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長周期パルス 超高層ビルを破壊する脅威の揺れとは?

2017年10月6日

これまで地震に強いとされていた超高層ビルやマンションを、一撃で破壊する恐れがある特殊な揺れ「長周期パルス」。そのリスクが最新の研究で明らかになってきた。高層化が進む現代の日本。長周期パルスとの闘いの最前線に迫る。

超高層ビルを破壊する「長周期パルス」

いたるところに活断層が存在する地震列島、日本。これまで直下型の活断層地震は、木造の低い住宅などでは被害が大きく出る一方で、超高層のオフィスビルやマンション、あるいは免震構造を備えた建物では、被害は比較的少ないとされてきた。ところが熊本地震で観測された、脈打つような大きな揺れ「長周期パルス」は、地震に強いとされてきた建物に一撃で大きなダメージを与えるということが分かってきた。

2016年4月に発生した熊本地震。地表には30キロにわたって断層が現れた。その断層に近い西原村役場にあった地震計が、国内の直下型地震で観測されたことのない特殊な揺れを捉えていた。

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震度7を記録した西原村の揺れのデータから、地震発生の10秒後、1発の大きな揺れが襲っていたことが分かったのだ。揺れが1往復するのにかかる時間=周期は、およそ3秒。脈打つような揺れが長周期パルスだ。最新の研究から、この長周期パルスに恐ろしい破壊力が秘められていることがわかってきた。

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これまで直下型地震では、短い周期の揺れによる被害が相次いできた。1995年の阪神・淡路大震災では被害が集中したのは木造などの低い住宅で、神戸市内で観測された揺れは周期が1秒から2秒程度だ。

揺れの周期によって被害を受ける建物は異なり、ガタガタとした小刻みな短い周期の揺れの場合、超高層ビルは揺れを吸収。大きく揺れて被害を受けるのは低い建物だ。一方、長周期パルスは周期が3秒の長い揺れ。超高層ビルは一撃で大きく揺れる。

もし長周期パルスが実際に超高層ビルを襲ったら、どうなるのか。工学院大学・都市減災研究センターの久田嘉章教授が、新宿にある大学のビルで西原村のデータを使ってシミュレーションを行った。

29階建て、高さ133メートルの鉄骨の超高層ビルを長周期パルスが襲う。すると、その一撃で骨組み全体が大きく揺さぶられ、揺れ幅は最上階で最大2.7メートル。損傷は、負荷がかかりやすい下の階を中心に広がり、揺れが収まっても、ビルは傾いて、変形したままになってしまうことが分かった。

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赤くなっているところは、柱などが変形して損傷した場所を示す

逃げるまもなく襲ってくる大きな揺れ

1960年代以降、次々と建設されてきた超高層のビルやマンションは、これまで地震に強いとされ、大きな被害を受けた経験はなかった。しかし2011年の巨大地震では、東北沖の震源から400キロほど離れた東京を長周期地震動が襲い、超高層ビル群が10分以上揺れ続け、室内などに被害が出た。これを受け、建物の揺れが徐々に大きくなるのを抑えるため、ダンパーと呼ばれる装置や巨大な振り子を設置する動きが広がった。

しかし、今回明らかになった長周期パルスは、震源が近い直下型地震特有のリスクがあると久田教授は指摘する。超高層ビルの20階の揺れをシミュレーションしたところ、長周期パルスはいきなり大きな揺れに襲われ、室内はめちゃくちゃに。一方、長周期地震動は、次第に揺れが大きくなり、被害が出るまでには時間がかかる。直下型の活断層による長周期パルスは、逃げるまもなく非常に大きな揺れが襲ってくる。

「(長周期地震動の場合)1分2分3分の余裕をもって、建物の揺れが大きくなるっていうのはかなり準備ができると思うんです。安全な場所に待機したり、ちょっとドアをあけておいたり、心構えはいろいろできたと思うんですけども、活断層の真上って、きたなと思ったらドーンときてしまう。ほぼ10秒以内に来るものなので、ほとんど逃げる間がないと思います。」(久田教授)

長周期パルスが襲う最も危険なエリア

長周期パルスがどんな場所で発生しやすいのかも明らかになってきた。そのメカニズムは、地震で地表に断層が現れ、地面が大きく動くことによって長周期パルスが発生する。一方、断層が地表に現れない場合、地面の動きが少なく長周期パルスが発生しにくくなると考えられている。専門家によると、マグニチュード7クラスの活断層地震が起きると地表に断層が現れるという。

国がマグニチュード7クラスの大地震の発生を想定している活断層は113。福岡市の真下を横切る警固断層帯、大阪の中心部を貫く上町断層帯、東京西部の立川断層帯、仙台市内を縦断する長町・利府線断層帯など。各地に存在する活断層で地表に断層が現れた場合、その周辺数キロの範囲で長周期パルスが発生する可能性があるという。

