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あなたの“精子力”は大丈夫?
ニッポン“精子力”クライシス

2018年8月28日

今ニッポンの未来を脅かす、異常事態が男性の体に起きている。精子の数が少ない、ほとんど動かないなど、受精して妊娠を成功させる精子の力「精子力」が、どんどん衰えているというのだ。さらに、最新の研究で精子力と病気の関係も明らかに。妊娠や出産だけでなく、健康のためにも大切な「精子力」を取り戻せ!

日本男性の精子は最低レベル!? カギはDNAにアリ

去年、欧米で男性の精子の数を調べたところ、この40年で半減していたという驚きの調査結果がでた。そして、欧米よりもさらに心配なのが日本。精子の数を欧州4か国と比べたところ、なんと最低レベルだったことが分かったのだ。

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この状況が続けば、少子化問題はより深刻に…

なぜ日本人の精子が危機的なのか。化学物質の影響のほか、生まれつき異常が増えていることが指摘されている。しかし、実は、普段無意識に行っている生活習慣も、精子に大きな影響を与えることが分かってきた。しかも、精子力の衰えは、さまざまな病気と深い関係があるという。

今回、番組では妊娠を成功させて新しい命を育む力を「精子力」と呼ぶことにした。その精子力を知りたいという男性28人に集まってもらい、「精子力」を調査。平均年齢35歳の健康には問題がない人たちばかりだ。

正確なデータを取るため、精液は検査当日の朝に採取。顕微鏡で拡大し、精子の数や運動率を調べた。

お酒が好きであまり自信がないと言っていた、30代男性。この男性の検査結果は、精子濃度が4,800万。自然妊娠のためには、精液1ミリリットル中に、精子が1500万個以上、活発に動く精子が40%以上あることが望ましいとされている。この男性は、この基準を大幅に上回っていた。

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続いては、食事には気をつけていると自信を見せていた30代の男性。精子の数は自然妊娠の基準をギリギリクリア。ところが、数は多くいるように見えたものの、止まっている精子が多いことが判明。活発な精子の割合が低いと、卵子までたどり着けず、自然妊娠が難しい場合があるという。

「まったく予想していなかったところがあって、何ともっていう。少し驚いているというのが素直な感想ですね。」(30代男性)

数や運動率は基準を上回っているのに、「精子力に問題あり」と指摘された人は、いったい何が問題なのだろうか。

本人の許可をもらい、この大学が実施している特殊な精子力テストを行った。見た目が元気な精子をマウスの卵子に入れ、その変化を観察。正常な精子であれば、細胞分裂が始まるところだが、結局、変化が起こったのは12個のうち1つだけ。

ところが別の男性の精子で同じテストをしたところ、8個が細胞分裂した。なぜ、違いがでたのだろうか。

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その理由は、DNA。男性の精液を精密に検査してみると、DNAが損傷していることを示す赤い部分が、全体の26%を占めた。22%を超えると、自然妊娠しにくくなるといわれている。男性不妊のスペシャリストである獨協医科大学埼玉医療センターの岡田教授は次のように話している。

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「受精卵にたどり着いても、受精しなかったり、受精したとしてもそれがきちんと正常の胚になってこない可能性があるということです。衝撃ですね。」(獨協医科大学医療センター 泌尿器科主任教授 岡田弘さん)

今回の調査で「精子の数」と「運動率」「DNAの損傷率」の3項目のうち、いずれかで基準を下回った人は28人中9人。20代も3人含まれていた。さらに大規模な調査でも、心配な結果がでている。

男性不妊が専門のメンズヘルスクリニック東京の辻村晃さんは、3年前から結婚前の男性722人の精液を検査してきた。その結果、実に5人に1人が、精子の数や運動率で自然妊娠の基準を下回り、不妊リスクがあると判定された。さらに、活発な精子の数と年齢の関係を分析したところ、30代以降、大きく減っていくことが分かったのだ。

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「男性の初婚年齢31歳だったと思いますけど、31歳というのは結構高い。現代人は精子数が減っている中で、さらに悪い条件になるまで結婚しないわけですから、本当に自然妊娠というのがどんどんその割合が減ってくるのではないかと、そんなことも思います。」(メンズヘルスクリニック東京 医師 辻村晃さん)

精子力を下げる「活性酵素」と「テストステロン」

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片岡さん 41歳 建築会社 事務職

今回、番組の「精子力徹底調査」に協力してくれた片岡さん。交際中の彼女を安心させたい、というのが参加の動機だった。ところがフタを開けてみると、精子の運動率は自然妊娠の基準ギリギリ。数は基準を下回っていた。

「たばこは吸わないですし、お酒もそんなに飲んでいないので、ショックでもありますし、何が原因なのかなと、それは正直思いましたね。」(片岡さん)

そんな疑問に答えるため、片岡さんの体を精密検査した。検査結果の中で岡田教授が注目したのが「活性酵素」。片岡さんの体には活性酸素という物質がたまり、体にストレスを与えている状態だという。

