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感染拡大を抑えながら、経済を守るには?

2020年4月28日

急激に深刻さを増している新型コロナウイルスの院内感染。ウイルスはどのように病院内に入り込み、広がっていくのか。医療崩壊を食い止めるために必要とされている外出の自粛。それがいま、経済の急速な停滞につながっている。感染拡大の防止と経済をどう両立させていけばよいのか。医療・経済それぞれの専門家、さらに新型コロナウイルス対策を担当する西村康稔経済再生担当大臣とともに考える。

2020年4月25日(土)に放送された内容を基にしています。
「新型コロナウイルス」に関する情報は日々、更新されています。最新の情報はこちらの特設サイトでもご確認ください。

深刻化する院内感染 感染の経路は?

各地で急激に深刻さを増している院内感染。その中でも全国最多の新型コロナウイルスの感染者を抱える東京都。

東京都 院内で感染者が判明した病院

東京都内で「院内感染」の疑いがある医療機関が初めて明らかになったのは、2月中旬。その後、3月に3か所、4月に入って一気に10か所。都が報告を受けただけでも14病院にのぼる。
次々と起こる「院内感染」によって、東京都ではすでに10か所の病院が外来診療の休止や制限などに追い込まれた。これまでに、都内の医療機関で感染した疑いのある医師や患者などは、454人にのぼることがわかっている。

ウイルスはいったい、どのように病院内に入り込み、広がっていくのか。その実態が、和歌山県のある総合病院での調査から明らかになってきた。

済生会有田病院

和歌山県、済生会有田病院。2月中旬、医師2人に感染が確認され、さらに3人の患者の感染が判明。(3月4日から診療を再開しています)
県は福祉保健部・技監の野尻孝子さんを中心にただちに調査を実施した。
感染者と病院スタッフ、その家族や友人628人の行動などを調べ上げたところ、見えないウイルスの足取りが浮かび上がってきた。

最も早く肺炎の症状が現れていた患者Aさん。Aさんが最初に病院を訪れたのは1月末。下痢などの症状で消化器外科の受診。この時、すでに新型コロナウイルスに感染していた可能性が高い。
そうとは知らず医師がAさんを診察し感染。その後、この医師から執務室で隣の席だったもう1人の医師にも感染が起きたとみられている。

調査で注目されたのは、感染者Aさんの病院内での行動だ。
下痢などの症状があったAさんは、病院1階にあるトイレを使ったとみられる。その際、十分に手を洗わない状態でトイレ内の設備などに触れていた可能性が指摘された。同じ日に病院にいた患者Bさんは、Aさんが触れた場所に接触。その手で顔に触れるなどして、「接触感染」したと考えられる。

院内感染の経路 イメージ

その後、Bさんは肺炎を発症し、入院。しかしまだ、新型コロナであるとは認識されておらず、新たな院内感染が起きたとみられる。感染が広がった相手はBさんの隣のベッドに入院した患者Cさん。2人が入院した病室はカーテンで仕切られた4人部屋。窓は閉められており、Bさんから他の3人すべてに感染してもおかしくない環境だった。
それがなぜ、Cさんにだけ感染したのか?

院内感染の経路 イメージ図

野尻さんが注目したのは、BさんとCさんを共通してケアしていた医療スタッフの存在だ。ベッドで治療や処置にあたる際、感染者と知らずにBさんに接した医療スタッフに、ウイルスが付着。続けて隣のCさんのケアにあたった際、そのウイルスがCさんにも付着し、接触感染を引き起こした可能性があるというのだ。

院内感染を防ぐには

医療現場で働く人たちが最も注意を払う院内感染の防止。それでもなお感染が起きてしまう現状を、現場の医師はどう捉えているのか。
流行の発生当初から、多くの新型ウイルス患者を診察してきた医師の忽那賢志さんは次のように語る。

忽那賢志さん 国立国際医療研究センター 医師

「新型コロナウイルス感染症は症状がないような人もいますし、どこから入ってくるのか(わからない)。和歌山県の病院では患者さんから患者さんへ(医療)スタッフを介して感染が伝播した、というようなこともありましたけれど、やはり「手洗い」をしっかりする。医療の業界では「標準予防策」というものに含まれているんですが、すべての患者さんに対して行うべき感染対策なんです。1人の患者さんを処置したらその後で手洗いをして、患者さんを診療する前にもしっかり手洗いをする。標準予防策を徹底することが、院内感染を防ぐ上で一番大事なことだと思っています。
これは一般の方も同様です。こちら(背面のポスター)は漫画家の羽海野チカさんが描いてくださったポスターで『みなさん、こまめによく手を洗いましょう』と。いま一度、基本的なことですけれども、手洗いをしっかりとしていただければと思います。」(国立国際医療研究センター 医師 忽那賢志さん)

また忽那さんは、自宅待機中の患者の病状の急変への対応策として、すぐに患者を受け入れることができる医療現場の仕組み作りが必要だと指摘した。

「東京都でいいますとホテルですね。自宅待機ではなく、ホテルに移動していただく。そこで医療従事者の目が届くような環境になってきています。状態が悪くなっている患者さんを早く検知して、早く医療機関に搬送する。その仕組み作りが今後より重要になってくると思います。」(忽那さん)

緊急事態宣言から2週間 対策の効果と今後は?

