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私たちはなぜ“塩のとりこ”になったのか?
祖先に起きた「塩にまつわる2つの大事件」を徹底解剖!

2019年12月13日

現代の私たちは、高血圧・脳卒中・がんなど、塩のとりすぎによる怖い病気に悩まされている。なぜ、人類は病気を招いてしまうほど塩にとりつかれてしまったのか?その謎をひもとく、私たちの祖先に起きた「塩にまつわる2つの大事件」を徹底解剖!

(第1の大事件)

「第1の大事件」は、4億年も前にさかのぼる。そもそも地球の生命は、塩たっぷりの海水の中で誕生し、進化してきた。そして、塩の主成分である「ナトリウム」を体に取り込んで生命維持に使うようになった。その遠い子孫である私たちも、ナトリウムなしでは生きられない。

たとえば、受精卵は最初に表面にさざ波のように電気が伝わることで、小さな命が活動を始める。実はこのとき、細胞に電気を伝える引き金となるのが、ナトリウムだ。私たちの心臓や、脳の神経細胞なども、ナトリウムが生み出す電気エネルギーによって活動している。海の中で生命が誕生して以来、生き物はみな、ナトリウムを使って命を維持する仕組みをずっと受け継いできたのだ。

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ところが今からおよそ4億年前、私たちの祖先は、誰もライバルのいない新天地である「陸上」へと踏み出した。陸に上がった祖先は、海から離れ内陸へどんどん進出していった。

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ところが、乾燥した陸上で繁殖しはじめた祖先たちを襲ったのが、深刻な「塩不足」だ。陸上では生命活動に欠かせないナトリウムが足りなくなって、祖先たちは命の危機に直面する。

そこで私たちの祖先は、「塩を敏感に感じ取る“舌”の能力」を進化させた。舌には「味らい」と呼ばれる味を感じるための器官があるが、そのなかの「塩味を感じる細胞」の感度をとくに発達させたのだ。

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さらにもうひとつ、進化させた体の部分がある。それは、「腎臓」。腎臓の働きは、尿を作って老廃物を体の外に出すことだが、実はその際、体の中のナトリウムのほとんどが、一旦、尿の中に出て行ってしまう。そこで私たちの祖先は腎臓を進化させ、尿の中に出てしまったナトリウムを、再び血液中に取り戻すという精巧な仕組みを備えるようになった。

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祖先が陸上進出という「第1の大事件」を乗り越えて手に入れた、超高感度の塩センサー・「舌」。そして、体内から塩を逃さない「腎臓」。この「2つの武器」によって、祖先は「わずかな塩でも生きられる体」へと進化し、塩不足の危機を乗り切ったのだ。

(第2の大事件)

陸上で生き抜くために、必要最小限の塩でも生きられる体を手に入れた私たち。なのになぜ、一体いつから、私たちはたくさんの塩をとるようになったのだろうか?

人類に異変が起きたのは、およそ8000年前。突如、自らの手で大量に塩を作り、摂取しはじめた証拠が見つかったのだ。ルーマニアにある、人類最古の塩づくりの現場だと考えられている「湧き水」。実はその水には、海水の7倍もの塩が含まれている。これを燃やした炭に振りかけて塩の結晶をとりだしたのが、世界で最初の塩作りだったと考えられている。

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わずかな塩でも生きられる体に進化したはずなのに、なぜ祖先たちは、そうまでして大量の塩をほしがり始めたのだろうか?

実は塩作りが始まったのと同じ頃、祖先たちは、穀物や野菜を大量に育てる「農耕」を始めていた。およそ1万2千年前に人類が農耕を始め、それがルーマニアにまで伝わったのが、まさに8000年前。塩作りが始まった時期とぴたり、一致する。さらにその後も、農耕が広まるにつれて各地で次々と塩作りが始まっていったことが明らかになった。

農耕と塩作りにどんな関係があるのか?研究者が考える、祖先に起きた「塩にまつわる第2の大事件」は、こういうことだ。農耕によってたくさんの穀物や野菜を育て始めた祖先は、それさえあればお腹を満たすことができるようになった。ところが、なぜかナトリウム不足を起こす祖先が増え始めた。大量に食べ始めた穀物や野菜には、ナトリウムがほとんど含まれていないためだ。さらに問題となったのが、野菜などに多く含まれる「カリウム」という物質だ。

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カリウムは人体に必要な栄養素だが、血液中に増えすぎると不整脈を引き起こし、最悪の場合心臓が止まってしまうこともある。そこで、過剰なカリウムを体の外に捨てようとするのが「腎臓」だ。ところが、尿の中にカリウムがたくさん流れてくると、腎臓はナトリウムを体内に吸収する穴を閉じてしまう。こうして尿の中に押し戻したナトリウムを使って、余分なカリウムを体の外に捨てる仕組みになっているためだ。私たちの腎臓は必要なナトリウムを体に取り戻すことよりも、過剰なカリウムを排出すること優先させるのだ。

こうした腎臓の仕組みがあるために、カリウムの多い農作物を食べれば食べるほど、祖先たちの体はナトリウム不足に陥ってしまう羽目に。そこで人間が編み出したのが、ナトリウムの塊である「塩の結晶」を人工的に作り出す「製塩技術」だ。つまり、必死に手に入れようとし始めた大量の塩は、ナトリウム不足を克服するためのいわば“サプリメント”だったと考えられるのだ。

詳しくは、現代人は「塩中毒」!? 人間が「塩」のとりこになる驚きの理由

この記事は、2019年12月15日に放送した 「NHKスペシャル 食の起源 第2集「塩」 人類をとりこにする“本当の理由”」 を基に制作しています。

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