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活性酸素は呼吸によって生まれるが、たまりすぎると毒になる。精巣で精子を攻撃し、死滅させたり、傷つけたりする。もともと精子の細胞膜は傷みやすく、活性酸素のダメージを受けやすい。ただし、私たちの体には、活性酸素をかき消すシステムも備わっている。片岡さんの体に活性酵素がたまった原因について、岡田教授は次のように指摘する。

「生活習慣、それからその人の住んでいる環境、仕事している環境を広く考えていかなければいけないと思います。それが毎日累積して個人に対して影響を及ぼしてくることは大いにありえる。」(岡田教授)

精子に良くない生活習慣とはどのようなものなのか。片岡さんの自宅に固定カメラを置かせてもらい、普段の生活を記録させてもらったところ、あることが分かった。

夜8時すぎに会社から帰宅した片岡さん。帰宅直後から、ずっとネットとテレビを流し見している。完全に何も考えていないという片岡さん、あっという間に1時間が経過。その間、座りっぱなしだった。

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岡田教授は、片岡さんのような座りっぱなしの生活は精子の形成に良くないという。実は、長時間、精巣の血管が圧迫されて血流が悪くなると、活性酸素がたまり、精子を傷つけてしまう。さらに精巣の温度も上がるため、精子が熱によるダメージも受ける恐れがあるそうだ。

海外の研究では、1日5時間以上座ってテレビを見る人は、その習慣がない人と比べ、精子の数が30%少ないことが分かっている。

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「現代人には、座りすぎはある程度仕方のないことです。でも意識して体を動かすと、その影響が相殺され、精子の質も良くなると思います。」(調査を行ったコペンハーゲン国立病院研究員のプリスコーンさん)

一方、片岡さんはというと、ごろごろ寝そべってばかり。おやつもコタツに入ったままで手の届くところに置いてあり、まったく動かないでもいい状態になっている。

さらに普段の食事にも問題が見つかった。ある日の食事は、イカフライに大きな焼き鳥。茶色一色の食事内容だ。

「こういう動物性の脂肪酸がたくさん含まれる油ものだけ食べているというのは、良くないでしょうね。」(岡田教授)

最新の研究では、肉などに多く含まれる飽和脂肪酸が、1日のカロリーの10%を超えると、精子の数が大きく減ることが分かっている。

「飽和脂肪酸を減らし、魚介類に含まれるオメガ3脂肪酸やビタミンCなどの酸化をおさえる物質を多くとるべきです。魚をより多く摂取した男性は、摂取していない男性よりも精子の数が多いことが分かっています。」(ハーバードメディカルスクール アタマン教授)

片岡さんの映像からは、「座りすぎ」「脂肪のとりすぎ」「運動不足」「寝る前のスマホ」という、活性酸素を増やす生活習慣が4つ見つかった。

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さらに、調査の参加者の中には、片岡さんとは別の理由で「精子力に問題あり」と指摘された人がいた。三浦輝正さんだ。

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三浦輝正さん 46歳 サービス業

精子の数は、WHO基準1500万/mlに対して1760万/mlとギリギリ。しかも、精子の「形が悪い」と指摘を受けた。三浦さんは3年前に離婚。再婚して子どもがほしいと、食事には気をつけてきたというが、この結果には落胆したようだ。

「体質改善ができたような気は少ししていたけど、それに比べると、この結果は残念です。」(三浦さん)

そこで、三浦さんの精子力が衰えた原因も調べてみることに。血液検査の結果、テストステロンという精そうで作られる男性ホルモンの一種が低いことが分かった。

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テストステロンは主に夜の間、脳からの信号を受けて分泌され、精子の形成を促す。三浦さんは何らかの理由で、信号がでにくくなり、テストステロンが不足。精子の数が減ったり、質が悪くなったりしているというのだ。

しかし、三浦さんのVTRを見えてみると、その原因がすぐに判明した。三浦さんのテストステロンが不足していた原因は、ズバリ、睡眠不足。電灯をつけたまま寝てしまうこともあってか、精子がうまく作られず、精子力が衰えていた。

三浦さんは夜勤もあり、寝る時間がバラバラで、深く眠れない日が多いと言う。最新の研究では、睡眠時間が6時間半未満だと、7時間以上の人より、精子の数が2割も少ないことが分かっている。

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今や精子も「商品」の時代 精しょうで健康リスクも察知

40年前と比べ、世界でも日本でも「精子力」が劇的に下がっているという事実。このような中、日本でも近年注目されているのが「精子バンク」だ。

30代のある女性は、結婚後、夫に精子がないことが分かり、第3者の精子で出産した。日本の精子バンクはドナーが不足し、1年待ちの状態。そこで、夫婦はインターネットで見つけたヨーロッパの精子バンクに連絡。精子力の高いものを選んで、提供を受けたという。

「自分も年をとってしまうので、どんどん妊娠率が下がる中で、精子としての力が強い精子が集まっているというのは非常に魅力になりました。」(精子の提供を受けた女性)

一定の規制はあるが、欧米の精子バンクを利用する日本人は、増え続けているという。

デンマークにある世界最大の精子バンク「クリオス」では、日本を含む100か国以上に精子を輸出している。ストローの中の精子は液体窒素につけて冷凍保存。不妊に悩む夫婦や独身女性からの注文は、この10年で5倍に増えたという。

