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令和未来会議 コロナ時代の“仕事論”

2020年6月10日

新型コロナウイルスが、いま私たちの仕事のあり方を大きく揺るがしている。企業の休業などに伴う解雇や雇い止めが急増し、先行きが見えない中で広がる雇用不安。一方で感染対策としてテレワークなどが普及し、働き方の見直しも進んでいる。これからの私たちの仕事は、社会はどう変わっていくのか?第一線で活躍する経営者や研究者、支援者らがオンラインで徹底討論する。

2020年6月6日(土)に放送された内容を基にしています。
「新型コロナウイルス」に関する情報は日々、更新されています。最新の情報はこちらの特設サイトでもご確認ください。

コロナ時代の“仕事論” 今回のテーマは?

日本が直面する課題を議論し、未来への道筋をさぐる“令和未来会議”。今回は「コロナ時代の“仕事論”」と題し、危機の時代を乗り越えるための手がかりを探っていく。議論のテーマは大きく2つ。

・議題1 大量失業の危機 どう乗り切る?
・議題2 コロナ時代の働き方 どう変える?

議論に参加するのは、8人の経営者や専門家たちだ。

8人の組み合わせ写真

サントリーホールディングス社長 新浪剛史さん
東京財団政策研究所研究主幹 小林慶一郎さん
シナモンCEO 平野未来さん
立教大学名誉教授 山口義行さん
大阪市立大学大学院准教授 斎藤幸平さん
マザーハウス代表 山口絵理子さん
NPO法人POSSE代表 今野晴貴さん
漫画家・コラムニスト 辛酸なめ子さん

さらに議論の詳細は、 グラフィックレコーダーの清水淳子さんが絵や図としてまとめた。(放送後、内容を整えました)

グラフィックレコーダー 清水淳子さん

大量失業の危機 どう乗り切る?

大量失業の危機 どう乗り切る?

危機を乗り切る試行錯誤

危機を乗り切る試行錯誤

テレワーク メリットとデメリット

テレワーク メリットとデメリット

テレワーク出来ない人をどう守る?

テレワーク出来ない人をどう守る?

日本の雇用慣行をどう変える?

日本の雇用慣行をどう変える?

待ったなし 大量失業の危機

グラフ 総務省 労働力調査/今後の失業者数の試算 野村総合研究所

最初は懸念されている大量失業について。総務省によると、ことし4月の就業者数は前年の同じ月と比べ80万人減っているという。今後、政府の雇用維持対策が効果を発揮したとしても、失業者は268万人増えるという試算も民間のシンクタンクから出されている。

この大量失業の危機をどう見るのか。まずは大企業を経営する立場から、新浪剛史さんに聞いた。

サントリーホールディングス社長 新浪剛史さん

「私どもは飲食業の方々と大変お付き合いがありましてそれを見ていますと、政府から出ている数値以上にもっと深刻な状況にある。特に休業している方々が大変に多い。しかしながら悪くなっていくということだけを考えるのではなく、ぜひとも“解決策はあるんだ”と悲観的に考えすぎずにやっていかなければならないなと思います。ただ先々なかなか厳しいのは事実だと思います。」(サントリーホールディングス社長 新浪剛史さん)

新浪さんの言葉に、若者の労働・貧困問題に取り組むNPOの代表、今野晴貴さんもうなずく。

「大変に厳しい状況だと思います。これまでにもリーマンショックや東日本大震災等といった危機があると、いつも雇用や貧困という問題が起こってくるわけですが、今回はこの10年間でみてもとりわけ、非常に厳しいと言えると思います。」(NPO法人POSSE代表 今野晴貴さん)

今回、新型コロナウイルスが日本の経済や雇用に与える影響を民間のシンクタンクが試算したところ、実質GDP、失業率、失業者の増加数、いずれもリーマンショックを上回ると見られている。

経済思想史を専門とする斎藤幸平さんは、この厳しい現状をふまえ、経済活動再開のあり方について疑問の声をあげた。

大阪市立大学大学院准教授 斎藤幸平さん

「いまの非正規の方々が置かれている状況は、非常に深刻だと思います。他方でまだ検査数も十分ではない中で、景気がヤバイから出来るだけ早く経済が回復するように、労働者のみなさんどんどん働いて、どんどん消費してくださいという形に戻してしまって本当にいいのか、というのが1つ疑問です。」(大阪市立大学大学院准教授 斎藤幸平さん)

雇用を守れ 政府の対策は?