緊急事態宣言から2週間。北海道大学大学院の教授、西浦博さんは現在の感染者数の状況を、どのように見ているのか?

東京都で確認された感染者数のグラフ

「東京と大阪、福岡。大都市の3つに関して注意深くデータを見ています。ようやく今週末くらいで減少傾向に転じたと考えています。ただし、思っていたほどの減少の速度でないということを少し心配しています。」(北海道大学大学院 教授 西浦博さん)

いま感染はどこまで広がっているのか?
アメリカ、ニューヨーク州で行われた抗体検査では実施したうちの13.9%の人が陽性。州全体でおよそ270万人が感染していると推計されている。

アメリカ ニューヨーク州で行われた抗体検査の結果

日本でも同様に感染は広がっているのか?そして今後の対策のあり方について、西浦さんに尋ねた。

「ニューヨークでは一度、感染者数の爆発的な増加を認めていますので、それと日本の都市部では事情が違います。ただ一方で、市中で広がっていますので、これまで報告されている確定患者数は、全感染者数からすると氷山の一角なんですね。それに関しては今後、抗体検査を実施して全容を把握することが必要だと考えています。
全体的な対策が変わるわけではないんです。いまは社会全体の接触を減らして、まず感染者との接触が追跡できる程度まで減らす。一方で院内感染などが広がることに関して、ケアが必要になる可能性があると考えています。」(西浦さん)

西浦さんは、緊急事態宣言の解除を検討する上で重要と考える点が2つあるという。

「1日あたりの確定患者数が大体10名程度あたりの場合は、東京都内でも接触者は十分に追跡できていたんです。そういったレベルまで、まず(感染者数を)下げたいと考えています。
もう1つの条件は、医療の提供体制です。医療機関というのは、この新型コロナウイルス感染症の患者さんがたくさん搬送されてくるということで、通常よりも病床を多く空けて、受け入れてくださっているんですね。そういったところに過度な負荷がかかってきたんですけれど、余裕を持って受け入れられるような状態にすること。患者を十分にケアできる体制が整うということを見て、いったん行動制限というのは解除できるか検討することになると考えています。」(西浦さん)

さらに西浦さんは、自粛が緩和されていく過程のイメージを次のように語った。

「いま『8割の接触を削減』していただくために、週5日出社されている方が週に1日だけ出社するというようなことをやっていますけれど、それを例えば段階的にまず50%の削減に戻すや、30%の削減に戻すとか。少しずつステップを踏みながら実施していくことが必要だと思っています。」(西浦さん)

危機に瀕する経済と雇用

感染拡大と医療崩壊を防ぐために求められている自粛。それがいま、経済そして雇用に深刻な影響を及ぼしている。

解雇や雇い止め2475人(4/22時点)

いま、増えているのが製造業や小売業、観光業などで働く人たちの解雇や雇い止め。中でも非正規雇用の派遣社員や外国出身の労働者で急増している。

一方で、雇用を維持しようとする企業の側も追い詰められている。
いま全国の労働局やハローワークに「雇用調整助成金」についての問い合わせが殺到している。「雇用調整助成金」は売り上げが減少した事業者が、従業員を解雇せず、休業手当を支給して休ませた場合、国が事後にその費用の一部を助成する制度だ。

その問い合わせ件数11万8千件に対し、支給が決定したのは60件(4月17日時点)。助成の対象となるための細かな条件、そして支給されるまでにかかる時間が足かせになっているという。
西村経済担当大臣は、「雇用調整助成金」と手続きのスピードについて、次のように説明する。

企業への支援策

「『雇用調整助成金』という名前ですけれども、事実上『雇用維持助成金』であります。維持のための助成金ということで、今回最大100%、10割をお出しするということで、4月8日に遡って実施をすることにしております。手続きも1か月ということにしておりますが、もっと早くできないのか、こういったことを含めてより改善をしていきたいと思っています。現場で郵送も含めて、いま受け付けをしておりますけれども、大変混み合っているということも聞いておりますので、こういった制度に詳しい社労士さんですね。社会労務保険士さん。この方々に、実はリーマンショックの時も東日本(大震災)の時も、現場でお助けを頂いてお力を頂いて、相当手続きがスムーズになったという経験がありますので。今回も社労士さんにお願いをして、少しでも早く手続きが済む、進むようにということで、いま協力していただけるということになっております。こういったことを行いながら、出来るだけ早く手続きを進めていきたいと思います。」(経済再生担当大臣 西村康稔さん)

