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福島原発メルトダウン
危機はなぜ見過ごされたか?

2017年4月25日

人類が経験したことのない、極めて困難な廃炉に向けた作業が今も続く福島第一原発。メルトダウンした核燃料がどうなっているのかは、6年たった今もわかっていない。危機はいかにして見過ごされてしまったのか。100人を超える関係者へのインタビューと人工知能も用いた分析からその深層が見えてきた。

判断を誤らせた経験不足

2011年3月11日に発生した福島第一原発事故。最初にメルトダウンした1号機は翌日に水素爆発を起こし、続けて3号機、2号機と事故は連鎖していった。最新の解析によれば、最も激しくメルトダウンしているとみられているのが1号機だ。しかし事故当時、東京電力は1号機で危機的な状況が続いていることを見過ごし、効果的な冷却を始めたのは事故発生から12日後のことだった。なぜ長期間にわたって重大な危機が見過ごされたのか? 今回、NHKは100人を超える関係者を取材。見えてきたのは、重要な安全装置をいかすことのできなかった「備えの甘さ」と、1号機の危機的な状況を何度も見逃した組織の「構造的な問題」だ。

核分裂の連鎖反応によって膨大な熱を生み出す原子炉は、制御棒が挿入され、緊急停止した後も核燃料は極めて強い熱を出し続ける。そのため、最も重要なのが冷却することだ。当時、真っ先に自動で起動したのが、「イソコン」と呼ばれる非常用の冷却装置。運転員たちはこのイソコンを動かしたり止めたりしながら、原子炉の冷却を行っていた。しかし巨大津波による電源喪失で、イソコンの稼働状況が判断できなくなってしまったことから、1号機の冷却を巡る混乱は始まった。

イソコン稼働時は、原子炉建屋の壁の「豚の鼻」と呼ばれるイソコンの排気口から、大量の蒸気が噴き出す。通常であれば、原子炉建屋内に運転員が入ってイソコンの動作状況を直接確認できる。また、運転員が建屋の外に出て「豚の鼻」から出る蒸気を確認することが可能だ。しかし、余震が続き、津波の恐れもある中、当直長は運転員を建屋に向かわせることが出来なかった。その代わりに依頼したのが、現地対策本部の発電班に「豚の鼻」からの出る蒸気の状況を確認してもらうことだった。地震発生から約2時間後、イソコンの確認に向かった現地対策本部の発電班員が目にしたのは、「モヤモヤと出ている蒸気」だった。この情報を元に、現地対策本部の発電班は、実際には止まっていたイソコンを「作動している」と判断した。実は、発電所内にイソコンを動かした経験のある人は1人もいなかった。関係者によると、1号機が運転を開始したおよそ40年前にはイソコンを動かしていた。かつて福島第一原発で働いていた飯村秀文さんは、「原子炉建屋がほとんど隠れるくらい、蒸気が発生します。経験があれば、動いてないな、っていう判断できたと思うんですね。」と振り返る。イソコンを巡る経験不足が、原子炉冷却の最初の判断を誤らせたのだ。

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イソコンの排気口「豚の鼻」から出ていた蒸気

メルトダウンが進行した3時間

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内部の配管が損傷し、放射性物質が外部に放出される懸念も

1号機の原子炉を冷却するチャンスは、地震発生からおよそ3時間半後にも訪れた。一部のバッテリーが復旧したことで、イソコンが動いていないことが判明。イソコンを再び作動させるが、その7分後には再停止させてしまう。その理由について東京電力は、豚の鼻から出ていた蒸気がしばらくすると見えなくなったためとしている。運転員たちは、イソコンのタンクの水が空になって内部の配管が損傷し、放射性物質が外部に放出されることを懸念したのだ。ところが、その後、資料を調べるなどして、タンクには10時間程度は冷却できる水があると考え、停止から3時間後に再びイソコンを起動させた。しかし、SAMPSONによる解析によるとこの3時間の間に、1号機のメルトダウンは急速に進行。もはやイソコンでは冷却不能の状態に陥っていたと考えられている。

後に事故の検証を行った米国原子力発電運転協会の報告書は、運転員の知識や経験の不足を指摘している。アメリカではイソコンを定期的に、実際に起動し、原子炉の熱を除去する性能を確かめる「実動作試験」が義務づけられている。試験のために実際に起動させることによって、運転員は緊急時の対応を身につけることができるという。一方、福島第一原発では、イソコンの研修は行っていたものの、実動作試験はおよそ40年間、1度も行われていなかった。なぜか? イソコンは放射能漏れを防ぐ格納容器の外にあるため、もし原子炉からつながる配管が損傷した場合、蒸気の中に含まれている放射性物質が外部に放出されるリスクがある。東京電力はこのリスクを恐れて、実動作試験を長年行っていなかったと回答。その結果、現場では一度も使ったことのない装置で事故対応に当たることになったのだ。

