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「体に良いアブラ」って何?
その答えは“人類の進化”にあった!

2020年1月10日

「アブラ」。おいしいものにはつきものだけれど、とりすぎると肥満や生活習慣病のもとになってしまうイメージがあるが、なんと世界には「摂取カロリーの7割」もアブラをとっているのに、健康そのものという驚くべき人たちがいる。カギを握るのは、いま“体に良いアブラ”として話題の「オメガ3脂肪酸」だ。なんと6億年前から人類と深い関係があり、それなしには生きていけない“命のアブラ”であることがわかってきた。でも、実は大事なのは「オメガ3」だけではなく、もう一つのアブラ「オメガ6脂肪酸」とのバランスなのだという。「理想のアブラ」をめぐる意外な真実が、人類の進化を知ると見えてくる!

食べないと生きていけない“命のアブラ”を発見!

日本からおよそ9000キロ離れた北極圏。ここに、「理想のアブラ」を食べて暮らしている人たちがいる。冬場はマイナス50度以下という過酷な環境で、はるか昔から狩猟生活を続けてきた先住民族イヌイットだ。

彼らがよく食べているのは、分厚い皮下脂肪に覆われたアザラシの肉だ。この「大量のアブラ」が、イヌイットの人たちにとって何よりのごちそう。彼らの伝統的な食生活はとにかくアブラが多く、じつに摂取カロリーのおよそ7割がアブラだという。

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アザラシの体を覆うピンク色の分厚い皮下脂肪

普通そんなにたくさんアブラをとったら血液はドロドロになり、心臓病や動脈硬化を招いてしまう。しかし、イヌイットの人たちはいたって健康だ。一体なぜなのか?

その謎を解明して世界を驚かせたのが、生理学者のヨーン・ダイヤベルグ博士。イヌイットが食べているアブラの成分を徹底的に調べ、彼らの健康のカギを握るのが「オメガ3(スリー)脂肪酸」というアブラの成分であることを見つけ出した。

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「イヌイットの食事を分析して驚きしました。なんと、1日およそ14グラム、日本人の10倍近くも多くオメガ3脂肪酸をとっていることが初めて分かったのです。」(ダイヤベルグ教授)

アブラが“細胞膜”を柔らかくして、健康に!

イヌイットの食事に多く含まれていることが分かったオメガ3脂肪酸。最近の研究で、このアブラの成分には、驚くべき健康効果があることが次々と明らかになってきた。

じつは私たちの全身の細胞は、すべて「アブラの膜」で覆われている。オメガ3脂肪酸はその細胞膜の材料に使われている、特別なアブラのひとつだ。

ここで重要なのが、オメガ3脂肪酸が“曲がった形”をしていること。細胞膜は、拡大すると、真っ直ぐな棒状の物質がぴったりくっつき合って丈夫な膜を形作っている。ここに曲がった形のオメガ3脂肪酸が入り込むと、接触部分が少なくなるため、摩擦が減って動きやすくなり、細胞膜が柔軟に変形しやすくなるのだ。

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細胞膜の表面を拡大した図。棒状の物質の間に曲がったオメガ3脂肪酸が入り込むと、細胞膜が柔軟に変形しやすくなる

私たちの健康にとって、この「細胞膜の柔軟性」は非常に重要だ。たとえば、血液を全身に届ける血管の細胞にオメガ3脂肪酸が多いと、血管はしなやかに伸縮して血流を良くしてくれる。その血液中を流れる赤血球も、通常は円盤のような形をしているが、細い血管を通る際はオメガ3脂肪酸のおかげで柔らかく折れ曲がることができ、血液の流れがサラサラになる。オメガ3脂肪酸を多くとっていると全身の細胞がしなやかになり、血液循環が健やかに保たれる。そのため、動脈硬化や心臓病などになりにくいと考えられるのだ。

さらに、注目すべきは私たちの脳。その断面を見ると、知性など高度な脳機能に関わる部分にオメガ3脂肪酸が密集している。オメガ3はそこで脳の神経細胞を形作る材料にも使われており、神経細胞同士が柔軟に変形してつながり合い、高度な情報ネットワークを生み出すのを促していると考えられている。

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宮城大学で食と人類の進化を研究する石川伸一教授も、オメガ3脂肪酸が細胞にもたらす健康効果に注目している。

