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命をどう守る? 新型コロナと水害危機

2020年6月24日

近年、想定を超える災害に見舞われている日本。記録的な豪雨や巨大台風などによって、甚大な被害がもたらされている。そこに新たに加わったのが、新型コロナウイルスの脅威。水害と新型コロナ。2つの危機が重なる複合災害から、どう命を守るのか?これまでの防災のあり方を見直し、実践的な対策を専門家とともに考える。

2020年6月20日(土)に放送された内容を基にしています。
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水害と新型コロナ 新たなリスクとは?

大阪府を流れる淀川。その流域は全国でも水害のリスクが高いと言われている地域だ。梅雨入り直前から始まった、淀川流域の自治体と国、大阪府が参加する防災会議。専門家からは、行政の枠組みを越えて早急に取り組むべきだという強い危機感が投げかけられた。

東京大学大学院 客員教授 松尾一郎さん

「コロナを絡めた避難計画はまったくできていないと思う。自然は待ってくれない。災害は待ってくれません。人間の都合に関係なく、いつでも起こるんです。」(東京大学大学院 客員教授 松尾一郎さん)

淀川流域の自治体の1つ、摂津市。鳥飼中地区で自治会の防災担当を務めている森義明さんは、地域の住民に避難を促す立場にある。森さんは、水害時の避難場所に指定されている小学校を訪れた。ここには浸水を避けるため、4階の教室などに250人以上が避難する計画だ。しかし感染拡大のリスクが高まる「3密」の状態を避けるためには、1人あたり2m四方のスペースが必要とされている。

教室でスペースを測る森さんと市の職員

「2mって結構すごい距離。」(摂津市鳥飼中自治会 森義明さん)
「そうですね、2m×2mがいりますんで。」(摂津市職員)

1人あたりのスペースを測り直して計算してみると、この避難所に入れる人数は64人。収容できる人数は、計画の1/4になってしまうことが分かった。

さらに病気の人や妊婦など、一般の避難所では生活が難しい人たちの避難先となる介護施設。この施設では、避難者が感染している可能性を考慮して、1機のエレベーターを避難者専用とし、入所者が居住する2階と3階には立ち入れないようにした。対応する職員も別々となる。

新型コロナ前の計画では、水害が迫ってきた時、60人ほどの避難者を受け入れ、食事や入浴などできる限り入所者と同じ環境を提供する予定だった。しかし、それぞれの区域を分けた結果、避難者向けには調理室を使えなくなり、食事はレトルト食品のみ。入浴もできなくなり、体を拭くだけにせざるを得ない。

せっつ桜苑 事業部長 下村宗治さん

「(水害の)被害の方と、コロナのダブルの対策を取っていかないといけない。そのあたりできちんと福祉避難所として機能できるかというと非常に不安がある。」(せっつ桜苑 事業部長 下村宗治さん)

“分散避難”で命を守る

新型コロナによって避難のあり方の見直しが迫られる中、摂津市では、避難スペースの確保を急いでいる。そこで打ち出されたのは、「分散避難」という考え方。これまでの避難所や避難場所に限らず、知人の家や車の中、そして企業の持つ高い建物など、地域の安全な場所をフルに活用しようというものだ。

分散避難の解説図

今、摂津市が分散避難の先として交渉に力を入れているのが、地元の企業。4階建ての本社ビルを持つ機械メーカーが、感染対策をしても100人程度入れるスペースの提供を申し出てくれた。

ただ、もし避難者の中に、感染者が出た場合、企業活動への影響がないかは気がかりだという。

三星ダイヤモンド工業 管理統括部 高部優さん

「有事の際に優先すべきものは皆さんを受け入れることだ、というところは変わりませんが、ただ本当にクラスターが起きたときに、例えば近隣の皆さんからどういうふうな目で見られるかは、不安ではありますよね。」(三星ダイヤモンド工業 管理統括部 高部優さん)

市が分散避難のために、確保を目指しているのは50社。今後の大雨や台風に備え、交渉を加速させていく方針だ。

さらに、地域防災が専門の小山真紀さんは、分散避難には事前の準備が欠かせないと語る。

岐阜大学 流域圏科学研究センター 准教授 小山真紀さん

「災害から身を守るために行ける場所は、地域によっていろいろな場所があると思う。避難場所を考えていく時に、自分なりにどのタイミングで、どこに行くかを考えていくことが必要です。防災のガイドブックの中には、“どのタイミングで・誰と・何を持って・避難するのか”を考えましょう、といったシートが付いているものもあります。こういったものを使って、“自分が行けるところはどこだろう”、“そこに行くんだったら、誰と、何を持っていこう”と、ご自身で考えていただいて、できれば事前に試してみる。試して、さらに考えていただけるといいと思います。」(岐阜大学 流域圏科学研究センター 准教授 小山真紀さん)

