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「年金消失事件」の新事実も明らかに!
日本人が知らない、パナマ文書の本当の破壊力

2017年1月30日

2016年4月、世界を揺るがす機密文書の分析結果が報道された。史上最大のリークと呼ばれる「パナマ文書」だ。
所詮は権力者や富裕層にしか関係のない話と片づけている人もいるかもしれない。しかし今、パナマ文書はタックスヘイブン(租税回避地)やペーパーカンパニーと 一切、関係のない日本人も巻き込み、衝撃を与えている。

パナマ文書から見つかった、あの人物の名前

2016年4月。中米・パナマの法律事務所から流出した、機密資料の分析結果が報道された。史上最大のリークと呼ばれる「パナマ文書」だ。NHKはパナマ文書を分析する国際的な調査報道プロジェクトに参加。新たな事実がいくつも浮かび上がってきた。

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ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)の分析会議

パナマ文書はジョン・ドゥー(名無しの権兵衛)と名乗る人物から提供されたもので、南ドイツ新聞を経由してアメリカにある「ICIJ」(国際調査報道ジャーナリスト連合)に持ち込まれ、その分析結果は世界中のメディアのトップニュースとして取り上げられた。

「パナマ文書」の中身は、中米・パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が設立を手がけたペーパーカンパニーなど、21万社分のデータだ。設立を依頼した顧客の書類やメールアドレス、パスポートなどの個人情報などが含まれており、それらの膨大な文書をICIJに協力する各国のジャーナリストが分析。その結果、タックスヘイブンとペーパーカンパニーを利用した、権力者や富裕層による税金逃れや、犯罪者による資金隠しの実態が白日の下に晒されることになったのだ。

さらに、ICIJの調査報道プロジェクトに参加したNHKの調査によって、あらたにおよそ500人が加わり、700人を超える日本人の存在が明らかになった。しかも、そこには2012年に国内の混乱を招いた「年金消失事件」の中心人物として実刑判決が確定した、投資運用会社「AIJ投資顧問」の浅川和彦元社長の名前があった。

被害者に返されるべきカネは本当に残っていないのか?

浅川元社長は、全国の年金基金などから預かった1,458億円の運用に失敗し、損失を隠蔽。詐欺などの容疑で逮捕された。90万人にものぼると言われる被害者のためにこれまでに回収できたのは、預けた年金資金の10分の1以下だ。

運用失敗によって失われてしまった年金資金。だが、弁済に充てられるべき金は本当に残っていないのだろうか? パナマ文書の記録からは、知られざるカネの可能性が浮かび上がってきた。NHK取材班の調査によって、裁判でも見過ごされた浅川元社長の2つのペーパーカンパニー「AIM」と「NIC」の存在が明らかになったのである。

富裕層による税金逃れや、犯罪者による資金は、イギリス領バージン諸島など、タックスヘイブンと呼ばれる税率がゼロかきわめて低い国や地域にペーパーカンパニーを作り、そこに資産を置くことで行われる。

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NHK取材班のインタビューに答えるAIJ浅川元社長

NHK取材班は収監直前の浅川元社長を捜し出し、インタビューを行った。当初、浅川元社長は2つのペーパーカンパニーのことを知らないと話していたが、追及すると証券マンだった時期に顧客の不正に協力するために作ったと説明。会社はあくまで古いもので、「AIJの事件とは無関係。消失した金は懐にいれていない」と言い、インタビューの3日後に収監された。

しかし、パナマ文書には不可解な記録が残っていた。AIJの不正が発覚した前後に、2つの会社の代表者名義が代理人から浅川元社長に変更されていたのである。

タックスヘイブンでは、実際に誰が資産を持っているのかを隠す目的で、代表者の名義を代理人にすることがある。事実、浅川元社長のペーパーカンパニーが株価操作に使われたとされる時期には、代表者の名義は代理人のものだった。

さらに、その後、2つの会社の口座のうちの1つに1,000万円が残されていたこともわかった。

不可解な名義変更と口座に残された1,000万円が意味するものは何なのか?
浅川元社長が2つのペーパーカンパニーを作った当時のことを知る人物は「名義変更は急いで資金を動かすためだった可能性がある」と説明する。

名義が代理人のままでは、資金を動かす手続きに時間がかかる。そのため、浅川元社長は自分の名前を表に出してでも、金を別の場所に移動させようとしたのではないか? 口座に残った1,000万円は、巨額の資金を移動させたあとの端数と考えれば、説明がつくという。

この人物の見方について収監されている浅川元社長に質問を送ったが、回答はまだない。

盗まれた個人情報で設立されるペーパーカンパニー

700人の日本人ファイルによって明らかになったのは、これだけではない。タックスヘイブンやペーパーカンパニーと何の関係もない一般市民が、パナマ文書に記録されていることもわかった。何者かによって勝手にペーパーカンパニーを設立され、代表者として記載されているのである。

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歌舞伎町のホストの男性も被害に

一例を挙げると、カリブ海にあるイギリス領の島、アンギラに設立されたペーパーカンパニーの所有者としてパナマ文書に記録されていたのは、新宿・歌舞伎町で働くホストの男性であったり、香川県・小豆島でオリーブを扱う仕事をしている女性。本人が一切、知らないまま、ペーパーカンパニーの代表者として記載されており、こうした被害はほかにも見つかっている。

なぜ、一般市民が巻き込まれているのか?

ペーパーカンパニーの設立にはパスポートなどの書類が必要になる。だが、企業のサービスを利用する際に提出したパスポートのコピーなどの個人情報が、何者かによって盗まれるなどして、悪用されていたのである。

これらパナマ文書に記載された社名をネット上で検索すると、でてくるのはほとんどが出会い系サイトの運営会社。昨今、出会い系サイトは組織的な犯罪が相次ぎ、暴力団の資金獲得に利用されるケースもあると警察は見ている。盗まれた個人情報は、運営会社の実態を隠すためのかくれみのとして利用されているのかもしれない。

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モサック・フォンセカ 香港オフィスの担当者は

取材したケースでは、一般市民を巻き込んだペーパーカンパニーの設立に関わっていたのは、いずれも香港の仲介業者と法律事務所モサック・フォンセカだった。しかし、香港には多数の仲介業者が存在するうえ、業者によっては5万香港ドル(約65万円)とパスポート、住所を証明するものさえ提出すればいい。あとはメールのやりとりだけで、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立できる。一方で、個人情報を悪用された場合、自分の名前を代表者から消すことは容易ではない。

盗まれた個人情報が悪用され、ペーパーカンパニーが作られている事態について、香港の議会、香港特別行政区立法会で、金融行政を監督しているケニス・レオン議員は言う。
「何らかのシンジケートや犯罪集団が関わっている可能性もある。被害者は外国人で、香港の国際金融センターとしてのイメージを汚すことにつながります。今回はパナマ文書によって明らかになった分だけで、他にもっと同様の被害があるかもしれない。だとしたら事態はより深刻です。仲介業者を取り締まる対策が絶対に必要です」

タックスヘイブンの不透明さを利用した、犯罪者たちによるマネーロンダリングなどが明らかになったパナマ文書。だが、新たにアジアとヨーロッパにまたがる美術品取引をめぐる疑惑も浮上するなど、まだまだ全貌は見えていない。しかも、自分が知らない間に、犯罪組織のかくれみのにされてしまう危険さえある。

世界中を揺るがしたパナマ文書。その衝撃は一般市民にまで及んでいるのだ。

この記事は、2016年11月27日に放送した 「NHKスペシャル 追跡 パナマ文書 衝撃の“日本人700”」 を基に制作しています。

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