“需要蒸発” 急拡大する倒産リスク

緊急事態宣言は今後、企業にどのような影響を及ぼすのか。
全国147万の企業の財務状況や売り上げなどのデータを調査、分析する会社で行われたあるシミュレーション。

倒産危険企業数 帝国データバンクの資料より作成

「すべての企業の売り上げが50%減少し、国や自治体などによる支援も行き届かなかった場合」を想定してデータを分析。5か月経つと健全な経営を続けていた企業の中にも、立ちゆかなくなるところが出てくる。さらに8か月後には、リスクに備え預金を十分に確保していた企業も限界に。11か月後には、業種や企業の体力を問わず影響が拡大。調査した会社の半数近い60万社以上が、倒産の危機に陥る可能性があるという。

エコノミストの矢嶋康次さんは、現在の状況を次のように分析する。

矢嶋康次さん ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト

「コロナの前の数字ですが、卸や小売業で手元資金がだいたい1か月~2か月。他業種でも3か月ぐらいしかない。3月、4月と売り上げが2か月間、蒸発していますから、資金繰りはかなりギリギリの状態だと思います。今回の場合は自粛ですから、売り上げに該当するものを、公的なものに頼らざるを得ない。つなぎ融資を受けるにも、審査に時間がかかるとか、政府の給付金はまだ手元にないという形になっているので現状の延長線上で考えると、倒産増は避けられない状況だと思います。」(ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次さん)

さらに日本商工会議所の三村さんは、経営者の視点から今後必要となる対策をあげる。

三村明夫さん 日本商工会議所 会頭

「支援策としては、大変幅広く充実していると思うんです。しかしそのスピードが、あるいは運用が非常に難しい。これをなんとか改善しなきゃいけない。
もう1つ思うのが、今までの支援策は1か月程度で、だいたい正常な生活に戻れるという前提での支援策だったんではないだろうか、ということです。5月6日をベースとして、自粛はどれだけ長く続くのか。おそらく一気に元に戻るということはない。(自粛の期間が)伸びるのであれば、その時はもう一度新しい支援策を、新しい立場で作らなければいけないんではないだろうかと思っております。」(日本商工会議所 会頭 三村明夫さん)

追加の支援を求める声に、西村大臣は次のように応えた。

西村康稔さん 経済再生担当大臣

「飲食関係あるいは宿泊関係。それから私たちの心を潤してくれる、生活を豊かにしてくれるエンターテイメント・文化芸術関係。さまざまな方々の切実な声をうかがっております。まずはいま提出しようとしております、補正予算。1日も早く成立させて、直ちに実行に移していきたい。
その中には『持続化給付金』という形で中堅・中小企業、あるいは個人の事業主、フリーランスの方、NPO法人、農業・漁業の方を含めて、200万円、100万円の給付があります。これを遅くとも5月の連休明けにはスタートして、オンライン申請でできるだけ早く支給を行いたいと思っております。
あわせて中小公庫の無利子・無担保の融資。小口資金、500万円以下であれば、すでに取引のある方は2日以内で出すという方針で、原則そういう形で進んでおると聞いております。この無利子・無担保の融資制度は、地域の地銀・信金・信組にも広げますので、窓口が広がります。(それで)1日も早く資金をお手元に届けるようにしていきたい、というふうに思っております。その上で予備費も1.5兆円、用意をしておりますので、これを臨機応変に使っていきたいと思いますし、事態が長引けば当然影響も大きくなりますので、それは状況を見ながら、時期を逸することなく、果敢に対応していかなければならないと、こんなふうに考えております。」(西村大臣)

緊急事態宣言 今後の見通しは?

感染拡大の防止と経済。この2つの難しい舵取りについて、西浦さんは感染防止対策の専門家として次のように思いを語った。

西浦博さん 北海道大学大学院 教授

「感染による死亡というのは大変怖いもので、それに伴う医療崩壊も(懸念される)。(しかし)休業が長く続くと、自殺者が出てしまうようなこともあると元も子もないわけです。
いま厚生労働省で仕事をしていると、どうしても医療に関するシミュレーションばかりが私たちができる限界ですから、経済界の専門性も結集した上で協力関係を築いて、検討を続けていくことが必要だと考えています。」(西浦さん)

最後に西村大臣は、現時点では5月6日が期限となっている緊急事態宣言の解除または継続の見通しについて、次のように考えを語った。

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「来週半ばには、西浦先生から接触についてのさまざまなデータ・分析が示される予定です。そしてまた、専門家の方々は5月6日ギリギリまで、できるだけデータを見たいとおっしゃっておられます。他方、できるだけ混乱が生じないように、前もって考え方をお示しする必要もあると思っております。いずれにしましても、とにかく感染者の数がどういうふうに減ってくるのか。この辺りをしっかりと見極めていきたいと思います。
現段階では、感染者の爆発的な拡大“オーバーシュート”にはなっていない、というのが専門家のみなさんの判断です。ただこの数が減っていると見るのか、横ばいと見るのか、ですね。(人との接触削減が)65%ぐらいですと全然減らないということになってきますので、この8割削減ができているのかどうか。来週半ばの西浦先生の分析もしっかりとお示しをいただいて、判断の材料にしていきたいというふうに考えています。」(西村大臣)


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年4月25日に放送した 「NHKスペシャル 新型コロナウイルス どうなる緊急事態宣言 ~医療と経済の行方~」 を基に制作しています。

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