また、NHK社会部で災害報道を担当する金森デスクは、事前に地域の災害リスクを知っておくことが必要だと指摘する。

「(避難をする)私たちの立場で考えると、“分散避難”をするうえでまず大切なのが、自宅やその周辺の災害のリスクを知ることです。ハザードマップなどを見て、浸水や土砂災害など危険性を把握する必要があると思います。ただ中小の河川など、リスクがハザードマップに載っていないという場合もあります。住民だけでこうしたリスクを把握するのは限界があります。ですので、行政側もハザードマップなどに載っていないリスクを、細かく示していく努力も必要だと思います。災害のリスクと、感染のリスク。どちらを優先するのか判断は非常に難しいんですが、迷った場合は一時的でもいいので災害のリスクから逃れるために、ためらわず避難所や避難場所に行ってほしいと思います。」(社会部災害担当デスク 金森大輔さん)

避難所での対策1 ゾーニング

2018年7月の西日本豪雨で、1400人が避難をした広島県呉市。山の斜面に建つ家が多く、大雨の際には土砂崩れの恐れがあるため、避難所の整備が急がれている。その中の、ある避難所をモデルに、避難所での新型コロナ対策を専門家とともに検証した。

まず重要なのが、入り口で避難者の体調を確認するための問診票。これは誰でもチェックができるよう、簡単に分かる質問内容で作ることが大切だ。この問診票に記入してもらい、少しでも体調に不安のある人は準備された小部屋などに移動してもらう。

呉市で準備した避難所での問診票

体調に問題がない人たちは、これまで通り大部屋へ。大部屋には感染症対策として、高さ2m弱の間仕切りを準備。避難者同士の不要な接触を防ぎ、プライバシーを守ることもできる。

呉市で準備した避難所内での間仕切り

さらに最近多くの自治体が避難所に導入している、段ボールベッドも感染症対策として有効だ。雑魚寝を防ぐことで、床に落ちた飛沫との接触を防ぐことができる。

段ボールベッド

こうしたゾーニングを行うことを前提としたうえで、避難所内では、トイレやドアノブ、手すりなどの共用部の消毒と、避難する人たち自身のマスクの着用は必須となる。

避難所での対策2 換気

次に忘れてはいけない大事な要素が「換気」だ。2か所を開ければ室内の空気を十分に入れ替えられるが、暑さが厳しいこれからの時期は冷房が必要なため、窓を開けることもままならない。夏場の避難所の換気を、どうすれば良いのか。

避難所を閉め切っていると空気が淀み、会話などによりマイクロ飛沫が長い時間室内を漂う。ここにウイルスが含まれていた場合、感染のリスクとなる。

室内を漂うマイクロ飛沫

そこで、対策を検討している東京工芸大学の山本佳嗣准教授が有効だと考えているのが、「置換換気」だ。汚れた空気を新鮮な空気で下から上へと持ち上げ、天井近くの換気扇や小さく開けた窓から排出するという方法で、病院の手術室など、綺麗な空気が必要な場所で使われている換気法だ。

東京工芸大学 山本佳嗣准教授

置換換気 体育館での実験の様子 撮影 山本佳嗣教授

「置換換気」を避難所でも簡単に実現するため山本さんが考案した秘策は、まず送風機とホームセンターで手に入る園芸用のビニールの筒を用意する。ビニールの筒の上部に空気を通すための穴を複数あけておく。送風機とビニールの筒をつなげて風を送ると、開けておいた穴から上方向に空気が出る。

置換換気 マイクロ飛沫の様子 撮影協力 カトウ光研

その効果を実験で検証したところ、筒から吹き出した風が、人が吐く息に見立てたスモークを上方向へ押し上げていることがわかった。スモークは横に広がることなく上昇し、天井の換気扇に吸い込まれていった。実際の体育館で実験してみても、複数台設置すれば密閉空間でも効率的に置換換気できた。

避難所での対策3 感染の疑いが濃厚な人への対応

もし、避難所内で感染の疑いが濃厚な人が出た場合、必要となるのは「隔離」だ。

「隔離」を行う上で準備する部屋は3種類。1つ目は、避難所で抗原検査を行って陽性の人が過ごす部屋。2つ目は検査では陰性だったものの、熱や味覚障害が出ている、感染が疑われる人が過ごす部屋。そして3つ目は、これらの人に濃厚に接触した人が過ごす部屋だ。

避難所での隔離には3つの部屋を用意する

さらに、感染者をどこの病院へ搬送するのか。感染者を判別するための検査キットはどこで、どう確保するのかなど、あらかじめ医療機関や保健所と連携しておくことが欠かせない。また感染した人への差別の問題も懸念される。その問題について小山さんは、命をどう守っていくか考えるのが最も大切だと語った。

「(新型ウイルスへの)恐怖はあるかもしれないけれど、ひょっとしたら自分もそうなっていたかもしれない、と。拒否ではなく、そこにある命をどう守っていくかという方向で考えていくのが一番大事だと思います。(さまざまな事態は)起きてしまってから考えるのでは遅いので、引き出しを事前に作っておくということも合わせてやっていってほしいと思います。」(岐阜大学 流域圏科学研究センター 准教授 小山真紀さん)

早い段階で避難するための最新予測システム

これまでも災害が起きるたびに指摘されてきた、避難の遅れ。今回は新型コロナの感染への懸念もあり、さらに避難に迷う状況が想定される。現段階では、気象庁から発表される気象情報が避難を判断する際の目安となるが、新たな予測システムの開発も進められている。

