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「運動よりも読書で健康になる!?」
AIが示す「健康長寿」の方法

2018年11月16日

誰もが死ぬ間際まで元気で、寝たきりや介護状態などにならずに人生を送りたいもの。そんな理想的な暮らしを簡単に実現する方法はあるのか? NHKが開発した人工知能「AIひろし」から番組スタッフが導き出したのが、「運動よりも食事よりも、読書が大事」という提言。これまでの常識を覆す数々の提言について検証した。

AIの分析結果から読み解いた「健康寿命」を延ばすための3つの提言

日本人の平均寿命は、最新データで男性81.09歳、女性87.26歳。しかし、「健康寿命」は男性72.14歳、女性74.79歳だ。健康寿命とは、日常生活に制限がなく健康で自立して生きられる期間のこと。平均寿命との差が短ければ短いほど、多くの人が死ぬ間際まで元気で、寝たきりや要介護の状態にならずに人生を送れるというわけである。

問題は、日本人の平均寿命と健康寿命の間にある、10年もの長い差。実はこの期間の医療費は、生涯にかかる医療費の半分近くを占めているのだ。もし、この2つの差を縮めることができれば、医療費や介護費を5兆円(10年あたり)も抑えられるという試算もある。

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出典:厚生労働省

では、どうすれば人生の最期までピンピン生きてコロリと死ぬ「ピンピンコロリ」を実現できるのか。今回NHKが独自に開発した人工知能「AIひろし」が、お年寄りのべ41万人の生活習慣や行動のデータを分析。人間では不可能な膨大な計算を行った結果、健康寿命にかかわる意外なヒントが次々と浮かびあがった。

そして、AIの分析からスタッフが導き出した健康寿命を延ばすための提言がこの3つだ。

『運動よりも食事よりも、読書が大事!?』

『子どもと暮らすな、ひとりで暮らせ!?』

『ピンピンコロリには、泥棒を捕まえろ!?』

いったいどうやってこんな大胆な提言が導かれたのか? 今回、「AIひろし」が健康寿命を延ばすヒントを探るため作り出したのが、複雑にからみあったネットワークである。

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基になったのは北海道から沖縄までの65歳以上、のべ41万人分の生活習慣や行動に関するアンケート。質問数は600以上、10年以上にわたって追跡調査を行った貴重なデータだ。まず「AIひろし」は、アンケートに登場する一つ一つの質問に注目。例えば「ジョギングが好き」かどうかを尋ねる質問に「YES」と答えた人が、他の600の質問のうち、どれに「YES」と答えたのかを調べ、「密接な関係がある」と判断した質問との間を線で結んでいく。

「AIひろし」はこの作業を繰り返し、すべての質問の関係、およそ18万通りを調べ上げた。そして、関係が深い質問同士をできるだけ近くに配置。こうして複雑なネットワークを作り上げたのだ。
(この線は、つながりを示し、因果関係は明らかではない。)
さらに、アンケートの質問が「健康と不健康どちらに関係するのか」を判別。その質問に答えた人の中で、「自分は健康だ」という人が多ければ「赤」、「不健康だ」という人が多ければ「青」、「どちらともいえない場合は「白」に色分けした。このネットワークを詳しく見ていくと、どのような生活をすれば健康に長生きできるのか、そのヒントが見えてくるのである。

番組では、3つの大胆な提言を検証していく。

「本や雑誌を読む」と健康になる!?

「AIひろし」が作り出したネットワークで、赤い健康要素に一番多くつながる意外な行動が判明した。それが「本や雑誌を読む」ことである。

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ネットワークの中で、赤い健康要素が集まった「健康エリア」の中心に位置するのが「本や雑誌を読む」。実に119もの健康要素とつながっていたが、他の要素と比べると際立っていることがわかる。

「スポーツグループに週1回参加」 健康要素39:不健康要素0
「野菜や果物を毎日2回以上食べる」 健康要素99:不健康要素6
「本や雑誌を読む」 健康要素119:不健康要素0

定期的にスポーツをしたり、食事に気を遣ったりする人は、健康要素と非常に多くつながっている。しかし、読書はそれ以上の数につながっていて、不健康要素とはまったくつながっていない。実に「健康」につながる行動であることが見えてきた。

「AIひろし」の提言を検証するため、取材班は山梨県に向かった。山梨県は健康寿命が長く、男性が全国1位、女性も全国3位である。しかし、運動やスポーツの実施率では全国最下位。にもかかわらず、なぜ健康寿命が長いのか。

手がかりとなるのは、山梨県の人口に対する図書館数が全国1位という数字。人口10万人あたりの図書館数が全国平均2.61館のところ、山梨は6.59館である。読書をすれば本当に健康になるのか、大の読書好きという80歳の相河則正さんに密着した。

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相河さんはいつも図書館で読みたい本を探して歩き回る。この日の歩数は午前中だけで3,500歩にもなった。どうやら、よい運動になるようだ。さらに、歴史や俳句、旅行など、さまざまなジャンルの本を借りる効果も大きいのかもしれない。

「知的な刺激を受ける。それが大事じゃないかと思うんですね。」(相河さん)

本を借りて帰宅すると、ガイドブックを読みながら20年前の北海道旅行を思い起こす。

「時計台で写真を撮って、ビールがうまかったなぁ。」(相河さん)

過去の記憶が呼び覚まされるおかげか、物忘れをすることも少ないという。やはり健康寿命には運動や食事よりも、読書が大事という提言は正しいのか?

