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「誰も知らずにみんな死んでいく」 映像に託された市民たちの思い

NHKに映像を託したひとり チーさん

「命が危ないことは分かっています」 そう言って、NHKに軍による弾圧の映像を託した人がいます。

2月1日に発生したクーデター以降、軍の弾圧による犠牲者は増え続けてきました。しかし軍は情報統制を強め、ミャンマー国内からの情報発信が困難な状況が続いています。こうした中、NHKは4月から情報や映像の投稿を呼びかけ、現地の人たちからは多くの動画や写真が寄せられてきています。なぜ、身の危険を冒しても現地の状況を伝えようとしたのか。その胸の内に迫りました。

追い込まれる市民たち 決死の覚悟で送った映像

NHKに寄せられた映像のうちの一つに、3月17日、最大都市ヤンゴンで市民が撮影したものがあります。複数の警察官が喫茶店に立ち入り、物を破壊し、若者に対して執拗に暴力を加えている様子です。

3月17日 ヤンゴンでの弾圧

この映像が記録された3月中旬、ヤンゴン市内の一部の地域には戒厳令が敷かれ、軍や警察はデモ参加者を摘発しようと、日常的に民家や商店に押し入って市民たちを拘束していました。映像からは、そうした徹底的な弾圧の実態を垣間見ることができます。

ヤンゴン在住の会社員ミョーさん(仮名)は、この映像を含め、多くの弾圧の映像をNHKに送りました。ミョーさん自身も、クーデター直後から2月下旬までは友人らとデモに参加していました。その後、軍の弾圧が徐々に激しくなり、デモに参加した知人も拘束されたことで身の危険を感じたため、デモに参加することはやめました。ただ、苛烈な弾圧が続く中で生きていかざるを得ないミャンマー市民たちの苦しみを世界中の人々に知ってほしいと考え、SNS上で見つけて保存していた多くの弾圧の映像をNHKに送ったといいます。

NHKに映像を送ったヤンゴン在住の会社員ミョーさん
ミョーさん
「普通に暮らしていても、逮捕される可能性があります。殺される可能性だってあります。クーデター以降、安心して暮らすことはできなくなりました。このような映像は、ミャンマーで起きていることを運よく記録できた貴重なものです。軍は、自分たちの残酷な行為がばれないようにしています。この映像のように記録できなかった出来事がたくさん起きていることを知ってほしいです。人知れず殺された人たちも数え切れないほどいるということを知ってほしいのです。」
ミョーさんがNHKに送った映像のひとつ デモに参加して撃たれた人が映っている

ヤンゴンでは軍や警察が市民の携帯などをチェックしており、こうした映像を保存して送信する行為が見つかれば、逮捕される可能性もあります。リスクが高いこのような行動に出た理由をたずねると、ミョーさんは、自分たちより年下の若い世代に鼓舞されたからと答えました。「ジェネレーションZ」と呼ばれる、1990年代後半以降に生まれた現在10代後半~20代半ばの若い世代が、弾圧が激化して多くの死者が出る中でも軍への抗議活動を続けていたのです。

ミョーさん
「若者たちが命も惜しまず革命を起こしている中で、怖いけれど、自分も自分ができることをやらなければと思いました。命が危ないことは分かっています。」

クーデター以降、ミョーさんが勤める会社は事業の8割が停止となり、そこに新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の停滞が追い打ちをかけ、給料もカットされたといいます。さらに、自分の子どもたちは半年以上も学校に通うことができておらず、クーデターの影響は社会の隅々にまで及んでいます。こうしたミャンマーの現状を変えるには国際社会の支援が必要だとミョーさんは訴えます。

ミョーさん
「軍は、市民のことを全く考えていません。守ってくれません。この先、自分の仕事がどうなるか分からなくなりました。学生たちは未来を失い、ミャンマーの教育制度は崩壊していくのだろうと思うと、とても悲しいです。ミャンマーを無視しないでください。困っている人も、命を落とした人もたくさんいます。軍事政権を倒すために助けてください。」

「私たちが声を上げないと」 日本から訴え続ける

NHKに送られた映像の中には、詳細が謎に包まれていたある事件に関するものもありました。

バゴーで起きた事件を伝える海外メディアの記事

4月9日、中部の都市バゴーで、軍によって80人以上の市民が殺害されたと報道機関が報じたものの、犠牲者の身元をはじめ弾圧の全体像は明らかになっていませんでした。寄せられた映像は、バゴーで何が起きていたのかを知る貴重な手がかりとなります。

4月9日のバゴーの映像 逃げまどう人々が映っている

映像を送ったのは、日本で暮らすミャンマー人のチーさんです。バゴー出身の友人から送られてきた映像で事件について知ったといいます。当時をこう振り返ります。

チーさん
「大勢殺されたって事件はミャンマー人としては経験のないことではないんだけど、悲しくて悔しくてたまらなかったです。ずっと泣いてました。市民は悪いことやってないのに、なんで殺害されてるの…」
日本で暮らすミャンマー人のチーさん

なぜNHKに映像を送ったのか。チーさんには「ミャンマーの現状を日本の人たちにも知ってほしい」という思いがあったといいます。

チーさん
「(軍は)自分たちが正しいと主張しているけど、それはでたらめで、全部うそだって。ミャンマーで起きていることを理解してくれる日本の国民を増やしたい。」
チーさんは抗議集会にも参加を続けている

チーさんはクーデター以降、日本で開かれる抗議集会にも積極的に参加し、声を上げてきました。「日本にいる自分こそが動かなければ母国の未来はない」という、強い使命感からでした。

チーさん
「ミャンマー国内でこれだけの発言をしたら、たぶん刑務所の中。外にいられないと思う。私たちが声を上げないと、ミャンマー国内で起きていることが国内だけで終わってしまう。殺されても誰も知らないまま、みんな死んでいく。軍がうその発表をしたときにうそか本当か証明できるのは海外にいる人たちだけだと思って、日本でできることをやっています。」

チーさんは現在、週末にミャンマー出身の友人たちと募金活動を行ったり、民主化のスローガンをプリントしたTシャツを販売したりして集まったお金で、抵抗を続ける母国の市民たちを支援しています。日本からサポートを続けるチーさんには、ミャンマーが日本のように自由で平和な国になってほしいという願いがあります。

募金活動中にチラシを配り ミャンマーへの支援を訴える

チーさんには大切にしている教えがあります。「自分が自由であれば、自由のない人に自由を与えるため、努力しないといけない。」クーデターを実行した軍に拘束されている、アウン・サン・スー・チー氏の言葉です。

チーさん
「その教えが本当に正しいとわかるようになったのは、日本に来てから。自由な国で、いま、自由な行動、発言ができる。日本にいる人と(ミャンマー)国内にいるミャンマー人ができることはちょっと違うけど、ゴールは、みんなの目標は同じ。ミャンマーから軍事政権をなくしたい。」
ディレクター
佐藤凜太郎

NHKでは連日のニュースを始め、NHKスペシャル『混迷ミャンマー 軍弾圧の闇に迫る』などの特集番組で現地の実態を伝えてきました。私たちは映像や情報の収集を続け、これからもクーデター後のミャンマー情勢について発信していきます。ミャンマーで今、何が起きているのか、下記のリンク先までぜひお寄せください。

情報提供はこちら

NHKではミャンマーの現地で撮影されたクーデター後の弾圧の実態や市民たちの死の真相究明につなげていきます。(情報提供者や撮影者の安全に最大限配慮します)