SAMPSONによる解析によると、イソコンでの冷却に失敗した1号機は、地震発生後の翌日午前1時にはメルトダウンした核燃料が原子炉を突き抜け、放射能漏れを防ぐ最後の砦といわれる格納容器にまで達していた。

度重なるチャンスを見逃した東京電力の「構造的問題」

1号機の効果的な冷却が開始されたのは事故発生から12日後。国の事故調査では、なぜここまで対応が遅れたのか明らかになっていない。そこでNHKは、3万を超える東京電力のテレビ会議の発話を原発事故の解析や危機管理の専門家らと分析。会話を書き起こした文章を人工知能で解析する手法も取り入れ、当事者たちの思考の傾向や疲労度などを詳細に分析した。そこから見えてきたのは、1号機の危機的な状況に気づくチャンスがありながら、何度も見逃していく組織の「構造的な問題」だ。

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東京電力のテレビ会議

3月12日、午後3時36分。1号機が水素爆発。放射能汚染の広がりによって現場の作業は一気に困難になり、1号機の冷却を巡る次なる混乱が始まった。現場の指揮を執っていた吉田昌郎所長はこの頃、原子炉冷却のため、消防車による注水を目指していた。しかし、消防車から十分な水を送り込んでいるにもかかわらず、原子炉の水位計が同じ値を示すことから、吉田所長は水位計が正しい値を示していないか、注水がうまくいっていない可能性を疑っていた。ところが、このあと冷却装置が停止して水位が急速に下がった3号機の対応に追われ、1号機への対応は後回しにされる。

そして注水が始まった3号機の事態が落ち着きを見せ始めた6時間後、1号機の危機に気づくチャンスが訪れた。きっかけは、柏崎刈羽原発からテレビ会議に参加していた横村所長の「1号機に本当に水が入っているのかフォローした方がいい」という指摘だった。しかし、1号機の状況に疑問を抱いていたはずの吉田所長は、このとき「1号機に水は入っている」と答えている。なぜ、1号機の危機に対する柏崎刈羽からのアドバイスは取り入られなかったのか? 発話記録の解析によると、吉田所長が話している相手は本店の幹部が中心で、発話全体の62%。一方、柏崎刈羽の横村所長が話している相手も本店が半分以上を占めており、吉田所長が横村所長と話している割合は、わずか0.6%。事故対応に関する柏崎刈羽からの意見は本店が受け止めて、明確な指示を出さない限り、意思決定の流れの中に入りづらい“横のつながりのない”状態になっていたのである。その後、格納容器内部の高い放射線量が計測され、1号機の危機に気づくチャンスが再び訪れる。しかし、この時も対応が優先されたのは水素爆発の恐れがあった3号機だった。

所長への業務の集中が対応の遅れを招く

3月14日、3号機が水素爆発。翌日には2号機から放射性物質が大量に放出され、3つの原子炉は全てメルトダウンした。4号機でも原子炉建屋が水素爆発を起こし、1号機から4号機、4つの危機的な事態に同時に対応を迫られることになった。

発話記録を解析すると、吉田所長が置かれていた極めて過酷な状況も浮かび上がってきた。事故発生からの6日間で記録が残っている62時間のうち、まとまって吉田所長の発話がない時間はわずか5時間。吉田所長は原子炉だけでなく、事故対応に関わるあらゆる業務に追われるようになっていた。さらに人工知能の分析によると、事故発生から10日目、3月20日の吉田所長の発話には同じ言葉を繰り返す「言いよどみ」が激増。疲労が深刻化していたことがうかがえる。そして吉田所長が体調不良で指揮を交代した3時間後、1号機の原子炉温度の状況が初めてわかり、現地の対策本部は1号機が冷却できていないことを確信。注水ルートが変更され、1号機の原子炉へ水が注がれるようになったのは3月23日。事故発生から既に12日が経過していた。1号機は注水の失敗が見過ごされ続けたことで、取り出しが困難な大量の核燃料デブリが発生したと見られている。

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吉田所長の1時間ごとの発話数(IBM Watson Explorerによる解析)

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東京電力の訓練の様子

いま、東京電力では、事故対応を想定した訓練が重ねられている。所長がいるのは現場の事故対応に当たる社員とは別の場所。所長が原子炉の状況に集中できるような体制を模索している。また原発の安全に関わる設備の検証を行った専門家らは、イソコンの他にも「実動作試験」が行われておらず、実動作させるべきかどうか、検証が必要な設備が少なくとも3つはあると指摘している。

原発事故への備えの欠落と、事故に対する人間や組織の対応の限界を浮かび上がらせた福島第一原発事故。果たして、私たちは核を制御できるのか。今も問いかけは続いている。

この記事は、2017年3月12日に放送した 「NHKスペシャル メルトダウンFile.6 原子炉冷却 12日間の深層 ~見過ごされた“危機”~」 を基に制作しています。
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