先週、5月27日に閣議決定された第2次補正予算案。『雇用調整助成金』の1日あたりの上限額が引き上げられたほか、勤め先の資金繰りの悪化などで休業手当が受け取れない人へ国が直接給付する『休業支援金』や、売り上げが大きく落ち込んだ事業者への『店舗の賃料』の一部給付金なども盛り込まれている。

雇用維持・事業継続の対策(第2次補正予算案)

今後の見通しについて、中小企業経営に詳しい山口義行さんは次のように指摘する。

「いま、どんどん仕事が再開されていますよね。しかし安全対策などのために再開しても赤字が続いてしまう(事業もある)。(でも)再開はしているので補助金は出ない、というような形で、ここからますます厳しくなる可能性がある。中小企業はそれをさまざまな借金で賄ってきたんですが、長期化するとさらに借金をしなければならない。そのような状況になって、本当に追い詰められて倒産していくというケースが、この年末くらいから出てくるのではないかと思います。」(立教大学名誉教授 山口義行さん)

政府の対策については、国の諮問委員会のメンバーでもある小林慶一郎さんは次のように指摘した。

東京財団政策研究所研究主幹 小林慶一郎さん

「企業に対する支援策、あるいは家計に対する支援策は、長くやらなければダメだと思います。単発で1回限りでやるというのではなく、できる限り1年くらい支えて。その間に生活を再建する、あるいは転職する、業種を転換する。そういう時間を与えてあげるという政策が必要なんだろうと思います。」(東京財団政策研究所研究主幹 小林慶一郎さん)

AI関連のスタートアップ企業を経営する平野未来さんは、行政手続きの煩雑さについて指摘した。

シナモンCEO 平野未来さん

「行政手続きのデジタル化を、スピード感を高めてやってほしいと思います。例えば今回で言うと、特別定額給付金です。かなり時間がかかっていたり、手続きが煩雑であったり。デジタル関連のサービスには、政府が使えるものも多々ありますので、実際に政府の方々に使っていただけると日本の企業の方々にも、さらに普及が進むではないかと考えております。」(シナモンCEO 平野未来さん)

支援が届かない?いま求められる対策は

緊急電話相談の件数

先週(5月31日、6月1日)に全国の労働組合やNPOが行った緊急の電話相談。383件あった相談のうち、およそ3割にあたる118件は休業手当が一切支払われていない、というものだった。

個人の努力には限界がある中、国による支援が十分に行き届いているとは言えない現状について、自らもアパレルを生産・販売する山口絵理子さんが語った。

「私たちも製造と小売りを両方やっている中小企業なので、本当に状況は厳しい。助成金自体は非常に助かるんですが、そのプロセスの煩雑さによってまだ私たちも受け取ったことはありません。そして(店舗の)家賃ですが、私たちのように30店舗くらいお店がある場合だと、なかなか十分ではないというのが現実です。」(マザーハウス代表 山口絵理子さん)

さらに小林さんは、日本の社会保障制度の問題点について指摘する。

「やはり(政府と個人の)間に企業が入っているという雇用者の支え方が、いまの時代に合わなくなってきているんだと思うんです。ですからどういう働き方であろうと、政府が本当に困っている人には迅速に、個人に資金を支給するような社会保障制度に変えていく必要があるんだと思います。例えば、ベーシックインカムのような考え方ですけれども、そういった社会保障制度を作る必要があると思います。」(小林慶一郎さん)

雇用を守れ 企業の模索

従業員の雇用をどう守るのか、企業でも模索が続いている。全国でおよそ180店を展開する居酒屋チェーンを運営する会社では、従業員の生活を守るため新たな取り組みを始めている。

企業の取り組み

この取り組みでは、会社は社員の雇用を維持するが、支給する額はこれまでの60%に。その減少分を補うため、希望する社員には連携する人手不足が深刻なスーパーや物流などの副業先を紹介。会社に籍を残したまま、副業で収入を得られる環境を整えたのだ。

多くの企業で模索が続く、雇用を守る取り組み。実際に新たな雇用が創出されている分野もある。その一方で、非正規雇用の人々が大量解雇されている現実があることを今野さんは指摘する。

