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“ウィズ・コロナ時代”をどう生き抜く

2020年5月28日

新型コロナウイルスのパンデミック宣言から70日余り。世界経済は再び動き始めた。しかし経済へのダメージは深く、さらに感染の第二波や米中対立といった不確実な要素も多い。コロナと共に生きていくことが求められる“ウィズ・コロナ時代”、日本経済はどうあるべきか。その道筋を知の巨人たちとともに展望する。

2020年5月24日(日)に放送された内容を基にしています。
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グローバル経済 その現状は?

緊急事態宣言が解除され、日本全国でようやく社会経済活動が段階的に再開されようとしている。しかし世界規模での経済への打撃は深く、今後についても厳しい予測が出ている。

日本のGDP、国内総生産の伸び率は4~6月でマイナス21.3%に落ち込むとの予測。アメリカでは過去最悪のマイナス39.6%、イギリスでもマイナス35%との予測だ。さらに国連は新型コロナウイルスによって、ここ最近4年間の全世界のプラス成長分、日本円にして910兆円分がほぼ消えるという事態を予想している。

各国のGDP伸び率の予測

“世界の工場”とも呼ばれる中国は、企業活動をいち早く再開させ急速な経済の回復を目指すが、国内、さらに海外からの受注が激減し、多くの製造業の現場が苦境に立たされている。中国政府は、多くの農村の労働者たちを出稼ぎ先へ復帰するよう促してきた。しかし世界経済の先行きが見えないなか、多くの労働者は職にあぶれ故郷へ帰らざるをえない状況になっている。

中国にとって、最大の輸出先であるアメリカは限定的ではあるが、全米50州で経済活動は再開された。しかし、経済全体の7割を占める消費は冷え込んでいる。その原因は人々の買い控えだ。専門家は、人々が支出を抑える背景にはかつてないほどの失業率の悪化があると指摘する。

エコノミスト カール・ワインバーグさん

「仕事がある人でさえ、いつ失業するか分からないという不安から出費を控えるでしょう。都市封鎖が解除された後も、消費の落ち込みはずっと続くとみています。パンデミックが起きるまでは、個人消費がアメリカ経済の成長の原動力でしたが、それはもう期待できないでしょう。」(エコノミスト カール・ワインバーグさん)

アメリカを襲う、失業の波。4月の失業率は14.7%と世界恐慌以来最悪の水準で、この月だけで2000万人以上の雇用が失われたとみられる。

アメリカと中国。2つの大国が同時に停滞するかつてない事態。この問題が与える世界経済への影響を、エコノミストの武田洋子さんは次のように分析する。

三菱総合研究所 政策・経済研究センター長 武田洋子さん

「影響を3つに分けてお話しします。まず第1に感染が広まった順に各国の需要が蒸発しています。中国ではひとまず収束し生産体制も徐々に回復していますが、ちょうど戻ったタイミングで今度は欧米の需要が落ち込み、中国経済の回復を鈍らせています。仮に欧米が回復局面に入った時に、今度は中国で第2波が起きると、その逆のことが起きかねません。2つ目は供給です。グローバルサプライチェーンにも同様に玉突きの影響が起きます。中国での感染拡大でサプライチェーンの寸断が起き、日本やASEANの製造業に影響をもたらしました。現在は中南米で感染が拡大していますので、今度は北米の製造業に影響が及ぶ可能性もあります。第3は経済安全保障の観点からの保護主義の強まりです。保護主義は近年、強まっていた潮流ではありますが、今回を機に一段と強まるおそれがあります。コロナ危機という大義名分によって、従来は自制していた保護主義的な政策が広がっており、とくに米中の対立が激化し今後さらなる保護主義を招けば、世界経済の回復力を弱める可能性が懸念されます。」(三菱総合研究所 政策・経済研究センター長 武田洋子さん)

さらに武田さんは日本経済、とくに地域経済への影響を指摘する。

「まずは輸出ですね。世界でリーマンショックを超えるような経済損失が発生しますので、輸出の減少は避けられませんし、地域の中小製造業企業にも波及すると思います。第2に、海外の売上減少による企業収益への影響です。第3は、インバウンドの減少よる地域経済への影響です。訪日外国人客数は10年前から約5倍に増えています。日本経済、とくに日本の地域経済にとってもこれが悪影響を及ぼしかねない。世界で感染拡大が続く限り一定の水際対策を続けざるをえませんので、地域の観光業のみならずサービス業全体に対する需要。つまり地域にとっては内需が失われた状態が、長期化する可能性があります。」(武田さん)

新型コロナウイルスの拡大により、浮かび上がるさまざまな問題。なかでも懸念されているのが、米中の対立の深刻化だ。コロンビア大学で教授を務める伊藤隆敏さんは、対立の行方をどのようにみているのか。

