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新型コロナウイルス 感染爆発をどう防ぐか

2020年4月8日

ぎりぎりの局面が続く、新型コロナウイルス感染爆発の危機。感染者に対応する全国の医療現場からあがる悲痛な声。休校と再開の間で模索を続ける教育現場…。今後、長期化する新型コロナウイルスとの闘いを、私たちはどう乗り越えればいいのか。いま、現場が直面している課題とその解決策を専門家とともに探る。

2020年4月4日(土)に放送された内容を基にしています(「緊急事態宣言」は4月7日に出されました。)
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“感染爆発”は避けられるか

全国の感染者数の図

全国で日々刻々と新型コロナウイルスの感染者が増えている。特に都市部での感染が急増し、東京では4月4日に1日の感染者数が100人を超えた。

国の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長を務める、尾身茂さんは現在の状況を“オーバーシュート”の軌道に入るかどうかという重要な局面だと指摘する。

尾身茂さん。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 副座長 地域医療機能推進機構 理事長

「都市部で感染が増えているなんてものじゃなくて、急増している。さらに、“クラスター感染”がいろいろな場所で起きている。そして心配なのは、リンクの追えない(感染源が特定できない)数が、割合も絶対数も増えています。
爆発的に感染者が増える状態、“オーバーシュート”という言葉を、最近みなさん聞いていると思いますが、“オーバーシュート”の定義は、累積の患者数が2倍になるのに要する時間が2〜3日。つまり2日〜3日で患者数が倍増する、これが“オーバーシュート”が起きている時の状態なんです。」(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 副座長 地域医療機能推進機構 理事長 尾身茂さん)

東京都で確認された感染者数のグラフ

「いまの東京を大まかな傾向でいうと、3月の上旬では2倍に増えるのにかかる時間が10日〜11日ぐらい。これが今(4月上旬)になると4日〜5日。まだ2日〜3日には届いてません。しかし、いわゆる“オーバーシュート”の軌道、この急峻な傾きに入りかけたら困る。文字通り、今がその重要な時期。これからやるべきことは、当然“オーバーシュート”の軌道に入らないで、できればこの傾きを平たく、あるいは下に向けることが求められていると思います。」(尾身さん)

感染の拡大を食い止めるため、政府が「緊急事態宣言」を出すべきという声も各方面からあがっている。「緊急事態宣言」を出す際、助言を行う諮問委員会の委員長でもある尾身さんは4つの点が極めて重要だと言う。

「1つ目は、なぜ『緊急事態宣言』を出さなければいけないかという理由をはっきりさせること。
2つ目は、『緊急事態宣言』を出すことで、何を期待するのか。何を目指すのかを説明する必要があると思います。
3つ目は、感染との闘いに勝利するための急所に、リソースとエネルギーと努力を集中させる。もう1つは、市民にとってどういう意味があるのか。『緊急事態宣言』を出す前と出した後で、何が違うのかということ。
そして最後に申し上げたいことは、これは私の考えですが、今回『緊急事態宣言』が出ても、いわゆる“ロックダウン”、“都市封鎖”ということをする必要はないと私は思います。ただし、ここだけは絶対守ってほしいということと、やってくださいということと、メリハリをつけて、国も都道府県も国民もジャーナリズムも、みんなで精力を費やしてやるということが大事です。」(尾身さん)

さらに尾身さんは、力を注ぐべきポイントがいくつかあると語る。

「1番目は、一般の市民の“行動変容”です。『緊急事態宣言』が仮に出たら、今までよりもっと、国民が責任を持って自分たちの役割を果たすことが大事。
2番目は、『医療を強化する』ということ。
3番目は、早く(感染者数増加の)軌道を下げて、もう一度“クラスターサーベイランス(クラスター調査)”を機能できるようにする、ということが大事だと思います。」(尾身さん)

仮に「緊急事態宣言」が出た場合、人々の暮らしにはどのような影響があるのか。
京都大学の山中伸弥教授が尾身さんに尋ねた。

山中伸弥教授。京都大学iPS細胞研究所 所長・教授、京都大学iPS細胞研究財団 理事長

「もし『緊急事態宣言」が出ますと、いま自主的な判断に任されている例えば飲食店なども、強制的に休んでもらうということが想定されると思います。そうなると補償と言いますか、安心して休めるかということがすごく大切だと思うのです。日本でも手厚い補償はなされるのでしょうか?」(京都大学iPS細胞研究所 所長・教授、京都大学iPS細胞研究財団 理事長 山中伸弥教授)