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「私たちの体には、だいたい数十兆個の細胞があると言われてますが、そのすべての細胞の柔軟性に、オメガ3脂肪酸は関係しています。たとえば動脈硬化や認知症の予防に有効だという研究成果が報告されています。」(石川教授)

まさに、私たち人間の体も脳も、細胞レベルで健やかに保つ「命のアブラ」。それが、オメガ3脂肪酸なのだ。

オメガ3脂肪酸を「食べないと生きられない」体に進化した私たち

じつは最新研究で、オメガ3脂肪酸は人類のはるかな進化と切っても切れない関係にあることが明らかになってきた。なんと6億年も前の「ある事件」をきっかけに、私たちは「オメガ3脂肪酸を食べないと生きていけない体」になったというのだ。

6億年前、地球の生命はまだ海の中で暮らしていた。海底に生える藻などは、じつは体の中に特別な遺伝子を持っていて、その働きで「自分の体に必要なオメガ3脂肪酸は、自分で作り出す」ことができていた。このころの私たちの祖先も、やはり同じ遺伝子を持ち、オメガ3脂肪酸を自分の体内で必要なだけ作り出すことができたと考えられる。

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海底の藻などは、自分が持つ遺伝子で体に必要なオメガ3脂肪酸を作り出していた

しかし、私たちの遠い祖先がオメガ3脂肪酸を含む海藻などを食べ始めると、自分の遺伝子で作り出す以外にも、食べた物に含まれるオメガ3脂肪酸が体内に取り込まれるようになった。するとあるとき、思わぬ事件が!「食べ物からオメガ3脂肪酸が手に入るなら、自分でオメガ3を作り出す必要はないでしょ」と、オメガ3脂肪酸を生み出せる遺伝子が消えてしまったのだ。

貴重な遺伝子を失ってしまった私たちの祖先は、その後どうなったのか?

時は下って、およそ5億年前。海の中には様々な姿形の原始的な動物が現れ始め、強い動物が弱い動物を食べる「弱肉強食」の時代が幕を開けた。すでにオメガ3脂肪酸を作り出す遺伝子を失っていた動物たちは、オメガ3脂肪酸を含むものを食べて常にオメガ3を補給していなければ体を維持できなくなっていた。そして始まったのが、オメガ3脂肪酸の「争奪戦」だ。小さくて弱い動物は海藻などを食べて、そこに含まれるオメガ3脂肪酸を手に入れた。その動物を他のより大きな動物が食べて、オメガ3脂肪酸を一挙に獲得。こうして、食物連鎖の上の方にいる強い生き物ほど、たくさんのオメガ3脂肪酸を食べ物から手に入れ、さらに強くなっていったと考えられるのだ。

現代の海の中でも、マグロのような強い魚は他の小さな魚をたくさん食べて、身に多くのオメガ3脂肪酸を蓄えている。でもそれをさらに獲って食べているのが私たち人間。私たちは、今や誰より貪欲にオメガ3脂肪酸を食べることで、健康を維持している生物なのだ。

“命のアブラ”オメガ3脂肪酸が人類を絶滅の危機から救った!?

こうして人類が「食べ物からとり続けなければ生きていけなくなった」オメガ3脂肪酸。進化の歴史をさかのぼると、あるときこの“命のアブラ”が、私たちの祖先に「思わぬ大躍進」をもたらした可能性が浮かび上がってきた。

それを物語るものが発見されたのは、人類誕生の地・アフリカ大陸の最南端にある、岩だらけの岬ピナクル・ポイント。岸壁に並ぶ洞窟で、およそ16万年前から人類の祖先が集団で暮らしていた痕跡が発見された。その祖先たちに「運命を分ける大事件」が起きていたことが、最新の調査から明らかになった。

その大事件とは、およそ7万4千年前に起きた「巨大噴火」だ。ピナクル・ポイントで発見された火山灰を詳しく分析すると、なんと南アフリカから9000kmも離れたインドネシアのトバ火山から噴き出したものであることが分かった。想像を絶する巨大噴火で莫大な量の噴出物が地球の大気中に放出され、長期間太陽光を覆い隠し続けた。その結果、地球の平均気温は12度も低下し、「火山の冬」と呼ばれる急激な寒冷化が起きたのだと推定される。

