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子どもに広がる「見えない貧困」

2017年3月6日

一見、どこにでもいる普通の子どもたち。しかし、いま日本では6人に1人の子どもが「見えない貧困」にあえいでいる。自治体の大規模調査によって明らかになりつつある貧困の実態。私たちの想像を超えるその生活を追った。

貧困家庭で進む「剥奪」とは?

いま日本では、6人に1人の子どもが「相対的貧困」状態に置かれている。「相対的貧困」とは、その人が暮らしている社会の普通の生活水準と比較して下回っている状態のことで、国や地域、あるいは時代によっても水準が異なることから、絶対的ではなく相対的と言われる。具体的には世帯1人あたりの手取り収入の中央値を基準として、その半分未満の場合を指す。金額にすると1人世帯では年収122万円、両親と子ども2人では244万円が基準となり、4人家族であれば月収およそ20万円以下であれば貧困状態になる。

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大阪府が行った大規模な実態調査

手取り20万円と聞くと、ギリギリ生活できると思う人もいるかもしれない。しかし、それこそが「見えない貧困」と言われるゆえんだ。この「見えない貧困」を可視化するため、今年度、全国の自治体で大規模な調査が初めて行われている。なかでも全国最大規模の調査を行っているのが、大阪府だ。府によると、調査に回答したのは全43市町村の小中学生と保護者、約5万世帯。2017年1月の中間報告の段階では、相対的貧困にあたる「困窮度1」の世帯は12.3%に上った。

今回の調査では貧困の実態を明らかにするため、従来とは違う新たな指標が使われた。相対的貧困状態に置かれた子どもたちが、経済状況が標準的な家庭の子どもと比べ、何を奪われているのかを調べる「剥奪指標」だ。その結果、「相対的貧困」の世帯では子どもが当たり前に持っているはずの「物」、「人とのつながり」「教育・経験の機会」などが奪われていることが浮き彫りになった。

貧困家庭を襲うモノ・ヒト・コトの欠如

例えば「剥奪指標」のひとつである「病院に行かせることができない」という質問では、標準的な世帯が0.6%であるのに対し、相対的貧困にあたる「困窮度1」の家庭は7.7%。子どもに「新しい服や靴を買えない」という家庭は、中央値以上では2.3%に対し、困窮度1の家庭では27.6%だった。ほかにも多くの指標で困窮度1の家庭が高い結果となった。

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スマートフォンは子どもの安全を確認するためのライフラインになっている

一方、スマートフォンやタブレット機器は、困窮度1の家庭の子どもの61.5%以上が持っており、標準的な家庭を上回っている。スマートフォンは、仕事のために家を空ける時間の長い親が子どもの安全を確認するための、いわばライフラインになっているのだ。さらに「ゲーム機」「自転車」「テレビ」など、子どもどうしの付き合いやコミュニケーションに欠かせないものについては、ほとんど違いがないこともわかった。しかし、困窮度1の家庭では、子どもの知識を深めるために必要な「本」は29%が購入しておらず、部活動で使う「運動用具」も28.3%が買い与えることができていない。

調査では子どもたちから「物」だけではなく「人とのつながり」も奪われていることが分かった。家族や人とのつながりは子どもが健全に成長していくために必要な土台だ。しかし、学校から帰っても家に親がいない子どもは標準的な家庭では37.7%であるのに対し、困窮度1の家庭では50.1%。親子の大切な思い出になる「家族旅行」に行けないと答えた世帯は、困窮度1で46.2%に上っている。

自己肯定できない貧困家庭の子どもたち

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家族4人で暮らす小学5年生のなつみさん(仮名)は、放課後、同級生と遊ぶこともなく、ひとり家路を急ぐ。朝早くから夜遅くまで働く母親に代わって、家事をするためだ。なつみさんは小学校に入ってから新しい服を買ってもらったことがない。

日中の仕事と宿直の仕事を掛け持ちして子どもたちを育てている母親の真弓さん(仮名)の収入は、手当を入れて月におよそ20万円。真弓さんが帰ってくる夜7時ごろまでは、兄の小学6年生の大樹君(仮名)となつみさん、子どもだけの時間が続く。「お母さんが忙しいから。朝の7時半に出て6時半か7時に帰ってくる。けっこう寂しい」となつみさんは話す。

お金や時間を家族旅行に使う余裕もない。「うちは、(家族旅行に)行ったことがない。一度も行ったことがないです。夏場も海に行きたいってすっごく言われたんですけど、休みが取れないのとお金がないのとで行けなくて」(真弓さん)

外からは見えにくい「物」や「人とのつながり」の欠如。そして最も深刻と思われるのが、子どもの未来のために不可欠な「教育・経験」の剥奪だ。「学習塾や習い事に通わせることができない」と回答した困窮度1の家庭は30%以上にもなる。なつみさんたちも塾や習い事に通いたいと考えているが、母親の真弓さんは、目の前の生活に追われ、勉強する2人子どもの将来について考える余裕はないという。

「物」や「教育・経験」などの剥奪が、子どもから自己肯定感を失わせている事も明らかになっている。

東京・大田区では、区立小学校に通うすべての5年生とその保護者を対象に、剥奪指標を用いた調査を実施。「頑張れば報われると思うか」という質問に対し、区が支援が必要だとした子どものうち、23.7%が「そう思わない」と回答。さらに、「自分は価値がある人間だと思うか」については、その半数近くが「そう思わない」と答えている。

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経済的理由で3つ以上剥奪されている世帯を支援の対象に

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両親のどちらも非正規の仕事をしている小学5年生の修(おさむ)君もまた、「頑張れば報われると思うか」「自分は価値のある人間だと思うか」という問いに、「そう思わない」と答えている。
「どうしても自信が持てないので、自分の将来は楽しみじゃないって答えました。お母さんが色々疲れたり、お父さんがいつも疲れて帰ってきたり。大人になるのは大変だなって。もしも無事に大人になれても、大人になったあとも大変だと思うので」

高校生のアルバイト 半数以上が「生活費のため」

「見えない貧困」に苦しむのは小学生や中学生とその家族だけではない。千葉県内の16校が生徒のアルバイトの実態について行ったアンケート調査では、アルバイトをしている人のうち、週4日以上働いている人は半数近く。平日4時間以上働いている人も半数近くに及んでいる。その目的は「生活費のため」と答えた人が51%、「進学費用のため」が18%に上った。さらに、進学費用をどう払うかという質問に対し、親が全てを払えず、アルバイト代や奨学金で賄うという人が半数を超えた。今、大学に進学する2人に1人が奨学金を借りており、社会への入り口で子どもたちは大きな負担を背負わされている。

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高校生のアルバイトの実態について行われたアンケートの調査結果

子どもの相対的貧困を放置した場合、進学率が下がり非正規雇用につく可能性が高くなる。そうすると、多くの人たちの収入が減っていき、結果的に42.9兆円の社会的な損失になるという試算(日本財団)もある。負のスパイラルだ。

立教大学教授で自治体の貧困調査を分析する湯澤直美さんは「早期予防や発見といった自治体だからこそできることがある一方で、税制や社会保障、雇用の問題といった国でなければできないこともある」と対策を求める。

子どもの貧困の放置は、将来、未来に渡る貧困とも関わってくる。「見えない貧困」の実態が明らかになりつつあるいま、子どもたちの未来が奪われないために、私たちが何をしなければならないのか。考えるべき時が来ている。

この記事は、2017年2月12日に放送した 「NHKスペシャル 見えない“貧困” ~未来を奪われる子どもたち~」 を基に制作しています。
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