Event Report

「体験する新・映像の世紀」映像は物語る

トークショーでは、水道橋博士さんと瀬地山角さんに、このサイトの中から
印象に残る動画をピックアップしていただきました。映像は何を物語ったのでしょうか。

第1集 百年の悲劇はここから始まった

天才ハーバー博士の悲劇

  • 1

水道橋さん : 第1集に登場するフリッツ・ハーバー博士。旧作でも触れられていて、世界史的にもハーバー博士は生物兵器の父ということで知られていますが、その人がどういう人であったかというのは全く知らなかった。ノーベル賞を受賞していることだけでなく、奥さんのクララが自殺することや、本人もユダヤ人であったということまで深く迫っているところが前作と違っていて印象的でした。

水道橋さん : クララ自身は、博士のこの研究をどうしても許せずに、自殺するわけですよね。自らピストルを撃って。ハーバー博士自身にとっては、毒ガスは戦争を早く終わらせるためにやっているんだと、一刻も早く戦争を終わらせて、ドイツ兵を助けるためにやっているという大義名分があった。でもユダヤ人迫害の中で本人もユダヤ人だったのでドイツから追放されるという、自分の中に何重にも戦争の矛盾を抱えていた。化学肥料の開発につながる研究をして、人類史に貢献したというノーベル賞の栄光もあるのだけれども、また「毒ガスの父」として、第一次世界大戦をここまで混乱を引き寄せた張本人とも言われた。

  • 1

水道橋さん : 何だろう、この一人の中にある歴史の矛盾というものは、それが体現されている世界というものは、もしそれが自分だとしたら、どう思うだろうと考えてしまいます。

  • 1
  • 1

寺園 : 善悪では語れない複雑な物語が、夫妻の中にあります。それがすごく興味深かったです。しかし、ハーバー博士は、ほとんど映像が残っていないんです。ハーバー博士が唯一動いているのは、あのノーベル財団が持っていたノーベル賞の授賞式の映像だけでした。でもこの物語はぜひ伝えたいと考え、写真などいろいろな工夫をしながら、番組をつくっています。

科学技術の光と影
人類初の化学兵器戦
天才ハーバー博士の悲劇

裏切りのロレンス

瀬地山さん : 端的に言うと、この映像の中に現代の中東紛争の原点があるということが、非常によくわかります。特にショックだったのはダマスカスの空爆のところです。オスマン帝国が分解されて、現在の中東紛争へとつながる原点が、すべてそこに入っている。

  • 1
  • 2

瀬地山さん : 映像には、オスマン帝国を倒し、ダマスカスに凱旋するアラブのファイサルが出てきます。イギリスのためにアラブは反乱を起こした。しかしイギリスはアラブ側をだますわけです。イギリスではロレンスは英雄として描かれていますが、そこには裏側があり、結局、ダマスカスは空爆される。アラブとイスラエルの対立は、ここに原点があるんです。

  • 1

瀬地山さん : それと同じように今のシリア難民の問題を考えると、直接の原因は「アラブの春」だと言われますが、原点がこの映像にある。つまりオスマン帝国崩壊後のボタンのかけ違いが、結局、現在の入り組んだ状況を生んだのだということを映像でしっかりと描いているので、歴史のつながりのすごく興味深いところだなと思いました。

  • 1

水道橋さん : 世界史で「イギリスの三枚舌外交」という言葉で習いますが、この映像があるかないかで、ものすごく違うんですよね。そしてロレンスという、映画史上にも残るヒーローが、このように歴史の中で暗躍したことを冷徹に描かれると、ヒロイックではなくて、「あーなるほど、ここに百年続いている戦争の原点がある」ということを思い知らされます。それは教科書以上に絵の力というか、ロレンスの悲しみもこちらに伝わってきますよね。

水道橋さん : 旧作だと「この百年というのは難民の世紀だ」ということを強調していて、パレスチナにユダヤ難民がどんどん送られてくる様子について時間を割いています。新作では、さらにロシアでユダヤ人虐殺「ポグロム」があったことも描いていて、世界中のユダヤ人がここへ集まっていくんだということが旧作とあわせて見るとよくわかりますよね。

