NHKスペシャル MIRACLE BODY

~リオ オリンピック・パラリンピックの金メダル候補を最先端科学と最新技術で解明、映像化~

ナタリア・イシェンコ “MIRACLEBODY”の心理とは
分析担当 筒井香・田中ウルヴェ京

“シンクロの女王”イシェンコは厳しい競技生活をどんなモチベーションで続けてこられたのか?

イシェンコの心的過程を詳細に捉えるため、インタビューを分析対象とした質的研究を行った。

  1. 「イシェンコとシンクロの関わり」は『親からの勧め』に始まり、『国家のため』へ変化していた。これを心理学の動機づけの観点で分析すると、「外発的動機づけ」の中でも、自己決定理論でいう「外的調整」にあたる『自己決定力が弱いもの』から、「総合的調整」にあたる『自己決定力が強いもの』への動機づけが変遷していったと捉えられる。
  2. さらに! イシェンコは、『他者との競争』という動機づけ以上に、【自分の可能性への挑戦】という、最も自己決定力が強い『内発的動機づけ』によってシンクロの競技生活を続けてきたことが、明らかになった。
    また、イシェンコの自己決定力の強さの根底には、『ストレスハーディネス』という特性も研究結果からみられた。『ストレスハーディネス』とは「コミットメントCommitment」「チャレンジChallenge」「コントロールControl」という3つのCで表現される「ストレスに対する強さ」のこと。イシェンコにはシンクロという競技へ自分を没入させる「コミットメント」、変化を挑戦と捉える「チャレンジ」、自分に起こりうる出来事は自分で対処できるという「コントロール」があり、さらに、その3つ全てに関わる信念として、「答えは自分の中にある」があった。

つまり、イシェンコは「ストレスハーディネスと自分の可能性への挑戦」という動機づけをもっていることから、どんなに困難な状況に直面しても、それに「耐えるメンタル」を保持していると考えられるのだ。

「MIRACLEBODY」に参加して
田中ウルヴェ京

  • 心理分析を担当した田中ウルヴェ京です。今回、元シンクロ選手としてだけでなく、スポーツ心理学研究者として伝えたかったことは、アスリートの心身相関です。
  • そもそも、身体を司っているのは脳。そして脳の動きに大きく影響しているのが、その人の思考と感情です。つまり、「ミラクルボディー」は、その根底にミラクルマインドが醸成されていなければ、作れないということです。ボディーを作り上げるのに時間がかかるように、マインドの醸成にも大変な時間がかかります。
  • しかし、このマインド。目に見えるものではないから、どうしても世間では理解をされにくい。「鍛えられた身体」は見えても、「鍛えられたマインドの筋肉美(笑)」は見えません。だから、「やっぱりトップアスリートはメンタルが違うんだろうねえ」と、あたかも「メンタルの強さ」は生まれ持ったものだけであるかのように捉えられることが多いです。
  • イシェンコの「常にどんな環境においても耐え続けるミラクルボディー」は、それを司っているマインドで、「イシェンコならではの“耐えるメンタル”」があることが心理分析の結果からわかりました。どのアスリートにも、「その人ならではのメンタル」があります。
    どれが正しいというわけではありません。今回、放送では紹介しきれませんでしたが、イシェンコとペアを組むロマーシナも心理分析しました。ロマーシナのメンタルも、「そうならざるを得ないであろう」と納得できる心身相関をした「ロマーシナならではの“乗り越えるメンタル”」でした。

今回の心身両面の科学的分析で、シンクロ世界チャンピオンの「奥深い魅力」が少しでも可視化でき、そのことで、「スポーツを続けること」そのものから得られる人間としての価値が少しでも言語化できたのであれば、大変嬉しいです。