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新型コロナウイルス 出口戦略は?

2020年5月13日

長期化が予想される新型ウイルスへの対応で、いま問われているのが出口戦略だ。緊急事態宣言が延長され、待ったなしの状況に追い込まれている経済。感染の拡大を抑えながら、どう社会経済活動を再開すればいいのか。制限を緩和し始めた諸外国の対応などを見ながら、日本の出口戦略をさまざまな分野の専門家とともに探る。

2020年5月10日(日)に放送された内容を基にしています。
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停滞する日本経済 その現状は?

4月7日に緊急事態宣言が行われてから1か月あまり。企業の倒産はすでに125件に上り、失業者数は年末までに100万人以上増えるという予測もある。まさに待ったなしの状況に追い込まれている日本の経済。明確な出口戦略が見通せないなか、中小企業のみならず、大企業も先行きの見えない深刻な事態に陥っている。

比較的体力があるとされる大企業の1つANA。現在、国際線は全ての路線で運休・減便し、国内線で通常運行していた55の路線も6にまで減らした。この1か月で、見込んでいたおよそ1000億円の収入が失われたとみられる。

この未曾有の事態を、ANAのトップはどう受け止めているのか。

ANAホールディングス 片野坂真哉社長

「最初は(収束は)5月末と1回置いたんですよ。しかし1か月もしないうちに、これは収まらないということで次は8月末。航空会社にとっては、7月、8月のお盆はコロナが収まっていないと、かなり慎重といいますか悲観的に見ている。(収束が)なかなか見えていない中で、航空需要についても予想が立たない。」(ANAホールディングス 片野坂真哉社長)

緊急事態宣言によって人の動きが大きく制限され、深刻なダメージを負っている航空業界。この影響はどこまで広がっているのか?経済の専門家、矢嶋康次さんは日本経済はギリギリの状況だと指摘する。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次さん

「航空業界もそうなんですけれども、自粛や休業の影響を強く受けた企業はいま売り上げが8割から9割減と、見たこともないような事態に陥っています。5月末の緊急事態宣言解除を前提に、民間エコノミストが出しているGDPの予測は4ー6月期で前期比年率マイナス20〜30%。今までで一番大きなマイナスがリーマンショックの時で、マイナス17.8%でしたから、それをはるかに超えている。そういう意味では、戦後最大のマイナスということを予想しています。これ以上の延長は、倒産や失業が急増するということが多分避けられない状況になっていますので、日本経済の体力にとってもいまギリギリの状況だと言えると思います。」(ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次さん)

感染拡大の危機は回避されたのか?

企業が社会経済活動を再開していくためにも重要な感染拡大の収束。対策の効果は出ているのか?

各国の死亡者数を比較したグラフ。いま、日本では人口10万あたりの死亡者が0.4人。感染爆発の起こった欧米と比べると10分の1以下にとどまっている。

人口10万人あたりの死者数(5月6日現在) データ提供:Johns Hopkins University
人口10万人あたりの死者数(5月6日現在) データ提供:Johns Hopkins University

しかし専門家たちは、医療機関の負担がいまだにギリギリの状況だと分析。なかでも深刻なのは、人工呼吸器などが必要となる重症患者の受け入れ体制だ。重症の患者は入院が長期化する傾向があるため、新規の感染者数が減っても全国で人工呼吸器が必要な患者の数はすぐには減っていかない。

医療体制を崩壊させないために、対策チームが国や自治体に提言してきた『人と人との接触の8割削減』。その目標は達成されたのか?携帯電話のビッグデータを利用した解析が行われた。