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その影響で多くの動植物が死に追いやられ、アフリカ中に広がっていた人類の祖先も食糧難で絶滅の危機に追い込まれたとみられている。そのような危機の中、南アフリカの海辺で暮らしていた祖先たちは、意外にも「大きな飛躍のチャンス」をつかんでいたという驚きの事実が見えてきた。

アリゾナ州立大学人類進化研究所のカーティス・マレアン博士が示すのは、祖先たちが大量に食べていた食べ物の痕跡だ。

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「この海辺の祖先たちがトバ火山の巨大噴火の後も、豊かな暮らしを続けていた証拠を見つけたんです。」(マレアン博士)

火山灰を含む地層の上、つまり噴火後に襲った「火山の冬」の食糧難時代の地層から、祖先たちが食べていた物をうかがい知る残骸が大量に見つかったのだ。たとえば、食べた後のウミガメの骨。そして、クジラの体にだけ付着するフジツボ。クジラの肉を食べていた証拠とみられている。

中でも祖先たちが大量に食べていたと考えられるのが「貝」だ。暮らしていた洞窟近くの海辺には、今も岩場に大量のムール貝が付着している。巨大噴火の難を逃れた海の生き物たち、つまり「海の幸」を食料にして、祖先たちは命をつないでいたのだ。

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発掘された貝殻

そして、これら「海の幸」のどれにも多く含まれていたのが、「オメガ3脂肪酸」だった。

「手に入る食べ物に、人が生きていくために欠かせないオメガ3脂肪酸などが豊富に含まれていました。そんな幸運に恵まれて、海辺に暮らしていた祖先はどんどん子孫を増やして繁栄できたと考えられるのです。」(マレアン博士)

オメガ3脂肪酸が開花させた!? 人類の「高度な知性」

人類が海の幸をたくさん食べて、オメガ3脂肪酸をふんだんにとり続けた結果、この「命のアブラ」が祖先に思わぬ恩恵をもたらした可能性も見えてきた。発掘調査から、火山の冬を乗り越えた祖先たちに、「高度な知性や文化」が急速に芽生え始めていたことが分かってきたのだ。

巧妙に穴が開けられた小さな貝殻は、ひもを通して首飾りにしていたとみられる。化粧に使ったと思われる、赤い石を粉にした顔料も見つかった。他の地域には見られない、高度な文化が海辺の祖先たちに現れ始めた証だ。

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ネックレスにしていたとみられる、穴を開けた小さな貝殻

こうした知性の発達を大きく促したと考えられるのが、海の幸を食べて大量に体に取り入れたオメガ3脂肪酸だ。

オメガ3脂肪酸は、私たちの脳の神経細胞をしなやかにする材料だ。大量のオメガ3を摂取した祖先の脳では、神経細胞が柔軟につながり合って、高度なネットワークを急速に発達させることができたと考えられる。それが、高い知性と文化を生み出す原動力になった可能性があるのだ。

「命のアブラ」で知性の大躍進を遂げた海辺の祖先たちは、やがてこの地を旅立ち、アフリカを出て広い世界へと進出していった。現代の私たちは、その子孫だとマレアン博士は考えている。

私たちの脳は、母親の胎内にいるころから、脳を形作る材料として大量にオメガ3脂肪酸を必要としている。生まれた後与えられる母乳にも、母親の体に蓄えられたオメガ3脂肪酸がたくさん溶け込んでいることが分かっている。こうして人間は、親から子へとオメガ3脂肪酸を受け継ぎ、命と知性を育み続けているのだ。

もうひとつの重要なアブラ「オメガ6脂肪酸」

じつは体にとって大事なのは「オメガ3脂肪酸」だけではない。同じように私たちの全身の細胞を覆う「細胞膜」の材料に使われている“もうひとつの重要なアブラ”が存在する。それが「オメガ6脂肪酸」だ。私たちが料理に使う大豆油やコーン油など、いわゆるサラダ油に多く含まれている。

最近の研究でオメガ6脂肪酸も、体の中で非常に重要な働きをしていることが明らかになってきた。それは、ウイルスや病原菌などから体を守る役割。病原体が血液中に侵入すると、オメガ6脂肪酸が白血球に、いわば「攻撃指令」を出す働きをし、病原菌への攻撃を促す仕組みがあることが分かってきたのだ。