臨床の現場でも有効なAIの提言

健康のためには運動よりも読書が効果的という、「AIひろし」の画期的な分析結果。医師で千葉大学教授の近藤克則さんも、実は気になっていたことがあるという。

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「私たちもこれを見せていただいて、『本当?』って言ったんですけど、実はどういう地域に要介護の人が少ないのかと分析していたときに、図書館がそばにあると要介護リスクを持った人が少ないっていうのが出てきてですね。そのときには、『えっ図書館が?』というので、まだ論文にしてなかったんですけど。」(近藤教授)

この大胆な提言は、臨床の現場でも有効だと近藤教授は考える。

「患者さんに動いたほうがいいですよと言っても、それだけでは動かない。そういうときに『心が動くと体が動く』という言葉があるのですが、何かやってみたいことを見つけると、旅行に行こうとか、きっかけを与えてくれるという意味でも、「本や雑誌を読む」というのは効くのかなと感じますね。」(近藤教授)

人工知能を使ったデータサイエンスが専門で、東京大学教授の坂田一郎さんはコストの面からも図書館に注目する。

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「病院を建てるとかいうことからすれば、図書館ってすごくお金がかからないですよね。司書の方を全ての学校に配置するとしても、健康・医療に比べれば、すごく少ないコストでできるじゃないですか。そういう意味でもいい施策だと思うんですね。」(坂田教授)

駅前に図書館を作るだけで、いろいろな問題を解決する可能性がある。「AIひろし」から導き出した結果が、健康寿命を延ばすために有効な手段になるかもしれない。

「ひとり暮らし」のほうが健康になる!?

「AIひろし」の分析から番組スタッフが導き出した2つ目の提言、「子どもと暮らすな、ひとりで暮らせ」とはどういうことなのか?

AIのネットワークを見ると、子どもと暮らしている人は「ひとりで交通機関を使えない」や「本や雑誌は読まない」などの不健康要素につながっている。一方、「ひとり暮らし」の人たちがつながっているのは、不健康要素だけではなく、「友人に週4回以上会う」「体操が好き」などといった健康要素が多い。2つを比較すると差は歴然としていた。

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しかし、年々増加する高齢者のひとり暮らしは深刻な社会問題だ。食事が偏ったり、会話が少なくなったり、健康に悪そうなイメージもある。番組ではこの提言を検証するため、ひとり暮らしのお年寄りを訪ねた。

田中嶋忠雄さんは79歳。6年前に奥さんに先立たれてから、ひとりの時間を持て余すようになった。すると、これまでまったく興味がなかったガーデニングなど、新しいことを次々と始めるようになったという。料理もそのひとつ。

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「やっぱり野菜は生っぽいほうがおいしいよね。味があって。」(田中嶋さん)

ひとり暮らしになったことで新しいことを始めるようになり、若々しさを保てているのかもしれない。

88歳の中條貞子さんは、欲しいものを買うために4キロ以上歩くこともあるという。ひとり暮らしだと、誰にも頼れない。何でも自分でやることが、日々の適度な運動につながっているようだ。

「家から出たくないのよ。本当はテレビ見ていたほうがよっぽどいいの。ただ買い物しないと自分が食べていかれないから。」(中條さん)

91歳の深沢良子さんが教えてくれたのは、ひとり暮らしが心の健康にまでつながるということだ。子どもと同居せず、ひとりで暮らすことで、誰にも気兼ねしないで生活を楽しんでいるという。

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「子どもたちは子どもたちの世界、私は私の世界で生活している。自分で自由にできるから。寿命まで頑張ります。ひとりで!」(深沢さん)

深沢さんは今でも元気にダンスを楽しんでいる。

条件が整えば「ひとり暮らし」も有効

「AIひろし」が示すネットワーク全体を見ると、誰もが「ひとり暮らし」をすれば健康になれるわけではないことが分かる。「ひとり暮らし」がネットワークの中央に位置するというのが象徴的だ。

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つまり、ひとり暮らしであっても心がふさぎ込んでしまうと、右側の「不健康エリア」につながってしまう。左側の「健康エリア」に行くためには、友だちと会うとか、趣味を持つなど、自分の心の切り替えが必要だ。そういう意味でも、ひとり暮らしは健康と不健康をつなぐゲートウェイの役目を果たしているとも考えられる。近藤教授も「ひとり暮らし」は今後の日本で避けては通れない課題になると語る。

「これから日本全体でひとり暮らしの方が増えていくっていうのは避けられないと予測されています。ひとり暮らしそのものがいいか悪いかというよりは、一人一人が、あるいは社会が、明るいひとり暮らしを増やすような支援策を練っていく、あるいはご本人がそういうものを選び取っていくっていうのが大事なのかなと思いますね。」(近藤教授)

2つ目の提言「子どもと暮らすな、ひとりで暮らせ!?」。検証の結果、コミュニティなどに参加できる環境の元では、健康寿命を延ばすのに有効だといえそうだ。

泥棒を捕まえれば健康で長生き!?