「国の責任として、施設の使用制限を要請するんだったら同時に経済的な支援をする。そうでないと、ただ一方的に要請をしても実効が伴いませんね。政治的な決断、リーダーシップが非常に重要です。」(尾身茂さん)

“医療崩壊”をどう防ぐ

大都市だけでなく、地方都市にも広がる感染。さらに専門家会議では、爆発的な感染拡大が起きる前に医療現場が機能不全に陥る可能性も指摘されている。全国に416か所ある感染症指定医療機関の1つで、横浜に停泊していたクルーズ船の患者を受け入れた神奈川県立足柄上病院総合診療科医長の岩渕敬介さんに、現場の状況を聞いた。

神奈川県立足柄上病院 総合診療科 医長 岩渕敬介さん

「患者数が増えるにともなって当院の感染症病床、一番安全に診られる病床は満室になってしまいました。今後、感染爆発に対応するためには、感染症病床のみでは対応しきれないので一般の病床でもいかに受けいれるか、という準備を進めざるをえない状況になっています。」(神奈川県立足柄上病院 総合診療科 医長 岩渕敬介さん)

さらに岩渕さんは、現場の窮状を次のように訴える。

「当院は感染症指定医療機関であると同時に、この地域を救急も含めて支えている唯一の中核病院です。災害拠点病院、あるいは救急指定病院として、さまざまな機能があるなかで、現在は感染症にかなりの力を注がなければいけない。ということは、地域の皆さまに対する診療を制限していく必要があるということが問題のひとつです。
さらに当然ですが、院内感染の対策です。まず職員が安全に、安心して院内感染を起こさずに診療することが第一ですので、その体制を病院のみならず、多くの(感染症の)専門家の方々のご意見もいただきながら、短期間で構築しなければいけないというところに非常に課題を感じています。さらに感染防護具ですね。これを安定供給していただくということが、非常に重要になってくる。そこに大きな危機感を持っています。」(岩渕さん)

こうした医療現場の状況を踏まえ、厚生労働省は4月3日にガイドラインを発表。これまで検査で陽性となった人のほとんどは感染症指定医療機関に入院していたが、これからは軽症者や症状が見られない人は、自宅やホテルなどで療養する体制に移行するとした。

厚生労働省のガイドラインによる新しい方針の概要

病床不足による医療崩壊を防ぐための新たな取り組み。しかし、ホテルなどの宿泊施設の確保や、対応するスタッフの感染予防の徹底、さらに症状悪化をいち早くとらえることができるか、といった課題もある。

さらに、医療現場の人たちを厳しい状況に追い込んでいるのが、院内感染のリスクにさらされることによっておこる、もう一つの医療崩壊だ。

その1つが、一般の診療現場に感染していることに気づいていない患者が訪れ、無防備なまま受け入れるケース。その患者に対応した医師や看護師などの医療スタッフは濃厚接触者として、一旦医療現場を離れざるをえなくなる。検査結果が出るまでの間、病院全体の医療スタッフが減ってしまい、結果として医療機能の低下につながってしまうのだ。

医療機関で院内感染が起きると…(イメージ図)

NHKが医師への情報提供などを行っている企業と協力して、勤務医や開業医およそ1000人から回答を得たアンケート。ここにも、院内感染のリスクなど厳しい状況にさらされている現場の声が寄せられた。

アンケートの回答

『もしも透析患者の中に新型コロナの患者がいたら、今後透析室で糖尿病患者などの透析が一切出来なくなってしまう』
『N95マスク(高性能医療用マスク)や防護服は言わずもがな、通常のガウンやマスクもほとんど底をついているので大きなゴミ袋に穴を開けて代用せざるを得ない状況』
『感染者の動線を一般の人と分けることが不可能。現在でも医療者と患者の動線を分けられていない』

また、院内感染を防ぐためには医療用マスクや防護服に加え、病院の中で一般の患者と感染の疑いのある人の行動範囲を分ける、「ゾーニング」の徹底が必要になる。しかし、対策を徹底するのは並大抵のことではない。
尾身さんは、これらの対策には行政の支援が欠かせないと指摘する。