オメガ6脂肪酸は、揚げ物などによく使うサラダ油の他に、鳥肉・豚肉・牛肉のアブラにも多く含まれている非常に身近なアブラだ。ところがこのオメガ6脂肪酸が体の中で増えすぎると大問題が起きることが明らかになってきた。

マウスを使った実験で、体内にオメガ6脂肪酸を一気に増やすと、血管の中に白血球が次々と集まってくる様子が捉えられた(下図)。オメガ6脂肪酸が増えすぎると、白血球への攻撃指令が過剰になり、ついには白血球が敵ではない自分の体の細胞まで痛めつけてしまうことがあるというのだ。

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緑色の小さな粒が白血球。体内にオメガ6脂肪酸が増えると、白血球がどんどん集まり始める様子が捉えられた

じつは、そんなオメガ6脂肪酸による“暴走状態”を抑えるのに役立つのが、オメガ3脂肪酸。オメガ6脂肪酸の過剰な攻撃指令にブレーキをかけ、白血球の暴走を鎮める働きもしている。

アクセルを踏むオメガ6と、ブレーキをかけるオメガ3。この2つが常に良いバランスを保つことが、私たちの健康にとって重要なのだ。

もし体内で、このオメガ3とオメガ6の量のバランスが崩れてしまうと、私たちの命にも関わることが注目されている。

福岡県久山町で40歳以上の町民3千人を対象に、血液中のオメガ3とオメガ6の割合を詳しく調査したところ、心臓病などによる死亡率との間に驚きの関係が判明した。

オメガ3とオメガ6の割合が「1:1」から「1:2」までの間は、心臓病の死亡リスクは低いまま。ところが「1:2」の割合を超えてオメガ6のほうが多くなると、急速にリスクが高まっていくことが分かったのだ。

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Ninomiya(2011) Relationship Between the Ratio of Serum Eicosapentaenoic Acid to Arachidonic Acid and the Risk of Death: the Hisayama Study より作成

※原典ではオメガ3(EPA)/オメガ6(アラキドン酸)の値となっており、グラフ化にあたり番組では逆数を取っています。そのため、ぴったり1:1から始まっていません

つまり、1つのオメガ3が抑えられるオメガ6は、せいぜい2つまで。それ以上オメガ6が増えると、白血球の暴走などを招き、徐々に体を痛めつけていく恐れが高まるのだ。

ここで問題となるのが、私たちが日頃口にするアブラのほとんどに、オメガ6脂肪酸が多く含まれているという現実。その結果、体の中のオメガ6が過剰な状態が長く続くと、白血球に誤って大事な血管の壁まで攻撃させ、動脈硬化を進めてしまうリスクが高まってしまうと考えられる。

今や、日本人の4人に1人は動脈硬化がもとで心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こし、命を落としている。その裏側には、オメガ3とオメガ6のバランスの崩壊という大きな問題が潜んでいると考えられるのだ。

最近の調査で、とくに欧米型の食事が多い10~20代の日本人は、食事からとっているオメガ3とオメガ6の割合が「1:10」くらいにまでなっていることが明らかに。オメガ6脂肪酸は人の体に欠かせないアブラの成分だが、現状は過剰なほどに摂取していると石川教授は警鐘を鳴らす。

「オメガ6脂肪酸は体内で重要な働きをしていますが、要はとり過ぎているというのが現状。理想は、できるだけオメガ6を多く含む揚げ物や炒め物を減らすことだが、おいしいのでなかなか難しい。研究によると、オメガ6からできる物質が脳に作用して『もっと食べたい』という欲求を高めることも分かっています。」(石川教授)

「理想のアブラ」は“自然の摂理”で決まっていた!?

それにしても、いつころから、なぜ、私たちの食生活は、「オメガ6過剰」という、アブラのバランスが崩れた状況に陥ってしまったのか?

