011年オフに就任したジェフ・ルーナウGM。
当時のアストロズは資金も無く、100敗が当たり前の弱小球団だったという。
そこで彼が活用したのがデータだった。

ジェフ・ルーナウGM

数学者、物理学者、統計学者といったデータを扱うプロフェッショナル達を集めました。彼らは、チームを強くする為にそれぞれの専門分野で力を発揮しています


データ解析チームは、大量のカメラを使って、選手の特徴や状態を把握。
最高のパフォーマンスを引き出す手段として活用した。

ジェフ・ルーナウGM

テクノロジーを駆使し、情報を共有することで選手は成長できるのです。私達はこのモニタリングシステムをマイナーリーグにまで導入しています。


シーズン途中まで、アストロズでプレーした青木宣親選手も、証言する。

青木宣親選手

ビデオカメラの台数が多いのは、アストロズ。ここにもあそこにも至る所にあって、すごく多かったです。悪さできないですね。あれは。


青木選手も驚いた、アストロズのカメラ。
そのレンズは、相手チームにも向けられていた。

青木宣親選手

実際、クセ担当がいたり、球種がわかるだけでなく牽制がこういう時は無いとか、色々なクセを教えてくれました。打撃練習では、バットのグリップエンドにセンサーを付けてバットの軌道がわかるものを使ってます。


選手たちは、測定された数値や軌道を見て、スイングを微調整していた。
最先端のテクノロジーが、チームのバッティングを支えていたのだ。


アストロズ、データ戦略の司令塔ルーナウGM。
彼の本当の凄みは、フライボール革命の先まで読んでいたことだ。
それを表す試合が去年のリーグ優勝決定シリーズにあった。
相手は、メジャートップのホームラン数を誇るニューヨーク・ヤンキース
4点リードで迎えた8回と9回。ピッチャーのマカラーズJr.投手は24球連続で「カーブ」を投げた。


なぜ、「カーブ」だったのか?  


球種別の被本塁打率のデータを見てみると、「カーブ」は他の球種と比べ最も少ない1.3%
球速が遅く、打球速度が出にくいことに加え、変化が大きいことが理由だと考えられている。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

アストロズは、カーブの活かし方をよく理解し、カーブが得意なピッチャーをそろえています。フライボール革命に対抗するには、カーブが有効なのです。


ルーナウGMの就任後、アストロズはカーブの名手達をそろえていた。
たとえばランス・マカラーズJr.投手、コリン・マクヒュー投手、チャーリー・モートン投手。
チーム全体のカーブ平均回転数は2755でメジャーナンバー1。
メジャー平均2498と比べると、その差は明らかだ。

データで手に入れた王者の称号だが、喜びに浸れるのは一瞬だけだとルーナウGMは語る。

ルーナウGM

私たちはどの球種が有効なのか、確かなデータを持っています。空振りが取れ、ゴロを打たせる球種があれば、ホームランを防ぐことができるのです。ただ、優勝したチームは徹底的に研究されます。連覇は楽なことではありません。でも、私たちは既に準備ができています。


アストロズは次のシーズンに向けて、すでに戦いを始めていた。


データ革命は守備指標まで


地面スレスレのダイビングキャッチ。
華麗でダイナミックな守備が、ファインプレーと称えられる。

しかしそれは、本当に良い守備と言えるのか?

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

好プレーに見えるダイビングキャッチも、実は打球への反応が遅れただけかもしれません。ランニングキャッチは、ダイビングキャッチほど華やかでないですよね。でも、守備がうまい為、難しいプレーに見えたのかもしれません。だとしたら、そのプレーも高く評価されるべきです。


ペトリエーロさんが考えたのは、プレーの難易度を数値化すること。
打球の滞空時間」と「野手の移動距離」をもとに「キャッチ・プロバビリティ」捕球確率を割り出した。

例えば、ブルージェイズのセンター、名手ケビン・ピラー選手の守備。
滞空時間4秒15の間に25メートル50センチ移動していたケース。
この数値を縦軸は滞空時間、横軸は移動距離にして表にしてみる。


スタットキャスト導入以来、蓄積されてきたデータによると、赤が濃いゾーンほど捕るのが難しい。
このピラーのプレーは「キャッチ・プロバビリティ」38%と評価された。

「キャッチ・プロバビリティ」でわかるプレーの難易度と実際にキャッチできたかどうか。
2つの要素をもとに生まれたのが守備の指標“OAA”だ。


“OAA”(Out Above Average)。
平均よりアウトを稼いだ数。
守備力を測る新しい指標だ。
例えば「キャッチ・プロバビリティ」5%の難しい打球。
捕ることができれば、0.95分アウトを稼いだとカウントされる。
捕れなかった場合は0.05分のアウトを失ったとされる。

逆に「キャッチ・プロバビリティ」99%の易しい打球の場合、OAAは捕っても0.01しか得られない。
その易しい球を落球してしまうと0.99分のアウトを失ったと評価される。
要するに、難しいフライはアウトにすれば評価が高く、捕れなくてもマイナスは少ない。
一方、簡単なフライは、捕って当然とみなされ、ミスした場合のマイナスが大きくなる。
1つ1つのプレーのOAAを合算した数値が高いほど、守備範囲が広く、安定した良い選手と言えるのだ。


このOAAで脚光を浴びたのが、ツインズのセンター、バクストン選手。
メジャー3年目の2017年、大ブレーク。
ゴールドグラブ賞をはじめ、守備に関する賞を総なめにした。
シーズン合計のOAAは25。
メジャーで断然トップだ。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

OAAの数値がゼロなら、ごく平均的な選手です。バクストンは平均的な選手より、25個分アウトを多くとりました。OAAが高いバクストンは、スピードと技術を兼ね備えた選手と言えます。


元々、足の速さには定評のあったバクストン選手。
8月に打ったランニングホームラン。
ベース1周のタイムは、スタットキャスト史上最速となる13秒85をマークした。
センターの守備でも、持ち前のスピードをいかし、広いエリアをカバーしている。

2016年、バクストンのOAAは10にとどまった。
あと一歩のところで捕れない、惜しいプレーが目立った。
翌2017年は、同じような打球をギリギリでキャッチ。
OAAは15も増えて25に。
一体、何を変えたのか?

バクストン選手は、自身のスタットキャストのデータを分析し、守備力の向上につなげていた。
鍛えたのは「初動の速さ」。
打球に反応する最初の一歩の「ファーストステップ」の時間を短縮していたのだ。

MLB公式アナリスト ペトリエーロさん

バクストンはデータを見て、打球に素早く反応する瞬発力を磨きました。彼はオフシーズンも努力を続け、見事に結果を出したのです。バクストンの真価はスタットキャストのデータをトレーニングに取り入れた成功例と言えるでしょう。


とは言え、OAAは内野手には適用されず、守備の総合的な指標としてはまだ完璧とは言えない。
MLBでは、次のシーズンへ向けOAAを更に進化させるつもりだ。

                   
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