「都道府県での決断が極めて重要です。クリニックも含めたすべての医療機関で新型コロナウイルスの感染者を診ようとすると、どの病院でも院内感染を起こす可能性がある。だから早いうちに地域のニーズと実情を十分考慮した上で、一般の医療機関の中でどの医療機関がコロナ感染者を診るのか、というのを決める。コロナの患者さんは診ないという病院でも、期せずして感染者が現れることは当然ある。その場合の準備もして、すぐにPCR検査ができるフローを作っておくことが求められているんです。
今は非常時です。もちろん議論は重要ですが、100%の完璧を求めてもできないので、ある程度判断をして、どこかで決めるということが極めて重要です」(尾身さん)

医療崩壊を防ぐためのゾーニングや、地域医療機関の役割分担。
感染症の専門家で東北医科薬科大学特任教授の賀来満夫さんは、これらの実現には専門家の力が重要だと言う。

賀来満夫さん。東北医科薬科大学 特任教授

「やはり院内感染の防止が最も重要。ただ、いろいろな課題があります。医療スタッフの不足、あるいは施設の中でのハード面の課題。こういった時に地域の中で、専門家のグループが他の病院を支援していく。そういった試みもこれから行おうと思っています。」

さらに賀来さんは、仙台で進めている取り組みを例にあげ、今後の課題を指摘する。

「(いま)地域ネットワークを作っています。どのように重症化した方を高度の医療機関に搬送できるのか。中等症の方をどの病院で診るのか。また軽症の方は、自宅やあるいは地域の自治体が指定した滞在施設でしっかりと療養していただけるのか。こういった体制作りを、いま急ピッチで始めています。
地域で役割分担を明確化して、そして地域全体で支援していく。いわゆる専門家のグループの力を借りて、対応していくということが非常に重要な課題となってくると思います」(東北医科薬科大学特任教授 賀来満夫さん)

学校再開か休校か 揺れる教育現場

医療崩壊を防ぐために求められている社会活動の極端な制限。長期化も指摘される中で、どのような制限をいつまで続ければよいのか。日常生活とのバランスが大きな課題となっている。まさにその課題に直面している現場の一つが学校だ。

教室の机の配置を換える教員

文部科学省は学校再開に向けたガイドラインを示しているが、再開か休校延長か、その判断は自治体に委ねられている。休校の延長に踏み切る自治体が相次ぐ一方、現在(4月4日)のところ再開の準備を進めている地域もある。
国は再開にあたり、毎朝の検温や手洗い指導などチェクリストを作成。しかし、教員からは不安の声が上がっている。「密閉・密集・密接」のいわゆる「3密」を学校生活の中で避けることはできるのか。感染予防の具体策は、地域や学校の実情に合わせ現場で工夫することが求められている。

学校で対応する教員

「(飛沫の)距離が2mってメディアなどで言われている。意識はしているけれど、こういう空間(教室)になると2mって距離は難しい。」(対応する教員)

さらに教員の間からは、子どもたちの心の負担を心配する声も上がった。

「(今後)通学するようになれば、子どものたちにも少しずつ気の緩みがでてくると予想されます。体を守るということは常に子どもたちに意識付けをして、こちらが働きかけていかないと、だんだんと薄れてしまうような気がします。」(一年生の学年主任を務める教員)

長期化する闘い “危機”とどう向き合うか

長期化するウイルスとの闘い。いま私たちは何を大切に考え、行動するべきなのだろうか。
尾身さんは“オーバーシュート”の危機とともに、もう一つの懸念をあげる。

尾身茂さん。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 副座長 地域医療機能推進機構 理事長

「今までよりも強力にやらないと、間違いなく“オーバーシュート”の軌道に入ります。ここは大変でしょうけれど、みなさんがそれぞれの役割を自覚して乗り切る。仮に『緊急事態宣言』が出ても、ジョギングだとか散歩はできるので、政府はしっかりと説明する。そうしないと、例えば東京脱出とか買い占めだとか医療機関への殺到というパニック状態(が懸念される)。(政府には)しっかりとした説明をしていただきたいと思います。」(尾身さん)

今後、未知の領域に突入する闘いに山中教授は…。

山中伸弥教授。京都大学iPS細胞研究所 所長・教授、京都大学iPS細胞研究財団 理事長

「このウイルスは非常に強力な相手だと思いますが、ただウイルスは人間がいないと手も足も出ないので、私たちが一致団結して正しい行動すれば、やっつけることはできないとしても、付き合える。必ずこの難局を乗り越えることができると信じています」(山中伸弥教授)


NHKスペシャルでは、今後も「新型コロナウイルス」に関する番組を放送予定です。

今後の放送予定

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この記事は、2020年4月4日に放送した 「NHKスペシャル “感染爆発”をどう防ぐか」 を基に制作しています。

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