裏切りのロレンス

第2集 グレートファミリー 新たな支配者

ハリウッド誕生

  • 1

瀬地山さん : 「エジソンは偉い人」とかいう歌がありますが、この映像を見て「エジソンこんなあこぎなやつやったんか」と思って、感心しました。アメリカ史をやっている方にとっては常識なのかもしれませんが、ハリウッドがこんなふうにしてユダヤ人によって生まれたなんて、なかなかおもしろいところなんですよね。エジソンの知的財産権ですからもちろん当然の主張なんですが、それにしてもちょっとあこぎなんですよ。

水道橋さん : 映画会社がユダヤ人資本で成り立っているということ、僕は映画史などを読んで知っていたんですけど、ハリウッドについては、割と「光」というか、天気のいいところへ行くためだと思っていたんです。カリフォルニアのほうが天気がいいので。それだけではなくて「あ、こういう視点もあるのか」ということを知った。
初めて見る人にとっては、映画会社5社、全部ユダヤ人資本なんだということを知ったときに、ハリウッドの映画も、やっぱりプロバガンダというか、ある一定方向からのメッセージがあるかもしれない、ということも感じますよね。

  • 1
映画の都 ハリウッド誕生

メイクアップ術、一般女性を虜にする

  • 1

寺園 : そもそも「新・映像の世紀」、前作の「映像の世紀」もそうなんですが、本当の歴史に詳しい方にとっては、たぶん、みんな知っていることなんです。しかし歴史に興味はあってもあまりよく知らないなとか、ちょっと敷居高いなという人たちが見てくれるといいなというように考えています。あまり関心のない人たちを誘い込むこと、それがテレビ番組のすごく大切なことだと思うんです。

寺園 : ハリウッドの話でも、マックスファクターという化粧品会社は有名ですけども、人の名前なんですね。ユダヤ人で、ロシアの貴族の化粧師をしていてアメリカに渡ってきた。それがハリウッドで活躍して、化粧品会社を興していく。マックスファクターってこういう人だったんだというのを見たら、誰かにその話を披露したくなるし、知識が豊かになることで、さらなる興味も湧いてくるんじゃないかなと思います。

  • 1
メイクアップ術 一般女性を虜にする

リンドバーグの凱旋帰国

  • 1

水道橋さん : ココ・シャネルもそういう出方で描かれますね。あとリンドバーグが僕はすごく印象的でした。空飛ぶ英雄だとみんな思っているし、前作ではリンドバーグの凱旋というのは「この20世紀の中で一番華やかなシーンだ」くらいに描かれていますが、今回、リンドバーグはドイツやヒトラーを擁護している。

水道橋さん : リンドバーグというとものすごく複雑な人で、その後、第二次世界大戦だと、連合軍の日本人に対する虐待行為を告発したりしているんですよね。だから歴史の中で、人って、すごくいろいろな面があって、ただ英雄じゃないんですよね。時代とともにいろんな顔があるんだというのを改めて思わされますね。

  • 1
リンドバーグの凱旋帰国

第2集 グレートファミリー 新たな支配者

砂嵐に襲われる!

  • 1

水道橋さん : これは、印象的だったんです。1930年代、アメリカで砂嵐が突如出現して、10年近く続いて、これがスタインベックの「怒りの葡萄」のもとになった。アメリカ映画にこのモチーフはよく出てくるんですよ。最近の映画でもあるんですが、こういう状態が続くから宇宙へ行く、という話があるんです。「インターステラー」です。

水道橋さん : この映像を見ると、こういう現象があったからこそ、アメリカ国内に難民が発生したんだっていうことが、わかるんですよ。日本ではこうした現象が当時のアメリカで起こっていたことがわからないので、すごく印象的でしたね。

  • 1
砂嵐に襲われる!