コロンビア大学 教授 伊藤隆敏さん

「まず米中対立はコロナの危機が起きる前から傾向としてあり、コロナによって加速されたということだと思います。コロナ危機というのが、ある意味で口実を与えてしまった。そして政治的、あるいは経済的摩擦がどんどん進んでいるということだと思います。それは製造業だけでなくて、テクノロジーの開発、利用、さらにビッグデータの構築というところでも米中対立が激しくなってきました。結果的にアメリカ経済と中国経済のデカップリング、米中断絶ということが起きてきたわけです。中国には『一帯一路』というような形で、どんどん自分の経済圏を広げようという傾向がみられます。これが進んでいくと、本当に世界が米中という大きな塊に分かれて、それぞれ自律的な経済システムが構築されてしまうという危険性があると思います。日本は米中対立のなかでどっちかを取れというようなことを迫られると、最悪だと思うんです。そうではなく、日本とヨーロッパやアジア、太平洋といったところを固めて、自由貿易と民主主義の1つの塊。第三の極を作るということが非常に重要だと思います。」(コロンビア大学教授 伊藤隆敏さん)

世界経済 回復の道筋は?

世界の社会経済活動が段階的に再開されている今、これからどのように経済を回復させていくのか。感染拡大が始まった当初、多くの国では経済の落ち込みは一時的なもので、収束とともにV字回復を目指すとしていた。しかし現在、その実現は難しいと見る専門家が少なくない。武田さんは、世界経済の回復の道筋を次のように分析する。

景気回復の3つのシナリオ

「1つ目は感染の再流行は回避され、今後経済活動を徐々に再開して社会的距離(ソーシャルディスタンス)など一定の抑制を1年程度継続するシナリオです。2つ目は感染の再流行が起き、経済活動の抑制が何度か行われるシナリオです。この場合はアルファベットのU字型の回復が想定されます。3つ目のシナリオは感染拡大が続いてしまい、経済活動の抑制も継続されるというL字型の想定です。とくに問題なのはU字型とL字型のシナリオで、感染の時期が長引くほど中長期的な成長率の低下を招きかねないと思います。失業が長期化し労働市場から退出する人が増えれば、長期的には人的資本の毀損になり、また企業の研究開発やイノベーションが滞れば生産性も低下しかねない。したがって、今、この瞬間に、しっかり感染対策を行うこと。それから企業の資金繰り、雇用をしっかり守ること。これが極めて重要で、今は中長期的な停滞に行くかどうかの分岐点にいるように思います。」(武田さん)

金融市場で何が 世界的経済学者の警鐘

3月、コロナショックの影響により、記録的な値下がりとなった世界中の株式市場。さらに暴落すると見る市場関係者もいたが、その後は徐々に回復。その理由の1つが、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)がおこなった、これまでの常識を超える金融緩和策だ。

3月、FRBは2度にわたって金利を緊急に引き下げ。さらに市場の動揺を鎮めるために国債を無制限に買い入れ、大量に資金供給することを決めた。また民間企業を支えるために次々と打ち出した資金繰り支援策の総額は、2兆3000億ドル、日本円で250兆円にのぼる。

こうしたFRBの動きに、世界中の中央銀行が一斉に追随。金融緩和を長期間続けてきた日本でも、日銀が株式市場に大量の資金を投入し、資産の買い入れを倍増。最大75兆円の中小企業の資金繰り支援策も設けた。

これまでの常識を超える金融緩和が、世界にどんな副作用をもたらすのか。警鐘をならすのは、アメリカで財務長官など政府の要職を務めたローレンス・サマーズ教授だ。

ハーバード大学教授 ローレンス・サマーズさん

「金融政策でできることには限界があります。景気後退の衝撃を和らげ企業の倒産を遅らせることはできても、根本的な解決にはならない。それどころか経済回復の妨げになる可能性さえあるのです。」(ハーバード大学教授 ローレンス・サマーズさん)

日本経済の現状は

世界中がコロナ危機に直面しているなか、実体経済の落ち込みを防ぐためには、個人や企業に対する給付金など緊急的な財政出動は欠かせない。しかし一方で、元手となる債務、国の借金は増え続けている。

GDPに対する政府の債務残高の割合を示すグラフでは、100%を超えるとGDPよりも債務のほうが多いことを意味する。リーマンショックの後、多くの国で増え続けており、とくに日本は最も高い割合で200%を超えている。国は、短期的には大規模な財政出動が必要とされる一方で、将来の財政の健全性についても考慮しなくてはならない難しいかじ取りを迫られている。

