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東日本大震災から8年
被災者の厳しい現状を知る4つのキーワード

2019年4月5日

東日本大震災から8年。時が経ったからこそ見えてきた課題は多い。支援の網の目からこぼれ落ちてしまった被災者たちは今も厳しい暮らしを強いられ、「復興」という言葉からは程遠い存在だ。国の復興政策から取り残された被災者の知られざる実態を知り、真に求められる復興のあり方を考えるための4つのキーワード。

<在宅被災者>

震災直後の被災地には、自宅の1階が壊れ、かろうじて残った2階に逃れた人が数多くいた。また、さまざまな事情で避難所には行かず、壊れた自宅などで避難生活を送る人たちもいる。そのような被災者は「在宅被災者」と呼ばれるようになった。

国の制度では、家を失った人と、家があると見なされた在宅被災者の間には、支援に大きな格差が生じている。家を失った人は避難所に行き、物資などの支援を受けやすくなる。その後は行政が仮設住宅を無償で提供。さらに災害公営住宅を建設し、住まいを保証する仕組みだ。

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被災者支援の仕組み

国は災害救助法の運用基準で、仮設住宅に入居できる対象を原則として次のように定義している。

「家が全壊・流出するなどして、居住する住家がない者に供与する。」(内閣府の告示)

半壊状態の家に住み続ける在宅被災者の場合、私有財産の自宅の修理に使える補助金は最大で258万円。それで家が直しきれないと、後は自助努力するしかない。しかし、多くの在宅被災者は国からの補助だけでは修理しきれず、壊れたままの家に住み続けている。震災から8年が経って、自助努力も限界にきている現状が分かってきた。


<リロケーションダメージ>

住まいを保証された被災者には、健康に異変が起きていた。

2,000人以上の被災者を対象にした最新の調査では、転居の回数が増えるにつれて睡眠障害の疑いがある人の割合が高くなっていることが分かった。4回以上転居した人では、実に4割近くにのぼっている。

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出典:東北大学大学院「被災者健康調査」 宮城 石巻 平成30年度

調査を行った東北大学の辻一郎教授は、移転による健康被害「リロケーションダメージ」が起きていると指摘する。

「引っ越す回数が増えていくにつれて、人と人との関係が疎遠になってくる。あるいは、落ちこぼれていく人が出てくるわけですね。さまざまな地域のつながりが弱くなってきて、それが睡眠障害を呼んだりしていますけれども、それを放っておくと、もっと重度の鬱状態、あるいは本当の鬱病になっていく可能性が非常に強い。さらに問題は重度化していくと思います。」(辻教授)


<明確な喪失>

原発事故が起きた福島の人たちは、避難指示によって家があるのに帰宅できない状態が続いた。故郷を失ったのかどうか分からない心理状態。これは「あいまいな喪失」と呼ばれるものだ。

ところが、国の帰還政策で故郷に戻るかどうか決断を迫られるなか、帰還しても思い描いていた故郷とは異なる現実に直面する。福島で心の診療を続ける福島県立医科大学の前田正治教授は、さらなる喪失感が心に重くのしかかり、「明確な喪失」に変わると言う。

「直面しているのは『明確な喪失』です。これはもう自分の故郷のように思えないとかね。そのような感じが帰還しても続いている場合は、喪失感がだんだん強くなっていく。そのときこそ本当に『明確な喪失』ということになるかと思います。」(前田教授)


<災害ケースマネージメント>

在宅被災者を支援するボランティア団体「チーム王冠」は、被災者が抱える課題が多様化するなか、さまざまな専門家集団と連携するようになった。

家の修理について相談に乗るのは建築士。法律上のトラブルや行政との折衝は弁護士が担当だ。専門家たちは、無償で協力している。この他にも、医療や福祉の機関、就労支援や心のケアに関わるNPOなど、15を超える団体がネットワークを形成。専門家が連携し、被災者の個別の課題に沿って生活再建を後押しする仕組みは「災害ケースマネージメント」と呼ばれている。

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災害ケースマネージメントの仕組み

「チーム王冠」代表の伊藤健哉さんは、被災者の支援には生活を見ることが必要だと訴える。

「その人がどういう被災を受けたか。例えば仕事がなくなったのか、あるいは心のケアが必要なのか、すべてトータルで見て判断する必要がある。家の再建が終わったから、その人はもう、東日本大震災は終わりましたということではないです。見るべきは家ではなく、生活そのものだと思います。」(伊藤さん)

詳しくは、取り残された被災者たち 震災から8年目の真実

この記事は、2019年3月10日に放送した 「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災 終(つい)の住みかと言うけれど… ~取り残される被災者~」 を基に制作しています。

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