渋谷駅の周辺、半径1キロ圏内。10代、20代同士の接触頻度は8割近く減少。しかし30代以上同士の接触頻度は3割程度の減少にとどまった。

東京と神奈川県・千葉県・埼玉県の間における移動は3割~4割の減少

さらに首都圏の各県と東京都の間における人の移動の実態も、詳細を分析。東京に隣接する3県(神奈川県、千葉県、埼玉県)では、日中3~4割しか減少していなかった。

今後、どのように社会経済活動を再開させていくのか。国の対策チームで、国内の感染状況の分析を行ってきた東北大学大学院の押谷仁教授は次のように語る。

東北大学大学院 押谷仁教授

「社会経済への影響を最小限にしながら、ウイルスの拡散を最大限制御していくための解除の方法というのは、流行が拡散していくのを抑え込むよりも、はるかに難しい判断を迫られる。部分解除しても、ある程度(感染は)起こります。ゼロリスクはないウイルスなので、それをどうやって判断するのか、誰が判断するのか。」(東北大学大学院 押谷仁教授)

対策チームで数理モデルを使ったデータ分析を担う、北海道大学大学院の西浦教授は喫緊の課題として子どもたちに関するデータの分析を考えている。海外の論文では、子どもが重症化する可能性は少ないものの、大人と同様の感染リスクがあると示している。西浦教授は、どのようなデータを示せばよいのか、模索を続けている。

北海道大学大学院 西浦博教授

「(学校を)開いた時に、リスクとしてどれくらいあるのかを定量的に知るのが、すごく難しい設定条件です。教育がない状態が続いてしまうのと、低いながらも感染して、一定のレベルで重症化してしまう子もいるリスクを、てんびんにかけた上で、再開を判断してもらわなければいけないのですが、私たち疫学のデータを扱っている者にできることは、そういう点のベースになるエビデンスをためるところまでだと思っています。」(北海道大学大学院 西浦博教授)

緊急事態宣言の解除 いま求められているものは?

緊急事態宣言の解除を決定するための判断基準。いま専門家の間では、どのような議論が行われているのか?専門家会議の副座長、尾身茂さんは次のように語る。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長 尾身茂さん

「感染状況がどうなっているか、重症の患者さんを中心に医療体制がしっかりケアできる体制があるのか。それからPCRなどを含めた、モニターをするシステムがしっかりできているか、ということを中心に考えています。感染状況についてはいろいろな指標がありますが、(1日の感染者が何人なら宣言を解除していいかは)極めて難しい判断で、恣意的に決めるわけにはいきません。しっかりした説明のできる根拠を持った方法でやるということを考えて、5月14日にはお示しできればと思っております。」(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長 尾身茂さん)

さらに尾身さんは、感染症対策とともに社会経済活動をどう維持していくのかを考えるために、経済の専門家からの政府への提言も必要な時期に来たのではないかと言う。

その言葉を受け、政治・行政システムが専門の東京大学の牧原出教授は政治の役割を次のように指摘する。

東京大学 牧原出教授

「この問題は、政府と専門家と市民、この3つがどう結びつくかということが問われていると思います。これまでは新しい感染症をどう抑え込むかが最大の課題でしたから、医療専門家の役割が非常に大きかったわけですが、出口戦略となると、経済あるいは教育など多くの分野が関わってくる。特に長い期間がかかるとなると、地震や集中豪雨といった複合災害の可能性も考えていく必要がある。いろいろな分野を、どう総合的に調整するか、というのが政治の役割だと思います。ところが、これまで政府の説明はどちらかというと感染症の専門家の意見を受けて決定をした、という内容を繰り返してきたのですが、やはり国レベルの専門のあり方については、政府と専門家の間で決定と責任をはっきり分ける。専門家は科学的中立性の下に応答する、政府は決定と責任を行う。その原則をもう一度確認して、制度のあり方を点検することが必要になってくると思います。」(東京大学教授 牧原出さん)

研究が進む抗体 その課題は?

