NHKスペシャル

車中の人々 駐車場の片隅で

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私たちに身近な「道の駅」。実は夜になると様相が一変する。片隅に目立つのは目張りをした数々の車。長期にわたり駐車場を転々とする「車中生活者」の車だ。レジャー目的とは違い「年金だけでは家賃が払えない」「DVから逃れるため」など、それぞれに深刻な事情を抱えていた。小さな車に家財道具を満載し、狭い車内で身体を丸めて眠りにつく。
公式な統計はなく、NHKが全国の道の駅などを独自に徹底調査。すると、車中生活の末、体を壊し、命を落とす事例も出てきていることがわかった。ある道の駅の従業員は「もはや車中生活者の死を珍しいと思わなくなった」と明かす。
一方で車中生活者=貧困と、ひとくくりにできない一面も浮かび上がってきた。ふとしたきっかけで社会や家族から逃避し「車という逃げ場」に駆け込み、安住する人々がいた。
社会から離れ彷徨い続ける車中生活者。その存在は社会の何を反映しているのか?徹底した現場ルポで迫る。
【語り】玉山鉄二

放送を終えて

取材を始めたのは去年の夏。きっかけは、ある事件でした。92歳の女性が、車の中で亡くなったのです。「娘と孫と家族3人で、1年に渡って車中生活をしていた」。なぜ、車の中で暮らさざるを得なかったのか。なぜ、車の中で亡くならざるを得なかったのか。疑問を感じ、事件のことを詳しく報じるニュースや記事を探しました。でもほとんど見当たらず、続報もありませんでした。家族が滞在していたのは、多くの人が行き交う道の駅。にも関わらず、知らぬ間にあちこちで“社会の底”が抜けているのではないか。空恐ろしさを感じ、取材班は動き出しました。
道の駅を回ると、一見どこもレジャー客ばかり。しかしお一人お一人にじっくりお話を伺うと、車にしか生きる場所を見出せない人々がいることがわかってきました。虐待。孤立。DV。貧困。無関心。逃げ場がなく、車の中が唯一のセーフティーネットになっている現実に、愕然としました。
 最後に。大変な状況下にも関わらず、お話を聞かせていただいたたくさんの車中生活者の方々に、心より感謝申し上げます。
ディレクター 丸岡裕幸