リメンバー WTC

水道橋さん : ロックフェラー家に注目した「グレートファミリー」ですが、1920年代、石油を支配して世界一の大金持ちになっていく。だけれども大恐慌があってアメリカが落ち込んでいく時代に、それでもロックフェラーセンターを作っていく。資本主義のためにと。その遺伝子が引き継がれていって、ワールドトレードセンターという、あの2本の棟を建てたのが、ロックフェラー家だったということを、この流れの中で見せているんですよね。すごく運命的というか。アメリカの繁栄を築いたこのロックフェラー、それでいて資本主義の悪魔の面もあった。それをヘレン・ケラーに糾弾されるシーンもある。

  • 1
  • 1

水道橋さん : それでも1920年代の大恐慌を乗り切り、その資本主義を世界に広めていく。それが世界の平和だということを、一家の是としてやり続けていって、たどり着いた2本の棟だと思う。すごく象徴的なもの。それでも2001年の9.11で、まさに象徴だからこそ狙われて崩れていったんだと思うと、何という物語、運命なんだろうと思う。
それと同時に、あの9.11のテロの映像を、番組になぜ入れなかったんだろうって思いました。

  • 1

寺園 : 私たちもいろいろ試行錯誤しています。当初はワールドトレードセンターをラストシーンにして、崩壊する映像をラストカットにしていたんです。そちらの方が衝撃的ですよね。いろんな試行錯誤する中から、なぜ使わなかったかというと、多分、崩壊する映像を使うと「今」に飛びすぎるかなということがありました。この回は第2集だったので、次につなぐことを考えると、第二次世界大戦につないだほうがいいかなという議論もして、こうした形になっています。それはいろいろな意見があると思います。あえて抑制する、「秘すれば花」というところもあるかもしれない。

水道橋さん : そうですよね。だから当然考えただろうということを、こちらも想像しているのでおもしろいんですよね。当然これラストシーンだろうと思ったけれども、あえて秘して、やっぱり引いているんだということが。

寺園 : あの模型だけで終わらせる、そうした「抑制」というものを感じたいと思った部分もあります。

  • 1
リメンバー WTC

第3集 時代は独裁者を求めた

ファシズムはドイツを救う

  • 1

瀬地山さん : 私たちは学校で、教科書の写真や文字で、例えば、日本語で訳されたヒトラーの演説を読むわけです。でもこの演説というものは、ドイツ語がわからなくても、声の調子と身振りと、それから観衆の熱狂とが合わさって初めて、その迫力が、怖さがわかるんです。そしてそれを伝えられるのは、やっぱり映像しかないと思うんです。我々が演説を日本語に訳して訳文を読むというのはもはやおかしくて、論文をクリックしたら、この動画が出てくるという時代にならなきゃいけないんだろうなと思います。資料性としては映像の方が上だなと思ったんです。

瀬地山さん : 要は30もの政党をドイツは、必要がないんだ、そんなのは全部たたきつぶしてやるという内容で、つまり少数政党を攻撃してつぶし、最後には最大の野党であったSPDをつぶし、ナチスの台頭を招くことになるわけです。その原動力となった演説の力みたいなものを伝えてくれるのは、演説の翻訳ではなく、やっぱりこの動画でしかなく、それで初めてわかる怖さに対して、我々はどう理性で対抗すればよいのかというのを考えさせられるという意味で、やっぱり強烈なものがあると思いました。

  • 1
  • 1

水道橋さん : 旧作だと、ヒトラーが首相就任するときの演説をものすごく長く見せるんです。それを見ていると演説に陶酔する気持ちが、聴衆の表情を見ていてもわかるんですよね。「あ、これはもう魂つかまれる」という感じが。
今回ではドイツの経済政策がいかに短い時間でうまくいって、しかも、社会福祉までうまくやっていたということまでわかる。経済を立て直せば、ほかのことに目もくれず、いつの間にかとんでもないことまで許してしまう。それも民主主義のルールの中でできてしまう。短い時間だけど「あ、こんなふうにすればできてしまうんだ」という、独裁の恐怖っていうのもすごく感じますよね。

寺園 : ヒトラーが演説で人々をいかに陶酔させたかということはありますけども、水道橋さんがおっしゃったように、世界の人々が独裁者を待望していたというか、支えていたということをすごく大事にしました。いろんな経済政策を使って世界でいち早く大恐慌から脱した国がドイツでしたし、勧善懲悪だけでは語れない複雑さというか、世界というものを感じて欲しいということを心がけました。

  • 1
ファシズムはドイツを救う
「全権委任法」成立