経済活動の再開を決める根拠として、どのようなデータを活用すればよいのか、世界で模索が続けられている。
その1つの指標として、アメリカ・ニューヨーク州では28万人の検査を目指し、4月から新型ウイルスの抗体検査を始めた。一般的な抗体検査のキットの場合、少量の血液成分を垂らすと、わずか15分程度で結果を知ることができる。

抗体の働きイメージ図

そもそも抗体には体内に侵入したウイルスを攻撃し、その活動を止めて体を守る働きがある。一旦作られた新型ウイルスに対する抗体は、その後も体内に残り再びウイルスが侵入した際には再感染するのを防ぐと考えられている。体内に残る抗体を目印に感染の有無を判断できる抗体検査は、新型ウイルスに感染したことのある人がどのくらいいるのかを把握する、重要な手がかりになると考えられている。

ニューヨーク州の抗体検査の結果

ニューヨーク州の抗体検査の結果、感染率は地域によって大きく異なることが分かった。州当局は青で示した感染率が低い地域は、感染拡大のリスクは高くないと判断。5月中に外出制限を緩和する予定だ。一方、感染率が19.9%と高いニューヨーク市は、いま、新しい出口戦略を模索している。

州議会に助言を行っている疫学者のエプスタイン博士。抗体検査は安全に経済活動を再開するための重要な指標の1つだと語る。

ニューヨーク大学 ジョシュア・エプスタイン教授

「感染率が高いと死者も増え悲惨ですが、それだけ病気がまん延しているということです。それは一方で、感染したが深刻な状態にならず回復した人も多くいるということです。そうした人は免疫が獲得できている可能性が高いので、彼らを仕事に復帰させれば良いと考えています。」(ニューヨーク大学 ジョシュア・エプスタイン教授)

エプスタイン博士が提案したいと考えているのが、いま世界各国で検討が進んでいる“抗体証明書”と言われるもの。十分な抗体があれば新型ウイルスに対する免疫力が獲得され再感染しないという考え方にもとづき、抗体検査で陽性になった人に職場復帰を認める。

ただし“抗体証明書”を出すのは症状が重かった人は除外し、軽症だった人に限定すべきだと博士は言う。無症状や軽症で済んだ人の方が、強い免疫力を獲得しているのではないかと考えているためだ。

しかし、新型コロナウイルスの抗体については、まだ分かっていないことも多い。抗体検査の広がりについてWHOのシニア・アドバイザーである進藤奈邦子さんは留意点を上げた。

WHOシニア・アドバイザー 進藤奈邦子さん

「抗体検査に関しては、まず2つの重要な事実が分かっていません。1つは、どれだけ抗体があれば感染を防ぐことができるのか。もう1つは獲得した免疫が、どれほど長持ちしてくれるのか。一応、抗体ができることは観察できていて、重症ならば重症なほど、どうやら高い抗体を作っていること、また中等症の方でもある程度抗体はできていることです。あとは人間以外の霊長類の中のチャレンジテスト、再感染のテストをした場合には、4週間ぐらいの間隔で再感染をさせた場合には感染が起こらないということがわかっていますので、ある程度は感染を防いでいることはわかっています。ただ、感染を測定する測定計もこれから先、精度を調べていく必要があります。こういった点で、まだ私たちとしては“抗体パスポート(証明書)”まではいっていない。ただこの考え方に対しては、将来的に可能性はあると考えています。」(WHOシニア・アドバイザー 進藤奈邦子さん)

各国の模索 学校の再開

経済と並んで、世界共通の課題となっている「教育」。各国ではいま、学校再開に向けた取り組みが手探りで進められている。

国立の研究所が行った調査結果などを基に、子どもに対する制限の緩和が進められているオランダ。4月末には18歳以下のスポーツ活動が1か月半ぶりに解禁。さらに、5月11日からは保育園と小学校を再開し、中学校も6月に再開できるよう準備を進めている。

小児科医で感染症に詳しいブラウニング博士は、オランダ政府の判断は合理的だとしつつも、学校再開後は生徒や教師の感染状況を注意深く見ていくべきだと指摘する。

ユトレヒト大学医療センター パトリシア・ブラウニング博士

「このウイルスについては、まだ確実に言えないことばかりです。現在の知見が実際に学校で通用するか注視するべきです。再び感染拡大が起きれば、また子ども同士の接触を減らすような制限が必要になるかもしれません。」(ユトレヒト大学医療センター パトリシア・ブラウニング博士)