各国政府の債務のグラフ

そこで西村経済再生担当大臣に、現在の考えを聞いた。

経済再生担当大臣 西村康稔さん

「今回は経済を無理やり止めることで、感染拡大を防いできました。ですからその間、中小企業を中心に事業を継続していくこと、雇用を守ること、生活を守ること。このために各国とも財政、金融、税、規制改革。こうしたことを総動員して、事業や雇用、生活を守ってきているわけです。財政についても、いま財政健全化とか債権とか、そんなことを考えている場合ではありません。その上で、各国の経済再開が始まっています。日本でも緊急事態宣言が全て解除されれば、今後段階的に経済活動を引き上げていく。しかしその時も、感染拡大を防がなきゃいけない。第2波は来ると思っておいたほうがいいと思いますし、このウイルスはどこに潜んでいるか分かりません。これをしっかりとPCRの体制などで検知し、小さな波をクラスター対策や今後導入する接触確認のアプリなどで封じ込めていく。その上で、やはりグローバル化は絶対に進めなきゃいけない。日本にとっても、各国にとっても貿易によって富を増やしていく。ただこれまで通りにはやれないわけですので、色々と知恵を絞っていかなければいけない。要は質の高い成長をどう確保してくのか。経済再生なくして、財政再建なしということだと思います。」(経済再生担当大臣 西村康稔さん)

“ウィズ・コロナ時代” 新たな社会・経済のあり方は

目の前の成長を追い求め、徹底した効率化を進めてきた資本主義社会。コロナ危機により、それがいま大きく揺らいでいる。資本主義のあり方を見つめ続けてきた知の巨人は、この新たな時代をどのようにみているのか?

コロンビア大学教授 ジョセフ・スティグリッツさん

「経済全体が大きな打撃を受けました。(効率化を優先する)企業の過剰な近視眼的考えのせいです。私たちは予備の病床のない、効率化された医療体制を誇りに思っていました。急激な需要の増加が起きるまでは、とても良いことと捉えていました。しかし私たちは準備不足だったのです。この危機から抜け出すために、持続可能で知的な経済システムを目指すべきです。経済、健康、気候。次に訪れるどのような危機に対しても、復元力があり十分な準備がされた社会に移行するべきなのです。」(コロンビア大学教授 ジョセフ・スティグリッツさん)

コロナと共に生きていくことが求められる“ウィズ・コロナ時代”。緊急事態宣言が解除された後に続く新たな社会や経済のあり方はどうなっていくのだろうか。

三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)アンケート調査」
三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)アンケート調査」

「私も元に戻るというよりは“ニューノーマル”へ移行すると思います。具体的には3つの変容が予想されます。1つ目は『暮らし方の変容』。この春、さまざまな働き方、暮らしの変化がありましたが、問題は人々の行動が単なる我慢ではなく“ニューノーマル”へ変容する場だということです。当社では4月下旬に生活者にアンケートをしましたが、約5割の方々がテレワークを続けると回答していて、コロナ前には戻らないことを前提とした行動変容が一部で見られています。2つ目は『企業の経営の変容』です。どのようなビジネスが社会に要求されているのか、必要とされているのか。真剣に問う必要があると思います。また持続可能な社会への貢献、従業員や地域などさまざまなステークホルダーへの配慮がますます求められるようになっていると思います。3点目は『社会や国のあり方の変容』です。人々の働き方、住む場所の嗜好の変化が、中長期的に『自立分散型システム』へと社会の姿を変えるかもしれません。国レベルでこれまで遅れていたデジタルシフトを、一気に進める必要があると思います。日本が世界に先駆けレジリエント(柔軟性がある)で、持続可能な経済モデル変革することが何よりも大切で、それを社会に示すことができれば世界からも共感を得られると思いますし、それができる国であると思います。」(武田さん)

さらに西村大臣は人々の暮らしが変容していくなかで、政府が果たすべき役割を次のように語った。

「1つ目は私もやはり、オンライン化、デジタル化。これを一気に進めなきゃいけないと思っています。これは日本経済、社会全体で進めなきゃいけない課題だと思っています。2点目は、その一方でそういったことに取り残される人がいないように、包摂的な社会にしていかなければいけないということです。誰も取り残すことなくしっかりとお守りしながら、全体として社会が包摂的で豊かで、そして質の高い成長を遂げられるように政府として全力で取り組んでいきたいと思います。」(西村大臣)

さらに伊藤さんは、“ウィズ・コロナ時代”の政府の役割として、成長分野への支援の重要性を指摘した。

「これから“ニューノーマル”に向かっていくわけです。そこで政府がやらなくてはいけないのは、これから成長分野が出てくる時に、その成長分野に変わっていこうという人の流れ、それから企業の流れを邪魔しないでほしい。エンカレッジ(促進、助成する)する方向に、規制をどんどん変えていってほしいということです。これが“ニューノーマル”に向けて変わろうとする“ウィズ・コロナ時代”の政府の役割だと思います。」(伊藤さん)

スタジオの様子

コロナ危機によって迫られる経済、そして社会の大きな変化。これを新たな仕組み作りや価値観の創造へとつなげていくための「変化への対応力」が、いま求められている。


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年5月24日に放送した 「NHKスペシャル 苦境の世界経済 日本再建の道は “ウィズ・コロナ時代”をどう生き抜く」 を基に制作しています。

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