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あらゆるタイプの人種、民族の精子が入っている

精子の提供者の情報はホームページで公開。身長、学歴など10の条件の中で特に重視されるのは、精子力の高さだ。元気な精子ほど値段が高くなるそうだ。

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「これは1つ1408ユーロ(18万円)。1ミリリットル中に5,000万運動精子が存在するので、とても高いです。」(精子バンク担当者)

今や精子力が高い精子は、国境を越えて取引される「商品」にまでなっている。

さらに驚きの話を、もう1つ。

精子力の衰えは、さまざまな病気とも深い関係があるというのだ。南デンマーク大学医学部のジェンセン教授は、精子が少ない男性5,000人の健康状態を10年以上、追跡調査。その結果、精子の数が少ない人は、糖尿病のリスクが50%、心臓疾患などのリスクが40%高いことが分かった。

けして精子力の衰えが、病気を引き起こすというわけではない。精子の状態が悪い人は、健康状態も悪いことが多い、ということだそうだ。死亡率の調査でも、精子の数が少ないとリスクが上昇。1ミリリットル中の数が1000万を割ると1.7倍になった。

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ただし、精子の状態が悪くても健康的な生活をすればリスクを減らせる、とジェンセン教授は言う。

「精子の数は、ある意味で、健康のバロメーターのようなもので、病気にも関係しています。精子の数が少ない男性は、数年後糖尿病や心臓疾患などにかかっているかもしれません。健康状態に気をつけていくべきです。」(ジェンセン教授)

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精液を遠心分離したときに分かれる精しょう

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日本でも、精液を病気の予防に役立てようという研究が進んでいる。順天堂大学教授の堀江重郎さんによれば、この精しょうは、血液よりも敏感に体調を反映するという。実際に前立腺がんの患者の精しょうを調べると、活性酸素が急増していた。ほかにも、認知症や生活習慣病などの指標となる成分を含む精しょう。その検査で健康リスクをいち早く察知できる可能性があるそうだ。

「血液を調べても、ほとんどの方は何にも異常がない方が多いのですが、今、現在の健康状態を精液が反映してくれる可能性が十分に高い。ある程度の年齢まで毎日の健康管理の中に活用していけるのではないかと思います。」(順天堂大学 医学部教授 堀江重郎さん)

精子力をアップする生活習慣とは?

精子力の危機につながる活性酵素の増加とテストステロンの減少。この2つを招く原因は、日常生活に数多くある。喫煙、カフェインの過多、睡眠不足、ストレス、運動不足…。

実は、精子は74日のサイクルで新しくなるため、ある程度改善する方法があるという。
精子力が衰える原因が分かった片岡さんと三浦さん。岡田教授の指導で、改善生活を始めていた。

片岡さんが指摘されたのは、座りすぎや脂肪のとりすぎなど4つ。まずは、長年、愛用してきたコタツを片付けた。立ち上がる機会を増やし、精巣の血流をよくする。活性酸素がたまらないようにするのだ。

食生活の改善には、彼女も全面協力。彼女の手料理で、大豆や青魚など、活性酵素を減らす効果がある栄養素を、積極的にとるようにした。

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一方、夜勤の多い三浦さんが指摘されたのは、睡眠不足。岡田教授は、遮光カーテンをつけることをアドバイス。少しでも深く眠れるように、寝る前のスマホも控えるように。

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2人とも元気な精子を生み出そうと、生活習慣を根本から変えた。そして改善生活を初めて半月ほど。半信半疑の2人から精液を預かり、中間検査を行った。調べるのは精しょう。精子力回復のきざしがあれば、いち早く現れるはずだ。

まずは三浦さん。三浦さんは、精子の形成を促すテトステロンが足りないと言われていたが、なんと2週間で倍増していた。

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そして片岡さんは、精子を傷つける活性酸素が問題だったが、こちらも3週間でかなり減っていた。

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さらにその後、2人の精子の状況を調べた結果もでた。片岡さんも三浦さんも、3つの項目すべてで改善が見えられている。岡田教授はこの結果について、次のように評価している。

「これは途中経過ですが、もっとよい方向に向かっていくんじゃないかなと思いますね。2人とも大事な点は、すごく高価な薬を飲んだとかそういうことではなくて、わりと身近にできることで改善ができてきてるということです。しかも、その成果が見てとれるということは、とても良いことだと思います。」(岡田教授)

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生活習慣を変えて、精子力がアップした片岡さん。手応えを感じ、苦手だった野菜も、すすんで食べるようになったそうだ。

「モチベーションっていうんですか、自分の中でも生まれてきたかなと。」(片岡さん)

バツイチの三浦さんも、前より女性に積極的にアプローチするようになったという。

「自信を持って、やっぱり女性と接することが、これからしやすいなと。」(三浦さん)

精子力の危機は、誰にでも降りかかる問題。しかし、多くの場合、少しの努力で改善が可能だ。精子力を取り戻す健康的な生活。あなたも心がけてみてはどうだろうか?

この記事は、2018年7月28日に放送した 「NHKスペシャル ニッポン “精子力” クライシス」 を基に制作しています。
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