一方、韓国も学校再開に向けて動き出している。まず大学受験を控えた高校3年生だけを登校させるなど、徐々に再開していく計画だ。

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン委員長

「もし学校で1人でも感染者が出たら、爆発的な感染拡大につながらないか懸念しています。まずは高校3年生から始めて問題点が出たらそれを洗い出し、段階的に再開していこうと考えています。」(大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン委員長)

急がれる治療薬の開発 現状は?

世界中が模索を続ける新型ウイルスの出口戦略。その戦略上、重要なポイントとなるのが早期の開発が待たれる新型コロナウイルスの治療薬だ。

アメリカでは、新型ウイルスに感染し、回復した人の血液成分を患者に注射する「血しょう抗体療法」が緊急措置として認可された。血しょうとは、血液の成分の一種。新型ウイルスに感染し回復した人の血液を患者に注射する治療で、回復した人の血液に含まれている抗体がウイルスを攻撃し劇的に改善する可能性がある。しかし一方で、他人の血液成分を体に入れるため他の感染症のリスクなどが伴う。

血しょう抗体療法イメージ図

アメリカ政府は血しょう抗体療法が過去のさまざまな感染症の治療に試され、同じコロナウイルスのSARSやMERSの治療で効果を上げているという実績をもとに、緊急措置として認可を下した。認可からわずか1か月で、全米で治療を受けられる体制作りが急ピッチで進められ、すでにこの治療を受けた患者は7000人を超えている。政府は現在、その治療効果を分析。2か月ほどで発表する予定だという。

さらにこの治療法は、健康な人に行えばワクチンのように感染を予防することが確認され、臨床試験も始まった。ただし、安全性についてはさまざまなリスクがあり、あくまでも緊急的な措置としての活用に止まっている。

日本の出口戦略は?

今後も第2、第3の感染の波が押し寄せてくることが予想される新型ウイルス。長期化を前提とし、今後どのような対策が求められるのか?

経済専門家の矢嶋さん、WHOの進藤さん、政治・行政が専門の牧原さんがそれぞれの視点から、今後の課題と対策を挙げる。

スタジオ

「出口を出られたあとを考えた時に、今までは感染防止と経済活動がトレードオフの関係だったと思うんですけど、同じ方向をできるだけ向けるようにすることが、非常に重要だと思います。経済で最大の問題というのは、第2波が来た時の『休業と補償』の問題です。ここは第2波に備えて政治的に動いていただかないといけないところだと思います。」(矢嶋さん)

「この病気はトップダウンだけではだめですから、ボトムアップをしっかりやっていただきたいと思います。1人ひとりが責任を持って行動し、それを支えるコミュニティが存在する。それを考えて、向き合っていただきたいと思います。」(進藤さん)

「国民の間に自粛疲れだとか不満が相当たまっているのは事実だと思います。これに対して政治が、もう少し信頼を取り戻す必要がある。1つは不満や非難を政治が受け止めるということで、もう1つは透明性の中で意思決定をしているということだと思います。そしてこの先、どこへ向かうのかというビジョン、方向性を政治が向けていく必要があって、それは政府だけではなく、市民社会が専門家の枠を超えてお互いに話し合う必要がある。市民の創意工夫ですね。たとえば新しい生活様式は、市民の総意で作られていくもの。これからどんどん枠付けしていくものだと思います。市民社会の足腰の強さが、試されていくのではないかと思います。」(牧原さん)

緊急事態宣言が解除されても、以前と同じ暮らしをすぐに取り戻すことは難しい。今後も、さまざまな立場の人びとの合意とともに、リスクを負い決断を下していくことが求められる。


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年5月10日に放送した 「NHKスペシャル 新型コロナウイルス 出口戦略は」 を基に制作しています。

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