「頑張っている経営者の方がいるということは非常によく分かるんですが、非正規が大量解雇されているという現実もあるわけです。そして休業補償、国が助成すると言っても支払わない企業も現にたくさんあって。そういう中で、経営者がいろいろやってくれるから大丈夫だよといった話では済まないと思うんです。私はもっと制度が運用されるような権利保障がしっかりしなければ、生活や生存はどんなにいいアイディアがあったとしても、多くの人の犠牲がない形では実現していかないと思います。」(今野晴貴さん)

山口義行さんは、中小企業を経営する人たちへの支援について課題をあげた。

「中小企業が、まず会社がどう生き残っていくか、が大事なんですよね。生き残れない、将来性がないと、人を切ってしまうので。そして先の見通しのために、いまの損失を穴埋めするため借金をするんですけど。借金を返せるのかという問題がある。だから私は、中小企業は借金でいまの損失を賄いなさいという政府の考え方は変えて、中小企業にも借金ではなく資本を入れる。つまり返さなくていいお金で会社を立て直す。いまのように苦しいからといって、どんどん借金を積み重ねていけば経営者の心も折れちゃいますよね。どうしても雇用を減らして縮小傾向になってしまうので、もう少し経営者にも未来があるような政策が必要じゃないかと思います。」(山口義行さん)

働き方 どう変える?

専門家会議の提言もふまえ示された“新しい生活様式”。その中で推奨された“時差通勤”や“ローテーション勤務”、そして“テレワーク”。

テレワークの活用について NHKアンケート調査

NHKが国内の大手企業100社を対象に行ったアンケート調査で、テレワークの活用について尋ねたところ、現状を維持するが17.9%、縮小するが10.5%だったのに対し、拡大すると答えた企業は54.7%にのぼった。

4月に出された緊急事態宣言以降、多くの人々が戸惑いながら取り組んだテレワーク。ロスジェネ世代であり漫画家・コラムニストとしてフリーランスで活躍する辛酸なめ子さんは、その課題を次のように指摘する。

「テレワークは便利な面もあるんですが、すべてテレワークになってしまうと、ちょっとした雑談から何かが生まれるとか、対面でお互いのエネルギーを感じたりすることも重要なので、そういったん面では心配もある。また、いま(放送中に)感じているようにタイミングや空気が読みづらいというようなことも問題ですよね。」(漫画家・コラムニスト 辛酸なめ子さん)

一方で、平野さんはテレワークのメリットとして感染症対策と生産性の向上をあげた。

「従業員の安全を守るために、3密にならないような働き方が重要だと思っています。これまでだと数百人が1か所に集まってみんなで仕事をしていた。そういった働き方が当たり前だったんですが、今後はそうではなくなるわけですよね。AIなどの活用で生産性も高くなるわけですし、在宅ワークと併用することによって、3密を避けるような働き方が実現できているのではないかと思っています。」(平野未来さん)

テレワークの活用で生産性を高めることができるという意見。山口絵理子さんは、働く環境がそれぞれ違うことに目を向けるべきだと指摘する。

マザーハウス代表 山口絵理子さん

「まず全体の何割の人が実際にテレワークができるんだろうというのが、非常に重要だと思っています。2割くらいの業種に限られてくるんじゃないかなと思っている。もう1つは(自社に)女性のスタッフも非常に多くいる中で、テレワークの生産性を上げることができるのは家族形態によって、非常に異なってくる。子どもがいるかどうか、そして子どもを保育園に預けられるかどうかによって、1日のうちに集中できるのは4時間、あるいは10分しかないというスタッフも大勢いるんです。その現実にどうやって取り組んでいけばいいのか、ということを本当に議論しなければならないと思っています。」(山口絵理子さん)

テレワークの導入の仕方によっては、労働者にとって不利な状況になるのではないかと、今野さんは懸念する。

「テレワークを導入していくことは、日本の労働慣行を変えていく前向きな要素を持っていると思うんですが、一方でやはり導入の仕方が労働者にとって不利になるケースが非常に懸念されます。これは、これまでの雇用改革、裁量労働等で何度も議論されてきたことなんです。“自律的に働いてください”、これ自体はポジティブなことなんです。だけど自律的に働いているんだから、全部自己責任でやってくださいね、ということで過労死が増えているということが、実は同時に起こっていまして。ですから、どこまでが自分たちの責任なのかということを、しっかりと権利主張していかないといけないですし、そういうことが前提とならないといい制度が作られていかない。前向きな制度だからどんどん進めればいいということではなく、その背後にちゃんと労働者の健康や権利、生存、生活を守るということが大前提にならないとダメだと思います。」(今野晴貴さん)