その1つが、現在実証実験が行われている“線状降水帯”の発生リスクを予測するシステムだ。水蒸気量や上空の湿度、上昇気流の速さなど6つの条件を重ね合わせて解析することで、最大15時間前に局地的な豪雨の危険性を自治体にメールで知らせることができるという。

実証実験に参加している自治体の1つ、福岡県の東峰村。2019年8月には、予測システムからの局地的な豪雨の危険性を知らせるメールを受け取り、その時点では雨は強くなかったものの避難の必要性を認識。住民に早めの避難を呼びかけたことで、大きな被害を防ぐことができた。

いま、システムを研究するチームは予測の精度をさらに上げ、自治体の的確な判断につなげられるように改善が続けられている。

SIP 線状降水帯観測・予測システム開発 研究責任者 清水慎吾さん

「私たちの目標としては、逃げ遅れをゼロにする。これが大きな目標。」(SIP 線状降水帯観測・予測システム開発 研究責任者 清水慎吾さん)

災害復旧にも感染リスクが

新型ウイルスの影響は、私たちの避難のあり方だけでなく災害時の復旧作業にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

昨年(2019年)は台風15号の影響で、千葉県などを中心に停電が相次いだ。さらに水道や下水道の復旧が遅れれば、感染対策などにより大きな影響を与える可能性がある。1000万件以上に都市ガスを供給する東京ガス。豪雨や巨大台風への警戒に加え、いま取り組んでいるのが徹底した感染防止対策だ。ガス漏れなどに現場で対応する作業員はもちろん、ガス供給の中枢を担う24時間体制の指令センターでも、同時に入室できるスタッフの数を制限し、密集を避けた異例の体制で運用が続けられている。

東京ガス 東部ガスライト24 坂本忠男所長

「どのような状況になっても、お客様の安全、そして作業員の安全を守り続けるために、さらに気を引き締めて業務を進めていきたい。」(東京ガス 東部ガスライト24 坂本忠男所長)

では、私たち住民の側にはどのような備えが必要なのか。

災害への備えイメージ図

万が一被災した場合、すぐに支援の手が届かないことも想定して、最低3日分。できれば1週間分の食料や水を備蓄。また医療機関にかかれない可能性もあるので、疾患のある人は薬を多めに常備する。そして感染対策のためのマスクや消毒液。さらに懐中電灯、ガスコンロ、スマートフォンの充電器なども用意しておく。そして肝心なことは、備蓄品を2階以上など浸水しにくいところに置いておくことだ。

感染と災害のリスクに向き合うには?

災害が起きた場合の避難先の確保や、避難所での感染拡大防止対策。さらに被災地の復旧作業も、新型コロナウイルスの影響で変わらざるを得ない。その中で、国や行政はどのような役割を果たすべきか。NHKの金森デスクは、今回の問題を日本の防災対策の課題を解決するきっかけにできないかと語った。

社会部災害担当デスク 金森大輔さん

「これまで国は、行政は災害が起きた後に全力を尽くします、という言葉をよく使っていました。ただ私は、災害が起きる前の時点から、できることは全力でやってほしいと思います。ただ災害は水害だけでなく、火山もありますし、地震や津波などもあります。多種多様です。自治体も苦慮しているところだと思っています。災害が多発する日本では、これまでも避難所が少ないということや、避難所の劣悪な環境、避難の呼びかけを強くしても避難に結びつかないという現実があり、課題が山積みでした。今回のウイルスの問題は、日本の抱える防災対策の課題を解決するための大きな機会と捉えて、全力で対策を行ってほしいと思います。」(金森デスク)

さらに小山さんは、感染と災害の2つのリスクに向き合うための心構えについて、次のように語った。

「感染リスクを含めて、リスクをゼロにしていくことはできないと思います。起きてしまった時には、そこにある人や物で立ち向かっていかなければいけない。その時には感染リスクをいかに下げながら、今できることを考えていくのか、ということが必要になってくる。ただ何の準備もしていない中で、いきなりその状況に直面してもできることは非常に限られてしまう。なので事前に、自分にできることは、その時には何が必要だろうか、と考えていただきたいです。地域の中には資格を持った人や、専門の知識を持った人が、たくさんいるんです。そこで事前に、避難所をどうしていくのかなども含めて、一緒に相談をして考える。顔の見える関係や、場作りみたいなことができれば、準備もできるし起きた後の連携もできていくと思いますので、ぜひいまから関係性も含めて作っていってほしいと思っています。」(小山さん)

避難のポイント

自分がいま住んでいる場所には、どんなリスクがあるのか。災害が差し迫った時に、どこに避難するのか、いつ逃げるのか。一度考えてみたことでないと、避難する時に行動へ移すことは難しい。水害と感染。2つのリスクから命を守るためにできることを、ぜひみなさんも考えてみてください。


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年6月20日に放送した 「NHKスペシャル 新型コロナと水害危機 ~あなたは命をどう守る~」 を基に制作しています。

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