NHKスペシャル

恐竜超世界 第1集
見えてきた!ホントの恐竜

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6600万年前、隕石衝突による絶滅の前夜、恐竜に代表される当時の生物は、地球の生物史上、類を見ないほど多様に、そして究極の進化を遂げていたことがわかってきた。
これまで発見された恐竜化石は1千種に上るが、それは恐竜全体のわずか1%にすぎない。ところがこの10年ほどで、残る99%の発見が相次ぎ、恐竜たちの姿形だけでなく、どのように暮らし、戦い、子孫を残し、そして死んでいったのかという“生きざま”まで、精密に再現できるようになった。番組では、超精密CGを駆使して、最新知見に基づくリアルな恐竜世界を、2本シリーズで描き出す。
第1集の舞台は“陸”。最新研究はこれまでの常識を覆し、多種多様な恐竜が羽毛をまとっていたことが分かってきた。羽毛は恐竜を劇的に変えた。体温を維持できるようになったことで、抜群の運動能力、抱卵・子育て術を獲得、そして極寒の北極への進出が可能になり、さらには極寒を生き抜くうちに知性すら獲得していたという。姿もさまざまな羽毛恐竜が闊歩する、見たことのない恐竜世界をお伝えする。

放送を終えて

「あのデイノケイルスの全身骨格が見つかった!」と恐竜学の権威である北海道大学の小林快次博士からと聞いたのは2011年、今から8年も前だった。もともとデイノケイルスは「恐竜界最大の謎」とまで言われた恐竜で、50年ほど前にモンゴル・ゴビ砂漠で2mを超える巨大な腕の化石だけが見つかり、その正体が長く謎につつまれてきた恐竜だった。
残念ながら情報を聞いた時点ですぐに番組にすることはできなかった。しかし今思うと2011年時点ではなく、2019年に番組で特集することができて本当によかったと思っている。
なぜなら当時の時点で小林さんから聞いたデイノケイルスの全身の想像図は、今回、番組で再現した姿とはかなり違っていたからだ。その時の話では体は基本ウロコで覆われており、せいぜい尻尾の先に羽毛があるというような話だった。2011年時点では恐竜研究のトップランナーの一人である小林さんさえもデイノケイルスが今回番組で描いたような“羽毛まみれ”になるとは想像していてなかったのだ。
今回、番組で紹介したデイノケイルスは小林さん監修のもと、羽毛だらけの姿としたが、これは2012年に発表された化石が根拠になっている。ユウティラヌスと呼ばれる10mクラスの巨大肉食恐竜の化石から羽毛が見つかったと報告されたのだ。この発見以前は羽毛を生やす恐竜はあくまで小型種に限られ、巨大恐竜は羽毛をあまり生やしていなかっただろう、と考えられてきた。しかしユウティラヌスの発見でデイノケイルスのような巨大恐竜も全身にフサフサと羽毛を生やしていた可能性が高いことが分かったのだ。
また今回の番組ではデイノケイルスが卵を抱く様子をCGで描いたが、こうした踏み込んだ描写が可能となったのは去年発表されたばかりの研究成果があったから。中国で見つかった巨大恐竜の卵化石がデイノケイルスの繁殖術に迫る重要な手がかりとなることを筑波大学の田中康平博士が突き止めたのだ。
このように今回の番組にはわずか数年前の時点でも描けなかった、あくまで今だからこそ浮かび上がってきた最新の恐竜像、最新の恐竜たちの物語が詰まっている。
今回の恐竜CGを監修してくれた小林さんは「恐竜研究は始まったばかり。まだ氷山の一角をちょっとひっかいたぐらいしかやれてない。この先どんどん新しいことが分かってくるはず。」という。だから、きっとこの先も恐竜たちの姿、生活の様子は変わっていくに違いない。この先、どんな恐竜たちの新物語が浮かび上がってくるのか、楽しみに待ちたい。

NEP自然科学番組 植田和貴