テレワークをしたくてもできない、いわゆる“エッセンシャルワーカー”として働く人々のリスクを、いかに減らしていく働き方を実現できるのか。そのためには社会の仕組みを抜本的に変えていく必要があるのではないか、と斎藤さんは指摘する。

「リスクを減らしようがない人たち、例えば保育や介護に携わる方々や、農業もテレワークは不可能ですね。だけど本当はエッセンシャルであるにも関わらず、社会における評価というのが非常に低い。低賃金・長時間労働はこうした産業においては蔓延していて、だから恒常的な人不足になっている。この人たちをもっと高く評価するような社会に、抜本的に変えられるのかというのが、ポストコロナの1つの社会的な課題なんじゃないかと思っています。」(斎藤幸平さん)

またPCR検査などの体制の強化が最大の経済対策であり、人々を感染から守る方法だと山口義行さんは語る。

立教大学名誉教授 山口義行さん

「抜本的にはPCR検査をみんなが簡単に受けられるようにしないと、本当の解決にならないですよね。いまのインフルエンザのようにお医者さんに行ってすぐに検査できるようになれば、そうじゃない人は普通に働いてやっていけますから。これが最大の経済対策なんです。特にリモートワークができない人に関しては、そういう体制を早く整えるということが経済をあまり傷めないでコロナと付き合っていく唯一の方法だと僕は思います。」(山口義行さん)

これからの私たちの働き方、生き方は

感染症対策を続けながら経済も動かしていかなければならない難しい状況の中で、今後私たちの働き方、そして生き方はどう変わっていくのか。辛酸なめ子さんは、新たな方向性の1つを次のように語る。

漫画家・コラムニスト 辛酸なめ子さん

「いままで大きな仕事をやるとか、稼ぎまくるということが重視されてきた社会でしたが、そういう所を変えて、もっと地球とか自分を大切にする、そういう方向になってきたのかなと思います。お金がなくても充実できるような社会ですかね。」(辛酸なめ子さん)

山口絵理子さんは中小企業の経営者として「持続可能な社会」をキーワードにあげる。

「私自身も中小企業の経営者として、新しい事業を生むことが非常に重要だと思っています。私たちはコロナの中で新しく、私たちが売ったバッグを回収するという事業を始めたんです。回収して、それをリメイクして新商品にする。ファッション業界やメーカーの未来を考えた時に、私たち作り手の責任として“持続可能な社会”をどういうふうに作っていくか、ということが非常にキーだと思っています。モノの終わり方やお客様が次に気持ちよくお買い物をするためにどう社会をデザインしていくのか、ということにいまは注力しています。」(山口絵理子さん)

またテクノロジーの進歩が急速に広がる中、一人一人が声をあげることの重要性を今野さんは次のように語った。

NPO法人POSSE代表 今野晴貴さん

「テクノロジーの進歩が問題を解決していく。確かにその可能性は高まっているんだと思うんです。ただ労働の歴史を見ていくと、機械にせよ新しいテクノロジーにせよ人類に役立つものになるかどうかは、労働者が権利を主張したかどうかにかかっている。今回の話でも、例えば『テレワーク』も(労働者が)求めなければ、経費がかかるから嫌だと言うことで、3密の状態を放置している会社も現にある。ですからテクノロジーを活用していくにも、まず権利主張がなければいけないですし、いま世界中で新しい労働の形が求められていますが、その中身をめぐって権利主張が始まっています。そのことによって労働者を犠牲にしない、本当に人間の役に立つようなテクノロジーの使われ方が初めて出てくるんだと思います。」(今野晴貴さん)

新型コロナウイルスによる危機で浮かび上がった、私たちの仕事、そして社会の課題。この危機をよりよい社会に変えるためのチャンスにできるのか。令和未来会議では、今後も日本の未来について議論を続けます。


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年6月6日に放送した 「NHKスペシャル 令和未来会議 危機をどう乗り越えるか?コロナ時代の”仕事論”」 を基に制作しています。

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