マグニチュード7クラスの大地震が発生すると想定されている113の活断層。どの地域に危険が潜んでいるのか、筑波大学 構造エネルギー工学域の境有紀教授は、地盤の影響も考慮し超高層ビルのリスクが高い場所を分析。解析の結果、最もリスクが高いことが分かったのは、大阪の上町断層帯だ。上町断層帯は全長およそ42キロ、超高層ビルやマンションが立ち並ぶ大阪の中心部に位置する。国はマグニチュード7.5の大地震が発生し、地表が最大3メートルずれ動く可能性があるとしている。大阪以外の危険エリアについては、例えば関東平野の場合、非常に厚く、軟らかい地盤がたまっているので、その下にある活断層についてはよく分かってない部分もあるという。名古屋にも活断層がある可能性が指摘されており、現在調査中だ。

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濃い赤で示した範囲では、超高層ビルは周期の長い揺れによって被害を受ける危険性も

長周期パルスに挑む最新技術

病院や自治体の庁舎など、重要な施設に多く取り入れられている免震。その数は全国でおよそ9,000棟。熊本地震では免震の建物はかろうじて被害を免れた。熊本市内の大学病院の免震装置の記録では、地震の際建物が最大で40センチ動き、設計したときに想定した最大の揺れ幅に達していたことが分かった。

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建物を浮かせる装置の小型版

突然大きな揺れに襲われることから、現状の技術では対策が難しいとされる長周期パルス。
しかし、これを全く新しいアイデアで解決しようという挑戦が始まっている。防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターのセンター長を務める梶原浩一さんは、町の一角を丸ごと地面から浮かせて、地震の揺れから守るという「フロートシティ」を研究している。そのカギは建物を浮かせる装置の開発。現在はその小型版を作って実験を行っている。

装置の重さはおよそ2トンで、力いっぱい押しても動かない。ところが装置を起動させると、少し力をかけるだけで滑るように動く。装置と地面の間に、100分の6ミリという、わずかな隙間ができたためだ。このとき、装置の下から圧縮した空気を勢いよく噴射し、その力で浮かび上がっているのだ。この装置をいくつも並べて、上に建物を建設。地震の横揺れを遮断しようという計画だ。

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縦方向の揺れも特殊なバネで吸収させる。熊本地震の揺れを再現し、装置が揺れを遮断できるのか検証した実験では、データで比較すると地面の揺れに比べ、装置の揺れは30分の1に抑えられていた。現状ではこの装置を6個使えば、木造住宅など30トン程度の建物を浮かすことが可能だという。今後、改良を重ね超高層ビルなどを浮かせる装置を開発していく計画だ。

一方、最新の対策を取り入れた「免震」の建物も愛知県の半田市役所に登場。免震は、装置が一気に動き建物が周りの壁に勢いよく衝突すると建物が損傷するリスクがある。この課題をどう乗り越えるか、設計担当者が考えたのが、免震と合わせてダンパーと呼ばれる装置を使うことだ。ダンパーは内部にあるピストンが動くことでブレーキをかけ、揺れを抑える。新たに開発した“スイッチダンパー”は、小刻みな短い周期の揺れのときは免震装置だけが働くという仕組みで、このとき、ダンパーは地面に固定されておらず、建物と一緒に動くため機能していない。一方、長周期パルスが襲い建物の揺れが45センチに達した瞬間、ダンパーのピンが落下し地面に固定される。ダンパーのスイッチが入り、建物が大きく揺れる前にブレーキをかける仕組みだ。スイッチダンパーを使えば長周期パルスにも備えられるというのだ。

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ダンパーの赤いピンが落下し地面に固定

では、私たちにできることはあるのだろうか。名古屋大学減災連携研究センターの福和伸夫教授は、マンションを買う前に、活断層や地盤の強さなどを調べることを勧めている。政府の地震調査研究推進本部のホームページには全国の活断層に関する情報がある。また、防災科学技術研究所のホームページには、全国の場所ごとの地盤の情報があり、簡単に自分でチェックできるという。

さらに、高層マンションの住民の地震への備えとして、部屋の中の家具の転倒防止対策や非常用ディーゼル発電機の準備、さらにエレベーターが止まってもけが人を下に下ろせるよう階段を動くことができる階段避難車などを備えておくことが大切だと福和教授は指摘する。

「見たくないことは見ないというのが人間の性ですから、そのことが想定外を生み出してしまった。そのことは、東日本大震災でいちばん私たちが学んだ教訓。ありえないと思うことはやめて、長周期パルスということの存在はちゃんと頭に入れておいた上で、そのことに対してどう対策をとるべきかということを、1人1人が考えることが出発点だと思います。」(福和教授)

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超高層マンションに暮らす東京荒川区住民の間では、新たな脅威に向き合おうという動きが始まっている。7月、都内で開かれた防災の勉強会には、マンションの管理組合や住民など75人が集まった。これまでは考えもしなかったという超高層マンションからの避難。参加者はそこに潜むリスクを洗い出していた。都市の高層化が進む中で、直面することになった、長周期パルスという新たな脅威。命を守るための挑戦は、まだ始まったばかりだ。

この記事は、2017年9月2日に放送した 「NHKスペシャル シリーズ MEGA CRISIS 巨大危機Ⅱ ~脅威と闘う者たち~ 第1集 都市直下地震 新たな脅威 “長周期パルス”の衝撃」 を基に制作しています。

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