じつは「意外なもの」が、身の脂肪分に含まれる「アブラのバランス」を変化させる要因であることが分かってきている。

たとえば、アブラがのった2種類の牛肉。どちらも見た目にはあまり変わらないが、アブラ身の部分を食べ比べてみると、一方は口の中がアブラっぽくなるが、もう一方はサラサラとした食感だ。じつはこの2つの牛肉、牛が食べていた「エサ」が違うのだ。

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右側が「穀物」の多いエサで育った牛の肉、左側がほとんど「牧草」だけ食べて育った牛の肉

アブラっぽいほうの肉は、トウモロコシなど穀物の多い人工的なエサを食べて育った牛。もう一方の「サラッとした脂身」の肉は、牛本来の食べ物である牧草だけを主に食べて育った牛だ。

この2つの脂身は、食感だけでなく、含まれているオメガ3とオメガ6の割合が全く違う。穀物の多い人工的なエサで育った牛のアブラは、オメガ3とオメガ6の割合がどれもおよそ1:8~1:10。かなりオメガ6が多い。エサにしている穀物など「植物の種の部分」には、オメガ6脂肪酸が多く含まれているためだ。

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Daley(2011) A review of fatty acid profiles and antioxidant content in grass-fed and grain-fed beef より作成

一方、牛本来の食べ物である牧草で育った牛のアブラは、オメガ3とオメガ6の割合が、どれもおよそ1:2。まさに理想のバランスになっていた。一体なぜか?

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Daley(2011) A review of fatty acid profiles and antioxidant content in grass-fed and grain-fed beef より作成

最新の研究で興味深いことが分かってきた。ほとんどの動物は、その動物本来の自然な食べ物を食べていると、体内のオメガ3とオメガ6の割合がおよそ1:1~1:2と理想的なバランスに保たれていることが分かってきている。(よりオメガ3が多い動物もいる。)なぜそうなるのか、メカニズムはまだよく分かっていないが、どうやらそれが「自然の摂理」のようなのだ。

大昔、野生動物を狩って食べていた人類も、この「自然の摂理」にのっとり、体の中のアブラのバランスが理想的な割合を保っていたと考えられる。ところが人類はあるころから、この「自然の摂理」を大きく外れた食生活を始めてしまったことが、意外な研究から浮かび上がってきた。

「文明の発展」が“理想のアブラのバランス”をおかしくしてしまった!?

人類とアブラの関係が大きく崩れ始めたことを物語るものが、3500年ほど前の古代エジプト時代の王族のミイラから発見された。およそ50体のミイラの体内をCTスキャンという装置で詳しく調べたところ、半数から、現代病と思われていた「動脈硬化」が多数見つかったのだ。

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CTスキャンで撮影された古代エジプト時代の王族のミイラの体内(丸で囲んだ部分が動脈硬化を起こした血管部分とみられる)

調査したグレゴリー・トーマス博士も驚きを隠せない。

「驚きました。原因は、彼らがとっていたアブラにオメガ6脂肪酸が多すぎたことです。」(トーマス博士)

当時の祖先たちは、一体どのようなアブラのとり方をしていたのか?

記録によれば、古代エジプトの王族はグルメの極み。好物は、アブラののった羊や、わざと太らせたガチョウの肝臓。現代で言う、フォアグラなどだ。

問題はその「エサ」にあった。本来は草を食べる羊や鳥に、オメガ6脂肪酸が多い麦などの穀物を無理に食べさせていたのだ。その結果、家畜の体にはオメガ6脂肪酸が過剰に蓄積されることになったとトーマス博士は考えている。

さらに同じころ、オメガ6が多いゴマなどの植物の種を絞り、食用のアブラを人工的に作り始めたことも分かっている。それらを多く食べた王族たちの体の中は、オメガ6脂肪酸が過剰となり、深刻な動脈硬化を招いたと考えられるのだ。

その後も人類はおいしさを求め、オメガ6脂肪酸が過剰な食生活に突き進んでいく。おいしいアブラが食を豊かにした一方で、私たちは知らぬ間に「自然の摂理」から外れたアブラに取り巻かれることになった。その、事の大きさに、私たちは今ようやく気づき始めたばかりなのだ。

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飽食の現代、私たちはとり過ぎるほどに様々なアブラに囲まれている。でもその中に、今も昔も私たちの命を支え続ける特別なアブラがある。その真実を知り、アブラとの新しい関係を築いていく時代に私たちは生きているのだ。

この記事は、2020年1月12日に放送した 「NHKスペシャル 食の起源 第3集「脂」~発見!人類を救う“命のアブラ”~」 を基に制作しています。

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