3つ目の大胆提言、「ピンピンコロリには、泥棒を捕まえろ!?」についてはどうか?

平均寿命と健康寿命の間にある、およそ10年。この期間、人はどんな人生を歩んでいるのか。「AIひろし」は、ネットワークの元となった延べ41万人の調査データをさらに別の角度から徹底分析。人々が人生の最晩年にどんな生活や行動を経て死を迎えるのか、3年ごとに取られた時系列データに注目してそのパターンを探った。

そして生まれたのが、人生最後の10年を1700のルートに分けて描き出したダイアグラムだ。

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亡くなった人たちがその前の調査で何と答え、さらに3年前はどのような回答をしていたのか。人生最後の10年間をさかのぼる形でルートを作った。

ダイアグラムを見ると、人生の最晩年まで比較的健康を維持している「ピンピンコロリ」のルートと、長い不健康な期間を経て亡くなる「ネンネンコロリ」のルートの2種類に分けられることが判明。このルートの違いを生み出す原因からスタッフが導き出したのが、「ピンピンコロリには、泥棒を捕まえろ!?」である。

ダイアグラムを詳しく見ると、死を迎える前の3年間は体に関する要素が多く、6年前には心に関するものが増えていることが分かる。そして、その先に一番多く見えてきたキーワードが「地域」。その中でも注目したのが「地域の治安」である。亡くなる約10年前に治安が悪い地域に住むと、その3年後にはさまざまな不健康な要素とつながる。そして、その先も不健康な「ネンネンコロリ」のルートで死を迎えるというのだ。

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検証のために取材班が向かったのは埼玉県。男性の健康寿命が、3年間で全国21位から2位にジャンプアップした注目の場所だ。なぜ埼玉県の健康寿命がここまで延びているのか。県ではスマホのアプリを使って、より運動してもらおうという取り組みなどを行っている。しかし、健康長寿課でも確かな理由は分からないままだという。

では、「AIひろし」が分析したように、「治安」が関係しているのではないか?

町には緑のユニフォームをまとった防犯パトロールの人を多く見かける。実は、埼玉県は防犯ボランティア団体の数が全国1位、東京都の1.5倍もあるのだ。

埼玉県では、どれだけ犯罪があったかを示す犯罪認知件数が2004年に過去最悪を記録したが、防犯ボランティアの増加とともに3分の1まで減少。この10年ほどで治安が劇的に良くなっていたのだ。これに、ピンピンコロリの度合いを示す指標のひとつ「健康割合」を重ねてみると、治安がよくなったことを受けて下げ止まり、改善していることが分かる。

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治安がよくなったら本当に健康になるのか。実際に町の声を聞いてみた。

「健康になると思います。外出しやすくなると歩いたり。」(女性)

「だって悩み事がなくなるっていうか心配事がない。安心だから健康につながる。」(女性)

「好きな人たちが集まって写真のクラブを今年の1月に立ち上げましてね。」(男性)

「治安」が回り回って「健康」に影響したと考えれば、「AIひろし」の分析は正しい。さらに、近藤教授は「貧富の格差」と治安という視点からも健康について考える。

「治安はどういうところで悪くなるかというと、犯罪学の研究で、その地域の中の貧富の格差が広がったところで犯罪が起きるっていう報告があるんですね。そうすると、今回の分析には、格差の大きさみたいな要素も隠れているんじゃないか。格差が大きいところで人々のつながりが弱くなり、防犯活動も弱くなって治安が悪くなり、それらが両方とも健康に悪影響を及ぼす。そんなふうに思いますね。」(近藤教授)

さらに、これは国レベルまで広げて取り組むべき課題であると近藤教授は提案する。

「これは地域内の格差ですけれども、国の中でどれぐらい格差があるのかを比べた研究もあるのですが、実は格差が大きい国のほうが、お金持ちも含めて死亡率が高いという。そのことを考えると、社会保障の機能を強化して貧富の差を縮めるような社会政策が、国民の健康水準全体を上げるためにも大事なのかなと思います。」(近藤教授)

今回は、人工知能「AIひろし」の分析結果を基に健康寿命について考え、さまざまな課題に行き着いた。読書習慣、ひとり暮らしのコミュニティ、地域安全の政策。ちょっとした取り組みで、大きな成果が得られることも分かった。

65歳以上が活動を活発にできる仕組みを整えれば、そこに若い人がついてくる。そして、その若い人たちも50年後に元気になれるような循環が、低コストで実現できると感じさせる「AIひろし」の分析であった。

「AIひろし」はまだ成長中。引き続き、人々が老後も元気に暮らすための大胆な提案をしていく。そして、将来は「読書」を超える驚くべき健康法のヒントを期待したい。

この記事は、2018年10月13日に放送した 「NHKスペシャル AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン 第3回 健康寿命」 を基に制作しています。
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